星渡りの魔女特急便。あと猫。   作:穴熊拾弐

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第3話 ファーストコンタクト②

 

 

 

 失敗した。

 ああそうだ。俺は命を賭けたギャンブルに失敗したのだ。

 その結果、この何もない宙で緩やかな死を迎えつつある。

 

「……畜生……」

 

 元々無謀な賭けだった。あの『廃棄群星』に向かおうなんて、正気の沙汰ではない。

 それでもやるしかなかった。

 そうしなければ俺たちの工房は廃業……いや、それだけで済めば幸運だろう。爺さんがその生涯をかけて築いた全てを連中に奪われるのだ。

 

「嵌めやがって……あのクソどもが……!!」

 

 きっかけは、傾きかけていた工場経営の中でやってきた仕事の依頼。

 めちゃくちゃ旨いって程でもないが、その報酬で数ヶ月は生きられるって類の仕事。珍しいが偶にある、それなりに大型な案件だった。

 依頼主は爺さんの代から世話になってる顔馴染み。間違いはない筈だったんだが……油断した。

 

『ヴァル、どこに聞いても同じだったよ。資材が、急激に高騰してるって……』

『……奴らが買い占めたんだろう。手下には適正価格で回して、俺らには高値を提示する。こういった依頼が来るのを待ってたんだ。本気であれを奪い取るつもりか……俺たち暗地を何だと……!!』

 

 仕組まれた素材の独占と高騰で、発注された商品は作れない。

 いや、作れはする。その材料は、奴らが高値で売ってくれることだろう。

 奴らに借金してでも作って赤字を抑えるか、手を差し伸べてくれた恩人の依頼を断り、信用を失墜させるか。

 どちらにせよ俺達は終わり。よく出来た手口だ。ずっと待ってたんだろう。

 全ては俺らを退かして工房と鉱脈を手に入れるために。

 

『……どうする、ヴァル』

『奴らの好きにはさせないさ。なに、まだ方法はある』

 

 唯一残された道。

 それが『廃棄群星』への突入だった。

 

『廃棄群星に行く!? ちょっとヴァル、何言ってんの!?』

『無理でもやるしかない。あそこには潤沢な金属資源がある筈なんだ! 持ち帰れれば、依頼も余裕で達成できる』

『だからって、通れるかもわからないでしょう? あそこは……あの小惑星帯は船の墓場だって言われてるでしょう。いくらグラベルお爺さまがいるからって……!!』

『やらなきゃ俺らは終わりだ。なに、任せろ。必ず成功させてみせる』

 

 なんて言い放って出発したが、結果はこのざま。

 流石はあの通商連盟でさえ放置している魔境ということだろう。

 

 複雑に蠢く小惑星帯。

 凄まじい速度で岩の群れが飛び交い、互いに激突しては砕け融合を繰り返す。

 それ自体が群体のような、分厚い岩の帯。

 

『大丈夫、爺さんはやってみせただろ。俺は『星渡り』の孫だ。今度は俺がやる。俺がやるんだ……!!』

 

 そんな淡い夢は、船とともに砕かれて潰えた。

 

 巨大な()()に撃ち砕かれ、左翼とエンジンが大破。

 操縦技術には多少の自信も経験もあったが……全く太刀打ちできなかった。

 なんとか小惑星帯を抜けたはいいものの、動くこともできず今はただただ宙を漂うだけ。

 こうなったら、むしろ奇跡的に突破してしまったことが仇となった。

 

 船体はどんどんとカドミラから離れていく。救援は絶望的だ。

 苦し紛れの救難信号は出してはいるが……無駄だろう。

 この船は、最早俺の棺桶と成り果てたのだ。

 

「すまん、シシル。帰れそうもない」

 

 ただ帰れないだけではない。

 爺さんに親父と代々守ってきた工房を奪われることが本当に口惜しい。

 

「ああ、クソ。あんなに星が、金属があるのに……!! どうして俺は何もできない!」

 

 手慰みにと解析した周囲の星は、探していた金属(もの)に満ちている。

 例えばあそこの星は鉄の塊だ。ああ、丸ごと持って帰りたい!

 あれを持ち帰れれば物が作れる。そうすればこの苦境だって……。

 

「……ははっ、詮無いことか」

 

 そこまで考えて、身体の底から失笑が漏れた。

 もう俺にはなにもできない。この絶望とともにゆっくりと死を待つだけだ。

 いや、それならいっそ自分の手で終わらせてしまおうか。

 ……それがいい。こんな所で漂っていても、何も起きることなどないのだから――。

 

『――すみませーん!』

「……?」

 

 ……ん?

