賢者の石を手に入れた在宅ワーカーだけど、神様って呼ばれてるっぽい 作:パラレル・ゲーマー
【緊急速報】四カ国「神前会議」の議事録全文流出か
20XX/XX/XX 08:30 Global News Network
本日未明、内部告発サイト『アビス・リークス』上に、日米中露四カ国首脳による最高機密会議(通称:神前会議)の議事録と思われる膨大なデータファイルが公開された。
真偽は不明だが、内容の具体性と、これまでのKAMIによるダンジョン運営方針との合致から、信憑性は極めて高いと見られている。
公開された文書の中で最も世界を震撼させているのは、先日、YouTuber、ガルド氏が発掘し、即座に四カ国によって買い上げられた『S級魔石』の真の用途に関する記述である。
文書によれば、S級魔石は単なるエネルギー源ではなく、以下の三つの「奇跡」を引き起こすための触媒(消耗品)であるとされる。
『万能修復液(リペア・エリクサー)』
あらゆる物質(兵器、インフラ、歴史的遺産)を、時間を巻き戻すかのように新品同様に修復する。
『広域気象制御石(ウェザー・コア)』
指定地域の天候を、長期間にわたり完全に支配・固定する。
『身代わりの聖石(サクリファイス・ストーン)』
所持者が致死的なダメージ(暗殺、事故、爆撃など)を受けた際、因果律を改変してその「死」を無効化し、無傷で蘇生させる。
特に第三項『身代わりの聖石』の存在は、世界中の権力者、富裕層、そして独裁者たちの間に、核兵器以上の衝撃をもって受け止められている。
「500億円で命が買える」。
その事実は、これまでの安全保障と生命倫理の概念を根底から覆すものである。
四カ国政府は本件に関して「ノーコメント」を貫いているが、水面下では激しい情報統制と、他国からの猛烈な突き上げが始まっている模様だ。
***
■ 大規模匿名掲示板『ダンジョンちゃんねる』
【悲報】上級国民ついに不死身になる【身代わり石】
1: 名無し探索者
おいおいおいおい!
リーク見たか!?
S級魔石の中身、ヤバすぎだろ!
2: 名無し探索者
「身代わりの聖石」……。
死んでも生き返るとか、チートにも程があるだろ。
しかも500億?
金持ちなら余裕で払える額じゃねーか。
3: 名無し探索者
これで独裁者は暗殺におびえる必要がなくなったわけか。
核のボタンを押すハードルが下がったな。
「俺は死なないから撃っていい」ってなるぞ、これ。
4: 名無し探索者
いや、軍事利用の「万能修復」もエグいぞ。
空母が撃沈されても液かければ元通りってことだろ?
消耗戦の意味がなくなる。
資源を持ってる国(つまり4カ国)が無限に戦えるクソゲーの始まりだ。
5: 名無し探索者
気象制御も地味にヤバい。
敵国の首都に一生台風停滞させるとかできるんだろ?
兵糧攻め最強じゃん。
6: 名無し探索者
ガルド……。
お前、とんでもないパンドラの箱を開けちまったな。
2500億で売ったのは正解だったかもしれんが、世界を滅ぼす鍵を渡しちまったぞ。
7: 名無し探索者
4カ国だけがこのチートアイテムを独占してるってのが一番の恐怖だよな。
他の国はどうすんだ、これ。
「お友達」になって、おこぼれをもらうしかないのか。
8: 名無し探索者
世界は4つに分割されました。
めでたしめでたし。
***
その日の東京・永田町。
首相官邸の地下深くにある危機管理センターは、文字通り「戦場」と化していた。
物理的な砲弾が飛び交っているわけではない。
だが、世界中から殺到する通信回線という名の絨毯爆撃が、日本の外交機能を麻痺寸前にまで追い込んでいたのである。
執務室の電話は鳴り止まない。
専用のホットライン、暗号化された外交回線、果ては沢村総理の私用携帯に至るまで、ありとあらゆるルートを通じて「彼ら」からのメッセージが届いていた。
「――総理! フランス大統領から緊急入電です!
『核汚染除去の借りは返す。だからS級魔石を一つ、いやカケラでもいいから融通してくれ』と!」
「イギリス首相からもです!
『日英同盟の絆を信じている。我が国の王室のために身代わりの石が必要だ。値段は問わない』とのことです!」
「サウジアラビア皇太子より親書!
