賢者の石を手に入れた在宅ワーカーだけど、神様って呼ばれてるっぽい   作:パラレル・ゲーマー

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第208話

 午後九時。

 日本のリビングルームを支配するゴールデンタイム。

 

 この日、主要テレビ局の一つである『JBCニュース・プライム』は、通常の番組編成を変更し、二時間の緊急特番を放送していた。

 

 番組タイトルは、画面いっぱいの金色のテロップで、こう踊っていた。

『緊急特集:人類の夜明け! ムー大陸がもたらした“奇跡”と“未来”へのロードマップ』

 

 スタジオには、ベテランのニュースキャスターである工藤と、人気女性アナウンサーの有働。

 そしてゲスト席の中央には、今や「時の人」となった黒ジャケットにサングラスの男――

 月刊『ムー』編集長、三神が、どこか誇らしげに座っていた。

 

「こんばんは。JBCニュース特番の時間です」

 工藤キャスターが重厚な声で切り出した。

 

「先日の『ムー大陸浮上』から一週間。

 あの天空に浮かぶ巨大な島は、我々人類に計り知れない衝撃と、そしてかつてない『希望』をもたらしました。

 今夜は、現地調査団の主要メンバーとして帰還された三神編集長をお招きし、

 その知られざる舞台裏と、これからの世界について徹底解剖していきます」

 

「よろしくお願いします」

 三神が軽く頭を下げる。

 

「いやあ、まさか『ムー』の編集長が、オカルト番組じゃなくて報道特番のセンターに座る日が来るとはね。

 長生きはするもんです」

 

「ははは。今や貴誌は『予言書』とも呼ばれていますからね」

 工藤が笑い、そして表情を引き締めた。

 

「さて、まずは世界中が涙した、あの“奇跡”の話題からです。

 ムー大陸のテクノロジーによって実現した、福島とチェルノブイリの完全浄化。

 その現地取材の映像が入っています。ご覧ください」

 

 画面が切り替わる。

『VTRスタート』のテロップと共に、静かなピアノのBGMが流れる。

 

 映し出されたのは、福島県・大熊町。

 かつて帰還困難区域として、バリケードで封鎖されていた場所だ。

 

 だが今、そこにバリケードはない。

 防護服を着ていない人々が、自分の家のあった場所で土を手に取り、空気を吸い込んでいる。

 

 ナレーションが語る。

『止まっていた時計が動き出しました。

 数万年かかると言われた放射能の減衰。

 それが謎の超古代AI“マザー・キーパー”から供与された浄化技術によって、わずか数時間で完了したのです』

 

 カメラは、涙を流しながら家の柱を撫でる高齢の男性にズームする。

「もう二度と戻れねぇと思ってた……。

 死ぬ前に、ここでまた畳の上で眠れるなんて……夢のようだ」

 

 そして画面には、現地を訪れていた三神の姿も映った。

 彼はガイガーカウンター(数値は0.04μSv/hという驚異的な低さを示している)を片手に、

 感慨深げにカメラに語りかけていた。

 

『……信じられませんね。

 つい昨日まで、ここは死の土地でした。

 ですが見てください。数値は東京の公園と変わりません。

 土の匂いがします。風が優しいんです』

 

 三神は、サングラスの奥の目を潤ませながら空を見上げた。

 

『KAMI様がいなかったら、我々は今のこのフクシマの土地を踏めていなかった。

 ムー大陸への道を開き、マザー・キーパーとの対話を仲介してくれた、あの御方の“気まぐれ”に……いや“慈悲”に。

 一人の日本人として、心から感謝します』

 

 スタジオに戻る。

 有働アナウンサーが目を赤くしながら、鼻をすすっていた。

 

「……すみません。何度見ても、こみ上げてくるものが……」

 

「ええ、分かります」

 工藤も深く頷いた。

 

「三神さん。現場の空気は、やはり違いましたか?」

 

「違いましたね」

 三神は力強く答えた。

 

「単に数値が下がっただけじゃない。

 人々の『心の重し』が取れた、そんな軽やかさがありました。

 科学と魔法が融合した『浄化の光』。

 あれこそが、本当の意味での復興の光なんでしょう」

 

「そして奇跡は、日本だけではありません」

 工藤がパネルをめくった。

 

「ロシア/ウクライナのチェルノブイリ。通称“ゾーン”と呼ばれた立入禁止区域でも、劇的な変化が起きています」

 

 再びVTR。

 今度は、広大な平原が広がる。

 

 そこには巨大なトラクター(軍用車両を改造したものだ)が列をなし、

 かつて汚染されていた大地を力強く耕している様子が映し出された。

 

『死の大地が、黄金の穀倉地帯へ。

 ロシア/ウクライナ政府は、浄化された土地での大規模農業計画を発表。

 来年には、ここで収穫された小麦が世界中の食卓に届くことになるでしょう』

 

 インタビューに応えるロシア/ウクライナの農夫が、満面の笑みで語る。

「魔石肥料も使うそうだ!

