星渡りの魔女特急便。あと猫。   作:穴熊拾弐

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第2話 ファーストコンタクト①

 

 

 

 魔女の星を飛び出した私たちは、早速近くにある星へと向かった。

 全速力でかっ飛ばし、1時間ほどの飛行で辿り着いたのだが……。

 

「止まり方考えるの、忘れてたあああ!!!」

「ぶみゃああああ!?」

 

 エンジンも障壁も問題なし……だったんだけど。

 調子に乗って速度を出しすぎちゃって、あわや衝突の危機であった。

 運悪く大気のない星、自然と止まるのも、結界パラシュートも無理!

 

「ええと、もいっこエンジンつくって……逆噴射!」

「みぎゃああああ!?」

 

 最終的に力業でなんとか着陸。

 危うく私たちか星のどっちかがバラバラになるところだった。

 ようやく止まった時のぶみゃの顔が凄かった……怖がらせちゃってごめんね。

 

 まあちょっとトラブルはありつつ、なんとか最初の星に着陸したのであった。

 

「よし、到着だよ、ぶみゃ」

「……みゃ……」

「ごめんね、怖かったよねえ……」

 

 ふらふらと鞍から降りたぶみゃの背中を撫でてあげる。

 使い魔であるぶみゃは本来は丈夫で長生き。私の障壁も安全は保障するけど、未知の宇宙じゃ確実ではない。

 これからもっと気を付けないとね。

 

 ちなみに、娯楽媒体(コミック)に出てきたような宇宙海賊や怪獣には遭遇しなかった。

 ちょっとだけ期待してたんだけど……まあ、危ないよりずっといいよね。

 そんなことを思いながら、私は改めて目の前の景色を見つめる。

 

「しっかし……なんにもないねえ」

「ぶみゃ」

 

 十数年の時を経てやっと辿り着いたこの星は――『魔女の星』より何にもない、岩の塊だった。

 止まろうとしてる間に星を半分ほど周回していたけど、見事に何もない。

 建物などの構造物は勿論、水も、木々も。当然生物なんて影も形もなかった。

 

「よく考えたら、ここに誰か住んでるなら魔女(ウィッチ)たちが当然知ってるよね……」

 

 私たちの森に誰かが訪ねてきた記憶もない。となるとこの辺りに生きているモノはいないのかもしれない。もっと遠くに行かないとなあ……。

 

「でもそうなると、次はどこに行こうか。何か目印でもあると良いんだけど」

「……みゃ!」

「ぶみゃ? どうしたの?」

 

 辺りを見回していたぶみゃが、突然穴を掘り始めた。

 爪研ぎだろうか。あんまりそういうのしない子だった気がするけれど。いつも寝てるか食べてるかのどちらかだし。

 

「みゃっ、みゃっ」

 

 なんとなくそのまま眺めていると、彼の尻尾から蔦のような触手が伸びた。ぶみゃは魔女たちの使い魔で、その身体は実は植物でできているのだ。

 伸びた触手が掘った穴に差し込まれ、直ぐに抜き取ると……そこからぽんと芽が飛び出した。

 

「わっ! なあに、これ?」

「みゃ!?」

「……なんでぶみゃも驚いてるの?」

 

 ぶみゃを見ていたら芽はしゅるしゅると伸びていき、あっという間に私の背丈と同じくらいにまで成長。

 そこから桃色の花を咲かせた。

 

「……これ、魔女(ウィッチ)たちが育ててたお花?」

 

 私は入ることを許されなかった森の奥の花園。そこにこんな花があった筈。

 名前は確か……ミサトヨイグサ。

 いつもはガサツな魔女(ウィッチ)テドスリヤも、花園の手入れだけは丁寧だった。魔女たちにとって、とても大事な花なのだろう。

 

 まさかこの宇宙で会えるなんて……でもどうして?

 

 首を傾げていると、ぶみゃの触手が更にするする動いて彼の背中にある鞄に触れた。

 出発前、いつの間にか背負っていたそれがパカリと開くと緑の光を放ち始める。

 そして――そこから声が聞こえてきた。

 

『ごきげんよう、魔女(ウィッチ)ユミル』

「わ、喋った! え? ぶみゃが喋ってるの?」

「みゃ?」

 

 思わず問いかけても、返ってくるのはいつもの鳴き声。

 ぶみゃじゃないなら……この装置?

 煌めく緑の光を放つその箱型装置から、再び音が響いてきた。

 

『私はあなたがたの旅をサポートするAI、BBNDです』

「……?」

「……みゃ?」

 

 だから、なんでぶみゃまで首を傾げるの? あなたが持ってきたんでしょ?

 まあそれはともかく……えーあい? びーびー?

