賢者の石を手に入れた在宅ワーカーだけど、神様って呼ばれてるっぽい   作:パラレル・ゲーマー

240 / 279
第220話

【緊急速報】四カ国「神前会議」の議事録全文流出か

 20XX/XX/XX 08:30 Global News Network

 

 本日未明、内部告発サイト『アビス・リークス』上に、日米中露四カ国首脳による最高機密会議(通称:神前会議)の議事録と思われる膨大なデータファイルが公開された。

 

 真偽は不明だが、内容の具体性と、これまでのKAMIによるダンジョン運営方針との合致から、信憑性は極めて高いと見られている。

 

 公開された文書の中で最も世界を震撼させているのは、先日、YouTuber、ガルド氏が発掘し、即座に四カ国によって買い上げられた『S級魔石』の真の用途に関する記述である。

 

 文書によれば、S級魔石は単なるエネルギー源ではなく、以下の三つの「奇跡」を引き起こすための触媒(消耗品)であるとされる。

 

『万能修復液(リペア・エリクサー)』

 あらゆる物質(兵器、インフラ、歴史的遺産)を、時間を巻き戻すかのように新品同様に修復する。

 

『広域気象制御石(ウェザー・コア)』

 指定地域の天候を、長期間にわたり完全に支配・固定する。

 

『身代わりの聖石(サクリファイス・ストーン)』

 所持者が致死的なダメージ(暗殺、事故、爆撃など)を受けた際、因果律を改変してその「死」を無効化し、無傷で蘇生させる。

 

 特に第三項『身代わりの聖石』の存在は、世界中の権力者、富裕層、そして独裁者たちの間に、核兵器以上の衝撃をもって受け止められている。

 

「500億円で命が買える」。

 その事実は、これまでの安全保障と生命倫理の概念を根底から覆すものである。

 

 四カ国政府は本件に関して「ノーコメント」を貫いているが、水面下では激しい情報統制と、他国からの猛烈な突き上げが始まっている模様だ。

 

 ***

 

 ■ 大規模匿名掲示板『ダンジョンちゃんねる』

【悲報】上級国民ついに不死身になる【身代わり石】

 

 1: 名無し探索者

 おいおいおいおい!

 リーク見たか!?

 S級魔石の中身、ヤバすぎだろ!

 

 2: 名無し探索者

「身代わりの聖石」……。

 死んでも生き返るとか、チートにも程があるだろ。

 しかも500億?

 金持ちなら余裕で払える額じゃねーか。

 

 3: 名無し探索者

 これで独裁者は暗殺におびえる必要がなくなったわけか。

 核のボタンを押すハードルが下がったな。

「俺は死なないから撃っていい」ってなるぞ、これ。

 

 4: 名無し探索者

 いや、軍事利用の「万能修復」もエグいぞ。

 空母が撃沈されても液かければ元通りってことだろ?

 消耗戦の意味がなくなる。

 資源を持ってる国(つまり4カ国)が無限に戦えるクソゲーの始まりだ。

 

 5: 名無し探索者

 気象制御も地味にヤバい。

 敵国の首都に一生台風停滞させるとかできるんだろ?

 兵糧攻め最強じゃん。

 

 6: 名無し探索者

 ガルド……。

 お前、とんでもないパンドラの箱を開けちまったな。

 2500億で売ったのは正解だったかもしれんが、世界を滅ぼす鍵を渡しちまったぞ。

 

 7: 名無し探索者

 4カ国だけがこのチートアイテムを独占してるってのが一番の恐怖だよな。

 他の国はどうすんだ、これ。

「お友達」になって、おこぼれをもらうしかないのか。

 

 8: 名無し探索者

 世界は4つに分割されました。

 めでたしめでたし。

 

 ***

 

 その日の東京・永田町。

 首相官邸の地下深くにある危機管理センターは、文字通り「戦場」と化していた。

 

 物理的な砲弾が飛び交っているわけではない。

 だが、世界中から殺到する通信回線という名の絨毯爆撃が、日本の外交機能を麻痺寸前にまで追い込んでいたのである。

 

 執務室の電話は鳴り止まない。

 専用のホットライン、暗号化された外交回線、果ては沢村総理の私用携帯に至るまで、ありとあらゆるルートを通じて「彼ら」からのメッセージが届いていた。

 

「――総理! フランス大統領から緊急入電です!

