俺だけ操作感がロボアクション   作:イナバの書き置き

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うおっ、すっごい人類至上主義者…(上)

 静止軌道同盟(GOU)とは、機甲聖杯の中盤から登場し、聖杯を巡る争いに乱入する……所謂第3勢力だ。

 宇宙ステーションを拠点とする彼女達が、基本的に現行の人類と接触することはない。

 大体が旧人類復活の研究で篭りきりか、エネルギー節約のため休眠している。

 そんな彼女達が大々的に活動を再開したのは、王国の首都に魔族が攻め入った際に大量の聖杯が暴走を起こし、魔王の封じられた異空間へのゲートが開きかけたのが原因だ。

 今までに登場したMMが単独行動ばかりな中、魔王再臨を防ぐため13機も1度に地上へ降り立つシーンは一枚絵も相まって中々圧倒されるものがあった。

 

 まあ、「人類の味方」としてのGOUはそこが絶頂で、その後はすぐに巻き込み上等、人的被害ガン無視のやべーヤツ集団として認識されるのだが。

 と言うのも、彼女達の目的はあくまでも旧人類の再興で現行人類はその対象ではない……どころか同じ人間として認めておらず、邪魔者扱いしている節すらある。

 そう言う過激さもあって、当初こそ人類の味方だと思われていたが思想の衝突から最終的には主人公(レイ)と袂を別つこととなるのだ。

 まあ、紆余曲折あって復活した魔王との決戦で助太刀に来てくれるので何も悪いところばかりでもない。

 思想の鋭角さがヤバいだけで、決して悪人ではないのだ。

 

 そんな事情もあってか、彼女達はプレイヤーの間でも結構人気の別れる陣営だった。

 悪のメカ美少女軍団的なビジュアルは滅茶苦茶良いのだが、それを打ち消すレベルで思想が尖りすぎと言うか、強硬派と言うか……「それ魔族潰してからでも良くない?」みたいなシチュエーションでも平気で乱入してくるものだから、心象が良くないのも仕方無いだろうか。

 その上、作中で旧人類と現行人類の違いがあまり明確に描写されていないのもあまり良くなかった──そのせいで、レイ以外の人物から段々「些細な違いにすぐブチ切れるクソコテ」みたいな扱いを受けていくようになったのも、まあ已む無しだろう。

 そこで次第に対立へ傾いていく人間と、それでも対話を望むレイとの葛藤も物語の見所ではあったのだが。

 

 後は、ロボバでの性能も色々と賛否が多い原因か。

 環境機体は、その強さと使用率故にやっかみを貰うことも多い──そんな中でGOUの機体はどういう訳か強い場合が多く、実装されてはナーフされると言う事態が頻発していたのだ。

 お陰で「美少女バーサス」「運営と寝た」「顔と性能だけは最強」と言った罵詈雑言を掲示板で見掛けたのも1度や2度ではなかった。

 

「──私達が話をするには、些か貧相な場所ね」

 

 で、俺の対面に座っているのがその筆頭。

 GOU最高統轄機、ヴォイドブレイカー(VB)だ。

 合理主義者を自称する彼女は、フードを外して特徴的な焦茶色のボブカットを晒していた。

 だが、例え不審に思われようが屋内でもローブを脱ぐつもりはないらしい──いや、それの下は戦闘用のボディスーツだから脱げないのか。

 地上の全てを低俗なものとして蔑視している彼女の性質から考えると、恐らく生体部分が外気に触れるのを極力防ぎたいのだろう。

 

「貧相とは結構な物言いだな。これでも俺が毎日世話になっている宿なんだが」

「そう……それなら、すぐ引き払うことを推奨するわ。下水道が機能不全になっているのは、文化レベルが低い証拠よ」

「あのなあ、宿を取るのだってタダじゃないんだ。ランクを上げようとしたらあっという間に路銀が尽きるだろう」

「こんな施設でウイルスや細菌に暴露するくらいなら、通貨を浪費する方が余程マシ……この未成熟な文明では、何処でも大差はないけれど」

 