 ここで育つ作物は、きっと世界一栄養価の高いものになるぞ!

 スパシーバ、ムー!」

 

 スタジオは明るい雰囲気に包まれた。

 

「素晴らしいですね」

 有働アナが微笑む。

 

「負の遺産が未来の資源に変わる。

 まさに人類史の転換点です」

 

「ええ」

 三神が補足する。

 

「ただし、この技術は核開発の助長にも繋がりかねない、諸刃の剣です。

 だからこそ、四カ国が厳重に管理するという体制が敷かれました。

 『掃除機があるから汚してもいい』とはならない。

 その強い意志が必要ですね」

 

 CMを挟み、次のコーナーへ。

 テロップが変わる。

 

『全知全能の図書館!? アカシックレコードの衝撃』

 

「さて次は、少しミステリアスな話題です」

 工藤がフリップを出した。

 

「ムー大陸のピラミッド内部に存在するとされる『アカシックレコード』。

 三神さん、これは一体どういうものなんでしょうか?」

 

「一言で言えば、『地球の全記憶データ』です」

 三神が解説する。

 

「過去にこの星で起きた、あらゆる出来事、歴史、知識が保存されています。

 しかも、ただの映像や文字じゃない。

 専用のインターフェースを通すことで、当時の空気を、匂いを、感情を、

 まるでその場にいるかのように『体験』できるんです」

 

 スタジオから「ええーっ!?」という驚きの声が上がる。

 

「体験ですか?」

 有働アナが目を丸くする。

 

「つまり、織田信長の本能寺の変とか、坂本龍馬の暗殺シーンとかを、目の前で見られると?」

 

「その通りです」

 三神はニヤリとした。

 

「私も少しだけ体験しましたが……凄まじいですよ。

 教科書に書いてあることが、いかに断片的か思い知らされます。

 『実はあの時、雨が降っていた』とか、

 『群衆は怒っていたのではなく、怯えていた』とか。

 歴史の真実が、そこにあるんです」

 

「それは……歴史学者にとっては、喉から手が出るほど欲しいものでしょうね」

 

「ええ。ですが」

 三神の表情が引き締まる。

 

「同時に、極めて危険なものでもあります。

 あまりにリアルすぎて、戻ってきたくなくなるんです。

 『現実(いま)より、過去(あそこ)の方がいい』と、精神が向こう側に囚われてしまう。

 これを我々は『情報の毒』と呼んでいます」

 

「なるほど……。だからこそ一般公開はされていないわけですね」

 

「はい。

 現在、四カ国主導で『特別調査員』の選抜が始まっていますが、

 その基準は宇宙飛行士の選考よりも厳しいと言われています。

 

 強靭な精神力、高い倫理観、そして何より『現実に帰ってくる強い意志』を持つ者だけが、

 あの図書館の閲覧を許される。

 

 一部からは『情報の独占だ』という批判もありますが、

 私はこの厳格な管理体制に一定の理解を示しています。

 あれは素人が触れていい代物じゃありません」

 

「夢のような装置ですが、リスクもある。

 やはり神の遺産というのは、一筋縄ではいかないものですね」

 工藤がまとめる。

 

 そして番組は、後半の技術解説パートへと移った。

 スタジオに精巧なCG模型や、模型のサンプルが運び込まれる。

 

『夢の技術が目白押し! ムー・テクノロジー図鑑』

 

「では、ここからは私たちの生活を、どう変えるのか。

 具体的な技術を見ていきましょう」

 有働アナが、輝く銀色の金属片(のレプリカ)を指差す。

 

「まずはこれ、『オリハルコン』!

