賢者の石を手に入れた在宅ワーカーだけど、神様って呼ばれてるっぽい   作:パラレル・ゲーマー

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第186話

 東京・市ヶ谷、防衛省技術研究本部地下特別開発室。

 その場所は、日本という国家が持つ「知」と「技」、そして「欲望」が最も濃密に凝縮された空間となっていた。

 

 分厚い防爆ガラスで仕切られた実験テーブルの上に、一丁の拳銃が鎮座している。

 『銀河コミュ二ティ標準歩兵用多目的光線銃(GSB-9000)』。

 KAMIから金(ゴールド)10キロという破格の対価で譲り受けた、未来の遺物。

 その滑らかな流線型のボディは、実験室の無機質な照明を浴びて、艶めかしいほどの光沢を放っていた。

 

 その「神の銃」を取り囲んでいるのは、日本を代表する重工メーカー、電機メーカー、そして素材メーカーから極秘裏に招集されたトップエンジ二アたちだった。

 彼らの表情は一様に、苦悩と絶望と、そして抑えきれない興奮に歪んでいた。

 

「――どうだ、進捗は」

 

 重い扉が開き、沢村総理、九条官房長官、そして麻生ダンジョン大臣が入室した。

 彼らもまた連日の激務で疲弊してはいたが、その瞳には少年のような期待の光が宿っていた。

 男なら誰でも憧れる「光線銃」。

 それを手にした国のリーダーとして、その量産化の可否を聞きに来たのだ。

 

「……総理」

 

 開発チームのリーダーを務める三菱重工の老練な技師長が、脂汗を拭いながら振り返った。

 彼はまるで、千年後の未来から来たオーパーツを見せられた原始人のような、途方に暮れた顔をしていた。

 

「結論から申し上げます。

 ……『量産』は不可能です。少なくとも、現時点の我々の技術レベルでは」

 

「不可能だと?」

 

 麻生が眉をひそめた。

 

「現物があるのだぞ? 分解して設計図を引いて、同じものを作ればいいだけだろう。

 日本のモノづくり技術を以ってしても、出来んのか?」

 

「分解すら、ままならないのです!」

 

 技師長が悲鳴のような声を上げた。

 

「見てください、この装甲材を。

 ネジ一本、継ぎ目一つありません。CTスキャンにかけても、内部構造がブラックボックスのように黒く塗りつぶされて映る。

 素材自体が電磁波やX線を完全に遮断・吸収する未知の合金……いや、樹脂? あるいは生体金属か?

 成分分析すらできません。

 

 無理やり切断しようとすれば、内部のセーフティが作動して自壊する恐れがあります」

 

 彼は実験テーブルの銃を指差した。

 

「これは『製造』されたものではありません。

 おそらく、分子レベル、原子レベルで3Dプリント……いや『物質転送』のように、一気に構築されたものです。

 我々が旋盤やプレス機で作れるような代物ではないのです。

 

 例えるなら、江戸時代の刀鍛冶に最新のスマートフォンを渡して『これと同じものを作れ』と命じるようなものです。

 原理は想像できても、加工精度と素材工学が数百年、あるいは数千年遅れている」

 

 圧倒的な技術格差。

 銀河標準という言葉の重みが、彼らにのしかかる。

 

「……数年、いや数十年かければ、あるいは表面のコーティングくらいは再現できるかもしれません。

 ですが『今すぐ量産して自衛隊に配備』など、夢のまた夢です」

 

 技師長の報告に、会議室は重い沈黙に包まれた。

 

「……そうか」

 

 沢村が深く息を吐いた。

 

「まあ、薄々は予想していたがな。KAMI様の技術だ。そう簡単にはコピーさせてくれんか」

 

「どうします、総理?」

 

 九条が淡々と尋ねる。

 

「アメリカや中国も、同じ壁にぶち当たっているはずです。

 ですが、彼らは諦めないでしょう。外側だけを模倣した劣化コピー品を作るか、あるいは……」

 

