汚いガキに餌付けしてたら懐かれたんだが   作:ピンク髪大好きニキ

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難産でした(単に書いてる暇がなかっただけ)

これだけ書いてるわけじゃないから、執筆時間を捻出するのに忙しかった。 多分次の更新もこんな感じで間が開くと思います




裏口からやってくる汚いガキ:2

 

 

 

「お兄さん、朝だよ」

 

「もう少し寝かせてくれ。 仕事も無いのに朝早くから起きたくない」

 

「でも昨日ラジオ体操? とかいうのをやるって言ってたのはお兄さんだよ?」

 

「……くそ、二つ返事で了承した昨日の俺を殴りたい」

 

「変なお兄さん」

 

 

あの日、そう、また裏口が繋がってアツコ達がやって来てから早数日が経過しようとしている今日この頃。 俺は朝早くからアツコに起こされて庭へと向かった。

 

どういう原理かは知らないが、扉を開ける際の時間のずれはある程度操作できる、らしい。 らしいと言うのは確証がないからというのもあるが……あの日から、毎日扉を開けてこちら側に来ているアツコ達を見れば明らかだ。 アツコも毎日扉を開けているって言ってるし。

 

何故ラジオ体操なのか? と言われると別に大層な理由がある訳じゃないけれど。 小学生や中学生の頃は夏休みに入るとラジオ体操をしてたっけ、とかそんな単純な理由からだろう。 今は彼女達しかいないが、俺の話が広まったらもしかしたら増えるかもしれない。 以前渡した物資の事もあるし、確実に人数は増えて行くに違いない。

 

 

(パジャマとか、そういった細々したものを増やさないと、か? ……増やすにしてもネットでだな、もう二度と買いに行かないぞ)

 

 

寝具だけじゃない、歯ブラシやら服やらを買いに行った時は正直恥ずかしかった。 一人で数人分の(女性ものの)下着やらパジャマやらを買う成人男性……傍から見れば、怪しい人物に見えるだろう。

 

「家に遊びに来ている姪達の物を買って来いとパシられまして」なんて言い訳を店員に言って回るのは本当に恥ずかしかった、よくあれで通報されなかったな?

 

そんなことを考えつつ庭に出ると、そこには既にアツコ達4人が揃っていた。 子供は朝早く起きれて羨ましい限りである。 俺も日曜の朝は早起きだったが、それとは話が違うか。

 

 

「お兄さん、遅い」

 

「お前らも俺くらいになると分かるぞ、朝早く起きれることの有難さが」

 

「何か微妙に、知りたくないんだけど」

 

「何も無いのに早起きするほうが異常なんだよ。 俺が言い始めたのもなんだけど、ラジオ体操くらい録音なんだからもっと後の時間でもいいだろ」

 

「でもこの時間にやるものなんでしょ?」

 

「世間的にはな。 でもそこまできっちりと合わせなくてもいいだろ」

 

「うーん……でも早く起きたほうが得してる気がするし、これからもこの時間にしよう?」

 

「冗談だろ……?」

 

 

俺の願いはどうやら聞き届けられなかったらしい。 無情にも早起きを義務付けられてしまって泣きたい気持ちになるが、残念ながら涙は出てこない。 この程度で出るんならもっと前に出てるはずだ。

 

人数も揃ったところで、予定していたラジオ体操が始まる。 特に言う事があるわけでもないが、この体操を習慣化させれば怪我のリスクも減らせるし彼女達にとっては良い事だろう。 俺はそんな機会が全くないからやる必要性がないんだけども。

 

 

「こんな感じで良いの?」

 

「まあ、良いだろ。 後はついでに家庭菜園の野菜でも収穫するぞ。 食べごろなのがあるだろうし」

 

「やった、私お兄さんの育ててるトマト大好きだよ?」

 

「素人のでそんなに嬉しそうにできるんなら専門の農家の奴を食べたらもっと驚くぞ」

 

「……そういう意味じゃ、ないんだけど」

 

「? 何か言ったか?」

 

「ふん」

 

「何だよ急に……」

 

 

