途切れた旋律の先で   作:ピックって高くね…?

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第6話 再び、弦の上で

 

 

商店街のざわめきが遠のき、時間が止まったような静けさが訪れた。

 

 目の前には、昔と変わらぬ姿の誉。

 棗は息を飲み、言葉を探した。

 先に口を開いたのは、誉の方だった。

 

 「……久しぶり」

 

 その声は、懐かしくもどこか遠い。

 棗はわずかに頷いた。

 

 「ああ。まさか、こんな場所で会うとはな」

 

 「こっちの台詞だよ」

 

 互いに苦笑がこぼれる。

 長い時間の空白が、たった数語のやり取りで少しだけ埋まった気がした。

 むしろ、長い時間のおかげなのか。

 

 「一緒にいたのは、妹か?」

 

 「こはねだ。昔何回かあっただろう?」

 

 「…ああ、あの子か。……大きくなったな」

 

 誉の後ろについて回っていた、幼かった少女を思い出す。あれから、それだけの時が経ったのだと改めて実感した。

 

自分の話をしていることに気がついたのか、少し後ろに控えていた少女が誉の隣に並ぶ。

 

 「あ、あのっ!小豆沢こはねです。ごめんなさい…覚えてなくて」

 

 「気にしなくていい。俺たちが中学生の頃の話だ」

 

むしろ、覚えてなくてよかった。この様子では、藍のことも知らないだろう。

 

 「それで、そっちは……随分と面白いことになってるな。彼女たちは?」

 

 「ああ、バイト先の後輩とそのバンドメンバーだ。…色々あって、少し面倒見てる」

 

 「…そっか」

 

安心と、寂しさが混じった複雑な声音だった。

大方、まだ俺が音楽を続けていることについて、だろうか。

 

お前も、手放せてないだろうに。

 

視線を一瞬誉の手に落とした後、要件を思い出した。

 

 「誉。お前、ギターはまだ弾けるか?」

 

 「…ブランクはあるけど、一応ね。手入れはしてるし」

 

こはねは、Leo/needの面々と話題に花を咲かせている。少し耳を傾けると、どうやら元々友人関係にあるらしいことがわかる。

世間は狭い。

 

 「ギターの子が、先生を探しているらしい。頼めないか?」

 

 「僕が…?棗でも出来るだろう、ギターなら」

 

確かに誉の影響で、ギターは多少なら弾ける程度には知っている。でも、

 

 「俺はお前以上の腕の奴は知らない」

 

 「っ…褒めても何も出ないぞ」

 

 「本心だ」

 

俺にとっては、どんなプロの高度な演奏よりも、誉のギターが一番だった。

 

藍もそうだった。

 

 「…わかった。大学の講義と被らなければ手伝うよ」

 

 「助かる。悪いな」

 

 「いいよ。それに、僕も棗と話しておきたいことがあったし」

 

その言葉に少し驚く。誉の方を見ると、ほんの少しだけ、かつての面影を感じた。バンドをしていた頃の、あの雰囲気が

 

 「…話って?」

 

 「その話はまた今度にするさ。…それで、ギターの子はあの黒髪の子かな?」

 

 「ああ、星乃だ。よくわかったな?」

 

 「このくらいはね。…棗が面倒見るくらいだ、少し気合いを入れないと」

 

そう言って、妹の荷物を持ち直すと歩みを進めた。

 

昔と変わらず、自分を認めてくれていることを嬉しく思う。それと同時に、何かを決心した様子の誉と今の自分を比べ、少し引け目を感じた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

あの後、棗の紹介でLeo/needの面々に挨拶をし、ショップの中で簡単なアドバイスと、手入れの道具について選び方のコツをレクチャーした。

 

 「今日はありがとうございました!」

 「ごめんなさい。結局夕方まで付き合わせてしまって…それに私のドラムまで」

 

 「いいさ。妹の友人にくらい良い顔をさせてくれ」

 

実際、とても良い子たちだった。貪欲に学ぼうとする気概もあるし、かつての自分を見ているようで懐かしかった。

 

本当に、懐かしかった。

 

 「また何か聞きたいことがあれば、いつでも連絡してくれていい。こはねや棗経由でもいいから」

 

きっと棗も、こんな気持ちだったのだろう。

懐かしくて、眩しくて___どうしようもなく苦しくなる。

彼女たちにそんな思いをさせたくないから、こうして目をかけるのだろう。

 

 「あの、もしよろしければ、今度の音楽イベントにいらしてください。私たちも出させていただくことになってるんです」

 

 「あ!これ、私たちのユニットも出るやつだ」

 

 「ええ⁉︎こはねちゃんたちも出るの⁉︎」

 

なにやら盛り上がりを見せる少女たちを横目に、反対側に立つ棗を見る。

向こうもこちらを見るなり、肩を竦めて嘆息した。あんな態度をしているが、棗は間違いなく行くだろう。

 

 「わかった、行かせてもらうよ。こはねとも約束したしね」

 

まあ、彼女たちのあの笑顔を見れば、悪い気はしない。単純に興味もある。

 

だからその前に、大事な用を済ませよう。

 

 「…棗」

 

 「…さっきの件か?」

 

雰囲気が変わったのを感じ取ったのだろう。棗も姿勢を正し、こちらを向く。

 

 「今夜時間取れるか?話したいことがある」

 

 「わかった。場所は__」

 

 「__セカイに来てくれ」

 

 「……は?」

 

耳を疑った、何を言われたのか理解出来ないような、そんな反応だった。

逆の立場なら僕でもそう思うだろう。

 

あの日から僕らの間で、"セカイ"という言葉は禁句のようなものだった。

あえて、今回それを口にした。

 

 「こはね、帰るよ」

 

 「あ、うんっ!みんなまたね!」

 

もうここで告げることはない。放心した様子の棗に背を向ける。

 

 「…っ、誉!」

 

我に返った棗に名前を呼ばれるが振り返らない。

予期せぬ出会いだった。このまま話してしまえば、要らぬことを口にしてしまいそうだから。

 

心配そうにこちらを見上げるこはねの頭を撫でながら、今夜に向けて決意を固めていた。

 

 

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