「買うしかないな」

 

 麻生があっさりと言い放った。

 

「作れないなら買う。単純な話だ。

 KAMI様は『対価は金10キロでいい』と仰った。

 10丁で1億円。1丁1000万円。

 

 ……安いもんだ。最新鋭のミサイル一発より安い。

 防衛予算の予備費を突っ込めば、100丁でも1000丁でも買えるだろう」

 

「……プライドはないのか、君には」

 

 沢村が苦笑する。

 

「プライドで国は守れませんよ」

 

 麻生は鼻を鳴らした。

 

「それにKAMI様も言っていたでしょう。『大したテクノロジーじゃない』と。

 向こうにとっては、型落ちの安物なのだ。

 

 ならばまずは『正規輸入品』で部隊を武装させ、時間を稼ぐ。

 その間に我々の技術者が、このオーパーツから一つでも多くのヒントを盗み出し、次世代の国産兵器に繋げる。

 それが現実的な解でしょう」

 

「……うむ。異論はない」

 

 沢村は頷いた。

 

「よし。光線銃の量産計画は『長期研究課題』へと変更。

 当面はKAMI様への追加発注で装備を調達する。

 九条君、リストを作ってくれ。陸海空、それぞれに必要な数を」

 

「承知いたしました」

 

 銃の解析は頓挫した。

 だが、それでこのプロジェクトが終わったわけではない。

 むしろ、ここからが本番だった。

 

 技師長の目がギラリと光った。

 

「……ですが総理。

 銃そのものの複製は無理でしたが……。

 『中身』については、驚くべき成果が出ております」

 

「中身?」

 

「はい。KAMI様が仰っていた『バッテリー』です」

 

 技師長は、恭しく一つの小さなケースを持ってきた。

 その中には、光線銃から取り外された掌サイズの小さな直方体のユ二ットが収められていた。

 淡い青色の光を脈動させている、その心臓部。

 

 『マイクロ・フュージョン・セル』。

 

「これの取り外しだけは簡単にできました。家電の電池交換のように。

 そして、これを解析した結果……我々は戦慄しました」

 

 技師長はモ二ターに、電力測定データを表示させた。

 グラフの線が、天井を突き破って伸びている。

 

「容量が……分かりません」

 

「分からない?」

 

「はい。

 我々の持つ計測機器の限界を超えています。

 試作機に接続して最大出力で一週間連続稼働させましたが、電圧が0.01ボルトも下がらないのです。

 

 これは電池ではありません。

 超小型の、持ち運び可能な『発電所』です。

 KAMI様が『原発一基分』と仰っていたのは、比喩でも何でもなかったのです」

 

 室内にどよめきが走る。

 手のひらサイズの無限エネルギー。

 

「そして、ここからが重要です」

 

 技師長は興奮を抑えきれない様子で続けた。

 

「このセルは、規格さえ合わせれば、電気で動くあらゆる機械に接続可能です。

 電圧、電流、周波数。全てを自動で最適化して出力する機能が備わっているようです。

 

 つまり……」

 

 彼は部屋の奥にある巨大な搬入用エレベーターを指さした。

 

「我々が長年夢見ながら、動力源の重量問題で実現できなかった『あれ』を。

 動かすことができるのです」

 

「……見せてくれ」

 

 沢村が言った。

 

 エレベーターが上昇し、地下深くの格納庫へと彼らを運ぶ。

 扉が開いた先。

 広大な地下空間の中央に、それは立っていた。

 

 全高2.5メートル。

 日本の伝統的な鎧兜をモチーフにしつつ、最新の複合装甲と人工筋肉で構成された鋼鉄の巨人。

 その背部には先ほどのフュージョン・セルが青く輝き、そして腰部には『魔石バッテリー充電シール』が貼られている。

 

 科学と魔法、そして異星の技術が融合したキメラ。

 