『500億? 安い。我々は1兆出そう。即金だ。今すぐ石を送れ。さもなくば原油価格がどうなるか分からんぞ』……脅迫です!」
オペレーターたちの悲鳴のような報告が飛び交う中、沢村総理の本体は頭を抱えて机に突っ伏していた。
彼の四つの身体は、それぞれが別々の国の首脳との対応に追われていたが、そのどれもが限界を迎えていた。
「……勘弁してくれ」
沢村が呻くように言った。
「どいつもこいつも『友達だろ?』『仲間だろ?』と……。
都合のいい時だけ擦り寄ってきおって!」
「まあ、予想通りの反応ですな」
隣のデスクで九条官房長官が、氷嚢を頭に乗せながら淡々と事務処理を続けていた。
彼の手元には、各国からの「購入希望リスト」が山のように積まれている。
「『死』を無効化できるアイテムです。権力者にとって、これほど魅力的なものはありません。
彼らは今、理性を失っています。
『日本が持っているなら一つくらい回してくれるはずだ』という根拠のない、しかし強烈な願望に取り憑かれているのです」
「……断りきれんぞ、これ」
沢村が顔を上げた。
「特にG7の仲間たちからの圧力が酷い。
『日本だけが不死身になって我々を見殺しにするのか』という道義的な批判まで始めてきた。
……どうすればいい、九条君」
九条は冷たいお茶を一口すすると、冷徹に現状を分析した。
「渡すわけにはいきません。絶対に」
彼は断言した。
「S級魔石は、現在、世界に5個しか存在しません。
4個は我々4カ国の首脳の『命綱』として加工中。
残りの1個は『予備』として国連の管理下という名目で厳重に保管されています。
これを勝手に他国へ譲渡すれば、KAMI様のご機嫌を損ねるだけでなく、4カ国間のパワーバランスも崩壊します」
「分かっている!」
沢村が叫ぶ。
「だが、どうやって断る!?
『ありません』では通じないぞ。リーク情報で数はバレているんだ!」
その時、執務室のドアが乱暴に開かれた。
入ってきたのは、麻生ダンジョン大臣だった。
彼は上機嫌に葉巻(の形をしたチョコレート)をくわえながら、手元のタブレットを振ってみせた。
「――ヒヒッ。総理、泣き言を言っている暇はありませんぞ。
面白いメールが届きました」
「面白いメール?」
「ええ。北の将軍様からです」
麻生はニヤリと笑った。
「『我が国のミサイル開発技術と貴国のS級魔石を交換しないか? 断れば東京にプレゼント(核)を贈る準備がある』だとさ」
「……テロリストかよ」
沢村が頭を抱える。
「それだけじゃありません」
麻生は続けた。
「南米の麻薬王、東欧の武器商人、そしてバチカンの枢機卿(非公式)からも接触がありました。
『金ならある』『魂を売ってもいい』『神の意志だ』。
……世界中の欲望が今、この永田町に一点集中しております」
麻生は楽しそうだった。
この男は、状況が混沌とすればするほど活力が湧いてくるタイプなのだ。
「で、どうします? 総理。
全員門前払いで良いですか?
それとも少しばかり『色気』を見せますか?」
「色気……?」
「ええ。
『今は渡せないが、将来的には……』と期待を持たせて、外交カードとして利用する。
あるいは『技術の一部だけ』を切り売りして金を吸い上げる。
……悪くない商売だと思いますがね」
その悪魔的な提案に、沢村と九条は顔を見合わせた。
確かに、ただ拒絶するだけでは角が立つ。
相手を生かさず殺さず、日本の利益になるように飼い慣らす。
それが外交の極意だ。
「……四カ国会議だ」
沢村が決断した。
「我々だけで判断するのは危険すぎる。
アメリカ、中国、ロシアも同じ状況のはずだ。
彼らと足並みを揃え、統一した『言い訳(ナラティブ)』を作る必要がある」
***
数時間後。
いつものバーチャル会議室。
そこに集った四人の指導者たちの顔は、一様にやつれていた。
だが、その瞳には「共犯者」としての強固な連帯感が宿っていた。
「……酷い目に遭った」
開口一番、トンプソン大統領がぼやいた。
「ホワイトハウスの電話回線がパンクしたよ。
EUの連中が『NATOの絆』だの『民主主義の守護者』だのと美辞麗句を並べて、要するに『石をよこせ』と脅してくる。
イギリス首相に至っては、泣き落としまで使ってきたぞ」
「我が国も同じです」
王将軍が苦々しげに言った。
「『一帯一路』の加盟国たちが一斉に手のひらを返してきた。
『石をくれないなら借金は返さない』『港の使用権を取り消す』と。
……恩知らずどもめ」
「ロシアもだ」
ヴォルコフ将軍がウォッカを呷る。
「旧ソ連構成国がうるさい。
『兄弟国としての義務を果たせ』だと。
……飢えさせていた時は何も言わなかったくせに、美味い肉を持った途端にこれだ」
全員が同じ地獄を見ていた。
S級魔石という「絶対的な力」を持ってしまったが故の孤独と重圧。
「……で、どうする?」
トンプソンが本題に入った。
「我々は結束しなければならん。
誰か一国でも抜け駆けして石を流せば、この同盟は崩壊する。