 立て板に水を流すような勢いの蔑視発言。

 下手をすれば親の声より聞き慣れていそうなヴォイドブレイカー節に「そうそうこれこれ」等と思いつつ、チラリと視線を左右にやる。

 俺が席を立った時はまだ食事の最中だったが、どうやらシエルはもう食堂を去ったらしい。

 自分の宿に戻ったのか、まだ何処かで鍛練を続けているのかは知らないが、何であれ運が良かった。

 現行人類に対してひたすら冷淡なVBと、騎士であることに誇りを持つシエルが対面しようものなら、マトモな話し合いにならないのはほぼ確実。

 下手をしなくとも即座に争いになりそうな状況で、その可能性を少しでも下げられるならそれに越したことはない。

 それに、弟子だからと言う理由だけで俺の厄介事に巻き込まれる必要もないだろう。

 あまり大したことはしてやれていないが、俺が死んだ後も達者でいて欲しい。

 そんな遺言を、自分の中で呟いて──ヴォイドブレイカーを睨み付ける。

 

「で、何の用だ」

 

 まあ、大方の予想は付いているが。

 どうせ俺の中の赤聖杯が目的だろう。

 確かに、無駄に出力だけはあるアレを修復出来るのは旧文明の高度な設備を持ち、教会や帝国猟兵と違ってその価値を正しく理解しているGOUだけだ。

 封印や戦争の道具ではなく、純粋に莫大なエネルギー資源として狙う意味はある。

 ただ、MM(本来の使用者)と違って1度聖杯を取り込んだ人間は2度とそれを摘出することは出来ない──肉体に融合し、血中で絶えず進化を促すその物質が杯の形を取り戻すのは、肉体が死んだ時だけだ。

 要するに、ヴォイドブレイカーは「大人しく自決して聖杯を差し出すか私にぶっ殺されるか選べ」と告げに来たのである。

 

 それは、ちょっと困る。

 

 俺がこの世界で生きるに当たって立てた目標は「ある日突然殺されない安全を確保する」こと。

 つまり、究極的に言えば()()()()ことだ。

 自分のことしか考えてないのか、と言われればぐうの音も出ないが、魔族の根絶だの国家間の均衡だのと言った大きな視点は俺には荷が重すぎた。

 俺は、俺が死にたくない──()()()()()()()()()()()()()()

 魔王の性質的に人間はこの惑星に生きてるだけで須く抹殺対象だし。

 魔王が死ねば魔族全体が衰えるのは漫画版に書いてあったし。

 

 そんな訳で、ヴォイドブレイカーと事を構えるのは既に決定的だが……正直言うと、多分勝てない。

 心の中のイマジナリーゲーセン仲間が「無理無理無理、お前死ぬって」とゲラゲラ嗤っている。

 アイツらはまあ、そういうヤツらだ。

 

 しかし、情けないと笑わば笑え。

 

 実際彼我の実力差は圧倒的──2000コスト格闘機が3000コストの射撃寄り万能機とタイマンをして勝てるかと言われれば、まあ大抵のプレイヤーが首を横に振るだろう。

 特にヴォイドブレイカーはライン状のビームや滅茶苦茶追いかけてくるオールレンジ武装で相手の動きを制限し、近寄らずに追い詰めるタイプ。

 取り敢えず接近しないと話にならない俺からするとすこぶる相性が悪い。

 

 ──せめて、相方がいれば

 

 ロボバは2vs2のゲームだ。

 隣で戦う仲間さえいれば時間を稼いでいる間に助けてもらったり、相方と見合っている隙に俺が横から闇討ちしたりすることも出来たのだが。

 

 ……でも、今の俺に相方はいない

 

 このまま騎士シエルと交流を深めれば彼女と20・15の低コストペアを組むこともあったろう。

 レイ・クラークと遭遇していれば25・20のバランスが取れたペアを組む可能性もあったろう。

 だが、最早それも叶うまい。

 まあ、勝負に絶対は無い……どれだけ強い機体でも、プレイヤーの腕次第では一方的な流れを作ることも不可能ではない、筈だ。

 