 なんか、今声がしなかったか?

 いやそんなわけがない。

 ここは俺しか乗ってない小型艇の中で、宇宙を漂う真っ最中だ。

 声が聞こえるなんて、まさか亡霊でもいるとでも――。

 

『反応ないね。あ、もしかして音量小さかったかな。宇宙で拡声魔法使うの初めてだから加減が難しくて……じゃあ、もう一回。()()()()()()()()()()!』

「……うるさっ!?」

 

 今度ははっきりと――というか鼓膜を破りそうなくらいの大音量で声が響いた。

 今のはなんだ!? 女の子の声だったが……。

 

『ぶみゃあ!?』

『あ、ごめん。うるさかったね……じゃあこれくらいかなー』

 

 別のも聞こえた!

 なんか動物っぽかったけど……え? 人に動物!? この廃棄群星で!?

 この船はどの星にも着陸してない。外に何かが要るなんてありえない!

 

『反応ないねー。中に誰もいないのかな?』

『……ぶみゃ』

『ん? なになに。あそこ? 入口かな』

 

 ……いや、そういえば聞いたことがる。

 ここは昔、軍の実験で生み出された様々な生物が廃棄されたと。

 だからここは『廃棄群星』と呼ぶのだと。

 そして、その怨念が今も漂い銀河通商連盟の者に襲い掛かってくるのだと。

 

「まさか、そんなものただの子ども相手の噂話で……」

『あのー!!』

「うわあああ!?」

 

 どん、と後方から音が鳴り響く。

 ハッチを叩いている? やっぱり誰かいるのか!?

 通信機器はまだ死んでない! これらが動かず直接耳に声が響くなんて、生身の生物が外にいなきゃありえない!

 そんなこと……あるはずないだろ!?

 

「なんだよ、なんなんだよ……!!」

 

 死ぬ前に幻覚でも見てんのか? ならシシルとの思い出とかそういうのにしてくれよ!

 船体を叩く音がどんどんと近づいてくる。

 後方から上側に。そして、コックピットの前側に……ああ!!

 窓の向こうに、蠢く影が……!!

 

『どなたか生きてますかー!?』

「ぎゃあああああ!!」

 

 直後びたりと張り付いた()()に、俺は絶叫。

 その瞬間、ぷつりと意識を失うのであった。

 

 

***

 

 

 緑粘体くんの星を出てビビちゃんの指示してくれた方向に向かってかっ飛ばしていると、巨大な何かが宇宙を漂っているのを見つけた。

 オレンジの鮮やかな外見のそれは、どうやら船らしい。

 娯楽媒体(コミック)で見た宇宙船だ!

 

「凄い、船だよぶみゃ!」

「みゃ……!」

 

 救難信号を出してたのは、どうやらこの船らしかった。

 

「わあ、ホントにあるんだね……って、これ」

「みゃ?」

「なんか……ボロボロだね?」

 

 興奮しながら近づいてみたら、穴こそ空いてないが船体はボコボコ。折角の綺麗なオレンジも、色んな所が剥げたり黒ずんだりしてしまっている。

 なにより船の後部。

 大きな筒の部分が破損してしまっているようだった。

 

 

『――カドミラからやってきた船だと推察します。小惑星帯を突破しようとして、失敗したのでしょう』

 

 ()()()にも反応がなかったから、一旦近くの星まで戻って起こしたビビちゃんに聞いたら、そんな答えが返ってきた。

 

「助けを呼んでたってことは中にカドミラの人がいるんだよね?」

『救難信号がでていましたから、間違いないかと』

「だよね。でもなんの反応もなかったんだよね」

『奇妙ですね。救難信号はつい最近発せられたもののようでしたが。ただ――』

「うん?」

 

 伸びたカメラがきらりと輝いた。

 

『やはりカドミラには未だ文明が残っていたようですね』

「うんうん!」

 

 こんな船があるんだからね、間違いなくある。

 ますます行くのが楽しみになったよ。

 ……ところで。

 

「でもそしたら、この船どうしようか……」

 

 振り返った先には、あの船がある。

 放置したら何処かに行ってしまいそうだったので、ついでに持ってきたのだ。

 

『今後のために聞いておきたいのですが、あの船はどうやって運んだのですか?』

「え? 押してきたよ。結界で壁を作って、よいしょーって。だからちょっと時間かかっちゃって」

『――――』

「ビビちゃん?」

『いえ、すみません。なるほど、理解しました』

 