 『核汚染除去の借りは返す。だからS級魔石を一つ、いやカケラでもいいから融通してくれ』と!」

 

「イギリス首相からもです!

 『日英同盟の絆を信じている。我が国の王室のために身代わりの石が必要だ。値段は問わない』とのことです!」

 

「サウジアラビア皇太子より親書!

 『500億? 安い。我々は1兆出そう。即金だ。今すぐ石を送れ。さもなくば原油価格がどうなるか分からんぞ』……脅迫です!」

 

 オペレーターたちの悲鳴のような報告が飛び交う中、沢村総理の本体は頭を抱えて机に突っ伏していた。

 

 彼の四つの身体は、それぞれが別々の国の首脳との対応に追われていたが、そのどれもが限界を迎えていた。

 

「……勘弁してくれ」

 

 沢村が呻くように言った。

 

「どいつもこいつも『友達だろ?』『仲間だろ?』と……。

 都合のいい時だけ擦り寄ってきおって!」

 

「まあ、予想通りの反応ですな」

 

 隣のデスクで九条官房長官が、氷嚢を頭に乗せながら淡々と事務処理を続けていた。

 

 彼の手元には、各国からの「購入希望リスト」が山のように積まれている。

 

「『死』を無効化できるアイテムです。権力者にとって、これほど魅力的なものはありません。

 彼らは今、理性を失っています。

 『日本が持っているなら一つくらい回してくれるはずだ』という根拠のない、しかし強烈な願望に取り憑かれているのです」

 

「……断りきれんぞ、これ」

 

 沢村が顔を上げた。

 

「特にG7の仲間たちからの圧力が酷い。

 『日本だけが不死身になって我々を見殺しにするのか』という道義的な批判まで始めてきた。

 ……どうすればいい、九条君」

 

 九条は冷たいお茶を一口すすると、冷徹に現状を分析した。

 

「渡すわけにはいきません。絶対に」

 

 彼は断言した。

 

「S級魔石は、現在、世界に5個しか存在しません。

 4個は我々4カ国の首脳の『命綱』として加工中。

 残りの1個は『予備』として国連の管理下という名目で厳重に保管されています。

 これを勝手に他国へ譲渡すれば、KAMI様のご機嫌を損ねるだけでなく、4カ国間のパワーバランスも崩壊します」

 

「分かっている!」

 

 沢村が叫ぶ。

 

「だが、どうやって断る!?

 『ありません』では通じないぞ。リーク情報で数はバレているんだ!」

 

 その時、執務室のドアが乱暴に開かれた。

 入ってきたのは、麻生ダンジョン大臣だった。

 

 彼は上機嫌に葉巻(の形をしたチョコレート)をくわえながら、手元のタブレットを振ってみせた。

 

「――ヒヒッ。総理、泣き言を言っている暇はありませんぞ。

 面白いメールが届きました」

 

「面白いメール?」

 

「ええ。北の将軍様からです」

 

 麻生はニヤリと笑った。

 

「『我が国のミサイル開発技術と貴国のS級魔石を交換しないか? 断れば東京にプレゼント(核)を贈る準備がある』だとさ」

 

「……テロリストかよ」

 

 沢村が頭を抱える。

 

「それだけじゃありません」

 

 麻生は続けた。

 

「南米の麻薬王、東欧の武器商人、そしてバチカンの枢機卿(非公式)からも接触がありました。

 『金ならある』『魂を売ってもいい』『神の意志だ』。

 ……世界中の欲望が今、この永田町に一点集中しております」

 

 麻生は楽しそうだった。

 この男は、状況が混沌とすればするほど活力が湧いてくるタイプなのだ。

 

「で、どうします? 総理。

 全員門前払いで良いですか?

