ああ、この世界はクソだ。
こんな言葉を何度も何度も言ってしまうほど、俺はもう疲れた。この世界に来てから1年が経った。
そよぐ風、遠くに見える街、辺り1面に広がる草原に、奥に見えるとても高い連なった山脈。
異世界の風情が溢れる光景だった。
そして俺は、最初はチート能力に浮き立ったが、そもそもの生活基盤が終わっていた。
あの女神め。いまごろ俺を見て爆笑してるんだろうな……
俺の能力は
あらゆる物体に不可視の、俺しか触れないスイッチを作り出す。
そのスイッチに触れさえすればどんなものも爆発する。
「ほっ」
大分、転移したてから投石も身に染み付いたものだ。男士三日会わざれば乱目して見よ、ということか。
片膝を地面に付けて頭を上げ、背中は木の幹に密着させる。
皮のブーツはいつもと同じく泥濘の中に沈んだ。
そして右腕で拾った石をショルダーパスの構えで投擲した。
あまり間引きされていない鬱蒼とした、深い森の木々の隙間を縫うようにひとつの灰色の塊、拳大ほどの石が放物線を描いて飛んでいく。
やや軌道は上に曲がり、さらに回転している。その終着点は木陰から顔を出したゴブリンだった。
獣の皮をなめし、毛皮で作った原始人のような服、いやボロ衣を被った緑の肌をし、子供の体躯であり鼻の長いゴブリンである。
ゴブリンは
かなりの速度で顔面という頭の中心に爆発物、しかも石という四散する物体を投げつけられたことにより首から上は立ち上る煙と一緒に消えており、僅かな肉片を地面に残して、体はまだ立っていた。
その時、ゴブリンの首から血が飛び出した。思考を行っていた脳が消えても体は心臓を動かし続けていた。懸命に命を繋ごうとするが、しかし首から下に石の欠片が刺さり出血は止まらず、哀れなゴブリンは息絶えた。
そんな事を行った、彼の名は西村茜。
地球人であり、そして……この世界ではB級冒険者である。
「ゴブリンの駆除、やってられねえな」
疲労感を
それもそのはず、この世界ではゴブリンがかなり強いのだ。
すぐ増える上に、人間の生活圏に進出しては農村部の家畜を襲う。時には冒険者を返り討ちにして装備をパクるほどだ。
ああ、なんでこんな世界に来てしまったのか、といまさらながらに後悔した。
能力の都合上、スイッチを取り付けた石をぶん投げてどこかに当てるだけで手榴弾みたいになるのはいいけれど、
爆発音で近付いてくるだろう。
ゴブリンは知識を仲間内で共有するからなあ。
本当にゴブリンは厄介だ。150名の規模を超えた群れを結束させるのは事実厄介だが、それよりも多対一がキツイ。
ゴブリンの群れに全方向を囲まれて 、やむなしと辺り1面を焦土に変えた時は請求額がやばかった。
クソ貴族め。
あの森がお前の所有物ならゴブリンが現れないように対策しろ!まじでムカつく。
焼畑農業みたいなものだろう。
冒険者は、この世界だと、魔物専用の傭兵のような立ち位置だが酷いことだ。
冒険者ランクが低いと、だいたい全部は自己責任、保証はなし。
明らかに見くびられている。
だがしかし俺には能力があった。
そうしてB級の冒険者まで成り上がってやったのだが、とても酷い制限があった。
A級冒険者になるにはギルドに奉納金、さらに信用が足りないと絶対に不可能。さらに戸籍がないと勿論不可能。
だけど俺はA級冒険者になって何かしようという訳でもないし、爆弾に変えた物体を投げつけるだけで駆除依頼を完遂できるし、現状のままで良い。
それに俺はそもそも登録する時に偽名で登録したし、まあ確かめられたら終わるだろう。
日銭を稼ぎ、あくせく働くことなく怠惰に生きる。それが人の世の最適解で、いちばん疲れない人生だろう。
固定依頼だからいつもと同じ金額、銅貨50枚に小銀貨3枚を受け取り、評価欄にいつもと同じコメントをする。
ゴブリンの群れの駆除依頼は2週間前に受けて壊滅させたし、下水道に潜むスライムの討伐依頼は流れる鼻が曲がるような臭い汚水ごと爆弾に変えた糸で破壊した。
まあ腰まで飛沫を喰らった上に口に入って絶望したり……
死ぬほど地味だがそんなもんだ。
悪臭を耐え抜いて、魔物のまるで肉が放置されて腐ったようなすえた匂いの血を被って、泥濘の中で歩いて狩る。
安息は街しかないし、戸籍がない上に一芸に秀でてもないようなやつが、一山あてるには冒険者になって街を出るしかない。
この過酷な世界で俺は生き残った。1年、雌伏の時を過ごして。
まあ今日もパンを買って、適当ないつもの1日宿でパンでも食べて井戸を借りて、井戸水のぬるいシャワーを浴びるのだ。
明日も、明後日も、さらに明明後日もそうなる。
多少清潔にしてはいるが多分俺は臭いし、嫌われてそうだ。
1日宿のおっちゃんは嫌な顔をしてくれないから好きだ。
はあ、なんでこうなったんだろう。