 伝説の金属ですが、実際はどんなものなんですか?」

 

「これは『魔力伝導率』が異常に高い金属です」

 三神が解説する。

 

「今までの家電製品は電気で動いていましたが、

 これを使えば『魔力で動く家電』が作れます。

 バッテリー切れの心配がないスマホ、排ガスを出さない車。

 エネルギー効率が劇的に向上し、CO2排出量は激減するでしょう。

 まさに『産業革命2.0』の鍵となる素材です」

 

「次にこれ、『海水淡水化プラント』」

 パネルには、海水を吸い込み、真水を吐き出す巨大な施設の図解。

 

「水不足に悩む国々にとっては、救世主のような技術ですね」

 

「はい。

 中東やアフリカでは、既に日本企業のプラント建設が決まっています。

 『水争い』という言葉が、歴史の教科書だけのものになる日も近いかもしれません」

 

「そして極めつきは……『重力制御システム』!」

 画面には、タイヤのない車が道路から数十センチ浮いて、滑らかに走るイメージ映像が流れる。

 

「浮いてますね! これ、本当にできるんですか?」

 

「理論上は可能です」

 三神が頷く。

 

「空飛ぶ車とまではいきませんが、

 地面効果を利用した『ホバーカー』なら、数年以内に実用化されるでしょう。

 道路の舗装がいらなくなるし、渋滞も立体的になって解消される。

 物流コストが下がれば物価も安くなる。

 私たちの生活風景が、SF映画のように様変わりするはずです」

 

 スタジオの興奮は最高潮に達した。

 明るい未来。豊かな生活。

 

 それらが絵空事ではなく、手の届く「予定調和」として提示されているのだ。

 

「……いやあ、ワクワクしますね」

 工藤が少年のように目を輝かせた。

 

「こんな技術が、あのアメリカ大陸ほどの広さを持つムー大陸には眠っていたわけですか」

 

「ええ。ですが」

 三神が意味深長に人差し指を立てた。

 

「ここだけの話ですが……。

 今回、我々が持ち帰ったのは、あくまでマザー・キーパー(管理AI)が

 『お前たちには、これくらいで丁度いい』と判断して渡してくれた、

 ほんの一部のお土産に過ぎないと言われています」

 

「えっ!? これだけ凄いのに、まだ一部!?」

 有働アナが絶句する。

 

「はい。

 向こうには、不老不死に近い医療技術や、恒星間航行を可能にするエネルギー機関、

 さらには時間制御に関する理論など……。

 我々の想像を遥かに超える『神の如き技術』が、まだロックされた状態で眠っている可能性があります」

 

 テロップが出る。

『人類がもっと“利口”になったら、もっと貰えるかも!?』

 

「マザー・キーパーは言いました。『お前たちはまだ野蛮だ』と。

 逆に言えば、我々人類がもっと精神的に成熟し、争いをやめ、環境を守り、

 真に知性ある種族へと進化できれば……。

 彼女は次の扉を開いてくれるかもしれません」

 

 三神はカメラを真っ直ぐに見据えた。

 その言葉は、テレビの前の数億人の視聴者へのメッセージだった。

 

「これは、KAMI様とムーからの『宿題』なんです。

 『力を正しく使えるか、見せてみろ』と試されている。

 

 今回の浄化技術も、もし我々が兵器転用して戦争を始めれば、

 彼女らは失望し、二度と手を差し伸べてはくれないでしょう。

 

 逆に、これを平和のために使いこなし、世界をより良くすることができれば……。

 人類には無限の可能性が約束されているんです」

 

 スタジオに静かな感動が広がった。

 単なる技術の紹介ではない。

 

 それは人類全体へのエールであり、挑戦状でもあった。

 

「……なるほど」

 工藤が深く息を吐いた。

 

「私たちは今、大きなテストを受けている最中なんですね」

 

「そうです。カンニングは通用しません。

 KAMI様は全て見ていますからね」

 三神が笑った。

 

「分かりました。

 まずは目の前の技術を大切に、正しく使っていくこと。

 そしていつか胸を張って『私たちは成長しました』と報告できるように、

 一人一人が意識を変えていくこと。

 それがムー大陸への一番の恩返しになるのかもしれません」

 

 番組のラスト。

 エンディングテーマと共に、美しく浄化された福島の風景と、

 夕日に輝くムー大陸の映像がバックに流れる。

 

「今夜は『ムー大陸と人類の未来』についてお送りしました。

 三神さん、最後に一言お願いします」

 

 三神はサングラスの位置を直し、ニヤリと笑った。

 

「人類はまだ冒険の途中です。

 空へ、海へ、そして心の奥底へ。

 未知はまだまだ残されています。

 

 KAMI様の掌の上かもしれませんが……精一杯、良いプレイを見せてやりましょう。

 未来は思ったより明るいですよ」

 

「ありがとうございました!」

 キャスターたちが頭を下げる。

 

 カメラが引き、スタジオ全体の輝きがフェードアウトしていく。

 

 テレビの前の人々は、誰もが少しだけ上を向いていた。

 明日への希望。

 

 それは、どんな魔法よりも強く、人々の心を動かしていた。

 浄化された空の下で、人類は新たな一歩を踏み出そうとしていた。

 

 

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