星渡りの魔女特急便。あと猫。   作:穴熊拾弐

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第4話 ファーストコンタクト③

 

 

 

 ヴァリアノさん――ヴァルさんの願いを受け、彼を惑星カドミラまで送り届けることが決まった。

 問題はどうやって送るかなんだけど……。

 

「うーん、どうしようか。運ぶのはヴァルさんだけでいいんだよね、ビビちゃん」

肯定(ヤー)。流石にこの船を押して小惑星帯を通るのは無理があるかと。構いませんね?』

「……押す? ああ、構わない……って、待ってくれ!」

 

 頷きかけたヴァルさんが慌てて手のひらをこちらに向け、頭を下げる。

 

「頼む、帰る前に金属の採取をさせてくれないか!」

「……?」

「素材を持って帰らないと、俺たちの工房が……!!」

 

 そうして、私たちはようやくヴァルさんの事情を聞いたのだった。

 

 

「――工房が倒産の危機?」

「ぶみゃ?」

「ああ、そうだ。金属を持って帰れないと、工房も鉱脈も奪われる。なんとかして手に入れて帰りたいんだが……君たちの船に載せられないだろうか」

「船……?」

 

 縋るような目線に、私は首を傾げる。

 

「ないですよ」

「は?」

「だから、船はありません。私の相棒――移動手段は、これです!」

 

 箒をくるりと回して床について見せると、ヴァルさんが目を見開いて私を、次いでビビちゃんを見た。なんだか凄い表情してるけど、大丈夫かな?

 

『事実です』

「嘘だろ、そんなこと……張り付いてたぁ……!!」

「みゃみゃ……」

 

 そしてよくわからない叫び声を上げた。

 顔を覆って天井を見つめて――大きく息を吐き出している。

  

「……じゃあ、本当に?」

「はい! あ、なら飛んでみせますよ。すぐにできるので!」

「いや、そこまではしなくていい。信じるよ……」

 

 なんだか老けた気がするヴァルさんは、ゆるゆると首を横に振る。

 そのまま窓の外を見つめて、大きくため息を吐き出した。

 

「そうなると、金属を運ぶのは難しいな」

『1つ確認をさせてください』

「ビビちゃん?」

 

 ちかちかと緑の光を明滅させながら、ビビちゃんが声をあげる。

 

『必要量と容積は? どのくらい金属があれば足りますか?』

「……2トン程あればなんとかできる筈だ。奥に収納用のコンテナがある。案内しよう」

 

 そう言って歩き出したヴァルさんについていくと、船の格納庫に辿り着く。

 壊れた時に色々と崩れたのか辺り一面にモノが散らばっていて、それらに埋もれるように巨大な四角い箱が鎮座していた。

 大きさは……高さが立った私と大体同じくらいかな?

 

「これに金属を入れるんですか?」

「そうだ。このコンテナなら満杯に詰め込んで2トン程になる……筈だ。この辺りの石の純度が分からないから確実じゃないが……」

『わかりました。ぶみゃ、頼みます』

「みゃ」

 

 ぶみゃがコンテナに近づき、ビビちゃんが緑の光を放って走査(スキャン)を始める。

 

『解析完了。損傷なし。これを使えば運搬はより楽になるかと。魔女(ウィッチ)ユミル。これを運びながら飛ぶことは可能ですね?』

「うーん……」

 

 これくらいなら箒の後ろに置けばそんなに邪魔じゃないかな?

 結界を工夫する必要はありそうだし、重いと止まるのが大変そうだけど……そこはなんとかやってみよう。

 うん、問題なさそう。

 

「大丈夫! でもこんな量でいいの? 足ります?」

 

 なんて言えば良いのかは分からないんだけど。

 こう、()()()()()()()には少ない気がするのだ。

 この箱を一杯にするために、ヴァルさんは危険を冒してここに来たってことなの?

 

「あ、ああ。俺の工房は小型船のエンジンを作ってるんだが、そのフレームに使うんだ」

「エンジン……じゃあ、この船のも?」

「そうだ。これは俺の爺さんが作ったものでね。小惑星帯も抜けられる自慢のエンジン……ってのがウリだったんだが、俺のせいでその名に傷をつけてしまったな」

「そう……なんですね?」

 

 なんだかとっても悲しそうだけど、昔に何かあったのかな。

 ……でも、ヴァルさんの家はお爺さんの時からずっとエンジンを作ってるんだ。しかもそうして作られたものがまだ現役で動いてる……すごいなぁ。

 

 私は魔法はすぐに覚えたけれど、料理や編み物なんかはてんで駄目だった。

 何年もかけてやっとできるようにはなったけど、パイもクッキーもサリドアミタのそれとは比べ物にならないくらい味が薄いの。

 ああ、あの味がもう一度食べたいなぁ……。

 

「「……はぁ……」」

 

 なんて思っていたら、ヴァルさんと仲良くため息を吐いてしまった。

 