急に機嫌が悪くなったアツコに何と言っていいのかと悩むが、よく考えたら子供ってこんな感じの生き物だったなと納得する。 良くも悪くも表情豊かで割とストレートに好き嫌いを告げる。 時に残酷すぎるくらい直球なことを言うものだし、深く考えても分からないだろう。

 

だからジト目で此方を見てくるミサキとサオリなんて知らない、知らないって言ったら知らない。

 

 

~~~~~

 

 

 

……と、こんな日々が続いて早1か月が経過してきたころだろうか? 俺は段々と彼女達の事を知ることができるようになってきた。

 

年頃の女の子という中々にデリケートな存在は分からないことが多い。 受け持っていた生徒とは訳が違うので向き合い方に悩みまくったが……いや、一時受け持つ生徒と一日の大半を一緒に過ごす彼女達とじゃ勝手が違うのも当たり前と言えば当たり前なんだけども。

 

 

「お兄さん、私今日はこれが見たい」

 

「あぁ、見たいなら見れば良いと思……」

 

「つーん」

 

「……分かった、分かったからその目で見るな。 ちゃんと一緒に見るから」

 

「私ポップコーンとオレンジジュース」

 

「当たり前のように歳上をパシるなよ」

 

 

秤アツコ。 彼女は一番扱いやすく、また同時に扱いづらい少女だと言えるだろう。 ……一言で矛盾していないかと言われそうだけど、その表現が一番しっくりきた。

 

普段は扱いやすいのだ、基本的にこちらの言う事に理解を示して行動してくれるし意見も積極的に伝えてくる。 下手に無言で意思表示がほとんどないミサキに比べたらマシだ。 それ故に、たまに発動するジト目の意思表示には悩まされる。 「私不機嫌です、察してください」みたいな行動をされても困るのだ、俺はそんなに察しのいい人間ではないし他者の気持ちを理解しろなどという世の人間の何割が本当の意味でできているのか分からないようなことをしろと言われても……という訳だ。

 

でもやらないと更に不機嫌になる。 色々と気難しい年頃なのも相まってめんどくせぇ……と言いたくもなるが、こうすると決めたのは俺なので決めたからには責任を果たさなければいけない。

 

 

「お兄さん、膝」

 

「俺は膝じゃないが」

 

「膝! 乗りたいの」

 

「じっくり見るならソファーの方が良いと思うんだが」

 

「お兄さんは女心が分かってないよ」

 

「分かってないからこの年まで彼女がいないんだぞ」

 

「……なんか、ごめんね?」

 

「そこで謝るな、余計惨めになってくる」

 

 

今現在アツコと見ているのはとある映画。 世界的な大泥棒が、とある少女と出会ったことにより巻き込まれる大きな陰謀。 偽札やら暗殺者やらという一般市民には縁のないような物が出てくる中、少女を助けるために奔走する大泥棒。

 

暗殺者をけしかけられたり胸を撃ち抜かれたりと大変な目に遭いながらも、大泥棒は最終的には少女を助け出し、しかし少女の頼みを吞むことなく去っていく、そんな物語だ。 細かい所は違うだろうが、この映画は小さい頃に何度も見たので今更真面目に見るようなことはしない。

 

だが映画などというコンテンツをこれまで嗜んだことのないアツコにとっては新鮮だったのだろう。 今も食い入るように画面を見つめ続けているし、手に持ったポップコーンの容器は音を立てている。

 

 

「ね、お兄さん」

 

「何だ?」

 

「偉い人って、何でこんなにお金とかに執着するの?」

 

「偉い人だろうが偉くなかろうが、お金はあって困ることはそんなにないからな。 逆にお金がないと何も買えずに貧困に嘆くだろ」

 

「でも、ここまでしてお金が欲しいとは思わないよ?」

 

「俺だって思わんよ。 この大人は欲に抗えなかった、それだけだ」

 

「欲?」

 

「他人よりも権力が欲しい、お金が欲しい、力が欲しい……そういうのをひっくるめて欲だ。 あれば何でもできると思える、だからもっと欲しいと欲張る。 それが行き過ぎれば、人は他人を陥れてでも手に入れる、なんて極端な発想に至るんじゃないか?」

 

