途切れた旋律の先で 作:ピックって高くね…?
久しぶりにプロセカを開いたらハウトゥー世界征服が追加されていて、昔プロットを作った小説の存在を思い出しました。こんな感じで限定的な追加ユニットとかあったら面白いなと思って書きました。
夜の渋谷は、いつもどこか人工的な光に包まれている。
けれど、その夜は不思議と静かだった。
大学の講義を終えて帰る途中、ふと遠くから漂ってきた歌声に、僕の足が止まった。
誰かが歌っている。
雑踏の隙間から、まっすぐに響く声。
澄んだ、けれどどこか懐かしい旋律。
そしてその曲を、僕は――知っていた。
“untitled”。
かつて、僕たち三人で作り上げた最初の、そして最後の曲。
完成することなく、タイトルもつけられないまま、藍の死とともに途切れたあの曲。
足が勝手に動いていた。
ビルの谷間を抜け、小さな公園へ入る。
街灯の下、ひとりの少女が立っていた。
ベージュがかった灰色の髪が夜風に揺れ、月の光を反射して淡く光る。
その瞳は、まるで深海の底を覗き込むような静けさを宿していた。
少女は僕に気づくと、歌をやめた。
マイクもスピーカーもない。ただ夜の空気に、声だけを溶かしていたようだ。
「……その曲、どうして知ってるんだ?」
喉が震えていた。
答えを聞くのが怖かった。藍以外の誰かが“あの曲”を歌っている現実が、信じられなかった。
少女は少しだけ微笑んで、首を傾げた。
「知らない。……でも、覚えてたの。ずっと前から、この歌だけは」
その言葉が、まるで記憶の底に沈んだ“セカイ”を掘り起こすように響いた。
「君は、誰?」
「IA。……歌が好きで、ここに来たの」
「IA……?」
聞いたことのない名前。けれど、どこかで見たような気がする。
銀髪が風に揺れるたび、海辺の光景が脳裏に浮かんだ。
——白い砂浜。波音。
——藍が笑いながら歌っていた、あのセカイ。
目の前の少女と、記憶の中のミクが重なっていく。
声が似ているわけじゃない。けれど、同じ“想い”を宿している気がした。
「ねえ、あなた……“音を探してる”顔をしてるね」
IAが僕の胸に手をあてるような視線を送る。
心の奥の奥まで、透かして覗き込むような目だった。
「“untitled”は、まだ終わってない。……あなたの中で、止まってるだけ」
その瞬間、視界が揺らいだ。
夜の街灯が、波のように歪んでいく。
地面のアスファルトが砂に変わり、風が潮の匂いを運んできた。
目を瞬くと、そこは――見覚えのある“海辺”だった。
だけど、以前のセカイとは違う。
昼の陽光ではなく、月の光に照らされた静かな世界。
波は穏やかに、白く光を散らしている。
「ここは……まさか……」
「ここは“月明かりのセカイ”」
IAが微笑む。
その声は波音と重なり、どこまでも優しく響いた。
藍が消えたあの日、確かに崩れたはずのセカイ。
けれど、そこに新しい“夜”の姿で蘇っていた。
「藍の……想い、なのか……?」
「いいえ。これは――あなたたちがまだ抱えている“願い”の形」
IAの髪が、月光に照らされて銀糸のように輝く。
その姿を見た瞬間、胸の奥に忘れかけた痛みが蘇った。
もう、二度と立てないと思っていた場所。
藍が笑っていた、あの音の中へ――
「……IA、君は一体……」
「私は、あなたたちの“音”に呼ばれたの。
Rebearlion――もう一度、生まれるために」
言葉の意味を理解する前に、世界が白く染まった。
気づけば僕は、再び夜の公園に立っていた。
足元には、海の砂のような白い粒が散らばっていた。
「……Rebearlion、か」
その名前を、どれくらい口にしていなかっただろう。
藍、棗、そして僕。三人で決めた、最初で最後のバンド名。
“再び生まれ変わる反逆者”――なんて大げさな意味をつけたのは藍だった。
夜風が頬を撫でた。
その向こうに、確かに彼女の歌声が残響していた。
——もう一度、生まれるために。
現在5話まで出来てます。限定イベントのストーリーの想定なので、10前後で終わると思います。