そして世界は大混乱に陥るぞ」
「当然です」
九条が頷く。
「我々の手元にある4個の石。これは各国の指導者の『命』そのものです。
絶対に譲渡も売却もできません。
そして残りの1個……『予備』の石についても、決して放出することはできません。
あれは最後の砦。
我々4カ国の結束の象徴であり、万が一の際のバッファです」
「同意する」
王将軍が言った。
「あれを市場に流せば価格競争が起き、我々の持つ石の価値も揺らぐ。
予備は予備として永久に封印すべきだ」
「ならば」
ヴォルコフ将軍がニヤリとした。
「売るのは『幻想』と『サービス』だけでいいな?」
彼らは提案した。
「世界に向けて、こう発表するのです。
『S級魔石の供給は極めて限定的であり、現時点では他国への譲渡は不可能である』と。
だが同時に、こう付け加える。
『我々四カ国は、S級魔石の恩恵を世界に広めるための『国際奇跡運用機構(IMOA)』を設立する。
石そのものは渡さないが、魔石を用いた気象制御や災害復旧といったサービスは、有償にて提供する』と」
「……なるほど」
麻生大臣(オブザーバー)が手を叩いた。
「『石は売らないが、奇跡は売る』わけですか。
サブスクリプション・モデルですな。
これなら石の所有権は我々に残り続け、世界中から金を吸い上げることができる」
「うむ」
トンプソンが笑った。
「『身代わりの聖石』は売れないが『天気の保証』なら売れる。
『修理(リペア)』もそうだ。
『壊れた空母を直してやるから使用料を払え』。
……悪くないビジネスだ」
彼らの方針は固まった。
5個のS級魔石は「絶対不可侵の戦略物資」として、四カ国が独占し続ける。
そして、その「余波(サービス)」だけを小出しにして、世界中の国々から富と忠誠を吸い上げるシステムを構築する。
それは、ダンジョン時代における新たな「植民地支配」の形だった。
領土を奪うのではない。
「奇跡」へのアクセス権を管理することで、世界を支配するのだ。
「……KAMI様は、この方針を許してくださるでしょうか?」
沢村がふと天井を見上げて呟いた。
「許すも何も」
九条が答えた。
「彼女は『4カ国で仲良く分けなさい』と仰っただけです。
そして『1個は予備』とも。
我々はその言いつけを忠実に守り、厳重に管理しているに過ぎません」
「……そうだな」
沢村は苦笑した。
「世界中の国々が我々の前で尻尾を振って『奇跡』をねだる様。
……確かに、あの性格の悪い神様なら特等席で大笑いしていそうだな」
***
そして。
その夜、全世界に向けて四カ国共同声明が発表された。
『S級魔石および関連技術の管理に関する国際指針(ガイドライン)』。
その内容は、慇懃無礼で、そして絶望的に冷酷なものだった。
S級魔石は人類共有の財産ではなく、発見国および管理能力を持つ四カ国の「戦略的資産」と定義する。
安全保障上の理由により、魔石そのものの第三国への譲渡・売却は当面の間、無期限に凍結する。
ただし、魔石を用いた「人道的支援(気象制御、災害復旧など)」については、四カ国が設立する『国際奇跡運用機構(IMOA)』を通じて、有償にて提供を行う用意がある。
第5の魔石については「世界予備資源」として、国連本部(実質は四カ国管理)の地下深くに永久保管する。
要約すれば、「石はやらん。だが金と忠誠を払えば、たまに奇跡を見せてやる」という宣言だった。
世界は激怒した。
だが同時に沈黙した。
抗議しても無駄だということを、誰もが悟ったからだ。
力を持つ者がルールを作る。
それがこの世界の真理であり、ダンジョン時代の新しい常識だった。
***
そのニュースを東京のマンションで見ていたKAMIは、ベッドの上で転げ回って笑っていた。
「あはははは! 性格悪ッ!
『有償にて提供』って何よ! そこは『無償』でしょ、普通!
災害支援で金取る気満々じゃない!」
彼女はモニターの中の澄ました顔をした九条や麻生を見て、お腹を抱えた。
「でもいいわ。
その『がめつさ』こそが人間よ。
自分たちだけで独占して、予備までしっかり抱え込んで……。
本当に強欲で可愛いわね」
彼女は手元の端末を操作した。
予備として保管された第5の魔石のデータを、チラリと見る。
「ま、予備は予備として眠らせておけばいいわ。
それがいつか、誰かの手によって盗まれたり、暴走したりするフラグになるのも、また一興だしね」
彼女は悪戯っぽく微笑んだ。
神のシナリオは、現状維持(ステイ)を選んだ。
だが、その現状維持こそが、世界中の「持たざる者」たちの心に、決して消えることのない嫉妬の炎を植え付けることになる。
「友達だから売ってくれ」という甘い言葉が通じない世界で。
人々は理解した。
奇跡は待っていても来ない。
自らの手で、ダンジョンの深淵から掴み取るしかないのだと。
物語は続く。
欲望の果てにあるのは、楽園か、それとも破滅か。
その答えを知るのは、やはり彼女だけだった。