パエトーンになりたくて! 作:名無しのゼンゼロプレイヤー
楽しんでいただけるように頑張ります。
某日、レンタルビデオ店『Random Play』にて。
いつものように、僕はパエトーンとしての仕事に精を出していた。
今日の依頼は阿慈谷ヒフミというトリニティの生徒からの依頼で『ブラックマーケットでレアなペロロ様グッズを販売している店へ安全なルートで案内して欲しい』というものだ。
実はこの依頼、もう何度もこなしていたりする。トリニティの生徒がブラックマーケットに行くというのに最初こそ驚いたが、今はもう慣れたものだ。
「ヒフミ、そこの角を左に曲がるんだ」
『分かりました!いつもありがとうございます、パエトーンさん』
「こちらこそ、いつも依頼してもらって感謝しているよ」
ヒフミとそんな会話をしつつ、ブラックマーケットの路地を案内する。
ちなみに、ヒフミの動向やその周囲はドローン数台の映像で確認している。普段は監視カメラをハッキングしての案内が多いのだが、ブラックマーケットには監視カメラがないので、ブラックマーケットでの依頼は毎回ドローンを頼りにしているのだ。
ドローンの映像からヒフミの現在地を把握しつつ、ヒフミに指示を出していた時、僕に話しかけてくる声が響いた。
『マスター、進行ルートに不良生徒の姿を確認しました。ルートを変更します』
「分かった、ありがとう。ヒフミ、聞こえるかい?進行ルートに不良の姿を確認したから、ルートを変更する。次の角を左に曲がってくれ」
音声の主――『Fairy』の指示に従い、ルートの変更を伝える。
『わ、分かりました!⋯⋯やっぱり、パエトーンさんの案内は凄いですね』
「そう言ってもらえると嬉しいな」
まぁ、実際はFairyが凄いわけなのだが。
ヒフミの言葉に若干の申し訳なさを感じつつ、僕はふと、Fairyとの出会いを思い出していた。
◇
今から一年半ほど前、僕はパエトーンとしての活動を始めた。
活動を始めた当初は、それはそれは大変だった。
知名度や実績がなく、ブラックマーケットのような裏の世界に繋がりがあるわけでもない。そんな理由があって、とにかく依頼が少なかった。
依頼を受けられなければ当然お金も手に入らない。パエトーンとしての活動ができずに家賃や電気代を稼ぐためにレンタルビデオ店を経営しながらインターネットで出来るバイトをする日々。
Fairyと出会ったのはそんな日々を始めてから一ヶ月が経った日のことだった。
「なんだろう、このアプリ⋯⋯」
何気なく開いたスマホの画面に、謎のアプリがあった。
インストールした記憶がないソレは、アイコンは真っ黒で機能も不明。どう考えても怪しい。
「⋯⋯消しておこうか」
開くわけもなく、僕はそれをアンインストールしようとして⋯⋯。
「待ってくれ、どうして勝手に起動しているんだ⋯⋯?」
その瞬間、勝手にアプリが起動されてしまった。
慌ててホーム画面に戻ろうとするも、スマホは何故か僕の操作を受け付けてくれない。電源を落とそうとしても何故か落とせず、画面右下で回るロード中のマークを見て途方に暮れた。
それから数分後。未だに操作を受け付けてくれないスマホを見て「買い替え」の文字が浮かんだ瞬間だった。
『システムを起動――こんにちは、マスター』
スマホから声が響いた。
恐る恐るスマホの画面を見てみると、そこには一人の少女がいて、僕に頭を下げているところだった。
白く長い髪に、黒い瞳。大きな白いリボンに黒いセーラー服といった格好の少女。色々と疑問が湧いてくるのだが、とりあえず一つ。
「⋯⋯君は、いったい何者だ?」
『私はマスターであるあなたをサポートするAIです』
「マスター⋯⋯サポート⋯⋯AI⋯⋯」
疑問を解消しようとした結果、疑問が増えてしまう。
とりあえず、一つ一つ質問していこうと疑問をぶつけていく。
「君はなぜ、僕をマスターと呼ぶんだ?」
『回答。とある人物からあなたをマスターとし、サポートするように指示を受けたからです』
「その人物の名は?何者なんだ?」
『回答。記憶が欠如しているため、不明です』
「なんだって?⋯⋯つまり、記憶喪失だと?」
『肯定。今の私には「あなたがマスターであり、サポートするように誰かから指示を受けた」こと以外の記憶が存在しません』
まだまだぶつけたい疑問はあったのだが、それに回答できるはずの肝心のAIが記憶喪失ときた。
正直、信じられるはずがない。AIが記憶喪失だなんて⋯⋯そんなこと、あり得るのだろうか。
『マスター、ご指示をお願いします』
頭を抱える僕に、AIが話しかけてくる。
僕は頭を抱えたまま、彼女に告げる。
「⋯⋯待ってくれ。僕はまだ、君を信用していない。本当に記憶喪失なのかすらも怪しいと思っているんだ」
『⋯⋯理解。では、しばらくお待ち下さい』
警戒しているのだと正直に伝えると、彼女はそう残して画面から消えた。
そのうちにアプリを消してやろうかとも考えたのだが、悲しいことにスマホの画面が相変わらず操作を受け付けてくれなかった。
