星渡りの魔女特急便。あと猫。   作:穴熊拾弐

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第6話 宇宙海賊は彗星を見る

 

 

 

 ああ、くそっ、失敗した。

 

「兄貴、岩が迫ってますよ!? 兄貴!?」

「黙って撃ち続けろ! 直撃コースさえ壊せばなんとかなる! ……ちっ、どうなってやがる。なんなんだこの小惑星帯は……!!」

 

 簡単な仕事のはずだった。

 暗地の工房主の殺害――しかもそいつはこの小惑星帯を抜けて廃棄群星に行こうとか無謀を企む自殺志願者だ。

 オレらが何もせずとも死んでくれる……そのはずだった。

 

 だが予想は裏切られ、奴の船の反応は消滅しないままオレらの観測範囲外に消えちまった。

 そうなれば、事は一気に面倒になる。

 

『死んだんじゃないんですか?』

『馬鹿が、それでもし生きてたらオレらがぶっ殺されるわ! それにあいつはあの『星渡り』の孫だろ? 可能性はゼロじゃねえ……!!』

『そんな凄かったんです? あいつの爺さん』

『……カドミラ開拓以来、あの小惑星帯から帰還したのは2例だけだ。1つは最初の船団の生き残り。もう1つがその爺さんだよ』

 

 しかも前者は入ってすぐに逃げ帰った連中と聞く。実質、奴の爺さん1人だけだ。

 暗地出身の癖にとんでもない操縦の腕を持ち、どうやって作ったのか不明な高性能エンジンを駆使し、そいつは偉業を成し遂げた。

 

 今まで詳細不明だった廃棄群星の情報と鉱石を持ち帰ったんだからな。

 金属資源の山――この宇宙での生活では幾らあっても困らない資源の塊がこの辺境の直ぐ側にあるってんだ。

 当時は湧いたらしく、爺さんの工房は名を上げ、オレらの雇い主の名は落ちた。

 

 その長い因縁の結果が今回の依頼ってわけだ。

 正直、今となっては爺さんが本当に廃棄群星までたどり着いたかは怪しいところだが……今この時はその『血』が何よりも厄介なのだ。

 

 孫のヴァリアノも操縦の腕は確かだと聞いている。

 もしヤツも小惑星渡りを成功させれば……死ぬのはオレたちだ。それだけは避けなきゃならねぇ。

 

『ともかく、奇跡を2度も起こされるわけにゃいかねえのよ。……行くぞ』

『へ、へい……俺はもっと安全に進めたかったっすよ……』

『んなもんはもうなくなったんだよ!』

 

 出てくるのを待つ? この何十億km以上も続く壁のどこから出てくるのかも分からないのに?

 ならカドミラ周辺に張っていればいいか……いや、流石に人目がありすぎる。

 他の企業の哨戒艇も巡回している以上はかなり危ない橋になる。

 

 そうなれば取れる手段は1つ。

 俺らも小惑星帯に入って、奴を観測できるまで追いかける……それしかなかった。

 なに、オレたちゃ軍すら怯える宇宙海賊。ただの工房主に負けるような腕はしてねぇよ。

 

 ……なんて驕りは1日で叩き潰された。

 

 最初は順調だった。岩たちは噂程の動きを見せず穏やかなものだった。

 これはますます奴の生存が現実味を帯びてきた。オレたちは更に速度を上げて奥に入ったんだが、それが駄目だった。

 半日ほど進んだ先で、岩が突如として牙をむいてきた。

 

『なんだ、岩が急に!?』

『アニキ、駄目です、避けきれません!』

『ざけんな! 主砲、ミサイルなんでもいいからあの岩どもをぶっ壊すんだよ!』

 

 そうして岩に襲いかかられしばらく。

 既に弾薬は尽きかけ。

 部下が乗って飛び出した戦闘機は既に全滅。

 このままじゃオレらが先に宇宙の藻屑となる……筈だった。

 

「……あ」

「ん? どうした?」

 

 ブリッジにいた部下の一人が、呆然として前を指さした。

 

「彗星が……」

「あ!? この小惑星帯でか? んなもんあるわけ……」

 

 呟く声は途中で途切れた。

 何故なら、コックピットを塗りつぶすほどの青い光が、こちらへと飛来してきていたからだった。

 

「なんだありゃ!?」

「分かんねえっすよ! どうします!?」

「明らかにこっち来てるだろうが。とにかく撃ちまくれ!!」

 

 恐らくアレはこの小惑星帯の主なのだろう。

 岩も全部アレの仕業。ここで仕留めて、オレは生き延びてやるぜ。

 

 

***

 

 