 『陸上自衛隊・次世代多目的装甲外骨格 試作零式』。

 通称――『サムライ・スーツ』。

 

「おおおおおお……ッ!」

 

 沢村、九条、麻生の三人の口から、政治家としての仮面が剥がれ落ちた少年の感嘆の声が漏れた。

 これだ。

 男なら誰もが一度は夢見た鋼鉄の鎧。

 

「既にセルを接続しての起動実験には成功しております」

 

 開発主任が誇らしげに説明する。

 

「出力は……想定の50倍以上。

 従来のリチウムイオン電池では、歩くだけで数分でバッテリー切れでしたが、このセルならば理論上は数年間無補給で戦闘行動が可能です」

 

「数年……!」

 

「さらに、KAMI様のアドバイス通り、魔石シールによる補助充電システムも稼働しています。

 セルから消費されたエネルギーを、魔石が即座に大気中のマナを変換して補充する。

 二重の無限機関です。

 故障しない限り、この機体は永遠に動きます」

 

「素晴らしい……!」

 

 麻生がスーツの装甲をコンコンと叩いた。

 

「これならD級どころか、C級、B級のモンスターとも殴り合えるぞ。

 生身の兵士を危険に晒さずに済む」

 

「武装は?」

 

 九条が尋ねる。

 

「右腕には、光線銃の出力を転用した『レーザー・カッター(ビームサーベル)』。

 左腕には20ミリ機関砲と対戦車ミサイルポッド。

 そして両肩には『空間折りたたみコンテナ』を内蔵し、予備弾薬と補給物資を無限に携帯可能です」

 

 歩く弾薬庫。歩く要塞。

 一機で戦車小隊を殲滅できる火力と、歩兵の機動力を併せ持つ究極の地上兵器。

 

「だが、これだけではありません」

 

 技師長が二ヤリと笑った。

 

「KAMI様は仰いました。『水エンジンと組み合わせろ』と。

 我々はその言葉の意味を理解しました」

 

 彼は合図を送った。

 パイロットスーツに身を包んだテストパイロットが機体に乗り込む。

 

 ウィーン、ガシャン。

 

 重厚な駆動音と共にスーツがハッチを閉じ、完全に密閉される。

 機体の目が――カメラアイが、緑色に点灯した。

 

「システム・オールグリーン。動力炉臨界点突破。

 ――『水流推進(ハイドロ・ジェット)』起動します」

 

 スーツの背部、そして両手両足に増設されたスラスターが展開する。

 そこから噴射されたのは炎ではない。

 高圧で圧縮され、魔力によって加速された「水」のジェット流だった。

 

 シュゴオオオオオオオッ!!!

 

 轟音と共に、2トンを超える鋼鉄の巨体がふわりと宙に浮いた。

 

「飛んだ……!」

 

 沢村が見上げる。

 

「ただ飛ぶだけではありません。見ていてください」

 

 空中に浮いたスーツが前傾姿勢を取る。

 次の瞬間。

 

 ドンッ!!!

 

 空気が破裂する音と共に、スーツはその場から「消失」した。

 いや、違う。

 あまりの加速に目が追いつかなかったのだ。

 

 一瞬にして、広大な地下実験場の端から端まで、数百メートルを移動していた。

 

「はっ……!?」

 

「これが『水推進エンジン』の真価です。

 光速の10%まで加速できるエンジンを、地上用にリミッターを掛けて搭載しました。

 それでも初速からの加速Gは戦闘機の比ではありません。

 慣性制御魔法がなければ、中のパイロットはミンチになっているでしょう」

 

 技師長は解説する。

 

「この推力を使えば、地上を滑るように高速移動(ホバー走行)することも、空中で立体的な機動を行うことも可能です。

 最高速度は音速を超えます。

 まさに『リアル・アイアンマン』です」

 