 環境機体に1人で勝つ。

 

 そんな、半ば諦めに近い希望を抱きながら俺はテーブルの下で赤黒い腕甲を顕現させ、無機質に思えるほど感情の薄いヴォイドブレイカーの碧眼を睨み付けて────

 

「それ、は」

 

 手を、取られていた。

 左腕そのものが変異した腕甲を、少女の小さな手が握っている。

 咄嗟に引こうとしても、ビクともしない。

 いや、動かせないのは腕だけではない。

 身体が硬直すると同時に何か不快な感覚が四肢の隅々を巡るのを見るに、接触部位から全身を掌握されているのか。

 そうして暫しされるがままにされていると、ハッと表情を変えたヴォイドブレイカーは頭を垂れ────

 

 

「やはり……やはり、貴方が『人類』だったのですね」

「────マジ?」

 

 

 ──あ、これ()()()()()なやつ?

 

 

 彼女の口から発せられた、突飛な言葉。

 突然思いもよらない方向にカッ飛び始めた話の流れに、俺は内心で冷や汗が流れるのを感じていた。

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

「……ずっと、貴方を探していました」

 

 

 

 声帯が、歓喜に震える。

 私と言うMMを構成する基幹モジュールが、処理の限界を超えて白熱しかかっている。

 

 感極まる。

 

 そんな感情が、この私に存在するなんて。

 私を含め全てのMMには「個性」が存在するが、それは所詮プログラムされたものに過ぎない。

 人間が何かに生存競争を代替させるなら、それは極力人間に近しい存在でなければならない──そんなアルシェル博士の個人的な思想に基づいて実装された、意図的な「揺らぎ」でしかないのだ。

 私は、統轄機としてその事実を他のMMよりも深く理解していた、筈だったのに。

 

 ──いる、確かに此処にいる

 

 活動用ボディの接触を通し、掌握した肉体情報をスキャニングする中で──128回に及ぶチェックと再精査を繰り返した上で、彼の如何なる細胞にも魔力を生成する器官が存在しないことを確認した。

 彼が行使する魔力は変異した左腕から出力されるもので、その根源は間違いなく聖杯だ。

 そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──故に、左腕以外はこの地上に蔓延る紛い物ではなく、純粋な人間そのもの。

 800年間探し続けた、待ち続けた希望を、遂に私は見付け出したのだ。

 

「何時、何処で目覚められたのですか。何故、速やかにコンタクトを取ろうとなさらなかったのですか……例えどのような場所であっても、信号の1つさえあれば必ず馳せ参じましたのに」

「いや、気付いたら王都の隅に立ってて……記憶喪失ってヤツなのかな。覚えてることと覚えてないことが滅茶苦茶で、どうすればいいのかよく分からなかったんだよ」

 

 だが、彼──イコマ様の言う通り出自が分からない。

 魔王との戦争で殆どのデータベースが喪われてしまった以上、彼の戸籍を照会することやどのグループの冷凍睡眠装置に入っていたかを探ることは不可能に近い。

 その上記憶喪失ともなれば、確かに即座に救援を要請するのは難しいだろう。

 彼をこれ以上問い詰めて無意味にストレスを蓄積させる必要はない。

 それより、私が今思考リソースを割くべきは。

 

 

 ──今からでも、王国は滅ぼしておくべきか?

 

 

 歓喜に満たされていたモジュールが、782パターンに及ぶ王国殲滅プランの再検討を始める。

 マステマは集団の力を用いて聖杯を回収するつもりだったようだが、やはり人類を僣称する生命体の建国など許すべきではなかった。

 意識を取り戻した地点から推測するに、彼は恐らく地下に埋没した研究所の跡地でコールドスリープから目覚めたのだろう。

 そもそも彼処に都市を建てさせなければ、もっと彼の発見は早まっていたかもしれないのだ。

 それに、だ。

 

「なん、て、痛々しい……」

「そ、そんなに……?」

 

