星渡りの魔女特急便。あと猫。   作:穴熊拾弐

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第16話 星渡りの魔女特急便

 

 

 

 

 とある宇宙の片隅。

 小中いくつかの宇宙船で組まれた船団は、今全滅の危機にあった。

 

「被害は?」

「はっ、全体の損壊率が50%。特に本艦を含めて2隻がメインエンジン破損。航行不可能です」

「……動ける船は?」

「1隻です。救援要請に出て貰うことは可能ですが……奴の強烈なジャミングで通信は不可能になります」

「そうか。……下手をすれば、2度と見つからない可能性がある、か」

 

 今は逃げおおせたが、再度捕捉されて襲われる可能性もゼロじゃない。

 そうでなくとも宇宙の片隅で位置も分からず漂うことになる。それは、死と限りなく近い意味だろう。

 それもこれも、全てア(・)レ(・)のせいである。

 

「ここに奴がいるとは……なんという不運か」

 

 望遠で捉え、メインモニターに大きく表示されたそれは、あまりにも巨大な構造体。

 崩天我楽、ギガントマキナ……色んな呼び名があるそれは、大昔の人類が造った巨大兵器。

 

 自動化を突き詰めた結果人の手を離れて暴れ始めたという、人類の間抜けさを詰め込んだようなその兵器は、近づく船を攻撃しては取り込み自分たちの部品に変えるという捕(・)食(・)行(・)動(・)を繰り返している。

 

 モノによっては小さな星すら解体して喰らうという、本当に厄介な化け物である。

 我らの船は、不運にもそれに遭遇したのだ。

 

「伝説上の存在とばかり思っていたが……化け物め……」

 

 一度の遭遇戦で3隻が壊滅的な被害を受けつつ、なんとか奴の索敵範囲外に逃れた所。

 この損耗状態では跳躍航行も使えず、引き返すための道には奴が居座っている。

 ここは狭い回廊内。迂回して避けるなど不可能だ。

 

 取れる道は、航行不可能な船を捨てて残った1隻に人員を集めて逃げるか、その1隻に救援要請に出て貰うこと。

 だが帰り道が塞がれている以上、進むしか道はない。

 

「護衛に向かう筈が撃墜されかけるなど、笑えんな」

 

 我々の任務はこの先のコロニーへの戦力補充。

 救援に来た我らが助けを求めるなど話にならない。

 これ以上の損害なく基地に戻ることができれば理想だが、もう一度奴に襲われれば全滅は必至。

 

 ……選りすぐりの人員と無事な物資を最後の1隻に詰め込んでコロニーに送る。

 軍人としてすべき最善手はそれだろうが、目の前のクルーに「死ね」というのはあまりにも酷だ。

 

「……」

 

 あまりに重い問い。

 だがそうこうしている間に奴が再び襲って来れば全員が死ぬ。

  

「窮地だな……どうするか……」

「……あれ?」

 

 ふと、オペレーターが声をあげた。

 

「どうした? 何か問題が?」

「見てください。奴の背後に青い光が……」

「何? 攻撃か!?」

「い、いえ。もっと遠く――奥からです。こちらの方に接近している何かがいます」

「……何?」

 

 限界まで引き延ばされたモニターの中には、確かに彼の言う通り青い光が映し出されていた。

 それは、まるで青い彗星の様で。

 画面からでも分かる程の凄まじい速度で、巨大機械の射程圏内へと飛び込んでいくのであった。

 

 

***

 

 

『――作戦の概要を説明します』

 

 通り抜ける星々の光の中、ビビちゃんの冷静な声が響き渡る。

 

「お願いします!」

「ぶみゃ!」

『本作戦の目標はコロニー『タグラ・レア』への物資輸送――だったのですが、緊急事態が発生。道中に巨大機械兵器、通称『崩天我楽』が居座っている事がわかりました』

「驚いたよねー。まさかまた遭遇するなんて。ついてるね!」

「ぶみゃ!?」

『一般的には、その感想は出てこないと思います』

 

 そうかな? ……なんて思ってたのはもう昔。

 色んな人の反応で、あの機械はとっても危険な存在だってことが良く分かった。

 でも、私や魔女(ウィッチ)たちの魔法はもっと凄いよ!