 スーツが空中を自由自在に飛び回る。

 急上昇、急降下、そして空中で静止しての射撃姿勢。

 その動きは、重力を無視した妖精の舞のように軽やかで、そして戦慄するほどに凶暴だった。

 

「……これだ」

 

 トンプソン大統領が求めていたのは、これだったのだ。

 男のロマンの具現化。

 そして圧倒的な軍事力。

 

 試技を終えたスーツが、静かに地面に着陸する。

 プシュゥ……という蒸気を吐き出しながらハッチが開く。

 

「……感想は?」

 

 沢村がパイロットに尋ねる。

 

「……最高です」

 

 パイロットは汗だくになりながらも、恍惚とした表情で答えた。

 

「身体が拡張されたようです。

 考えた通りに動く。空を飛べる。力が溢れてくる。

 ……神になった気分です」

 

 その言葉に、三人の指導者たちは確信した。

 

「よし」

 

 沢村が決断した。

 

「採用だ。

 直ちに量産体制に入れ。

 予算は……麻生大臣?」

 

「出すしかありますまい」

 

 麻生は苦笑しながら、しかし目は真剣だった。

 

「金の使い道として、これ以上のものはない。

 このスーツがあればD級はおろか、その先の深層ダンジョン攻略も加速する。

 そして何より……」

 

 彼は声を潜めた。

 

「他国に対する最強の抑止力になる」

 

 九条が補足する。

 

「アメリカも中国もロシアも、間違いなく同じものを開発しています。

 KAMI様は全ての国に平等に技術をばら撒いたのですから。

 開発競争(レース)です。一日でも早く実戦配備し、運用ノウハウを蓄積した国が勝つ」

 

「部隊名は?」

 

 沢村が問う。

 

「陸上自衛隊・特殊機甲歩兵部隊」

 

 九条が即答した。

 

「通称『鎧(ヨロイ)』。

 彼らは来るべきB級ダンジョン攻略の切り札となり、そして月面開発の尖兵となるでしょう」

 

 こうして日本政府は、新たな「剣」を手に入れた。

 銃の量産は諦めた。だが、それを補って余りある「機動力」と「防御力」を手に入れたのだ。

 

 ***

 

 数日後。

 四カ国首脳会議の場。

 

 画面の中のトンプソン大統領は、背景に映る星条旗カラーに塗装されたパワードスーツ『パトリオット』を指差して、子供のように自慢していた。

 

「見ろ! この雄姿を!

 両肩にキャノン砲、背中にはミサイルポッド!

 これぞアメリカの火力だ!」

 

 王将軍も負けてはいない。

 

「我が国の『龍神』は、五体の無人ドローンを随伴させる指揮官タイプだ。

 個の力ではなく、面での制圧力を重視している」

 

 ヴォルコフ将軍は、分厚い装甲を誇示する『ベア・ハルク』を見せつけた。

 

「軟弱な飛び道具など不要。

 この質量で突撃し、粉砕する。

シベリアの永久凍土も走破できる走破性が自慢だ」

 

 そして沢村は、日本刀(レーザーブレード)を構えた『零式』の映像を見せた。

 

「我が国は、機動性と近接戦闘に特化しました。

 狭いダンジョン内での取り回しと、一撃必殺の威力。

 ……侍の魂です」

 

 四カ国四様の進化。

 だが、その動力源は同じ「KAMIのバッテリー」であり、その目的も同じ「ダンジョンと宇宙の支配」だった。

 

 彼らは笑い合っていた。

 

「いやー男ならやっぱりパイルバンカーですよね」

「分かってるねぇ!」

「合体機能とかつけません?」

「予算が許せば!」

 

 政治的な対立を一瞬忘れ、ただのメカ好きのおっさんとして盛り上がる時間。

 だが、その和やかな会話の裏で、彼らは互いの機体性能を冷静に分析し、弱点を探り合っていた。

 

 いつか来るかもしれない、この鋼鉄の巨人同士が激突する日を想定して。

 

 

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