俺だけ操作感がロボアクション   作:イナバの書き置き

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自分より強い人にコーチングしないといけない件について

 機甲聖杯は、その名の通り機甲を纏った少女達が大陸に散らばる聖杯を追い求める物語である。

 しかして、聖杯の正体はどのキャラクターのストーリーでも中盤まで明かされることはない。

 明らかに把握している人物もいるのだが、彼ら彼女らが言及する場合は曖昧にぼかされ、具体的にどんな物体なのか窺い知ることは出来ない。

 開示されている情報は巨大な力を内包していて、騎士団や魔族も狙っていることだけ。

 正体を考察するのも、機甲聖杯を彩る要素の1つだった。

 

 その上で、身も蓋もないネタバレをしてしまうのだが──聖杯とは、莫大な魔力を秘めた動力兼万能アップグレードキットだ。

 しかも、あまりに性能が高過ぎるが故にあらゆる存在が利用出来てしまう最悪のおまけ付き。

 本来は古代文明が魔導人形(MM)のために遺した修理、改修用のアイテムなのだが……MMのみならず人間、魔族、野生動物、果ては無機物に至るまで、これを取り込んだ者は無条件に全ての能力を強化される。

 種類にもよるが、そこら辺の猪が聖杯を食べた途端国を滅ぼしかねない巨獣に進化する、と言えばその強化幅も伝わるだろうか。

 

 当然、これを複数取り込めばその分圧倒的な存在になれる訳で、あらゆる勢力が聖杯を狙っている。

 危険な機械から人類を守る……と言いつつ上層部は権威を積み上げるのに必死な教会とか。

 比較的人類が纏まってるこの時代に周辺国家と戦争する気MAXな帝国とか。

 かつてMMに倒された魔王の復活、ないしはその簒奪を狙う魔族達とか。

 「機甲聖杯」の主人公に当たるレイ・クラークも、上記の連中から古代の遺産を守るために動き出したMMの1機だ。

 

 それで、だ。

 何故こんな話をしたのかと言うと。

 

 

 ──聖杯取り込んじゃいました、はい

 

 

 いや、何も考え無しに取り込んだ訳ではないのだ。

 はっきり言って、純粋な戦闘力だけ見ればこの世界のヒエラルキーにおいて人間は魔族の下にある。

 先日助けたシエル率いる第9軍がイマンソ1体に壊滅まで追い込まれたことから分かる通り、魔法を修めた優秀な騎士でも魔族を倒すのは非常に難しい。

 まあ、これはストーリーの主軸がMMと魔族の戦いにあり、騎士団は所謂「かませ」的な立ち位置にあるのが理由なのだが。

 そう言った中で、帝国の猟兵団や聖騎士が聖杯を取り込んでMMや魔族に挑む、という展開もまま見られ──特にアーケードでは描きづらい世界観の補完が多い漫画版では、聖杯を求める人に焦点が当てられる話も多かったと記憶している。

 

 その中でも、特に曰く付きなのが今回俺が取り込んだ壊れかけの聖杯──通称「赤聖杯」だ。

 

 漫画版でのみ登場したこの聖杯は、使用者の望んだものとは異なる強化を誘発してしまうなど、その機能には疑わしい部分が多くあり──確保した猟兵団は王国で密かに実験を行っていたが、その管理も非常に杜撰なものだった。

 と言うより、意図して流出させていたのだろう。

 あくまで自分達は観察者に徹して赤聖杯の機能を確かめ、暴走したら王国に処分を任せて騎士団の兵力を削ぐ──直接言及されなかったものの、そんないやらしい考え方が描写から透けていた。

 

 しかし、これは自分のような一般人が聖杯を手にするチャンスでもある。

 何せいくら壊れかけでも聖杯は聖杯、1度取り込んでしまえばその力はこっちのもの。

 猟兵団は人間にしては手強いが、一気に振り切るのも難しい話ではない。

 彼らが実験を行う街もこちらは予め知っている。

 

