途切れた旋律の先で   作:ピックって高くね…?

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第4話 再び、鳴り始めた音

 

 開演を知らせるアナウンスが、ライブハウスの天井にこだまする。

 

 照明が落ちると同時に、客席のざわめきが一瞬にして静まり返った。

 

 そして――ギターのストロークが、空気を切り裂いた。

 

 

 最初に聞こえたのは、星乃一歌の歌声。

 

 まっすぐな声で、胸の奥のどこかに触れる。

 

 続いて、日野森志歩の低く響くベース、天馬咲希の柔らかなキーボード、そして望月穂波の確かなリズムが重なり、音がひとつになっていく。

 

 ――Leo/need。

 

その名前を、棗は何度か耳にしたことがあった。

 

 志歩の話の中でも、何度か出てきた「幼馴染の仲間たち」。

 

志歩の腕前から、実力は察していた。だが、ここまでとは。

 “幼馴染女子高生バンド”だと侮っていた自分が、恥ずかしくなるほどだった。

 

 四人が作り出す音は、粗削りながらもどこまでも真っ直ぐで、まるで互いの存在を確かめ合うようだった。

 

 その光景を、棗はじっと見つめていた。

 

 「……いいバンドだな」

 

気づけば、唇が小さく笑みを形作っていた。

 

 胸の奥が熱く、懐かしい何かが疼く。

 

 あの頃、誉と、藍と共に鳴らしていた音。

 

 ――もう戻らないはずの音が、今この場所で脈打っている気がした。

 

 

 ◇

 

 

 ライブが終わり、照明が落ちる。

 

 客席から拍手と歓声が湧き上がる中、出番を終えたメンバーが裏手から降りてくるのが見えた。

その中にLeo/needのメンバーがいるのに気が付く。その際志歩と目が合うと、こちらによって来る。

 

 「どうでした? 私たちの音」

 

 「……良かった。真っ直ぐで、嘘がない。……羨ましいぐらいだ」

 

 「ふふっ、そう言われると悪い気はしないですね」

 

 その笑顔が、以前よりずっと柔らかく見えた。

 

 ほんの少しだが、棗の胸の奥の冷たい塊が溶けていくのを感じた。

 

 

 ◇

 

 

 場所を変えファミレス。打ち上げのような空気の中、志歩に連れられて、棗はLeo/needのメンバーと顔を合わせた。

 

 

 「こちら、前に機材のことで手伝ってもらってた浅葉さん。ベースもちょっと見てもらってる」

 

 「へぇー! すごい、ベースの先生なんだ!」

と咲希が目を輝かせる。

 

 穂波は穏やかに微笑んで挨拶をし、一歌はどこか羨ましそうに志歩を見る。

 

 「先生か…いいなぁ志歩」

 

 「いいなって、どうしたの急に」

 

予想外の発言に、志歩は少し戸惑っているようだ。

 

 「星乃…でよかったか?星乃のギターは独学なのか?」

 

 棗が少し驚いたように聞くと、一歌は苦笑して肯定した。

 

 「一歌でいいですよ。……動画とかみて勉強はしてるんですけど、たまに自分の癖が抜けなくて。教えてくれる人がいたらなって思うんです」

 

 「確かにー!師匠とか弟子みたいで、わくわくするね!私も欲しいかも!」

 

 「咲希ちゃんは司さんとか、それこそお母さんがいるんじゃない?」

 

 そんな彼女たちのやりとりに、棗は少しだけ笑った。それを見て意外そうな顔をしながら、志歩は訊ねる。

 

 「浅葉さんは、誰かギター教えられる人に心当たりありませんか?」

 

 「まあ……いるには、いるが」

 

 「!本当ですか⁉︎」

 

 どこか渋い顔の棗の発言に、一歌が身を乗り出す。横で穂波が宥めているのを横目に、棗は思考を巡らせていた。

 

 心の中に、ひとりの顔が浮かぶ。

 

 ――誉。

 

 かつて、誰よりも真っ直ぐに“音”と向き合っていた男。

 

 そして、同じくらい壊れやすかった男。

 

 “俺たちは、もう一度話すべきなんじゃないか”

 

 そんな考えが、静かに胸の奥に芽を出していた。

 

 

 ◇

 

 

 帰り道、夜風が心地よい。

 

 ポケットの中のピックを指でなぞる。

 

 

 志歩たちが作り出す“今の音”を聴いて、久しぶりに、何かが前へ動いた気がした。

 

 

 ――壊れても、音は鳴らせる。

 

 あの頃信じていたものは、きっとまだどこかにある。

 

 きっかけは先ほどもらった。ならば…

 

 

 「……会うか、誉に」

 

 

 そう呟く声は夜に溶けたが、胸の奥では確かに響いていた。

 

 再び動き始めた“音”の調べが、彼を次のステージへと導こうとしていた。

 

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