『2人とも、本題から外れていますね』

「ぶみゃ」

「……すまない、量についてだったな」 

 

 顔を赤らめながら、ヴァルさんが慌てて話を続ける。

 

「俺らが作るエンジンは小型だから1つ造るのにそこまで大量の金属は要らないんだ。この量があれば一先ずなんとかなる……って、そうだ。採掘道具!」

 

 そう言いながら、ヴァルさんは辺りに散らばった荷物を調べ始めた。

 

 ……ヴァルさん、凄く真剣だ。

 私からすれば『このくらいで?』と思える量の石で、彼とその家族たちが救われる。

 そのために、彼は命を賭けてここに来た――その気持ちを、私は未だちゃんと理解できていない。

 

 やっぱり私は、彼や惑星カドミラの常識とはかけ離れた位置にいるのだろう。

 ビビちゃんがお願いした様に、私は知らなければならないのだ。

 彼らの常識を。そしてこの人たちが暮らす世界が、一体どんな理で回っているのかを。

 

 そしてなにより。

 

「ちょっと待っててくれ、壊れてないでくれよ……!!」

 

 私たちと出会っていなかったら多分死んでいたヴァルさん。

 そんな命を賭けた彼が家族とちゃんと笑えるように助けたい。

 ……うん。そうだね。

 それが今、私がしたいことなんだ。

 

「頑張ろうね、ぶみゃ」

「……みゃ!」

 

 そう意気込んだ直後、ヴァルさんの笑顔がこちらへと向いた。

 

「よし、掘削装備は無事だ。後は掘れさえすれば……!!」

「ヴァルさんの工房は助かるんですね、良かった!」

「ぶみゃ!」

 

 ぶみゃを抱きかかえてくるくる回る……けど、直ぐに止まってビビちゃんを覗き込む。

 

「あ、でも、ここは掘っちゃだめだよね?」

肯定(ヤー)。既に内部まで粘体が浸食しているでしょう。掘っても無駄かと』

 

 住処も壊しちゃうもんね。止めておこう。

 

「……? 粘体?」

「そしたらどこに行こうか」

『ヴァリアノ様が調べた中で要望の金属を多分に含んだ星が近くにあるようです。そこに向かいましょう』

 

 またビビちゃんが星域図を出してくれる。

 それをじっくり見つめて、星までのルートを頭に叩き込む。これがちょっと大変なのだ。

 むむむ、と地図とにらめっこしていると、呆然とした表情のヴァルさんが近づいてきた。

 

「これは廃棄群星の星域図か……? そんなものがあったのか……」

『古いものですが、今のところ大きく変化した点はなさそうです』

「こんなものを持ってるなんて、君たちは本当にこの一帯の調査を……一体何のために……」

 

 本当は魔女(ウィッチ)たちが調べたんだけどね。

 それはともかく。

 星域図を頭に叩き込んだ私は今度はコンテナに手を触れて、その大きさや感触を確かめていく。

 浮かせるのも結界で覆うのも、触って確かめると上手くいきやすいのだ。

 

「じゃあそこまでコンテナと装置を運んで、その後はコンテナを運べばいいですか? 船は置いていっちゃいますけど」

「構わない。どうせもう壊れた船だ。今は素材の方が大事だ」

『了解しました。魔女(ウィッチ)ユミル。提案があります』

「……? なあに?」

『この先、カドミラまでは星から離れた状態で行動することが増えるでしょう。そこで、独立行動可能な端末をつくることを提案します』

「……どういうこと?」

『外の粘体を1体確保してもらえますか? そこに、種を植えましょう』

 

 そう言って、やっぱり同じように首を傾げてるぶみゃの背から伸びたカメラが、きらりと光るのだった。

 

 

***

 

 

『――これである程度自立行動が可能になりました』

 

 そう言ってぴょんぴょん跳ねるのは、抱える程の大きさの緑粘体くん。

 その頂点部分からは綺麗な花が生えている。

 捕まえた粘体くんの中にぶみゃが種を植えたのである。

 地面に埋める代わりに粘体に植えた扱いになるのかな?

 ビビちゃんの声も粘体から――はせず、変わらずぶみゃが背負った箱から聞こえてきた。

 

『通信がない間は簡易の独立モードになりますが、星図を出したり道案内(ナビゲート)は可能です。小惑星帯では種を植えている暇はないでしょうから、こちらでサポートしますね』

「ビビちゃん、ありがとう!」

 

 相変わらず本体は箱の方だけど。

 粘体くんとビビちゃん両方を見てお礼を言っておく。

 

「……本当に廃棄群星に生命体がいたんだな……」

 

 隣で、再びヘルメットを被ったヴァルさんが驚いている。

 その周囲には顔を出した粘体くんが2体、彼の周りを蠢いている。

 

『まだ観測はできていませんが、数種類の生命体は存在しているものと考えられます』

「そうだったのか。君らは、その調査に……」

『これで我々の用は済みました。鉱石を採取して、向かいましょう』

「りょーかい! じゃあ、かっ飛ばして行こう!」

 