 

『加えて、先ほど追加で通信が入りました。どうやら我々より先にこのルートで『タグラ・レア』へと向かった部隊がいるとのことです。恐らく遭遇しているため、救援もしくは救助もお願いしたい、と』

「え? 襲われてるってこと? ……でも、動いている気配はないよね?」

 

 目の前に浮かぶのは小惑星なんかよりずっと大きな巨大機械。

 巨大なキノコ……クラゲかな?

 真っ黒な体は、ルステル氷下街も覆えそうな広い『傘』が幾重も重なっていて、そこから長い触手みたいな骨組みが伸びてはいる。

 そしてその体の至る所から光の帯を放っている

 

『戦闘後と推測します。逃げられていたらいいですが、全滅もありえるかと』

「むむ……とりあえずこの先に行くにはあれを通り抜けないとだよね。ビビちゃん、途中で反応がないか索敵お願い!』

『肯定(ヤー)。あの機体はティハン様提供の賞金首リスト掲載の崩天我楽『唐傘』と推測。傘の下側には強力なエネルギー方が数十門。残骸誘導弾(スクラップミサイル)発射孔が――多数』

 

 あ、数えるのが面倒になったな。

 最近のビビちゃんは段々人っぽくなってきた気がする。

 まあ、私としては話しやすくなったからいいんだけど。

 

「じゃあ上側を通ればいい?」

『否定(ナー)。開発当初はその通りだったのですが、今は取り込んだ飛空艇を利用した『傘上対空弾』なる物が搭載されています』

「何それ!?」

『簡単に言いますと、戦艦に爆弾を詰め込んだものが多数射出されます。爆風範囲が凄まじく、戦艦の断片がスラッグ弾となって放たれます』

「ええ!? とんでもなく危ないね!?」

『肯定(ヤー)。ですので、下を潜ることを推奨します』

 

 油断させて上を通ったら一瞬で倒される……なんて危ない兵器……!!

 でも、そういうことであれば全速力で潜るだけ。

 レーザー砲にミサイル程度なら……問題なし!

 

「魔力充填、ヨーシ。障壁展開、ヨーシ。……魔導式推進装置(エンジン)、噴射装置(バーニア)準備、ヨーシ! 全速全力、ご安全に……!! 行くよー、ぶみゃ、ビビちゃん!」

「ぶみゃ!」

『肯定(ヤー)。良い飛行を、魔女(ウィッチ)ユミル』

「うん!」

 

 6門のエンジンで最大加速を行った箒が宇宙を滑っていく。

 それは、青く輝く彗星の様に、宇宙にその軌跡を残していった。

 

 

***

 

 

 宇宙に鎮座する崩天我楽・唐傘。

 その広大な索敵範囲に飛び込む光が1つ。

 

 小さな先頭部に、四角い巨大コンテナが複数連なる蛇(・)のようなその飛行物体に素早く反応した巨大機械は、その身に刻まれた防衛機構を作動させる。

 

『――――――』

 

 漆黒の身体に埋もれている巨大エネルギー砲。

 飛行物体に最も近い5門が光を帯び、順に砲撃を放った。

 

『熱源感知。砲撃来ます』

「――噴射装置(バーニア)!」

 

 真っ黒な宙を焼き貫く熱線が、ゴッ、と走って、光の粒を残して消えていく。

 連なるコンテナの倍以上はある太さのレーザー。

 触れたら間違いなく消失する筈のエネルギーを、その蛇は横に滑るようにして回避した。

 

 だが唐傘は構わずに砲撃を放っていく。

 順に放つ砲撃は、5つ目がその発射を終えた頃には1つ目の再充填が完了している。

 都市を軽く消し飛ばせる砲撃が絶え間なく放たれるが――その1つとして直撃はせず、青い光は傘の真下へと滑り込んでいく。

 

 際限ない砲撃にも決して怯まず、最小限の噴射装置(バーニア)だけで滑るように避ける。

 当然、魔導式推進装置(エンジン)は止まらない。

 最大速度で前へと突き進む彗星(それ)へ、唐傘は次なる攻撃を開始する。

 

『――追加の熱源反応。ミサイル、来ます』

「来た来たー!」

 

 叩きつける様な砲撃の連続。

 その隙間から、真っ赤な火を噴きだすミサイルがばら撒かれた。

 喰らった船の残骸から作り出した残骸誘導弾(スクラップミサイル)。

 形も威力もバラバラなそれが100弾近くばら撒かれ、唯一蠢く物体――青い光へと殺到する。

 

