戦いは恙無く終わった。
まあ、そうなるだろうなとしか言いようがない。
魔王複製体と言うイレギュラーこそいたものの、
しかし、魔族を倒してスッキリで済まないのがこの世界の面倒なところだ。
何せMMは教会が禁制機械に指定した、迫害対象な訳で──こうして1度正体を見せてしまうと、例え市民が内心では感謝していてもその街には居られなくなってしまう。
寧ろこっそり食べ物を渡してくれたり、「出て行ってくれ」で済まされるだけマシな方だと言えるだろう。
そんな訳で、ルーメンの街から追い出された俺達は野営を余儀なくされた訳だが────
「……」
「……」
「……」
雰囲気が悪い。
とてつもなく雰囲気が悪い。
そもそも良くなる要素が無いのだから当然の話だが。
ヴォイドブレイカーは旧人類以外の全てを見下しているし、騎士シエルはそんな傲慢の権化とは折り合いが悪いし、銀髪の少女──「機甲聖杯」の主人公であるレイ・クラークに至っては、完全に部外者でしかない。
そんな3人と、ロボバしか語彙のない俺が集って会話の始まる筈がない──焚火を囲んで彼是1時間近く黙り込んでいるだけというシュール極まりない絵面が生まれるのも仕方ないだろう。
だが、此処で解散する訳にはいかないのだ。
元々最強格のヴォイドブレイカー及び彼女が率いるGOUとの繋がりも、主人公との繋がりも、後は教会とのコネクションを持つシエルとの繋がりも、正直滅茶苦茶捨てがたい。
身も蓋もない言い方をしてしまえば、全員と良い感じの距離を保って良い感じに協力を得たい。
まるで何股も掛けている浮気男のようだ、と自分自身感じているが正直これ以上の最適解を見出すことは出来なかった──帝国以外の有力組織と友好関係を築けるチャンスを逃す手はない。
帝国は……まあ別に放置でいいか、うん。
個人個人では良識的な人間も多いけど、国としては隙あらば人類に利敵行為を働く馬鹿垂れ国家だし。
魔王復活させて手駒にするとか言う傍迷惑過ぎる野望抱いてるせいで周辺国家に被害押し付けてるし。
後俺が赤聖杯強奪したせいで目の敵にしてくるし。
人類が発端となる悪事の7割くらいは奴らのやらかしと見て先ず間違いないだろう。
兎に角、この世界の有力者と繋がりを得ておくのが俺の魔王出オチプランに於いて肝要なのだ。
じゃあ、そこまでして倒したい「魔王」って一体何なのかと言う話になるが、ネタバレしてしまうと────
──あれは異星からの侵略者だ
正式名称は侵略生命体XU-1、だったか。
実の所、魔王の正体について機甲聖杯のストーリーではっきりと明かされる事はない。
アーカイブでシルエットが仄めかされる程度で、かつての魔王が具体的にどのような姿形をしていたのかプレイヤーが知ることは出来なかった。
しかし、「それ」との戦いの中で劣勢に追い込まれた人類のプロパガンダによって過度な悪魔化が行われた結果、通称でしかなかった「魔王」が何時しか正式名として扱われるようになった事は明確だ。
所謂「魔力」についても同様だった。
魔王が行使する未知の粒子に対して付けられた渾名が一般化しただけであって、それを人類も技術として取り込んだ結果がMMと魔法の存在なのだ。
つまり、一度ベールが剥がれてしまうとこの世界は俗に言う「剣と魔法の世界」なんかではこれっぽっちもない。
魔法はMMの行使する技術を現行人類レベルにダウンスケールしたものだし、まあぶっちゃけ現行人類もMMを開発する過程で生まれた人工生命だ。
魔王との破滅的な決戦で残された僅かな旧人類が絶滅した後、魔力を生成する器官があったお陰でちょっとだけ環境に強かった実験体が栄えた──それだけの話。
旧人類に絶対的な価値を置くヴォイドブレイカーが現行人類アンチなのも已む無し、と言う訳だ。
彼女からすれば今の人間なんて自分達の試作品が人間面している挙げ句、本来の主人を差し置いて地上でのさばっているのだから。
それにしたって限度はあると思うが、身体の組成が
騎士シエルに関しても、即座に離脱と言う事にはならない筈だ──今の俺については大いに疑問を抱いているだろうが、あの人の良さからするにちゃんと説明すれば理解してくれると思う。
つまり、俺が最初に引き留めるべきは。