 よくわかんないけど……。

 

「んー、じゃあ、ビビちゃんって呼んでいい?」

『あなたのお好きに。魔女(ウィッチ)ユミル』

「ありがとう!」

 

 ぶみゃじゃないのは残念だけど、やっぱりこの箱型装置が声の主らしい。

 魔女の家にいた自動人形の1つだろうか。でもこんなに流暢に話せる子はいなかったと思うけど……。

 

『今回の旅の手助けをするようにと、魔女(ウィッチ)たちがビビを作り上げました』

「……お母さんたちが?」

肯定(ヤー)。あなたの旅を全面的にサポートできるようにと様々な機能を魔女(ウィッチ)たちが詰め込みました。快適な宇宙の旅をお約束します』

「……そうだったんだ」

 

 あの小型艇にビビちゃんはいなかったから、きっと私がこうすることを見越して生前にビビちゃんを作っていたんだろう。

 流石私のお母さんたち。全部お見通しだったってわけだ。

 ほんと敵わないなぁ……。

 

 しかもこんな素敵な贈り物まで。

 ……ありがとう、お母さんたち。

 ぶみゃとビビちゃんの力を借りて、私は夢を叶えるね。

 

 再び滲む視界をぶんぶんと振って元に戻して。

 私は改めてぶみゃとビビに向き合った。

 

「ビビちゃんの事は分かったけど、どうして今なの? 出発前に話しかけてくれればいいのに」

『――』

「……?」

 

 ほんの少しだけ間が空いて、ビビちゃんの声が響いた。

 

『起動に必要なエネルギーが足りませんでした。ビビは宇宙を流れる波から吸収・変換してエネルギーを補給します。魔女の星の様に、大気で守られた地上では大したエネルギーが集まらないのです』

「ふんふん。じゃあ定期的に宇宙を移動する必要があるってことかな?」

肯定(ヤー)

「わかった、気をつけておくね!」

 

 折角の贈り物。そして貴重な話し相手だもの。

 大事にしないとね。

 

『お願いします。それともう1つ。この花に関して』

「花……ミサトヨイグサのこと?」

肯定(ヤー)。ぶみゃが種を植えたのは見ましたね? あのように、花が咲くことで母星との通信(リンク)が繋がるのです。そうして初めて、ビビは会話をすることが可能になります』

「……?」

 

 ……ちょっと、難しかったかも。

 笑顔で固まっていると、ビビちゃんが改めて説明してくれる。

 

『ビビの本体は魔女の星にあるのです。ぶみゃが種を植えることで、植物同士が交信可能になり、ビビの声や情報をこの星まで届けることができたのです』

「ああ、なるほど!」

 

 それなら分かる。

 つまりこの花は通信の受信機で送信機――中継地点ということだ。

 ビビちゃん自体は魔女の星からお手伝いしてくれるってわけだね。

 

『ですので、今後新しい星に行くたびに、種を植えることをお願いいたします』

「分かった! といっても、やるのはぶみゃだけど。よろしくね、ぶみゃ」

「みゃ」

 

 頷いてくれるぶみゃを抱き上げ、柔らかな身体に頬を擦り付ける。

 んー、枯れ草の匂いがたまらない。

 でも、これでこの星でやることも終わった……のだけれど。

 

『――さて、魔女(ウィッチ)ユミル。こちらをご覧ください』

 

 ビビちゃんから光が放たれて、空中に大きな絵図が表示される。

 

「これは……?」

『この周辺の星域図です。随分と昔のものなので古く、またかなり狭い範囲の情報ですが』

「狭いって……」

 

 そこには数十を超える球体――星が浮かび上がっていた。

 

「こんなにあるよ?」

『これらも宇宙の中ではほんの極一部です。そうですね、この星でいえばその辺りにある砂粒程度。そうお考えいただいて良いと思います』

「え……?」

 

 何もないとはいえ、半径だけで1000㎞はありそうな大きな星だ。

 その砂粒……?

 

「……そんなに広いの? 宇宙って」

『この宇宙の果てを見たものは、未だいないと聞きます。決して誇張ではないかと』

「……はぁああ」

 

 あまりの規模に、思わず宙を見上げる。

 何十もある星が入る程の広さが、砂粒程度。

 だとしたら、宇宙全体には一体幾つの星があって、一体どれだけの生命が暮らしているのだろうか。

 

 なんて途方もない世界だ。

 そして私は今、その大海に身一つで飛び出したばかり。

 

「……凄いなあ。私たち、どこまで行けるかな?」

『どこまでも。お供しますよ、魔女(ウィッチ)ユミル』

「ぶみゃ」

 

 頼もしい言葉に、やる気が満ちる。

 うん、行けるところまで行ってみよう。

 そう意気込んでいると、『ちなみに』とビビちゃんが話し出す。

 

『この付近一帯を、魔女(ウィッチ)たちは『廃棄群星』と呼んでおりました』

「はいき? 捨てたってこと?」

肯定(ヤー)。ここは実験廃棄場でありました』

「……?」

 

 どういうことだろう。 

 言葉的に、誰かが何かを捨てたように聞こえるけれど……。

 

『詳しくはまた後ほど。要は、この付近に生命体はほとんどいないということです』

「……そうなの!?」

 

 そして飛び出たまさかの情報。

 つまりこの辺りを飛び回ってもダメってこと!?