 真っ赤な帯を残しながら宙を駆け抜けるミサイル群。

 だが、そのどれもが青に追いつくことはできなかった。

 

「ぶみゃああ!!?」

「あははっ、遅い遅いー!」

 

 そもそもが無数の残骸漂う宙。

 そこに砲撃とミサイルまで加わって、混沌とした中を青い彗星は一切速度を緩めずに駆け抜ける。

 纏う結界で残骸を打ち砕き、砲撃は鋭い短距離バーニアで避け、ミサイルは圧倒的速度で突き放す。

 

 ただただ速く。

 突き抜ける様に青は宇宙を駆け抜ける。

 

『潜り抜け成功です』

「やったね! じゃあこれで――」

『今度は背後からの砲撃になります。ご注意を』

「わわっ、そうだった!? ビビちゃん、指示お願いー!!」

『肯定(ヤー)。到達まで3秒……来ます!』

「ひぃー! ば、噴射装置(バーニア)!!」

 

 およそ数分の全力飛行。

 その間放たれた砲撃やミサイルは千を軽く超えたが、その青い彗星はついぞ被弾をすることなく、その射程圏を駆け抜けることに成功するのであった。

 

 

***

 

 

「……」

「……」

 

 たった今目の前で起きていた光景を、我らは呆然と眺めていた。

 

「……青の飛行物体、射程圏外に到達。……被弾、ありません」

「馬鹿な……」

 

 1機で艦隊を壊滅させられる怪物。

 その迎撃を全て避けきった挙動は、まるで大衆映画の中の出来事であった。

 

「俺は夢でも見ているのか……?」

 

 もしかしたら、自分たちはとっくにアレに撃墜され、宇宙を漂っているのだろうか。

 そうでなければ理解できない光景が目の前で繰り広げられていたのだ。

 

『あのー!』

「……?」

 

 思考の合間。

 聞こえてきた奇妙な音に指揮官の男が周囲を見渡した。

 信頼厚いクルー達と目が合ったが……皆一様に同じ困惑を浮かべていた。

 

「今何か言ったか?」

「いえ、多分、外から……」

「は? 外?」

 

 オペレーターが震えて指さした先は、真っ白な壁だ。

 船の左側面。その向こうには、宇宙が広がっている筈だが……。

 

『聞こえてますかー?』

「……嘘だろう? 他の船の通信じゃなく?」

「ですね……外から、直接、壁に響かせてるかと」

「……モニターに映せ」

 

 望遠から真横の映像へと切り替えられたメインモニターには、何故だか少女が映し出された。

 細長い棒状の何か……あれは、箒か?

 それに跨り、あろうことかこちらに手を振って口を動かしている。

 少しだけ遅れて、彼女が告げたであろう言葉が壁から響く。

 

『船、壊れてますけど大丈夫ですかー?』

「……俺の見間違いか? 女が箒に乗ってないか?」

「私にもそう見えます……」

「君もか……やはり夢でも見てるのか?」

「艦長、これは現実です。そして、どうやら先ほどの青い飛行物体は彼女の様です……」

「……だと思ったよ」

 

 目の前の巨大モニターでは、箒に跨る少女が首を傾げている。

 あれが、先ほどの飛行を?

 ……夢であって欲しかった。

 

『返事ないね、ぶみゃ』

『ぶみゃ』

『魔女(ウィッチ)ユミル、決して船を叩かないように』

『はーい』

 

 なんか、猫まで乗ってた。あと叩くってなんだ……?

 ふと、皆の視線が集まっていたのに気がついた。

 ……そうだな。彼女に解答できるのは自分だけだ。

 咳払いをしてから、合図をして回線を開く。向こうが音を響かせているのなら、こちらも拡声の方で良いだろう。

 

『……こちら、ラヴァテクスより派遣された、コロニー『タグラ・レア』の護衛艦隊である。貴艦……貴艦?の、所属を明かされたし』

『わ、やっぱり救援艦隊の人たちだった! えーっと、カメラはここかな? 見えてます?』

『……見えている』

 

 呑気に手を振っている少女。

 ふと彼女の周囲に光る玉が浮かび上がり、すぐ後ろに並んでいたコンテナを映し出した。

 そこには大量のステッカーが貼られている。

 星龍商会のもの、エンジンの広告、あれは……焼き菓子か? 娘が好きだったから見覚えがある。

 他にも10近いステッカー……広告が貼られているようだったが、その中でひときわ大きく印字されたものがある。

 