 そうして、連中を上手く出し抜いた訳だが、案の定これが曲者だった。

 作中でも「壊れかけ」と評されていたのは承知の上で取り込んだから思うようにいかないのは予想していたが、それにしても──よもや、左腕しか改造してくれないとは。

 

 先日弟子として迎えた騎士シエルは腕甲だと思っていたようだが、残念ながらあれは変形した左腕そのものである。

 スーパーヒーローとかロボットみたいな全身装甲にならないのはまだしも、よもや此処までケチだとは思いもしなかった。

 あまりのしょっぱさに、思わず舌打ちが漏れそうになったのは言うまでもない。

 それだけではない。

 

「──はぁっ!」

「ぅぐ……っ!?」

 

 滞在しているルーメンの街の外。

 騎士シエルの鋭い打ち込みが、俺の木剣を手から弾き飛ばした。

 模擬戦はこれで2勝8敗。

 最初こそロボバ特有の奇怪な挙動に面食らったようだが、此方の「癖」を掴んでからは殆ど彼女に打ちのめされてばかりだった。

 まあ、これ自体は予想通りだ──例え聖杯ブーストがあっても、純粋な剣の腕で騎士として訓練を積んできたシエルに勝てるとは俺も思っていない。

 

 それに。

 俺は剣を斜めに振ることも。

 鍔迫り合いをすることも。

 システムに許されていないのだから。

 

 そう、出来ないのだ。

 2000コスト格闘機である俺のコマンドに、「袈裟斬り」は存在しない。

 各種格闘に割り振られているのは何れも「振り下ろし」「斬り上げ」「薙ぎ払い」「突き」のいずれかで、派生にも剣を斜めに振る行動は皆無。

 騎士シエルがあらゆる方向から打ち込めるのに対して、こちらが取れる行動には制限が多すぎる。

 

 加えて、鍔迫り合いも出来ない──ロボバにはそもそも鍔迫り合いをするシステムが無かったから。

 格闘の振り合いになった際は、判定の強さやスーパーアーマーの有無によって必ず一方が勝利する。

 そして、セットプレイ重視な代わりに格闘判定は総じて並みの俺と1500コスト射撃寄り万能機にしては異様に判定が強い騎士シエルでは、彼女が勝つのが必然……イマンソ相手にも、横格闘を振りまくっていればワンチャンあったのではないだろうか。

 話が逸れたが、要するにアドバンテージになると思っていたロボバのシステムは想像以上に俺を縛る枷にもなっているのだ。

 

 

 で、此処からが本題となるが。

 

 

「立てますか、イコマ師」

「ええ、ありがとうございます……お互いに、課題が見えてきましたね」

 

 

 何とかポーカーフェイスこそ保てているものの。

 普通に自分より強い騎士を相手に、俺は一体どうやってコーチングをすればいいのだろうか。

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

「課題……」

 

 私が弾き飛ばした剣を取りに行くイコマ師を横目に、思考の海へ意識を沈める。

 イマンソに対して全く通用しなかった剣技は、しかし奴を一方的に蹂躙した彼には普通に通用した。

 それも8勝2敗という結果を見れば分かる通り、殆ど師を圧倒する形で。

 

 ──何故だ

 

 無論、得物がただの木剣だからと言うのはあるだろう。

 あの鞭を内蔵した腕甲や魔法、虹の残光を引く不思議なステップも使わない。

 純粋な剣の腕という土俵であれば私は彼に勝っていた。

 と言うより、イコマ師の剣術は素人同然だ。

 恐らく独学で身に付けたとされるそれは全体的に大振りで、まるで打ち込まれることを想定していないかのように隙が多い。

 その上剣術自体も非常に単純で、振り下ろしや横薙ぎを組み合わせただけの連撃は技がない。

 慣れてしまえばそう大したものではないし、鍔迫り合いに持ち込めば簡単に崩せてしまう。

 

 ──では、何故だ

 

 何故イコマ師の剣はイマンソに通用して、私や騎士達の剣は通用しなかったのか。

 単純に、魔族と言う存在に対しての理解が足りていなかったからか?