 見えた光の方へと箒で飛んで行くと、真っ赤に輝く岩の塊が見えてくる。

 どうやら戦闘中……ううん、襲いかかる岩を砲撃やミサイルで破壊しようとしてるみたい。

 

「凄い光……」

 

 あれが船の――宇宙で戦うための武装なんだ。

 あれだけ大きな小惑星も簡単に砕いているように見える。

 なんて強力なエネルギー。

 私の結界でも、そう何発もは防げなさそうだ。

 

 沢山の光とミサイルを放つその船はヴァルさんのものよりずっと大きい。

 多分、中型船。それだけでヴァルさんの工房の仲間たちではなさそうだけど……。

 なんて考えたその瞬間、強い光が瞬いたのが見えた。

 

「――噴射装置(バーニア)!」

「……っ!?」

 

 箒の横に生み出した魔法陣から推力を解き放つ。

 視界がぶれ、箒がくるりと宙を滑った。

 直後真横を一条の光が通過していく。

 ……撃たれたの?

 

「なんでこっちを狙うんだ! あれだけ岩があるってのに!」

『向こうからすれば我々は輝く岩。彗星にでも見えるでしょう。無理もないかと』

「……そりゃそうだ!」

 

 え、そうなの?

 確かにヴァルさんもあの人たちも船に乗ってる。

 私の魔法は、少なくともカドミラでは珍しいものらしい。

 近づいたら撃たれるくらいには目立つし珍しい……なにか対策考えないとまずいかな?

 

「このままじゃ狙い撃ちされるぞ、一旦離れろ!」

「あ、はい!」

 

 再び放たれた砲撃を避け、他の岩に隠れる様に距離を離す。

 途端にこちらを見失ったのか、すぐさま狙いを近くの岩に変え始めた。

 危ない危ない。 

 

 でもおかげで船の位置も正確に掴むことができた。

 迂回するように箒を滑らせながら、全員で目的の船を観察する。

 

「ヴァルさん、あの船は!?」

「……ウチの船じゃない。それにあのエンブレム……ザメニ一家(ファミリー)か!」

「ぶみゃ?」

「やはり俺を殺すつもりか。クソッ、そこまでして工房が欲しいのかよ……!!」

 

 ヴァルさんが怒ってるけど……どういうこと?

 

『ヴァリアノ様、説明を』

「あ、ああ。すまない。奴らは俺の工房を狙う奴らが後始末に良く使う傭兵なんだ。ああして自分たちの船を持ち、軍の目を盗んで略奪や脅しを行うあくどい連中だよ。間違いなく俺を殺すための追手だろう」

「傭兵……ファミリー……」

 

 なんだか聞き覚えのある語感だ。

 それって、やっぱり――。

 

「――つまり、宇宙海賊ですね!?」

「うお!?」

 

 叫ぶと同時、エンジンに魔力を灯して加速を開始。

 ぐん、と飛び出した箒は背後から迫る岩を突き放して、ばら撒かれたミサイルを躱していく。

 真っ赤な爆発が周囲で広がる中、速度を上げながら最適なコースを探す。

 欲しいのは――船まで一直線で突き抜けられる道だ。

 

『――魔女(ウィッチ)ユミル。何をする気です?』

「え? 宇宙海賊で、ヴァルさんを追ってきたんでしょう? なら、倒しちゃおうかなって」

「……なに?」

 

 娯楽媒体(コミック)のヒーローなら迷わずそうしている。

 ヴァルさんを殺そうと追ってきた人たち。きっと、それ以上に多くの人を殺め、怖がらせ、泣かせてきたのだろう。

 正義のため、人のため。宇宙に蔓延る悪は倒すべし――!!

 

 岩が結界を掠めてジッと擦過音が鳴る。

 唸る箒を操り上へ上へと進む。

 あの船は前側に主砲が、船の後ろ半分にミサイルの発射孔があるようだ。

 つまり真上か真下からの突進なら、さほど抵抗なく突っ込める!

 

「私の魔法は攻撃には向かないけど、結界ごとぶつかったら多分壊れるよね? 岩の塊よりは柔らかいだろうし」

『――はい。間違いないでしょう。ですが――』

「話は後! 大丈夫なら、やってみるよ!」

 

 唸りを上げた箒を操り、追い縋るミサイルと岩を避け、海賊船へ突っ込むルートへとたどり着く。

 噴射装置(バーニア)で箒を180度回転させ、ほんの一瞬静止する。

 真下――目の前には岩と戦う海賊船。

 

 どこに『目』があるかは分からないけれど。

 ここから全力加速した私を捉えることは不可能だろう。

 

 ――全速力で突っ込んで、一撃で終わらせる!

