A memory for 42days   作:ラコ
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幸せの享受




1日が早く感じるのはなんでだろう。

楽しいから?

幸せだから?

先輩と再会してからは時間の流れが急加速したかのように過ぎていく。

あんなにも辛かった毎日が嘘のように、朝起きるとき、仕事をするとき、ご飯を食べる時、何気ない会話をするとき、全てが幸せに包まれていた。


先輩の時間は早く進んでいるんですか?


「あ?時間の流れ?」

「はい。早いと感じません?」

「んー……、まぁ感じるっちゃ感じるな」

「ほぅ!!それは先輩が幸せだと感じているからです!」

「……違う。ジャネーの法則と言ってな、人間は新鮮な経験をするときほど時間が長く感じるんだ。だから年齢を追うごとに1年間が短くなる」

「哲学や理論じゃないんですよ。辛いときと楽しいときなら、楽しいときの方が早く感じるでしょ?」


並んでいた列が前へ進むのと一緒に、私達も会話をしながら前へと進む。

あと15分といったところか、目前に迫ったアトラクションの乗り場には楽しそうに乗り込む人の幸せそうな顔がよく見える。


「遊園地なんて久し振りですし、逆に新鮮じゃありません?」

「まぁ数年振りだな。この退屈な待ち時間も久しく感じていなかったよ」

「だめな先輩ですねぇ。こういう待ち時間こそ男の子の魅力の見せ所ですよ?女の子を退屈させちゃいけません」

「へぇ。………」

「黙っちゃった!?」


数時間前、遊園地の入園口に待ち構えていた人混みに、先輩は早速くたびれてしまった。

遊園地に行こう。

と、言いだしたのは先輩なのに。

やっとこそ入園したと思えばアトラクションに乗るための列。
これには先輩も諦めたのか、肩をだらし無く垂らし、目を開けているのかもわからないくらいに下を向き続けながら並ぶ。


「もう!先輩が誘ってきたんですからね!デートしようって!」

「……違う。ちょっと遊園地に行こうって言っただけ」

「それがデートと言うんです!」

「人それぞれだな。ニラレバなのか、レバニラなのかと同じ」

「……違うと思います。それにしても、どうして遊園地なんです?先輩らしくないっていうか…」


先輩は私に振り向きもせず、高所に位置するアトラクション乗り場から園内を見下ろしながら呟いた。


「……参考みたいなもんだ」

「参考….…?」

「ほら、俺たちの番だ。折角並んだんだからしっかりと楽しめ」

「言われなくとも!」



………



「……もう乗らない」

「先輩、ジェットコースター苦手だったんですね……」

「……。高い所が苦手なんだ」

「ならどうして乗ったんですか」

「治ってるかなって……」

「バカなんですか?」

「……ちょっと飲み物買ってきて」

「はいはい」

「MAXコーヒーね」

「絶対ないですよ」


どうやら気分を悪くしてしまったらしい先輩を気にし、その後のアトラクションはできるだけ激しくない物に乗り続けた。

弱さを見せない人だと思わせながら、こうゆうところでは直ぐに弱味を見せる。
なんとも不思議な人だ。


日も暮れはじめ、園内には真っ赤な絨毯が引かれたかのように足元が赤く照らされる。

時間の流れには抗えない。

次のアトラクションが最後かな……。
少し寂しいけど。


「はぁ、やっぱり時間が過ぎるのが早過ぎます」

「……良いことじゃないか」

「もっと遊びたいです!」

「……1日の時間は平等に24時間だ。でも、その内にどれだけの時間が充実してたかは人それぞれ。だから、充実してる時間が長かったって考えるようにすれば良い」

「へぇ、なんか素敵ですね」

「受け売りだけどな。よし、じゃぁもう帰るか」

「ちょっと待った!最後にアレ乗りましょう!」

「アレ……?」


…………



高くまで登った円状の乗り物の中で、私と先輩は向き合うように座る。
乗り物は次第にてっぺんへと近づき、街全体を眺められるくらいに高くなった。

時間を止めてくれるように、観覧車はゆっくりと回り続ける。

先輩は外も眺めずに下を向いたまま。


「ぷっ。観覧車も怖いんですか?」

「怖いけど?」

「逆ギレ!?……もう、お外はこんなに素敵なのに…」

「人間が人間を見ろしてやがる……」

「神になった気分です」

「新世界の神は松田に撃たれてたな」


先輩は怖さを隠そうと、普段よりも無駄口を叩く。

数メートルも下に居る女の子が手放してしまった風船が、私達の乗る観覧車をも超えて空高くに登っていった。




「……参考にはなりましたか?十文字先生」



驚いた様子もなく、先輩はその風船の後を追うように目線を上げる。


「気づいてたのか……」

「…気付いたのは最近ですけど」

「俺はおまえがあの本を読んでて驚いたけどな」

「お客さんの忘れ物です」

「……、読んでて気分の良い物じゃなかったろ」

「……」

「最後にあの2人は離れ離れになっちまうんだ。……どうやら俺にはハッピーエンドを考えることは出来ないらしい」

「……良いお話でした。純粋に感動しました。……でも、私はあの物語を否定します」

「……そうか」

「救いが無さ過ぎますよ。まるで先輩みたいに」

「リアルだろ?」

「はい。心が痛みました」

「悪かったな」

「悪くありません。だって、次はハッピーエンドを書くつもりなんでしょ?」


先輩は一呼吸おいてから私を見つめる。
少し不安気な様子で。


「……書けると思うか?」


「書けますよ。あなたのおかけで私は幸せになれたんですから」


きっと、先輩は物語を作ることを嫌っている。
それも特上に幸せが訪れる結末を。

それは自己嫌悪なのか、それとも暗示なのか。

それでも書き続けなくちゃいけないのは先輩に課せられた約束。
雪ノ下先輩のお母さんと交わした約束なのだろう。

先輩の小説には感情がとても込められている。
きっとそれを書けるのは一種の才能だ。


「観覧車で告白なんてベタなストーリーはどうですか?」

「はは。本当にベタだな。だけど、読み手はベタな展開を求めているのかもな」


私は咳を一つし、背筋を伸ばし先輩の目を見つめる。



「あなたと居れて幸せです」

「あぁ」

「これからもずっと一緒に居させてください」

「はは。ベタな言葉だ」





「……先輩。結婚してください」



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あ、更新遅くなってすみませんでした笑

もうちょいで最終話なんで最後までよろしくです。








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