 イコマ様の、左腕。

 細胞を直接変異させて形成した腕甲。

 帝国猟兵から奪取した聖杯によって造り出されたそれは、あまりにも不完全で痛々しく見える。

 強度は現地の生命体でも貫徹が可能なほどに脆く、生成された武装も魔力を纏わせる程度で身を守るにはあまりにも心許ない。

 いや、そもそも私達がもっと早く彼の存在を察知出来ていたら。

 彼を発見した当初に接触していたなら、このような事態は──約4兆個に及ぶ貴重な細胞が不可逆的な汚染を受ける結末は招かなかっただろう。

 

 これは私の落ち度だ。

 これは私の判断ミスだ。

 これは私の責任問題だ。

 

 ──ッ

 

 ジジ、と基幹モジュールに負荷が生じる。

 本来数百、数千のMMとリンクして作戦を遂行する統轄機には、決して失敗は許されなかった。

 ほぼ無尽蔵に魔族を生み出す魔王に対して量で劣る人類にとって、MMは最も重要な戦力だ。

 ミスを犯して機体を喪う余裕などある訳がない。

 だからこそ必要とされたのが()()()()()()()()()()M()M()

 V型MM(わたし)*1はそのような製造意図を以て生み出され、これまでそのように活動してきた。

 にも関わらず、私は判断を誤った。

 私は、自らの存在意義を毀損した。

 

「やはり、貴方は此処にいるべきではないわ」

「え」

「すぐ……今すぐにでもこの街を離れましょう。バース大陸にはまだ私達が発見出来ていない研究施設が残っている筈よ。そこなら、聖杯を取り除けるかもしれない」

 

 可能性は、あまり高くない。

 だが、何としても彼から安全な形で聖杯は摘出する──それが私の責任の取り方だ。

 彼の生存と純人間性の復活こそが、人類を再興すると言うGOUの目的を達成する2度と訪れない機会で、加えて私の存在意義(失敗しないMM)を取り戻す唯一の手段なのだ。

 

「基幹モジュール、ダウンロード開始」

 

 その為なら、()()()()()()()()()()()()()

 

「何を……」

「何って、本体をこの活動用ボディに移行しているだけよ。大したことではないわ」

 

 宇宙に篭っているのは駄目だ。

 それでは彼の状況がデータベースに反映されるまでにラグが生じる。

 例えそれがほんの僅か……0.0001秒以下であったとしても、シュート・イコマのあらゆる異常・危機は誤差無く私に伝わらねばならない。

 彼を守り、彼を救い、彼を導かねばならない──この、私が。

 

「移行完了……以後ステーションの電脳はサブとし、本機が『ヴォイドブレイカー』の本体となります」

「えっと、おめでとう……?」

「では」

 

 体温が離れることに不安と名残惜しさを保ちつつ、彼の腕甲から手を離し──真横に突き出す。

 戦闘モード起動、標的の脅威レベルを確認、ブレードライフル展開。

 

「対象の無力化を開始します」

 

 原始的な剣を携え、敵対的な様子の女が宿の扉を開けて接近してくる。

 監視報告によれば、それは彼と行動を共にしている人型生命体──個体の名称は、シエル・ノヴァだったか。

 これまでの私は、それを脅威として認識してすらいなかったが────

 

 

 

「師よ。そのMMは──危険です」

 

「消えなさい、彼に纏わりつく人擬き」

 

 

 

 彼を煩わせるのなら、人類の守護者である私が此処で消す。

*1
ヴァンキッシャー型MM。指揮・統制を主目的とした機体




ヴォイドブレイカー
魔王との決戦に参加して生き延びた数少ないMMの一機。
残存するMMを集めてGOUを結成したが、人類を救済する使命と完璧主義的な「個性」が負担となって思考パターンに深刻な異変が生じている。
つまるところ恐ろしいまでの人類至上主義者。
800年かけ、人類には果てしなき慈愛と敬意を、それ以外の生命体には侮蔑を以て接する性格へと変貌してしまった。
ちなみにローブの下にはカラダのラインがガッツリ出るタイプのボディスーツだけ着用している。
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