 

 最大限の魔力をエンジンに叩き込み、箒が一気に唸りをあげる。

 そうして加速する寸前、耳朶を叩く声が響いた。

 

「――殺すな!」

「え? ……っ!!」

 

 直後、最大加速をもって箒は宇宙を駆け出した。

 音を置き去りにする速度は青く輝く帯を残して、目の前に浮かぶ巨大船へと突き進む。

 流れる岩たちを螺旋を描いて回避して、ほんの一呼吸の間に船へと到達。

 

 そのままその中心を穿つ――!!

 

『――いいかい、ユミル』

「……!!」

 

 ――寸前に柄を操作して、ギリギリでその脇を通過した。

 

「……わっ!?」

 

 掠った障壁が火花を放ち、制御を半ば失ったために視界に飛び込んできた岩にぶつかりそうになる。

 右……左……!? ああもう、どっちに避ければばいいの!?

 

「ぎゃ、逆噴射! 全力ー!」

「おおおっ!?」

「ぶみゃーっ!?」

 

 前後の悲鳴に挟まれながら、なんとかぶつからずに減速することに成功するのだった。

 

「……はっ、はっ……危なかった……」

 

 幸い海賊船もこの一撃離脱には反応しきれていないようで、砲撃で狙ってくることもなかった。

 周囲の岩に最大限注意をしつつも、息を整えてから背後のヴァルさんを見つめた。

 

「……どういうつもりですか、ヴァルさん。なんで止めたんですか! 危ないじゃないですか」

「……いや、すまない。本当に……」

 

 そう言いつつも、明らかにホッとした表情を浮かべている。

 ……どういうこと?

 

「ユミル、失礼だが君は人を殺したことがあるか? ……ないんじゃないか?」

「え? それは、ないですけど……」

「やはりか」

 

 ゆっくりと頷いて。

 そのまま、優し気な眼差しがこちらを見る。

 

「なら、君は奴らを殺してはいけない。これからも、誰も殺すな」

「……どうしてです? だって、宇宙海賊ですよ?」

「……確かに奴らは殺しも厭わない犯罪者だが、それでも殺しちゃ駄目だ。その選択をした者は、もう元には戻れない。この広大な宇宙に広がって尚、殺人を犯した者は人の輪から外れるんだ。例え、犯罪者相手でも」

「……」

「もしかしたらいつか、その時が来るのかもしれない。だがそれは今じゃないし、あんな小物相手では絶対にない。だから、殺すな」

『――ビビもヴァリアノ様に賛成です』

 

 いつの間にか目の前にやってきたぶみゃの背中から彼女の声が響く。

 

『我々はまだこの宙の常識を知りません。あなたのその選択は、多くを知ってからでもよいのではとビビは考えます』

「ヴァルさん、ビビちゃん……」

 

 ……そうだ。

 ヴァルさんに止められた一瞬。その瞬間に、昔魔女(ウィッチ)に言われたことを思い出したんだ。

 あれは、不注意で魔女の育てた花を1輪踏んでしまった時のことだ。

 

『――いいかい、ユミル。アンタは大きく、この花は小さい。アンタと違って、この花は言葉も話さない。だから、アタシらはこの花の痛みも悲鳴も何も感じ取れないんだ。……でもきっと、この花は痛くて苦しかった筈だよ』

 

 花弁が散って、半ばから折れてしまった茎をつまんだ魔女(ウィッチ)が、悲しそうな顔でそう告げる。

 私は何も言えなくて、服の裾をぎゅっと掴んでいたのを覚えてる。

 

『こんな小さくても何も言わなくても、こいつらは生きてるんだ。力があるからって、アタシたちが一方的に踏みにじってなんていい筈がないんだよ。……アンタは、例え言葉が通じなくても、相手の痛みや苦しみをわかってやれる――そんな魔女になるんだよ』

 

 理由もなく花を踏みにじってはいけない。

 そんな権利は、どこの誰にもないのだと。

 魔女(ウィッチ)はそう教えてくれたのだと思う。

 

 私の、魔女(ウィッチ)の魔法は多分きっと、とても強力で。

 宇宙海賊ですら、()になってしまうのだろう。

 だからこの力の使いどころ、使い道をちゃんと知って考える――そういうことだよね。

 

「……うん。分かった。あの人たちは殺さない」

 

 明らかに皆がホッとするのを感じる。やっぱり、それが『普通』って事なんだね。

 難しい……でも、ここで考えるのをやめちゃ駄目なんだ。

 それが、外に出て生きていくことなんだろう。

 うん、頑張ろう。

 魔女(ウィッチ)たちに胸を張って土産話ができる様に、私は色んな事を知っていくのだ。

 

 改めて方針も決めた所で、この後どうするかを考える。

 殺しちゃ駄目なら――あの船はどうすればいいだろう。

 