 良かった、聞こえてないのかと思ったよ。

 

「その間にも何回か声かけたんだけど、何の反応もなくて。ねー、ぶみゃ?」

「ぶみゃみゃ」

 

 中に誰かがいるというが、言葉も返ってこなければ出ても来ない。

 

「声、大きすぎちゃったかな? 耳とか大丈夫だといいんなけど……」

『生体反応に問題はなさそうです。気絶してるのでは?』

「そうかも。凄くボロボロだもんね。でもこじ開ける訳にもいかないよね」

「ぶみゃ」

「……ぶみゃ? どうしたの?」

 

 ぶみゃが私の身体……ではなく身体を覆う結界を叩く。

 ちゃんと飛んでない時は硬すぎないように調整済。ぶみゃが叩いても、あの緑の粘体生物を突いても大丈夫。

 ぶみゃはそのまま今度は船に進んで、そちらを叩く。

 ええっと……。

 

「結界で殴って壊す?」

「ぶみゃ!?」

 

 ……怒られちゃった。

 ぶみゃは慌てて、前足で船の周囲の地面を引っ掻き始めた。 

 船の周りを囲むように線を引いて……ああ!

 

「結界で船を覆う……ってこと?」

「みゃ!」

 

 頷いてる。

 おお、ぶみゃと意思疎通ができた!

 ……って、そこじゃなくて。

 

「そっか。それなら扉を開けちゃっても平気……なのかな?」

肯定(ヤー)。箒が生む大気なら問題なく生存可能かと』

「うん! じゃあやろう」

 

 指を鳴らして結界を発動。

 大きいからちょっと大変だけど、上手く覆うことができた。

 

「できたよ、ぶみゃ!」

「みゃ」

 

 そしたらぶみゃが再び船に近づいて、船体を叩く。

 宙でも叩いていたそこが扉なのだろう。

 

「みゃ、みゃ」

 

 なにやらうみゃうみゃ言いながら扉の辺りを触って、触手を伸ばして……あ、開いた。

 

「凄い! どうやったの?」

「ぶみゃ」

 

 うん、なんにもわかんない!

 でも壊さずに開けられたのは良かった。

 ぶみゃと一緒に中を進んで一番前のコックピットにたどり着くと、椅子に埋もれるようにして1人の男性が眠っていた。

 

「わ、人だよ、ぶみゃ」

「みゃ」

 

 娯楽媒体(コミック)の見た目そのまま。

 分厚い生地の服……宇宙服ってやつかな? それを着て、頭部も丸型のヘルメットに覆われている。

 顔は良く見えないけれど、多分人だ。本当に、私たち以外の人っているんだ……!!

 

「う、うぅ……」

「動いた! あの、大丈夫ですか?」

 

 身じろぎした彼に近づき揺り起こすと、うっすらと瞼が開いて。

 

「……女の子? ここは……」

「……!!」

 

 私は遂に、人とのファーストコンタクトを果たすのだった。

 ……が。

 

「ここは船? そうだ、俺は廃棄群星に来て……」

「カドミラの人も廃棄群星って言うんだね、ぶみゃ」

「みゃ……」

「幽霊に襲われて……!?」

 

 辺りに視線を彷徨させていたヘルメットが、ばっとこちらを向いた。

 

「幽霊?」

「みゃ?」

「……でたああああああ!!!?」

 

 ようやく会えたその人は、私たちを見て大絶叫するのであった。

 

 

***

 

 

「……すまない。恥ずかしいところを見せてしまった」

 

 目覚めた彼――ヴァリアノさんはしばらく経って落ち着き、かと思うとひたすら謝ってきた。

 ヘルメットを外した彼は、枯れ草色の髪をした大柄な男の人。

 ごつごつした顔は少しだけ圧を感じるけど、笑うと目がきゅっと小さくなって可愛らしい顔をする人だった。多分、いい人だ。

 

「まさかここに生きた人がいるなんて……君たちはどこの人だい?」

「どこって……」

「暗地か? まさか、君たちも騙されて……!!」

「……?」

 

 良く分からない言葉に首を傾げる。

 あんち? 騙す? 何を言ってるんだろう。

 

「良く分からないですけど……私たちは、あなたが言う『廃棄群星』の奥から来ました」

「は? ……何を言ってるんだ!?」

 

 少しだけ考えて正直に話すが、あっさりと否定されてしまった。

 