「……私は、そんな大人になりたくないな」

 

「反面教師にすればいいだろ、大袈裟に描かれているけどそういう考え方もできるって捉え方もできる。 映画はストーリーを楽しむだけじゃなくそのストーリーを通して自分はどんな考え方をするかって話もできるからな」

 

 

アツコはアツコなりに映画を楽しめたらしい。 オレンジジュースを飲みながらああでもないこうでもないと唸る姿は、傍から見れば微笑ましい。 子供向けの映画でこうまで悩めるのは発想力豊かな証だろう。

 

俺が同じくらいの年頃だった時は……どうだったか。 深く考えずに面白いと笑って色んな映画を見ていた気もするが。 親にねだって色んなDVDを買ってもらって、日曜日には家族みんなで映画鑑賞をしていたな。 だからこそこんなにDVDのバリエーションがあるのだけれど。

 

 

「お兄さんは」

 

「ん?」

 

「もし何でも願いが叶うとか、そういうお金じゃ叶えられない願いが叶うとしたら……何を願うの?」

 

「急に話が変わったな?」

 

「前に見た映画の事を思い出して」

 

「前に……」

 

 

そう言われて思い出すのは、少し前に見たとある映画。 平凡だった主人公が、親の離婚騒動……その結果倒れてしまった母親。 そんな苦しい現実を変えるために、宝玉を集めれば願いを叶えてくれると言う女神がいる異世界へと赴く、そんな話だったはずだ。

 

俺は原作を見ていないから映画の内容しか知らないが、あれはそんな単純な話ではなかったはずだ。 あれの本質は人間関係や現実問題の厳しさにフォーカスしたものであり、願いという物はそう簡単に叶えられない、或いは叶えたい願いがあったとしても時には優先しなければならない物がある、そんな感想を当時は考えていた気がする。

 

結局主人公は家族がバラバラにならないように、という願いを叶えることはなく異世界の問題を解決するために願いを消費した。 主人公が真に叶えたかった願いをかなえることはなく、しかし心は大人に近づいてあるがままの現実を受け入れ、母親と一緒に歩んでいく……多感な年頃の子供の、精神的な成長を描いたストーリー。

 

 

「逆に聞くが、アツコは同じ立場だったら何を願うんだ?」

 

「私? 私は……何だろう、分かんないや」

 

「分かんないって、お前な……」

 

「だって、お腹いっぱい食べたいって思ってもお兄さんが食べさせてくれるし。 お風呂も服も、それに布団だってお兄さんが用意してくれるもん」

 

「お金が欲しいとは思わないのか?」

 

「あっても使う所がないから……」

 

 

そうだった、アツコがお金を持っていてもアリウス自治区に売店はないし、そもそもキヴォトスの主要な場所に行く方法すら分からない状態だった。 それならお金を持っていてもあまり意味はないな、こっちだってアツコが出歩けるような場所でもないんだし。

 

お金はあっても困らないと言ったばかりなのに、そも使う場所がない彼女達にとってはあってもなくても意味がない物になってしまった。

 

 

「そう言えばそうだったな」

 

「そうだよ。 それで、お兄さんは?」

 

「俺、か……」

 

「思わないの? その……」

 

 

そう言ってアツコは口ごもるが、俺には理解できてしまった。 アツコはこう聞きたかったのだろう────────「死んだ両親を生き返らせる、又は死ぬ前に戻りたいとは思わないのか?」と。

 

今の映画を見てそう思わなかった、そう言ったら噓になるだろう。 両親は俺にとって出来た両親だったし、それ相応に親孝行をしようとも動いていた。 こんな早くに死んでしまっていいような存在じゃなかったし、できる事なら生き返らせたい、いや死ぬ前に戻りたい。 思う、思うに決まっている。

 

だが、しかしだ。

 

 

「それだけは、叶えちゃいけない」

 

「……どうして? そうなった方が良いって、思わないの?」

 