「レイ、だったっけか。助かったよ、正直二人では抑えられなかったかもしれないし」
「ん……気にしないで。魔族を倒すなら力を合わせた方が効率が良い」
突き刺さる鋭い視線を無視して、銀髪の少女──レイに話し掛ける。
彼女の格好は、全身ピッチリスーツ(ゴテゴテしたメカパーツ付き)なヴォイドブレイカーと違って、この世界の一般的な軽装そのもの。
動きやすさを重視してかちょっと布面積は少ないが、まあ至って健全だ。
と言うか、格好で言えばGOUの面々が危険過ぎるのだ──ゲーセンで彼女達を操作しながら「このままだとロボバがえっちなゲームだと勘違いされてしまう……!」*1と戦慄したのも一度や二度ではない。
そう言う意味では、俺の視界がロボバのシステムに乗っ取られているのは非常に助かっている。
自然と本人より耐久ゲージに目が向くので、彼女のヤバい格好を直視せずに済む。
「あなたは……魔族と戦っているの?」
「ああ、色々あってルーメンに留まっていたけど、普段は旅をしながら魔族を討伐している」
「そう……」
話をレイに戻そう。
彼女は一見すると近寄り難い雰囲気を纏っているが、実際はとても人懐っこい。
色々な要素が絡んでいるが、その辺りに関しては
「……私も、着いて行っていい?」
「それは助かるが、何故?」
「目的が一致しているから……それだけではないけど」
「成る程……まあ、よろしく頼む」
「いいの?」
「いいよ?」
「……不思議」
濁している所申し訳ないが、それは知っている。
彼女の目的は「魔王の完全な討伐」だ。
なので、接点さえ作ってしまえば仲間に引き込む事自体は非常に簡単──何か隠していることを素直に喋ってしまう人の良さも相まって、このようにトントン拍子で話が進んでしまう。
この辺りもクソコテ極まるヴォイドブレイカーとは対照的で、多分ストーリー的には深い対比とか色々あるんだろう。
もう少し俺に読解力があれば、設定だけじゃなくてストーリー方面でも理解を深められたのだろうが────
「……それなら、気になっていたのだけど」
などと考えていると、レイはちょいちょいと俺を指差しながら問い掛けてくる。
「イコマ、防具は?」
「防具?」
「左腕以外、何も着けてない。違う?」
そこか。
それについて聞いてくるか。
「……私も気になっていました。師は何故一切防具を身に付けられないのです?」
「……確かに、不合理ね。高速型MMでもあるまいし、行動を妨げない範囲ですら装甲を廃しているのは、何故?」
シエルとヴォイドブレイカーまで乗っかってくるが、これは非常に答え辛い。
何故なら、俺はこれに対して三人が納得出来るであろう解答を持っていない──決して防具を買う金もないほど貧乏とか、そう言う訳ではないのだ。
これでも魔族討伐の報償金があるので、ちょっと節約すれば質の良い武器を買える位の余裕はある。
しかし、確かに一切身を守る物を身に付けていないのは端から見れば異常に映るだろう。
プレートアーマーを装備しているシエルは言わずもがな、MMのレイだって手甲に鉄靴、何故かデザイン性抜群の鎖帷子位着用している。
ヴォイドブレイカーのボディスーツにしても、防刃・防弾・耐熱・耐寒・耐魔力・抗菌に優れる技術の極まった代物であって、決して防御を疎かにしている訳ではなかった。
にも関わらず、俺だけが何も着けていない──動きやすさを重視しているんです、と言う鉄板の言い訳も既に封じられてしまった。
藪をつついて蛇を出す、とはこう言う事を指すのだろうか。
「あー……」
どうしよう、素直に答えてしまおうか。
しかし「自分にはロボバのシステムが適用されているので防御力とかありません」と言う理屈をどう説明したものか。
そう、ロボバにRPGなどでありがちな「防御力」の概念は存在しない。
例え原作で如何に強固な装甲を備えていても、アクションゲームの体裁を取っている以上同じ攻撃を受ければ一律で同じダメージを受ける*2のだ。
よって、鎧を着込んでも受けるダメージは変わらない。
一応耐久が増えるものの正直誤差レベルだし、ただでさえ遅めな機動力も落ちるので正直防具を着けたくない。
それに、確実とは言えないが……理論上、俺は