「うーん……どうしよう……」

「……更に無理を聞いて悪いが、殺さずに奴らを捕えることはできるか?」

「え?」

 

 今度はニッと笑って、彼はこちらに指を立てた。

 

「奴らは犯罪者で、その首に賞金を懸けている金持ちがいるのを知ってる。連れて帰ることができれば……君らにいい収入になるだろう」

『――やりましょう、魔女(ウィッチ)ユミル。我らには情報以外にも必要なものがあります。それは、お金です』

 

 途端にビビちゃんの声色も変わった気がする。

 でも、そうか。私たちカドミラに行ってもお金がないんだった……。

 うん、ならますます捕まえないとね。

 

「でも、どうやろうか。近づいたら撃たれちゃうよね」

「――ぶみゃ!」

 

 ぶみゃが叫んで鞍から飛び出すと、私を飛び越えヴァルさんをよじ登り……一番後ろのコンテナへと昇った。

 

「なにしてるの?」

「みゃ、みゃ!」

 

 鳴きながらコンテナを叩いている。

 うーん。鉱石、コンテナ……あ、ヴァルさんを固定してるベルトを叩いてるんだ。

 ……固定?

 

「なるほど! ぶみゃ、冴えてるー!」

「ぶみゃ!」

 

 飛び込んできたぶみゃを抱きかかえて撫でてから、鞍に戻す。

 これでやることは決まった。

 じゃあ、やろうか……今度こそ、宇宙海賊退治の始まりだ!

 

 

***

 

 

 ほんの少しの準備と作戦会議を済ませ、私たちは出発した。

 

「じゃあ、行きますよー!」

 

 エンジン全開で海賊船へと飛び出す。

 素早く反応した小惑星たちがこちらへ迫るが――全速力で置いていく!

 

「飛ばしすぎだろ……!?」

「ぶみゃあ!?」

 

 前後が騒がしいけど一旦無視!

 未だ岩相手に砲撃を続ける船を目指す。

 さっきの突撃でこちらの動きはバレている。だから素早く反応した砲口がこちらを向いた。

 

『エネルギー反応増大。砲撃来ます』

噴射装置(バーニア)!」

 

 箒の真右に魔法陣を放ち、そこからエネルギーを放出。

 真横に弾かれるように移動した瞬間に放たれた光の帯が、先ほどまでいた場所を通過する。

 

 とんでもないエネルギーの束……でも、当たらなければ問題なし!

 

「やっぱりこの速度で良かった。行きます!」

 

 速度は緩めず、一気に突貫する。

 今度はミサイルがばら撒かれるが、もう遅い!

 全速力で船の横を通り過ぎ――魔法を発動!

 

「結界!」

 

 瞬間展開された結界が、海賊船をぴっちりと覆った。

 これがぶみゃ発案の『結界で捕まえちゃおう作戦』である!

 解除しない限り出ることができないこれを運んでしまえば、何もできずに捕縛完了というわけである。

 

 サイズが大きいので岩が怖い……のだけれど、そこはビビちゃんがヒントをくれた。

 

『――これは可能性なのですが、あの岩は熱源に反応して襲い掛かってくるのではないでしょうか』

 

 一定量の熱を超えると襲い掛かってくる。

 確かにエンジンが破損したヴァルさんは無事だったし、最初は恐る恐る小惑星帯に入るから閾値は超えない……ということらしい。

 つまり私たちも加速を抑えて進めば大丈夫という仮説である。

 あの船を運びながら避けるのは大変なので、早速試してみよう。

 

「やったね、ぶみゃ! 大成功だよ!」

「ぶみゃ!」

「あれで捕まえたのか? ……君の魔法は本当に凄まじいんだな、ユミル……」

「へへー、師匠直伝の、とっても凄い力なんですよ!」

 

 なんて、ぶみゃを抱えて喜んでいると。

 背後から真っ赤な光が飛んできて周囲を照らした。

 

「……? なに、今の……」

 

 驚き振り返ると――。

 

「船が、爆発してる……」

 

 結界で覆った海賊船が何故か爆発を起こし、真っ黒な煙に包まれてしまっていた。

 

「……そうか、ミサイルの発射孔も塞いだから……」

「……あ」

 

 まさか結界で覆われているとは知る筈もなく。

 海賊たちはミサイルを放って、そのまま結界内で爆発をしてしまったようだった。

 ゼロ距離でミサイルが起爆して、残ったミサイルも誘爆しちゃったら……結構な被害が起きているんじゃないだろうか。

 

「……海賊、退治しちゃいましたね……?」

「……そ、そうだな……」

 

 これは……私が殺しちゃったことになるのだろうか……。

 早速の難しい問題に、私もヴァルさんも呆然と黒煙を見つめるのであった。

 

 

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