「思うさ。 でもこれは、見方を変えたらそういう運命だった……かもしれない。 決められた運命を変えるっていうのは、ある種の禁忌じゃないか?」

 

「そうなのかな」

 

「それに、もし俺が変えたとして……両親の代わりに、また別の誰かが死んでいたら? 俺が願ってしまったせいで、誰か別の家族が犠牲になってしまったら? 見ず知らずの誰かだから死んでしまっても構わない、それは果たして良い事なんだろうか?」

 

「……」

 

「だから、俺は願わない、叶えない。 それに叶えるとしたら……」

 

「したら?」

 

「……死ぬには早すぎた、教え子を救うかな。 両親には悪いけど」

 

 

俺が思い浮かべるのは、受け持った生徒。 明るくて、誰にも分け隔てなく接することができた優しい少女の姿。

 

死ぬには早すぎた、死ぬべきではなかった。 何故世界はあんな少女を死なせるという運命を定めてしまったのだろうか。 病気というのは仕方のない事なのだろうが、だからと言ってもあんな幼い少女がかかるべきではなかった。

 

 

「……難しいね、願い事って」

 

「願うだけならタダだ。 叶えばいいなって思うのも自由だ。 ……でも本当に叶うとしたら、その願いは慎重に考えなければいけない」

 

「ダメだって言わないんだね」

 

「どうするかは本人次第だからな。 俺がダメだと言う権利はないし」

 

「もし私が叶えられる立場になったら、お兄さんの幸せを願ってあげる」

 

「何だそれ、もっと他にあるだろう」

 

「私にとっては一番大事なの。 サっちゃん達は……願わなくても、今が幸せだから」

 

「そう、か」

 

「それにお兄さんが幸せなら、間接的に私達も幸せだろうから」

 

「そう思ってくれてるなら嬉しい限りだよ」

 

 

子供のくせに妙に大人びた事を言う、言い方を変えればませたガキみたいなアツコの頭を撫でながら、俺はついそう考えてしまう。

 

こうして会って話ができる、それだけでも奇跡に近いだろうこの時を、きっと俺は感謝しないといけないのだろう。 人生のやり直しを、神様のような何者かが願っているのか……はたまたただの気まぐれか。 どうなのかは定かではないが、俺は俺にできる事をしていくしかない。

 

気持ちよさそうに目を細めてされるがままになっているアツコを見て、俺は再度決意を固めることとなった。

 

 

 

────────────────

 

 

 

俺がヒヨリという存在をもっと深く理解できた切っ掛けは何だったか? と問われれば俺はこの事を言うだろう。

 

あれは或る日の事。 その日は珍しくアツコだけじゃない他のみんなもごねにごねて俺の家で一夜を共にすると言った日だ。 その日は庭で育てた野菜をみんなで収穫し、その野菜も用いてバーベキューを行った、と記憶している。 珍しくミサキも笑顔を浮かべてはしゃいでいたからか、その日はみんな自治区に帰ることなく俺の家で一泊したいと言って来たのだ。

 

まあはしゃいで疲れているというのもあるだろうし、柔らかいベッドで寝たいという気持ちも分からなくはないので俺は了承した。 無論一緒ではなく両親が使っていた大きめのベッドを提供して、なのだが。

 

 

「……まだこんな時間か」

 

 

夜中……正確には日付が変わって間も無く、深夜1時を少し過ぎたころ。 季節故か寝苦しさから目を覚ましてしまった俺は、水でも飲もうとリビングに降りることにした。 両親の部屋からは静かに寝息が聞こえており、彼女達はぐっすり眠っているようだ。

 

安心して眠ることができているのなら何より、俺はそう思って階段を下りて行ったのだが……階段の途中で下から物音が鳴っていることに気付き、一瞬で眠気が覚めてしまった。

 

 

(こんな時間に誰だ? 空き巣……は流石にこんな辺鄙なところに来ないだろうし)

 

 

いや、以前もこんな事があったなと自分の中で結論付ける。 アツコ達が来たあの日も物音で警戒したなと苦笑する。 ならば彼女達の誰かが起きているのだろうと思い、階段を降り切ってリビングへと足を踏み入れると……

 

 