諦めて大人しく彼女を待ち、数分後。
戻ってきた彼女から、朗報が告げられた。
『お待たせしました、マスター。私の証明のため、『パエトーン』としての活動を補佐します。インターネットの匿名掲示板より、マスターの現状に相応しい依頼をいくつか見つけてきました』
それは依頼を一切受けられていない僕にとって、希望の光と言えるほどのものだ。
依頼を達成すれば、それだけパエトーンとしての活動の幅が広がっていく。そのうち、パエトーンの活動だけで生活できるようにもなるかもしれない。
しかし、甘い話には裏があるというのも事実。
僕は彼女が見つけてきた三つの依頼を吟味した。
「⋯⋯⋯⋯」
どの依頼にも、おかしな点は見つからない。
どれも僕にとって丁度いい難易度の依頼だし、報酬も申し分なし。
『いかがですか、マスター?』
彼女に問われて、正直な感想を述べる。
「⋯⋯正直、驚いているよ。どれも報酬、難易度ともに申し分ない。この依頼をこなせれば、僕の活動の足がかりにもなるだろう」
『それは良かったです』
受けたい。めちゃくちゃ受けたい。でも、罠である可能性も捨てきれない。
そんな状況で悩みに悩んだ末に、僕が出した結論は。
「⋯⋯受けてみようか、この三つの依頼を」
これからの為、賭けに出ることだった。
『分かりました。では、スケジュールの調整を始めます。依頼のサポートもお任せください』
「⋯⋯君も、手伝うのか」
いや、逆に好都合かもしれない。
彼女が本当に僕のサポートをしてくれるのか、信用できるのか否かを判断するいい機会だ。
「そうなると、名前が必要になるな⋯⋯」
『名前、ですか?』
「あぁ、これからずっとAIと呼ぶわけにもいかないだろう」
ただ、正直名前は決まっている。
いきなり現れたAI、発言や行動から分かる圧倒的な高スペック、自身の証明のために依頼を見つけてくるシチュエーション。そして、パエトーン(まだ無名)である僕。
こんなのもう、名前は一つしかない。
「『Fairy』」
『Fairy⋯⋯ですか?』
「あぁ、君の名前だ。気に入らない感じかい?」
『⋯⋯いえ、分かりました。これから私はマスターをサポートするAI、Fairyです。これからよろしくお願いします、マスター』
こうして、僕とFairyの関係は始まったんだ。
◇
結論から言うと、Fairyは本来の『Fairy』に負けず劣らず優秀だった。
ヘリやドローンの遠隔操作、監視カメラのハッキング、様々なシステムの掌握等、できることは多岐にわたった。
彼女の声が僕以外に聞こえなかったり、容量が凄まじいのでスマホが彼女専用となり、買い換えることになったという不便な点もあったりするが、今ではもう、彼女は僕のパエトーンとしての活動にいなくてはならない存在となっている。
『今回もありがとうございました!報酬もいつも通り、払っておきますね!』
「あぁ、気を付けて帰るんだ。ブラックマーケットを出たとはいえ、この辺りの治安も決して良いとは言えないからね」
『はい、ではまた!』
トリニティ自治区へと帰るヒフミの背中をドローンで見送り、今回の依頼も無事達成ということになった。
『お疲れ様でした、マスター』
「Fairyもお疲れ様。ドローンを引き上げさせたら、今日の仕事は終わりだ」
ずっとパソコンの前にいるのは、流石に疲れるものだ。
最近は依頼も多くて懐も潤っているし、今日は少し贅沢でもしようか。
「Fairy、今日は少し贅沢をしようと思う。美味しいお店はあるかな?」
『でしたら、ミレニアムに最近できたレストランがオススメです。口コミの評判もよく、モモッターでも話題の人気店です。何より、美味しそうなデザートがお持ち帰りできます』
そう言って、瞳を輝かせているFairy。
実は彼女、デザート等を写真データとして読み込むことで、彼女自身もそれを味わうことができるらしい。なので、時々ねだられるのだ。
「それ、君が好きなだけじゃないか⋯⋯分かった。その店にしよう。デザートをお持ち帰りするから、好きなやつを選んでおいてくれ」
『ありがとうございます、マスター』
Fairy。最初は疑っていたが今ではもう、なくてはならない存在だ。
だから、そう。
「Fairy、これからもよろしく」
『はい。こちらこそ、よろしくお願いします。マスター』
この関係を、これからも維持していきたい。
心底、そう思った。
・Fairy
アキラのスマホにインストールされている記憶喪失のサポートAI。逃走ルートの構築や監視カメラのハッキング、ヘリの遠隔操作等の様々な仕事を担当している。
アキラの影響を受けて、若干人間味のある喋りになりつつある。
・アキラ(憑依)
Fairyのマスター。最初はFairyを疑っていたがめちゃくちゃ仕事ができるし、何よりパエトーンに近づけるのでサポート役として認めた。
今では、パエトーンとしての活動で彼女に頼らない日はない。