「うーん……」
これを端的に、誰もでも分かる言葉で伝えるのだ。
頑張れ俺。
ロボバに支配されている頭から語彙を絞り出せ俺。
そう、一言で纏めるなら────
「意味が無い、から……?」
「意味が無い、から……?」
何を言っているの。
そう、レイ・クラークは心中で呟いた。
レイは世間知らずだ。
地図に名前も載らないような辺境の村に
アルと言う名の老爺と、村の老人達を親の代わりとして育ったレイにとって、つい一週間前まで小さな村だけが世界の全てだった。
そこは一切危険に苛まれる事のない、一種の楽園──村全体に仕掛けられた高度な阻害魔法は魔族すら容易に欺き、生産プラントによって造られた食糧によって餓えを知る事もない。
だからこそ、レイは楽園の外に広がる世界には驚きが隠せなかった。
人々は常に魔族の脅威に曝され、街に集まる事でやっとその日の安全を確保している。
それにしたって、今日のような魔王複製体が現れれば一瞬で崩れ去るほど脆い砂上の楼閣だ。
死ぬ──人間とはレイが思っているよりずっと呆気なく死ぬ生物なのだ。
そして、それ故に命は尊い。
例えどれだけの理不尽に直面しようと必死に生きようと試みる姿をレイは醜いとは感じなかった。
みっともなくても生を諦めない事こそ、「生きる」事なのだ。
しかし、この男は。
「えっ、あっ……間違えた?」
このイコマなる男は、自分の命にまるで価値を見出だしていない。
防具を一切身に付けない姿勢からも分かる通り、生きると言う事を端から度外視してしまっている。
確かに強大な魔族を相手に防具の有無など殆ど誤差のようなものでしかないが、「ほんの少し」と「全くの無」は文字通り天と地ほど違うのだ。
しかも「間違えた」と言える程度には自分の状況を理解している。
理解した上で治せていない、ないしは放置しているのが尚更性質が悪い。
「師よ……」
「……これは、重症ね」
「いやっ……いや、そう言う意味じゃないんだ、な?」
他の二人も深刻なものを見る目を隠せていない。
通りで、奇怪な戦い方をする筈だ──ほんのこれっぽっちも、自分の事なんて考えていないのだ。
強靭な意思があるからではなく、端から捨て身だから魔族にも臆せず立ち向かう事が出来る。
人間に触れてまだ大した時間が経っていないレイでも、その程度の事は理解出来た。
「イコマ」
これはダメだ。
救わねばならない、とレイは直感した。
アル爺は言っていた。
『魔王を倒して今度こそ世界を救え』、と。
しかし、こうも言っていた。
『その過程で色々な人と繋がりなさい』
『それが新しい君を形作っていくだろう』
その言葉にレイは従う。
だって、アル爺は間違った事を言わないから。
自分は人と人とを繋ぎ、魔王を倒すために生まれたのだと心の底から信じて疑わない。
「イコマ」
故に、レイは男を抱き締め──宣言する。
「私が、護るよ」
心も、身体も。
それが楽園を出た少女に加えられた、新たな使命だった。
シュート・イコマ
悲しい位に素で語彙力が枯渇している上、ロボバのシステムに囚われている都合上非常に誤解されやすい。
周囲からは「あ、悲しい過去があって壊れちゃったんだな…」と思われている。
レイ・クラーク
田舎出身の主人公MM。
「生まれる」「育つ」など他のMMには見られない特徴が多々存在する。
その出自にはアル爺や「村」なる存在が影響しているらしいが…。
「絆」とか「友情」とか臆面もなく言っちゃうタイプ。
ロボティクス・バーサス(ロボバ)
2vs2がメインのロボットアクションゲーム。
互いのチームには6000のコストが与えられ、敵機を撃破することでこれを先に削りきった方が勝利者となる。
イコマは2000コスト格闘機なので、理論上は二回まで
ちなみに機甲聖杯の面々は他作品のロボットと同サイズで参加している。
某猿の惑星的に例えると、喋る騎士ガンダムみたいなもの。
ヴォイドブレイカー
はー!
人間様が作った人工生命体如きがヒト名乗ってるの気に食わねー!
その上人類再興放棄して栄えてるのも気に食わねー!
あ、この旧人類っぽいの死にそう…保護しなきゃ…(使命感)
地面に足を付けると魔族に探知されるのでちょっと浮いてる。