「……あっ」

 

「こんな深夜に空き巣の真似事か? ヒヨリ」

 

 

案の定、そこにいたのはヒヨリだった。 電気も点けずにリビングに備え付けられたテーブルへと座り、持ってきたのであろうお菓子やらジュースやらを堪能していた。

 

食い意地が張っているとは前々から思ってはいたが、まさか深夜にこうして盗み食いをするとは……俺の姿を見て慌てて口に食べ物を突っ込むヒヨリの姿は微笑ましいものだが、注意自体はしないといけないだろう。

 

 

「あわわ……これは、その」

 

「慌てるってことは不味いことをしているって自覚自体はあるんだな? 別に食べたらダメだって言ってないんだから日中に一言言って食べればいいだろ」

 

「それは分かってるんですけどぉ……」

 

「ま、背徳感がたまらないって気持ちも理解はできるが」

 

「うぅ……」

 

「……ヒヨリ、まだ腹は空いてるか?」

 

「え? その、まだ空いてはいますけど」

 

「ならもう少しだけ付き合ってもらうか」

 

 

ヒヨリの返事を聞いて、俺はリビングからキッチンへと移動する。 何をするのかと俺の事が気になったらしいヒヨリも着いてきて、二人でキッチンへと赴いたわけだが……

 

俺は薬缶に水を入れてお湯を作り始める。 その間に棚の中に入れてあったカップ麺を取り出し、ついでとばかりに冷蔵庫の中からチーズを取り出す。 尚カップ麺の味はカレーとチリトマトだ。

 

 

「お、怒らないんですか?」

 

「別に怒るまでの事じゃないだろ。 夜中に一人で、って所に関してはどうかと思うが」

 

「お腹が空いちゃって」

 

「ヒヨリが小腹をすかせたってのはいい。 でもヒヨリだけが空いてるわけじゃないかもしれないだろ? もしアツコやミサキも空いてて、でもヒヨリだけがこっそり夜中に食べてるってバレた時はどうするんだ? 仲良しなのにしょうもないことで仲が悪くなったりなんてしたくないだろう?」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「謝るのは俺にじゃないんだけどな……ちゃんと朝起きたらアツコ達に謝れよ」

 

 

とは言ったものの、恐らく彼女達は怒ることはしないだろう。 サオリから前に少しだけ聞いたが、彼女達はそれぞれ自分の未来を考えて何処か悲観的になっていた時期があったらしいし。 その時に、ヒヨリは食やら何やらにがめついと言うか、人一倍貪欲と言うか……まあ、そんな感じの事があったようだ。

 

「私の食べ物も、ヒヨリにあげると嬉しそうに食べていたよ」なんて懐かしそうに笑って話してくれたサオリは正に長女といった貫禄ではあるのだが、何かそれごねたら食べ物を譲ってくれる都合のいい女みたいに思われてないよな? なんて心の中で思ったが、これは口に出してまで言う事でもないだろう。

 

 

「ヒヨリは、現状に満足してるか?」

 

「え? それは、そうですね。 ご飯もいっぱい食べられますし、服もお風呂もあって満足してる、んだと思います」

 

「でも、何でか夜中に食べたい衝動に駆られるしもっと他の事もしたい、とか?」

 

「そうかも、しれないです」

 

「なら良い傾向だろ」

 

「え?」

 

 

予想外、といった反応をしたヒヨリを他所に俺は沸騰したお湯をカップ麺に注ぎ、その上にチーズを載せてリビングへと向かう。 そしてテーブルの上にそれを置いて、ヒヨリと向かい合って座った。

 

 

「本当に困窮してる奴は、そもそもそんな行動すらできない。 いやできる気力もない、か? 要は何もできない奴ばっかりだ。 それに比べたらヒヨリはこうして行動してるんだしな」

 

「ダメな事じゃ、ないんですか?」

 

「場所にもよるだろ。 公共の場でならマナーが悪いって怒られるだろうが、個人の家でやる分には家主の許可次第だろうし」

 

「許して、くれるんですか?」

 

「だからそもそも怒ってないんだって。 寧ろ嬉しい、少なくとも空腹にあえいで人さまから無理矢理奪おうとした最初の時から成長したなと思ってるぞ」

 