 そこに書かれていたのは――。

 

『星渡り特急便?』

『はい! 私、星龍商会の依頼で宅配便をしてます、ユミルといいます! あなたの欲しいものを銀河最速でお届けします!』

『ぶみゃ!』

 

 猫と一緒に、箒の上でなにやらポーズを決めている。

 

「……やはり、夢か?」

 

 なんて戯言はともかく。

 星龍商会の依頼ということはあの万屋の誰かが始めた新事業ということか。

 どこの酔狂がやったんだ……?

 

『それで、貴殿らもダグラ・レアに用が?』

『はい。ラヴァテクスからの荷物のお届けで来ました』

『……何?』

 

 どうやらその酔狂に、我が社も関わっていたらしい。

 彼女は取り出したタブレットを確認しながら、指を振るった。

 途端にコンテナの1つが動き出し、こちらへと近づいてきた。

 

『弾薬に食糧、後は補修用物資ですね』

『……!!』

『補修用物資は護衛艦隊用と聞いています。必要でしょう?』

 

 その言葉に、一瞬船が静まり返った。

 だがすぐにブリッジだけでなく船全体を揺るがす歓声が鳴り響いた。

 ……そうか。彼女たちは船を揺らして声を届けている。

 ブリッジ以外の全クルーに、彼女の言葉は聞こえているのだ。

 

「え? 何、どういうこと?」

「……我らは助かるということだよ、オペレーター」

 

 ……夢ではないのだな。

 こうなったら信じよう。この目の前のわけのわからない存在に、我らは助けられたのだと。

 

『救援、感謝する。これで任務が果たせる。君のおかげだ』

『ふふっ、良かったです!』

 

 そう言って微笑む姿は、娘とそう変わらない少女のそれだった。

 

「……御使い様だ……」

 

 クルーの誰かが呟いた言葉に、知らずと皆が頷いていた。

 艦長もまた頷きかけて、慌てて首を振る。

 

「呆けている場合か! 直ぐに修復をするぞ!」

「は、はい!」

 

 絶望に沈んでいた船に活気が満ちるのを感じる。

 そうして、慌ただしく船内が動き始めた時。

 再び声が響いてくる。

 

『あのー、残りの荷物もお任せしちゃっていいですか? 修理が終わったら、一緒にコロニーに運んでもらえると嬉しいです!』

『……なに? 構わないが……何故だ?』

 

 彼女たちはそもそもコロニーへの荷運びをしていたようだが。

 首を傾げていると、彼女は指を振るってコンテナをこちらに送り込みながら、告げる。

 

『あの崩天我楽、こっちに来たらコロニーごと襲われちゃいますよね? 私が引き付けて回廊の外に出してきます!』

『何!?』

 

 再び船がざわめきで揺れた。

 図らずも、皆同じ感情を抱いたらしい。

 戦闘中にも感じたことのない一体感に悲しみを覚えつつも、艦長の男は叫ぶように続ける。

 

『それはあまりにも危険だ! 君があの砲撃を避けきったのは分かっているが、それでも……!!』

 

 告げた言葉は、鳴り響くエンジン音に搔き消された。

 再び青い光を放ち始めた箒が、くるりと身を翻していた。

 

『心配ありがとうございます。でも大丈夫です! 私、とっても速いので!』

『……速い?』

『はい! では、これで! お元気でー!』

 

 元気良い声が響いたかと思うと、青い光の帯を残して飛び去っていってしまった。

 その速度は確かに高く、あっという間に見えなくなった。

 

「嵐のような子でしたね……」

「……ああ。……望遠で追えるか?」

「もうやってます」

 

 気付けばモニターには堕天可楽が映る。

 そこへと進む青い光を皆が見守っている。

 僅かな交流で、すっかり絆されてしまったらしい。

 

「……星渡り特急便、か。いつか、必ず恩を返そう」

 

 広大な宇宙を駆け抜け荷を届ける、不思議な魔女(ウィッチ)の特急便。

 彼女は後に宇宙全体を揺るがす大事件、その中心に飛び込んでいくことになるのだが、それはまた、別のお話。

 

 

 

 




本作は以上となります。
読んでいただいた方、誠にありがとうございました!
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