「廃棄群星には生物なんて住んでいない! ましてや君のような少女など……」

 

 ハッとして、彼は言葉を止めた。

 私から距離をとって……直ぐに笑いだす。

 

「いや、馬鹿なことを。俺に追手など放つわけがないな」

「……?」

 

 うーん、なんだか話が通じてない気がする……。

 でも『廃棄群星』に生命体がほとんどいないっていうのはビビちゃんも言ってたよね。

 そしたら魔女(ウィッチ)たちはどうしてあそこにいたんだろう。

 気なるけど……今はヴァリアノさんのことが優先かな。

 

 ただ私たちのことをどう説明すればいいのか……。

 うんうん考えていたら、ビビちゃんがふと声を出す。

 

『発言よろしいでしょうか』

「ビビちゃん?」

「猫が喋った……!?」

『ビビは猫ではありません』

 

 ぶみゃの背負った装置から筒が飛び出して主張する。

 あのカメラがビビちゃんの顔代わりなのかな?

 

「ああ、その装置か……君は?」

『ユミルの旅をサポートするAIビビです。我々は、とある方の依頼を受け、この宙域を調査しておりました』

「……なるほど! ということは企業の?」

『申し訳ございません。詳細はお答えできません』

 

 そして、良く分からない話をし始めた。

 依頼? 調査? そんなことしてないけど……ヴァリアノさんは納得している。

 うーん……とりあえず黙って聞いておくとしよう。

 

「いや、そうだな……すまない。不躾だった」

『いえ、混乱は理解できます。この船の状態は?』

「エンジン――メインスラスターをやられて動けない。食料も最低限だったから、もって数日と言ったところだ」

「じゃあ、ヴァリアノさんは帰れなくて困ってたってこと?」

「……そうなるな」

 

 ふんふん、とにかくヴァリアノさんは帰れなくて困ってると。

 船も壊れちゃってるもんね。私に修理は無理だし……そうだ!

 

「ねえビビちゃん。私がヴァリアノさんをカドミラまで送ればいいかな?」

「は?」

『まさにそれを提案しようとしていました』

「おお! じゃあ、丁度いいね!」

肯定(ヤー)。ヴァリアノ様、提案があります』

 

 ビビちゃんの高い音色が船の中に響く。

 それを聞いて、ヴァリアノさんがぐっと身を固くするのが分かった。 

 

「あ、ああ」

『この魔女(ウィッチ)ユミルが、あなたをカドミラまで送り届けます。その代わり、我々に教えていただきたいのです』

「何を?」

『全てを。カドミラの文明や技術、歴史に至るまで。あなたの知るモノをお教えください。我々は、情報を欲しています』

「……そんなこと、お安い御用だが……そんなものでいいのか? というか、できるのか? 君たちに」

肯定(ヤー)。ですよね? 魔女(ウィッチ)ユミル』

 

 困惑したような、縋る様なヴァリアノさんの目が私を見る。

 それを感じて、私は少しだけ不思議な気持ちになった。

 

 これは……そう。あのぞわぞわだ。

 昔、まだ私が幼い頃。魔女(ウィッチ)の仕事を手伝った時。

 

『おや、ユミルは賢いねぇ。おかげで早く終わったよ、ありがとう』

『ほんと!? うへへへ、やったぁ……!!』

『まっ……!! 可愛い子だね本当に!!』

 

 すんごく笑って、魔女(ウィッチ)クレドアレアが私を撫でてくれたんだ。

 それ以来、魔女(ウィッチ)たちが作業をする前に私の顔をじっと見るようになった。

 

『ユミル、今日はアタシの手伝いを……』

『いや、アタシの方を……』

『黙ってさっさと仕事しな!!』

 

 あんまり皆がやるから、魔女(ウィッチ)サリドアミタが怒ってなくなったけど……あの時の顔に少しだけ似てる。

 

 多分、彼を手伝えば、この困りきった顔がきっと笑顔になる。

 ……それをしてみたいと、私は強く思ってる。

 だから――。

 

「勿論! 任せて!」

 

 私は、笑みを浮かべてそう言ったのだ。

 

「ヴァリアノさんを惑星カドミラまで送り届けるよ!」

「……ああ、ありがとう!」

 

 思えば、このヴァリアノさんとの出会いが、この旅の目的を決めた気がする。

 この広い宇宙を股にかけ、誰かの願いや想いを届ける。

 そんな、星を渡る魔女になるって。

 

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