 船を覆っていた結界を消して、いつもの箒周辺だけを覆う。

 粘体くんも増えたから……あ、そうだ。

 

「まずはヴァルさんの座る場所を作らないと」

「……そこがずっと気になっていた。その細い箒に俺のような巨体は……」

「ふふん、そこは大丈夫です!」

 

 さっき思いついた。

 どうせコンテナを引っ張っていくなら、そこに作っちゃえばいいのだ。

 

「ヴァルさん、この船、置いていくんですよね。ならさっきの椅子壊しちゃって平気です?」

「椅子……コックピットか? まあ構わないが……なにを?」

「席を作るんです!」

 

 捨てるんなら良し!

 コックピットに入って手のひらを向けて、椅子を引き寄せる。

 むむ、金属で固定されてるのか硬い……。

 ちょっと大変だけど……全力で引っ張る!

 

「むむむむ……!!」

「なんか凄い音がしてるが、彼女は何をしてるんだ!?」

「ぶみゃ」

『魔法です』

「ま、魔法……?」

『はい、魔法です。彼女は、魔女の弟子にしてこの廃棄群星に残る最後の魔女(ウィッチ)ですから』

「……?」

「……えいやっ!!」

 

 全力を込めて引っ張るとすごい音とともに、椅子が剥がれた。

 勢い余って転んじゃって、椅子も派手にぶつけちゃったけど……取れた!

 

「……」

「みゃ……」

「いてて……でも、取れました! これをコンテナの前に取り付けるのでヴァルさんはこれに座ってください。あ、粘体くんを抱えてもらっていいですか?」

「……はい」

 

 そこからは流れる様に準備は進んだ。

 ベルトでコンテナを固定。魔法で浮かせて外へと運ぶ。

 後は箒の後ろ側に結界で固定すれば……準備完了!

 

「ぶみゃはいつも通り前に座ってね」

「ぶみゃ」

 

 試しに浮かせてから動きを確認。

 固めた結界の外側にエンジンをつければ()()大きくなっても大丈夫。

 コンテナが大きいから私より高い位置に来ちゃうけど……その分結界を大きく、硬くするから安心安全!

 

「浮いている……飛んでいる……まさか、本当にこれで行くのか!? 壁は!? 安全装置は!?」

『諦めてください。そして黙ってください。舌を噛みますよ』

「そうはいっても……!?」

魔女(ウィッチ)ユミル、気にせず出してください』

「ん、りょーかい!」

 

 ビビちゃんが教えてくれた星を目指して、エンジンに魔力を注ぎ込む。

 

「方向よし、結界よし、エンジンよし……!! じゃあ、行きますよ」

「待て、本当にこれで行くのか? こんなんで宇宙を渡れるわけが……!!」

「出発ー!」

「うわああああ!?」

 

 まずは鉱石採取のためにかっ飛ばしていく。

 大気の薄い星の重力圏を脱して、ビビちゃんが示す星へと向かう。

 急いでいるので全速力!

 煌めく星の海を駆け抜け、小さな星や岩の塊をするすると避けながら――あっという間に目的の星に到着した。

 

「さ、ヴァルさん! 採掘を!」

「……」

「ヴァルさん?」

「……は、はは……本当に箒で宇宙を飛んでしまった……」

 

 放心したまま椅子から動かない。

 ちょっと、飛ばしすぎちゃったかな。

 ぶみゃが穴を掘り始めるのを横目に見ながら、ヴァルさんに声をかける。

 

「ヴァルさん、大丈夫ですか?」

「ああ、問題ない。本当に、全く問題なかったよ」

「……? それは良かったです……?」

「……そんな力を持っていながら……そうか。君は本当に……」

「?」

 

 私を見るヴァルさんの目が少しだけ変わった。

 なんというか柔らかく暖かい……そう、魔女(ウィッチ)たちのものと似ているような……。

 

「ユミル、俺が無事に帰れたらぜひ俺の家に泊っていかないか? シシルや家族にも紹介したいし、カドミラの美味い飯もぜひ食べていってくれ」

「え? いいんですか!?」

「勿論だ。歓迎するよ!」

 

 優しい顔で微笑む彼。

 その腕に抱かれた粘体の花が仄かに光った。

 

『ヴァリアノ様、まずは鉱石の採取を』

「おお! そうだった。急いでやろう!」

 

 背後のぶみゃから聞こえてきた言葉に、慌ててヴァルさんは飛び降りて駆け出していった。

 

「……ヴァルさん、元気が出てよかった」

『そうですね。彼は、信頼に値する人の様です』

「ふふ、そうだね。工房に行くのが楽しみ! ……さ、ヴァルさんの手伝いをしよ」

『よろしくお願いします』

 

 そうして鉱石も集め終え。

 今度こそ、惑星カドミラへと出発するのであった。

 まずは、小惑星帯の突破から!

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