A memory for 42days   作:ラコ
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白い息と寒い手はあなたのために



今日は喫茶店の定休日。
一週間に一回、不定期に休みを設けるのだとか。
それでいいのかと思ったが、先輩らしくて逆にいいのかもしれない。

そうだ。

今日は私が朝ごはんを用意しよう。

思ったら直ぐに行動。私は1階の喫茶店へと向かいながら朝ごはんのメニューを考える。


「おう。今日は早いな」

「あれ、先輩の方が早起きでしたか」

「まぁな。もう朝飯食うか?」

「はい!」


先輩は冷蔵庫から、既に切り分けられた野菜を取り出し盛り付けていく。
お皿に程よい彩りのサラダを完成させると、同時にトーストが焼きあがる。
軽く塗られたマーガリンと、食卓に置かれるジャム。
慣れた動作を素早く済まし、先輩と私が向かい合わせに座るのが日課になりつつある。


「いただきまーす」

「ん。召し上がれ」


少し雑食な私は、色々なジャムを付けてトーストを食べた。
先輩は新聞を読みながらコーヒーを啜り、たまにトーストを囓る。

今日も良い1日の始まりだ。


「先輩。今日のご予定は?」

「んー。新聞読んでー、テレビ見てー、ゴロゴロしてー」

「暇なんですね?」

「聞いてなかったの?」


「少し、私に付き合ってくれませんか?」


私は過去を精算しなくちゃならない。
一括で精算出来るとは思っていないけど、それでも先輩に少しでも背中を押してもらえたらって。
ここでの生活が始まって一週間、私も自分で自分を変えなきゃならないんだ。


「……少しだけなら」


……

.


場所は御茶ノ水。
私が先輩に付き合ってもらいたかった場所はここだ。
聖橋の下を流れる神田川はとてもじゃないが、澄み切っているとは言えない。
総武線と中央線の行き交いを眺めながら、先輩と隣合わせに聖橋の真ん中に立つ。


「懐かしいな、総武線。日本で1番素敵な路線だ」

「絶対に違います」


本当に千葉が好きな先輩だ。
寒がりだと言う先輩は、モコモコのPコートにマフラーまで巻いている。
どこか可愛らしいが、大人っぽさもある格好だ。


「今日、私は私と向き合いたいと思ったためにここへ来ました」

「……そうか」

「……何も聞かないんですか?」

「話の腰は折らない主義だ」

「あははー。時間を掛けたくないだけでしょ?」

「わかってるじゃねぇか。……だから、とっとと済ませちまおうぜ。なんだかわからんが、…まぁ、手伝えることがあるなら手伝ってやる」


お鼻が真っ赤な先輩は、自分に巻いていたマフラーを私に巻き直してくれる。
先輩にはなんでもお見通しなんだろうな。
自分だって寒がりの癖に……。


「暖かいです。先輩、先輩は私のそばに居てくれるだけでいいんです」


私はポケットに入れていたスマートフォンを取り出す。
電源は切ったままだ。

思えば学生の頃から溜め込んだデータが沢山詰まったスマートフォン。
友達のアドレス、プリクラ、元カレ達との写真。
どれもデータであって思い出ではない。
私に思い出を与えてくれたのは、きっと後にも先にも先輩だけだから。

だから、こんなデータは私にはもう要らないんだ。


「えい!」


聖橋から投げ出されたスマートフォンは大きく弧を描いて神田川へ落ちていく。
それはきっと川底に辿り着き、誰の目にも触れられずに朽ちていくだろう。

先輩は、少し驚いたようにスマートフォンの軌道を追っていたが、何も言わずにただ神田川に出来た波紋を見つめるだけだ。


「精算完了です!少しだけ肩の荷が下りました!」

「あーあ、資源ゴミを川に捨てやがって」

「私が捨てたのは資源ゴミかもしれません。でも、これからの私にとっては大きな財産になるはずです!」

「……、ウチのバイト、頭がおかしいのかなぁ」


波紋が消えると、そこにはまるで何もなかったかのように川は流れ続けた。

それを見届け、私は先輩の手を握る。

どうしてこんなに暖かいんですか?

お外を歩いて寒いはずなのに。

マフラーだって、私に貸しちゃったのに。


「……なんだよ」

「えへへ。手袋忘れちゃいました。こうやってれば暖かいですよね?」


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