五感組+αと柱との立場逆転世界に、原作軸炭治郎がやってきた話。鏡合わせということなのでここ以外も色々立場逆転してます。
鬼殺隊本邸。急遽招集された八人の柱は、皆一様に狐に摘まれたかのような面持ちで、気を失ったまま地面に倒れ伏す少年を見つめていた。今しがた鬼の棲む山で『発見』され、直ちに水柱の手によって運び込まれた少年。すぐ傍で鬼と鬼狩りとの熾烈な戦いが繰り広げられていたのにも拘わらず、不可思議にも傷一つない綺麗な姿のままだったという。否、そんな事よりももっと不可思議なのは――
「本当に――この子が、那田蜘蛛山に?」
蝶の髪飾りを纏った少女は、僅かに裏返った声色でそう訊ねた。普段は滅多なことでもたじろがない彼女であっても、流石に今回の件に関しては遂に首を傾げざるを得ない。
少女の問い掛けに対し、水柱は静かに首肯した。曰く、水柱が下弦の壱を屠った直後に、突如としてそこに『現れた』というのだ。
「……血鬼術の類では、無いのですよね。だって、この少年は――」
灼灼とした炎の髪を持つ青年が、驚愕と困惑を綯い交ぜにして呟く。眼力のある橙の瞳を細めつつも、決定的な二の句を継ぐことはせず、押し黙って目配せをした。
「――ああ。あんまりにも、『アイツ』に似過ぎてるだろ」
顔貌に大きな傷の走る強面の青年は、今ここに居る全員の思いを汲んでそう吐き捨てた。そう、あまりにも、似過ぎているのだ。太陽を象った耳飾りも、額に出来た赫の痣も。
「そうだね。だけど――本人が来るまで、判断を急ぐ必要は無いんじゃないかな」
腰に届くほどの長い髪を持つ中性的な美丈夫は、混乱しているこの場を取り持つように落ち着いた声色で言う。霞のように茫洋とした瞳はしかし、確固たる意志の輝きをも湛えていた。
――と、場の流れが一段落しかけたその時。鎹鴉が嘶くように声を上げた。
「噂をすれば、だね」
忙しない足音を立てて、青年が八人の元へ走り寄る。
「――すまない! 遅くなった、任務が随分長引いて――」
「ンなことだろうと思ったわ」
乱暴に笑い飛ばしたのは美しいかんばせの青年である。
「それより――今回の『柱合裁判』。事前に鎹鴉から連絡は行っていると思うけど――どう思う?」
蝶の髪飾りの少女が、つとめて冷静な風を装って問いかける。
「ああ……まさかとは思ったけど……実際見てみると――本当に、そっくりだ」
「――匂いも?」
先程から耳を塞いでいた青年が、不安げにそう訊ねた。問い掛けられた青年は、太陽の耳飾りを揺らしながら頷く。
「本当に――匂いも、見た目も……何もかも、同じだよ。『六年前の俺』と」
呟いて、太陽の耳飾りの青年――『竈門炭治郎』は、未だ起きる気配の無い少年――『竈門炭治郎』のことを、じっと見下ろした。
かくして、九人の柱――竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助、栗花落カナヲ、不死川玄弥、煉獄千寿郎、鱗滝真菰、そして時透無一郎が、この摩訶不思議な裁定の場に集ったのである。
◆
竈門炭治郎は、鬼の居なくなった世界で幸せに暮らしていた。沢山の仲間を喪い、沢山の傷を負った。痣のせいで最早儚くなりつつある命を背負いながらも、炭治郎は懸命に切実に、ようやく手に入ったあたたかな幸福を抱き締めていた。
炭治郎はよく夢を見た。痣の後遺症か、眠ることが嫌に増えて、昼でも夜でも、時には一日通して眠ってしまうことさえあった。微睡みの中で炭治郎が見る夢は、いつだって鬼が居た世界の追憶だ。苦悶と憤怒、後悔に満ちた記憶は痛みを伴った。目が醒める度、ここが既に鬼の居ない世界であることに感謝してならなかった。このまま一生、厭な夢に惑わされることなく、幸福な現実の中で生きて行けたらいいのに――炭治郎はしばしばそう願った。
しかし、そんな切な祈りも虚しく、炭治郎の眠りは日に日に深く、長くなって行った。妹や大切な仲間に、心配を掛けてはならない。そう思っても身体が言う事を聞いてくれない。夢だと分かっていても、上手く起き上がることが出来ないのだ。虚しくて、歯痒い。
夢はいつも、炭治郎が家族を喪う所から始まる。慟哭と絶望、唯一残された肉親。鬼と化しても人間の矜持を失わなかった大切な家族。鬼殺の道を歩む中で出会った、様々な人々。それらの全てが、輪郭が曖昧なままに繰り返し再生される。まるで、自分の人生なのに、自分の人生ではないような――奇妙な錯覚だった。
そうして、夢の世界に囚われた炭治郎は、鏡合わせのもうひとつの世界に、向き合うこととなる。
導入ということで大分短くなってしまいましたが次回からもっと展開スピードを上げていく予定です。
次回は柱合裁判編+同期(原作柱)登場編の予定です。
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