 それとも少しばかり『色気』を見せますか?」

 

「色気……?」

 

「ええ。

 『今は渡せないが、将来的には……』と期待を持たせて、外交カードとして利用する。

 あるいは『技術の一部だけ』を切り売りして金を吸い上げる。

 ……悪くない商売だと思いますがね」

 

 その悪魔的な提案に、沢村と九条は顔を見合わせた。

 

 確かに、ただ拒絶するだけでは角が立つ。

 相手を生かさず殺さず、日本の利益になるように飼い慣らす。

 それが外交の極意だ。

 

「……四カ国会議だ」

 

 沢村が決断した。

 

「我々だけで判断するのは危険すぎる。

 アメリカ、中国、ロシアも同じ状況のはずだ。

 彼らと足並みを揃え、統一した『言い訳(ナラティブ)』を作る必要がある」

 

 ***

 

 数時間後。

 いつものバーチャル会議室。

 そこに集った四人の指導者たちの顔は、一様にやつれていた。

 だが、その瞳には「共犯者」としての強固な連帯感が宿っていた。

 

「……酷い目に遭った」

 

 開口一番、トンプソン大統領がぼやいた。

 

「ホワイトハウスの電話回線がパンクしたよ。

 EUの連中が『NATOの絆』だの『民主主義の守護者』だのと美辞麗句を並べて、要するに『石をよこせ』と脅してくる。

 イギリス首相に至っては、泣き落としまで使ってきたぞ」

 

「我が国も同じです」

 

 王将軍が苦々しげに言った。

 

「『一帯一路』の加盟国たちが一斉に手のひらを返してきた。

 『石をくれないなら借金は返さない』『港の使用権を取り消す』と。

 ……恩知らずどもめ」

 

「ロシアもだ」

 

 ヴォルコフ将軍がウォッカを呷る。

 

「旧ソ連構成国がうるさい。

 『兄弟国としての義務を果たせ』だと。

 ……飢えさせていた時は何も言わなかったくせに、美味い肉を持った途端にこれだ」

 

 全員が同じ地獄を見ていた。

 S級魔石という「絶対的な力」を持ってしまったが故の孤独と重圧。

 

「……で、どうする?」

 

 トンプソンが本題に入った。

 

「我々は結束しなければならん。

 誰か一国でも抜け駆けして石を流せば、この同盟は崩壊する。

 そして世界は大混乱に陥るぞ」

 

「当然です」

 

 九条が頷く。

 

「我々の手元にある4個の石。これは各国の指導者の『命』そのものです。

 絶対に譲渡も売却もできません。

 そして残りの1個……『予備』の石についても、決して放出することはできません。

 あれは最後の砦。

 我々4カ国の結束の象徴であり、万が一の際のバッファです」

 

「同意する」

 

 王将軍が言った。

 

「あれを市場に流せば価格競争が起き、我々の持つ石の価値も揺らぐ。

 予備は予備として永久に封印すべきだ」

 

「ならば」

 

 ヴォルコフ将軍がニヤリとした。

 

「売るのは『幻想』と『サービス』だけでいいな?」

 

 彼らは提案した。

 

「世界に向けて、こう発表するのです。

 『S級魔石の供給は極めて限定的であり、現時点では他国への譲渡は不可能である』と。

 だが同時に、こう付け加える。

 『我々四カ国は、S級魔石の恩恵を世界に広めるための『国際奇跡運用機構(IMOA)』を設立する。

 石そのものは渡さないが、魔石を用いた気象制御や災害復旧といったサービスは、有償にて提供する』と」

 

「……なるほど」

 

 麻生大臣(オブザーバー)が手を叩いた。

 

「『石は売らないが、奇跡は売る』わけですか。

 サブスクリプション・モデルですな。

 これなら石の所有権は我々に残り続け、世界中から金を吸い上げることができる」

 

「うむ」

 

 トンプソンが笑った。

 