 確かに、どこで知り得たのか分からないが彼はイマンソの戦い方を熟知していたように思える。

 相手の手の内が割れていれば、対策は幾らでも立てられるだろう。

 

 だが、それだけではない。

 

 磨き上げられた騎士の剣技がまるで通らない相手を、素人の剣が貫けた。

 丁度今剣を拾い上げ、調子を確かめるように振り回している、彼の剣術が────

 

 

「……?」

 

 

 そこで、ふと気づく。

 

「振り下ろし、横薙ぎ、斬り上げ……」

 

 イコマ師が振っているのは、彼の剣術の中でも最もオーソドックスな連撃。

 ここまでの手合わせ全てで見られたその一連の流れは、それが闇雲に振り回しているのではなく剣術の一環だと認識させる数少ない要素の1つ。

()()()()()()()()()()()()その剣舞には感心するものがあったが、剣を弾いた時は相当鋭い一撃を打ち込んだ筈だ──得物を取り落とすほどの衝撃を与えたのだから、暫くの間手に痺れが残っていてもおかしくはない。

 なのに、同じだ。

 最初の一戦目から……否、イマンソと戦っていた時から今に至るまで、彼が振る剣の軌道にはほんの僅かな誤差すら見られない。

 発条仕掛けの人形のように、挙動の全てが完全に一致している。

 

 ──これは、異常だ

 

 疲れれば自然と柄を握る手は緩む。

 傷を負えば痛みが力のコントロールを危うくする。

 感情が揺れれば、それは顕著な反応となって剣筋に表れる。

 それが、まるで見られない。

 これこそが、彼の強さなのではないか──そのような疑念が、私の中で鎌首をもたげた。

 

「師よ」

「はい?」

「貴方は、()()()()()()()()()()()()同じように剣を振れるのか?」

「ええ」

「……それは、瀕死の重傷を負っている時でも?」

死なない(落ちない)限りは、絶対に」

 

 私の問いに、師は何でもないように頷いた。

 本当に、彼にとってそれは当たり前のことであるようだった。

 しかし──私達只人にとっては、そうではない。

 

 ──凄まじい精神力だ

 

 確かに、それは課題だった。

 死が迫れば、剣を握ることはおろか立っていることすら難しくなる──先日の私がそうであったように。

 しかし彼は一つ一つの行動を単純化し、技の極みを棄てる代わりに、死ぬまで常時最高のスペックを発揮し続けられる……ある種の狂兵と化しているのだ。

 そして、この並の精神で為せる筈がない状態へ辿り着く──彼は、それを私に求めているのだから。

 そうやって、1つ結び目が解ければ次々に物事が見えてくる。

 

(そうか、全く打ち合わないのも……)

 

 鍔迫り合いを考えていない剣術も、魔族対策だとすればしっくり来る。

 基本的に、上位の軍団長でもなければ人間が純粋な腕力で魔族に勝つことは難しい──だから、一切相手の土俵には乗らない。

 イマンソ相手にそうしたように、魔族の強みである単純な力の強さに取り合わず、一方的に連撃を加えることに終始する。

 ハナから人間相手を想定していない……魔族を殺すことに特化した剣だからこそ、私は師に勝ち、師はイマンソに勝ったのだ。

 

 ──狂気的な理性が創り上げた、対魔剣術

 

 一体どんな経験をすれば、人は彼のような境地に至るのだろうか。

 教会の教えによる画一的な魔族への嫌悪ではなく、肉体の全てを魔族への対抗に注ぐ精神性に、私は深く感服し──同時に、少し恐怖した。

 

「師よ」

「戻りましょう。いくら私達が魔族と戦えるとは言え、長時間街から離れているのはあまりよろしくない」

「……はい」

 

 そう言って踵を返すイコマ師は、やはり此方を見ていない。

 微妙に焦点のズレた瞳は、此処ではない何処か*1に合わされ続けている。

 紡ぐ言葉は難解、かつ私達の知り得る範囲を大きく超えている。

 恐らく、彼はずっと待っているのだ。

 誰かが育てたものでも、生まれついての資質でも構わない────

 

 

 ──自分に比類する、生粋の魔族殺しを

 

*1
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