神の舌? いいえ、贅沢舌です   作:斗鬼派金成

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今回は掲示板回じゃない、独白もとい番外編です。
かなり性急に書いたので、荒削りで人によっては受け入れ難い内容になってるかもしれません。
それでも必要だと思い書きました。誰得? 需要? 知らん知らん聞こえん見えん。
誤字脱字や更新予定は朝になったら決めます、詳細は後書きにて。


薙切 薊の独白

 人生とは挫折と失敗の繰り返しだ、人はそういった経験を積み重ねて大人になっていく――なんて、誰が言った言葉だったか。

 それが自分の失態によるものであるのなら納得できた、理不尽な八つ当たりによるものであったとしても文句を吐きつつも最終的には受け入れたかもしれない。

 けれど、どういう因果が働いているのか。僕の挫折は概ね僕が慕い、愛した者達の喪失という不幸になって齎されてしまう。

 

「才波先輩……」

 

 学生時代。自分より遥かに優れた料理人であり、誰より優れた天才だった人を思い返す。

 あの時が一番人生の中で輝いていた時間だった、自分の料理をより優れたものにしたいという料理人にとって至極当然の、しかし身勝手な動機で僕は彼を慕い、傍に侍った。

 先の見えない嵐の中の荒野で誰より足掻き、藻掻き苦しんでいたという事実に気づきすらしないで。

 慕い、憧憬で目が曇り、やがて先輩は折れて卒業を目前にして遠月を去るという最悪の結果に繋がった。

 それが僕にとって忘れられない、最初にして最大の挫折だった。

 

「真凪……」

 

 それから僕は荒れに荒れ、十傑最高位に就いても理不尽な八つ当たりに近い熱を料理に向けていた。

 そんな僕を叱咤し、檄と共に導いてくれたのが最愛の女性にして妻である真凪だった。

 彼女となら、先の見えない嵐の中であっても自分を見失わず歩いていける。

 そんな身勝手な、自分本位な感傷を抱いた罰なのか――娘たるえりなにも、神の舌は宿ってしまった。

 真凪は絶望し、けれど神の舌が求める美食のハードルは無情にも跳ね上がり続け、やがて倒れた。

 

「えりな……!」

 

 頬が削げ、血の気の引いた愛した女の顔を思い出す。

 出汁の匂いにすら耐えられず、何を口にしても吐き戻してしまう彼女の姿を。

 食卓に座ったり調理場に入るなど以ての外で、心労は積み重なるばかり。

 やがて遠月を、薙切家という居場所にすらいられなくなってしまった彼女を思い返し、そんな末路を最愛の娘にすら味わわせかねない現実。

 二度目の挫折は、そんな次の大きな絶望を孕んで押し寄せてきた。

 

「そうはさせない、何としてでも……!!」

 

 えりなには辛い想いをさせてしまうだろう、苦しさに泣き叫び僕を嫌い憎むかもしれない。けれど構わなかった、また耐え難い挫折を味わう位なら。

 才波先輩を苦しめ、いなくなって尚も変わろうとしない腐りきった料理界。大衆という豚には、真の美食など分かりはしない。

 奴らは結局肩書きのみを見ている、社会的に優れた自分たちが口に入れるのは素晴らしい物であるという妄執に囚われているだけだ。

 下らない、ああ下らないとも――そんな豚の基準になど、合わせる必要も価値もない!

 

「すべては、正しき美食のために!!」

 

「何を言っておるのじゃ、薊?」

 

 そう、総ては君たち神の舌を満足――って、ん?

 

「真、凪……?」

 

「うむ、ただいま」

 

「え、あ、あぁ……おかえり?」

 

 ん、え、ちょ、あれ……?

 ど、どういう事なんだ? 何故、先程出ていった筈の真凪が、戻って、来て、いる???

 

「真凪!!!」

 

 呆けていた自分を誤魔化すように、叱咤するように。僕は目の前の妻が現実だと自分に言い聞かせるように、抱きしめる。

 

「おっと、何じゃ一体……!?」

「グェッ」

 

 何故か蛙が潰れるような声が聞こえた気がしたが、そんなことはどうでも良かった。

 どんな事情があるにせよ、あれだけ顔色が悪く辛そうにしていた真凪が少しではあるものの気力を取り戻して帰って来てくれたのだから。

 ああ、神よ。僕は初めて、あなたの存在を実感した。斯様な奇跡を体現してくださるとは……って、ん?