 

『一部環境に適応できた者たちはいるかと思いますが、それよりはさっさと大都市を目指すことを推奨します』

「ああ、びっくりした。大都市……誰かが住んでる場所がちゃんとあるんだね!」

『なにぶん古い情報ですが、こちら』

 

 現在位置と、目的の星が強調される。

 今を真ん中として、目的の場所は星図の端っこだ。

 間には十数個の星がある。こうしてみると結構な距離がある……ように見えるけど。

 

『惑星カドミラ。魔女(ウィッチ)ユミルの速度なら、およそ2日ほどの距離ですね』

「案外近いんだ」

『これは真っ直ぐ向かった場合です。道中の星に種の設置をお願いしますね』

「あ、そっか。了解! じゃあ向かえばいい場所、教えてくれるかな?」

肯定(ヤー)

 

 新たな旅の仲間も加わって。

 途端に賑やかになった私たちは、別の星を渡りながら大都市の惑星を目指すことにした。

 

 

***

 

 そのまま幾つかの星を巡って――辿り着いたとある星で。

 私たちは初めて他の生命体に出会うことができた。

 

「ねえ、あなたはなんていうの?」

「――――」

 

 問いかけには、無言の跳躍が返ってきた。

 最初の星と比べて半分くらいの大きさのその星は当然重力も弱く、全力でジャンプすれば宇宙まで行けちゃいそうなくらい。

 

 見た目も赤茶けた岩の塊で、当然誰もいない……と思っていたら、そこにはまさかの住民がいた。

 緑のぷるぷるとした粘体の玉。

 それが岩の隙間を蠢いているのである。

 

 試しに顔を覗かせた子に話しかけてみたら、こうしてぴょんぴょんと反応してくれている。

 言葉がわかるのだろうか。

 

「ぶみゃ、何言ってるかわかる?」

「……みゃ」

 

 なんて聞いてみるが、ぶみゃの言葉も分からないのである。

 

「うーん……とりあえず、種を蒔こうか」

「ぶみゃ」

 

 まずはビビちゃんに聞いてみるとしよう。

 

 

『――粘菌生物でしょうか。胞子がこの星に定着し、そこから大型の個体を生み出すまで成長したと思われます』

 

 花を咲かせて起動したビビちゃんがそう言った。

 緑の玉に箱から飛び出た筒――カメラを向けながら分析をしてくれている。

 

『どこかの施設で育成されていたものが廃棄され、ここまで流れたのでしょう。星の緑化、その1つのアプローチでしょうか。この岩の下は彼らが沢山住んでいるでしょう』

「はああ、そんな生き物もいるんだねえ」

 

 ぶみゃのような植物でできた体に近いけど、また形が違う。

 やっと会えた生き物だけれど……会話は難しそうだ。

 娯楽媒体(コミック)に出てきた『人』は、やっぱりこの辺りにはいないのかな?

 

「でも、会話はできなさそうだね」

肯定(ヤー)。あくまで繁殖を繰り返すだけですから、魔女(ウィッチ)ユミルのことはほとんど認識できていないと思います』

「そっかあ……折角、最初の生き物に出会えたのに」

 

 結界越しにぷにぷにと突いてみると、驚いて逃げてしまった。

 

「逃げちゃった」

魔女(ウィッチ)ユミル。あなたの結界で触ると大抵の生物は危険だと判断するかと』

「え? あ、そっか。気を付けないと」

 

 そこらの小惑星ならぶつかっても平気な位硬くしてあるんだった。下手したら弾けちゃうね。

 危ない危ない。

 

 でもそうなると宙にいる間は触れあうことができないなあ。

 生身で触れるか、出力を弱める方法を考えておこう。

 うんうんと頷いていると、ビビちゃんの声が響く。

 

『やはりこの廃棄群星には知的生命体はほとんど存在していないようですね』

「そうみたいだね。結構見て回ったけど、この子たちだけだったし」

 

 ここに来るまでに10を超える星を見てみたけど、どこも大気もほとんどない岩の塊だった。

 そういえば、この星は少しだけど大気がある。

 魔女の星とここ、大気のある星だけ生物がいるんだろうか。それとも逆……?

 どちらにせよ、このままうろちょろしてても大して進展はなさそう。

 やっぱり、ビビちゃんの言った通りだ。

 

「むむ……じゃあやっぱり先を急ごうか。じゃあまたね、粘体ちゃん」

「ぶみゃ」

「――――」

 

 良く分からず遠くで跳ねているだろう緑の粘体に別れを告げて。

 次なる星の方角を確認していると。

 

『――おや?』

「どうしたのビビちゃん」

『これは、前言撤回です』

「……?」

「ぶみゃ?」

 

 チカチカと光を放っていたビビちゃんが、ふと告げる。

 

『救難信号を捕捉しました。どうやら、近くに誰かがいるようです』

 

 ……思ったより早く、誰かとのファーストコンタクトは近そうであった。

 

 

 

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