「『身代わりの聖石』は売れないが『天気の保証』なら売れる。

 『修理(リペア)』もそうだ。

 『壊れた空母を直してやるから使用料を払え』。

 ……悪くないビジネスだ」

 

 彼らの方針は固まった。

 5個のS級魔石は「絶対不可侵の戦略物資」として、四カ国が独占し続ける。

 

 そして、その「余波(サービス)」だけを小出しにして、世界中の国々から富と忠誠を吸い上げるシステムを構築する。

 

 それは、ダンジョン時代における新たな「植民地支配」の形だった。

 領土を奪うのではない。

「奇跡」へのアクセス権を管理することで、世界を支配するのだ。

 

「……KAMI様は、この方針を許してくださるでしょうか?」

 

 沢村がふと天井を見上げて呟いた。

 

「許すも何も」

 

 九条が答えた。

 

「彼女は『4カ国で仲良く分けなさい』と仰っただけです。

 そして『1個は予備』とも。

 我々はその言いつけを忠実に守り、厳重に管理しているに過ぎません」

 

「……そうだな」

 

 沢村は苦笑した。

 

「世界中の国々が我々の前で尻尾を振って『奇跡』をねだる様。

 ……確かに、あの性格の悪い神様なら特等席で大笑いしていそうだな」

 

 ***

 

 そして。

 その夜、全世界に向けて四カ国共同声明が発表された。

 

『S級魔石および関連技術の管理に関する国際指針(ガイドライン)』。

 その内容は、慇懃無礼で、そして絶望的に冷酷なものだった。

 

 S級魔石は人類共有の財産ではなく、発見国および管理能力を持つ四カ国の「戦略的資産」と定義する。

 

 安全保障上の理由により、魔石そのものの第三国への譲渡・売却は当面の間、無期限に凍結する。

 

 ただし、魔石を用いた「人道的支援(気象制御、災害復旧など)」については、四カ国が設立する『国際奇跡運用機構(IMOA)』を通じて、有償にて提供を行う用意がある。

 

 第5の魔石については「世界予備資源」として、国連本部(実質は四カ国管理)の地下深くに永久保管する。

 

 要約すれば、「石はやらん。だが金と忠誠を払えば、たまに奇跡を見せてやる」という宣言だった。

 

 世界は激怒した。

 だが同時に沈黙した。

 抗議しても無駄だということを、誰もが悟ったからだ。

 

 力を持つ者がルールを作る。

 それがこの世界の真理であり、ダンジョン時代の新しい常識だった。

 

 ***

 

 そのニュースを東京のマンションで見ていたKAMIは、ベッドの上で転げ回って笑っていた。

 

「あはははは! 性格悪ッ!

 『有償にて提供』って何よ! そこは『無償』でしょ、普通!

 災害支援で金取る気満々じゃない!」

 

 彼女はモニターの中の澄ました顔をした九条や麻生を見て、お腹を抱えた。

 

「でもいいわ。

 その『がめつさ』こそが人間よ。

 自分たちだけで独占して、予備までしっかり抱え込んで……。

 本当に強欲で可愛いわね」

 

 彼女は手元の端末を操作した。

 予備として保管された第5の魔石のデータを、チラリと見る。

 

「ま、予備は予備として眠らせておけばいいわ。

 それがいつか、誰かの手によって盗まれたり、暴走したりするフラグになるのも、また一興だしね」

 

 彼女は悪戯っぽく微笑んだ。

 

 神のシナリオは、現状維持(ステイ)を選んだ。

 だが、その現状維持こそが、世界中の「持たざる者」たちの心に、決して消えることのない嫉妬の炎を植え付けることになる。

 

「友達だから売ってくれ」という甘い言葉が通じない世界で。

 人々は理解した。

 

 奇跡は待っていても来ない。

 自らの手で、ダンジョンの深淵から掴み取るしかないのだと。

 

 物語は続く。

 欲望の果てにあるのは、楽園か、それとも破滅か。

 その答えを知るのは、やはり彼女だけだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。