 

「誰だ、君は?」

 

 多少冷静さを取り戻して、違和感に気付く。

 何か、真凪の物とは違う暖かい感触。何処か弱弱しく叩きつけられる衝撃、これは……人?

 身体を離し、違和感の正体を掴む。色褪せた服を身に纏う、青白い肌をしたえりなと同い年くらいの少年の姿が其処にはあった。

 少年は息を正すと、こちらを見上げて呟いた。

 

「あー……誘拐されて来ました、一般人Aです」

 

「」

 

 到底信じられない、信じたくない言葉だった。固まった僕を余所目に、真凪は余裕をもって返した。

 

「これから家族になるというのに、攫ったとは異な言を……これからは私の、延いてはえりなの為にその腕を使うのじゃ」

 

「お姉さん、拒否権って知ってる?」

 

「拒否……権? 何かの造語かえ?」

 

「うわぁ、本気で言ってる……? こんなどこの馬の骨かも分からない、住所不定無職の浮浪児なんて誰も認めないでしょ。諦めて、どうぞ」

 

「知らぬ、薙切家(ここ)では私が法だ。そなたは料理を作り、周りの凡愚どもを黙らせていけばよい」

 

「暴君かな? これだから権力って奴は……ままええわ、飽きたらポイしてくれれば後は勝手に消えるんで」

 

「そうはならぬだろう、そなたが腕を廃らせない限りは誰もが求める。では改めて一品、と言いたいが……まずは身を清めよ。そのような小汚い衣装では折角の美味も興醒めになりかねん」

 

「さっき料理食べてピーピー泣いてた人って誰でしたっけ? まさか幻覚?」

 

「そなたの妄想であろう、神の舌は味の品評に絶対の裁定は下しても泣き喚いたりなどせん。それとも一人で清めるのが怖いと? 共をしてやろうか、んん?」

 

「断固としてノーセンキュー、ってうわ! 力強ッ、誰か助けて!! うわ薊さん呆けてるヤバいヤバい!! 待て待て待て待て! 話せば、話せば分かる、交渉をォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

「逃がしはせんぞ、最早そなたの身柄は神の舌の、延いては私の物じゃ。……少なくとも、今はの」

 

 そう言って真凪は抵抗する少年を連れて部屋を出て行こうとして、やっと我に返った僕と仙左衛門殿、えりなによって取り押さえられた。

 幾らなんでも激動が過ぎる、二度目の挫折からの立ち直り方だった。

 

 

 ……尚、先程聞かれた独り言を暫く真凪に揶揄われ続けることになるのをこの時の僕はまだ知らない。




Q.薊さんキャラ崩壊してない?
A.そら(こんなご都合主義なんて知るわけないから)そう(なるのも仕方ない)よ。

Q.えりな様ハッピーエンド?
A.艱難辛苦はまだまだあるし、そもそも試練を用意するのは遠月学園なので安心するのはまだ早いかと。

Q.ポンコツ転生者くん弱くね?
A.心臓がまだないのと、生命維持で強さが大きく削がれてるので成人女性の手でもどうにかできてしまう位弱体化しています。
 生命の危機に瀕したら? 細胞総動員で自食作用(オートファジー)を加速させてどうにかします、その反動でその後の生命維持は困難を極める事になるので本当に最終手段にはなりますけど。
 何でまだ心臓がないのか、生命維持のままな理由は次回投稿分でやります。

Q.もしもしポリスメン?
A.呆けてた薊さんと親が盗られるかもと憤るえりな様を横目に、冷静に場を見据えていた仙左衛門殿は通報するか最後まで迷った模様。やってる事がやってる事だからね、しょうがないね。

なんかお気に入り件数が昨日の倍の160件に到達しそうで戦々恐々としてます。
ソーマ人気凄い、ようつべで一気見まとめが公式からうpされてるからかな?

次回投稿は土曜日に行います、金曜日は申し訳ありませんがお休みにさせてください。
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