A memory for 42days   作:ラコ

34 / 46
前進と後退

 

 

救いの手を差し伸べてくれるのは決まって先輩だった。

 

華奢なのに力強く

 

冷めているのに暖かく

 

独りなのに慕われている。

 

大半の人間が身を守るために嘘をつく。

でも、先輩は誰かのために嘘をついた。

自分が傷つくことにも構わずに、彼は誰かのために必死になった。

 

私が先輩を頼ると、先輩は決まって

 

『自分でやれ』

 

と言う。

 

突き放すように言われた言葉は、彼の本心であって本質ではない。

 

『自分でやってもだめなら助けてやる』

 

私はそう解釈していた。

 

上辺だけを救ってくれる人達とは違った。

そんな先輩と奉仕部の皆さんに、私は憧れ、いつしか……。

 

 

「この喫茶店。先輩にとっては陽だまりのようなあの部室そのものなんですね」

 

「……、喫茶店は喫茶店。部室は部室だろ」

 

 

雨に雪が混じり、とても不快な雨音が窓を叩きつける。

今夜から明日の未明にかけて降り続けるそうだ。

閑散とした店内で、私は弱い光を放つ間接照明を見つめる。

先輩の顔を見ないようにするためだ。

 

 

「先輩は、この喫茶店であの頃と同じように3人で紅茶を飲む日を待っているんです」

 

「……」

 

「本当のことを……、教えてください」

 

「聞いてどうする?」

 

「……私も一歩、踏み出します。踏み出したいんです。だから聞かせてください」

 

 

先輩はため息を一つし、ティーカップを持ちながらカウンター席に座った。

 

 

………

……

.

 

 

 

ーーー3年前

 

 

34/42days - 968day

 

 

「へぇ、あなたがバイトをするなんて。平塚先生が聞いたらお泣きになるんじゃない?喫茶ガヤくん」

 

「それは罵倒なのか?」

 

「でもさー!素敵な喫茶店だよねー!!」

 

 

私と由比ヶ浜さんは、地図にも乗らないような小さな喫茶店を見つけた。

路地裏に位置しているにも関わらず、窓の外から入る日の光で店内は満ちていて、コーヒー豆の香りが鼻腔を擽る。

どこか、あの部室のような雰囲気に似ていなくもない。

 

ただ、この店を見つけたのは偶然ではない。

 

小町さんから店名と住所を聞いていた。

あの比企谷くんがバイトを始めたと言うから。

 

 

「ふむ。MAXコーヒーさえ置いていれば100点の喫茶店だな」

 

「あなた、まだあの甘いコーヒーを好んで飲んでいるの?」

 

 

比企谷くんの後ろで店長らしい方が暖かく微笑んでいる。

あの比企谷くんを雇うなんて、彼はどこかネジが外れているのだろうか。

 

 

「ふふ。比企谷くん、あとは頼んだよ。僕は妻のお見舞いに行ってくるから」

 

「うっす。……、奥さん、体調どうっすか?」

 

「なに、心配をすることはない。彼女はもともと身体が弱くてね。数日もすれば退院するさ」

 

 

そう言い残し、彼は前掛けだけカウンターに脱ぎおき店を出て行った。

どうやら奥様がご病気らしく、彼はよく店を空けるのだと。

 

 

「店長さん優しそうだねー」

 

「そうね。比企谷くんを雇ってくれるなんて神か仏か……」

 

「……、まぁ、親切な人だよ」

 

 

少し憂いを満ちた目。

彼は店長の出て行った扉を数秒眺めていた。

どこか昔、彼がこんな目をしていた時があったと、私は頼りない糸を引っ張るように記憶を探る。

 

 

「で?おまえらは帰らないの?」

 

「帰らせたいの!?ヒッキー!私、抹茶フラペチーノ!!」

 

「……。ふふ。私はドゥサールエ ショコラティー」

 

「……そんなのねぇよ」

 

 

 

糸が引き千切れるように。

千切れた糸が溶けるように。

私の頭から些細な疑問は綺麗に無くなった。

きっと、久し振りに揃った3人に舞い上がっていたせいだ。

 

 

 

 





fate早くやらないかなぁ。
あと3ヶ月かー。
長いなー。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。