「うっ……」

 

 

まあ最初のあの時だって無理矢理奪うなんて事はしなかったと思うが。 だがあれ以上に空腹だったら? 正常な判断ができないくらい精神的に追い詰められていたら? どうなっていたかは定かではない。

 

それが今はこうしていられるわけだ、ある程度の精神的余裕はあるだろうし善悪の区別もついてる。

 

 

「学ぶことができるのは、有難いことだ」

 

「……?」

 

「世の中には、学びたくてもその機会が得られない子供が沢山いる。 食べたくても食べるものがない子供も、それしか手段がないからと他者から奪う子供もな」

 

「……」

 

「それに比べたら、ヒヨリ達はずっとましだ。 学ぶ機会も、落ち着いて話をする機会もある。 何が良くて何が悪いかを知る時間もある」

 

「恵まれている、んですか?」

 

「ああ、そこらの子供よりはな。 ……こうして深夜にカロリーの高い夜食をみんなに内緒で食べるなんて悪いこともできる」

 

「うっ……」

 

「沢山学べ、子供の内は良い事と悪いことを経験して、大人になった時に間違いを起こさないようにって学習できる期間なんだから」

 

 

3分経過したカップ麵の蓋を開ける。 大きな湯気と共にドロドロになったチーズが麵と絡まって中々に食欲をかき立てる。 よくかき混ぜて勢いよく啜ると、口の中一杯に美味しいの暴力があふれ出した。

 

俺のそんな姿を見てつばを飲み込んでいたヒヨリも、俺と同じように麺を啜った。 途端に笑顔になって二口三口と食べていく様は見ているだけでもお腹いっぱいになりそうなものだ。

 

 

「……美味しいですぅ」

 

「覚えとけ、深夜の夜食は悪いことしている気分のおかげでより一層美味しく感じるものだぞ」

 

「こんな美味しさ、知っちゃっていいんでしょうか?」

 

「さぁな。 それはお前次第だよ」

 

 

その後は二人して黙々と麺を啜っていた。 やがて麺も食べ終わり、容器の底に残っていたスープまで全部飲み干して完食したヒヨリが、不意に口を開いた。

 

 

「……あの」

 

「うん?」

 

「私、夢……って言うのも烏滸がましい事なんですけど、一つ思ったことがあって」

 

「うん」

 

「アリウスのみんなが、お腹いっぱいに食べ物を食べられるようになったらいいなって、そう思うんです」

 

「……そうか」

 

「私一人じゃ、何もできないことだって理解してるんですけど。 それでも、何かできたらなって」

 

「あぁ」

 

「不相応な夢だって、笑いませんか?」

 

「……いいや? 夢だなんて笑わないさ。 その為にどうするかを話し合って、実現できるように悩むのは大切なことだと思うぞ」

 

 

難しい夢なのは確かだろう。 だができないとまでは言わない。 自治区の一角を畑にしたり自治区の外への移動手段を探して買い付けに行っても良いし、俺の家庭菜園を広げてもいい。

 

一人でやろうとしなければ、大抵の事は叶えることができるはずなのだ。 きっとそれも、以前よりは恵まれて心に余裕が出来たからこその、子供ながらの夢だろう。

 

 

「まあ、アツコ達とも話し合ってどうしたらいいかを決めればいい。 金なら……まあ、ある程度なら俺がどうにかするさ」

 

「迷惑を、かけたりしませんか?」

 

「そう思うなら、全てが終わった後に俺に恩返しでもしてくれ。 あ、金は要らないぞ。 年下から金銭を恵まれるのはカッコ悪いからな」

 

「……えへへ、そうですか」

 

「そうなんだよ。 だから沢山悩め、そんで他のみんなも助けられるくらい、成長しろ」

 

 

末っ子みたいな性格で、食べ物に食いついて色んなものに興味を持つヒヨリ。

 

それが、今後どのような成長を遂げてくれるのか? ある意味楽しみではある。

 




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