賢者の石を手に入れた在宅ワーカーだけど、神様って呼ばれてるっぽい   作:パラレル・ゲーマー

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第248話 世界は広がりすぎて、会議室が足りない

 霞が関、首相官邸。

 分厚い防音扉の向こう側から、今日も怒声にも似た激論が漏れ聞こえてくる。

 

「若年探索者の就労制限と保護義務はどうなっている!? 高校にも行かず、日給数百万を稼ぐ未成年たちを現行法でどうやって縛り、保護するというのだ!」

「B級以降のマイナス耐性域での安全管理は警察の管轄か、自衛隊か、それともギルドの完全な自己責任とするのか! 責任の所在を明確にせよ!」

「アステルガルドへの『馬車鉄道』敷設事業、これは政府開発援助(ODA)の枠組みを適用すべきか、それとも新設の異世界特区予算から拠出すべきか、外務省と財務省の調整が全くついていない!」

 

 沢村総理のデスクには、月読ギルドから提出された数千ページに及ぶD級・B級ダンジョンの最新攻略データと、魔石資源の流通報告書が、今にも崩れそうな塔となってそびえ立っていた。決済の判子を押す右手が、もはや腱鞘炎を起こしかけている。

 

 だが、この「積み残し地獄」で悲鳴を上げているのは、決して日本だけではなかった。

 

 海を隔てたアメリカ合衆国、ワシントンD.C.。

 トンプソン大統領の執務室には、月面都市『セレーネ・ノヴァ』の商業区画拡大や、ムー大陸から持ち帰った重力制御技術の独占的ライセンスを求める、巨大な軍産複合体とメガテック企業のロビイストたちが連日のように押し寄せていた。

 さらにテレビをつければ、十代の若き探索者たちがエナジードリンクのCMで笑顔を振りまき、メガスポンサーのロゴがデカデカとペイントされた防具を身につけてダンジョンへ潜る姿が映し出されている。商業主義に完全に飲み込まれた若手スターたちの暴走は、もはや国家の管理の枠を軽々と飛び越えていた。

 その上、「火星こそが我々の次の覇権市場(フロンティア)だ!」と息巻く宇宙産業のトップたちの鼻息の荒さに、トンプソンは毎晩のように頭痛薬をウイスキーで流し込んでいる。

 

 一方、中国・北京。

 王将軍の執務室の机には、隣国インドの驚異的な「魔石経済」の爆発的成長を告げる分厚い報告書が置かれている。カーストの最底辺であった下層民の若者たちが、突如として巨万の富と力を得て台頭する、あのカオス極まる状況。

 中国国内は表向きには強固な安定を保っているが、国際公式ギルドを通じたグローバルな情報網の発展により、国家の統制下にあるはずの探索者たちが「国家を超えた特権階級」としての意識を持ち始めている。「どこまで党の統制モデルを維持できるか」という、国家の根幹を揺るがす議題が、毎夜、中南海の奥深くで秘密裏に議論されていた。

 

 そして、ロシア・モスクワ。

 ヴォルコフ将軍の軍司令部では、重苦しい空気が漂っている。英雄ドミトリー・ヴォロノフという最強の「個」を失ったロシアは、早急に国家威信を再構築する新たな象徴を求めていた。

「軍隊という組織的な暴力を、個人の力が突出する魔法時代にどう適応させるか」。旧来の戦車や戦闘機という物理的武力に依存する将官たちと、魔力とスキルに特化した新世代の探索者特殊部隊との間で、軍上層部は深刻な分裂状態に陥っていた。

 

 四カ国のトップたちは皆、「世界の覇者」としてふんぞり返っている余裕など、微塵も持ち合わせてはいなかった。

 彼らは、無限に肥大化し続ける未知のシステムと、それに狂わされていく人間社会のバグを、昼夜問わず処理し続ける「巨大な火消し班」と化していたのである。

 

 ***

 

 東京、ワシントン、北京、モスクワを繋ぐ最高機密のバーチャル会議室。

 システムが起動し、四カ国の首脳たちのホログラムが円卓に現れた。

 沢村、トンプソン、王、そしてヴォルコフ。彼らの表情には一様に、隠しきれない濃密な疲労の色が張り付いている。

 

 議事進行役の九条官房長官が、手元の資料を整えながら、氷のように淡々とした声で口火を切った。

 

「――皆様、お揃いのようですな。本日の臨時四カ国会議を開始いたします。

 ただ、あらかじめ申し上げておきます。各国の国内事情や個別案件をここに持ち込んで議論すれば、三日三晩あっても到底時間は足りません。よって本日は、我々が直面している『共通課題』のみ、三点に限定して議論を進めます」

 

 九条の容赦のない仕切りに、各国首脳はうんざりしたようなため息を漏らしつつも、無言で同意した。全員が「自分の国の問題をぶつけたい」という欲求を、ギリギリの理性で押し留めている状態だった。

 

「え、たったの三点で終わるの? 偉いじゃない」

 

 円卓の端、ホログラム空間の空中にふわりと寝転がりながら、ポテトチップスを齧っている銀髪の少女――KAMIが、無邪気に口を挟んだ。

 その場にいる人類の誰一人として、彼女の軽口に笑い返す余裕はなかった。

 

「……では、第一の議題に入ります」

 

 九条は表情一つ変えずに、モニターに数人の若者の顔写真を投影した。

 日本の高校生探索者、タケル。インドの元ダリットの青年、ラヴィ。そして米中露や英国で台頭し始めている、十代から二十代前半の若き「成功者」たち。

 

「『若手探索者世代の扱い』についてです」

 九条は静かに論点を提示した。

「彼らのような若い世代が、凄まじい適応力でダンジョンを攻略し、既存の大人たちを遥かに凌駕する富と力を手に入れ始めています。問題は、彼らを国家としてどう位置づけるか、です。

 未成年として『保護の対象』とするか。国威発揚のための『国家の象徴』として担ぎ上げるか。それとも、単なる『民間の成功者』として放任するか。各国の見解を確認したい」

 

 真っ先に口を開いたのは、ロシアのヴォルコフ将軍だった。

 

「我が国の立場は明快だ。国家は常に『英雄』を必要とする」

 彼は拳を握りしめ、強い口調で断言した。

「才能ある若き探索者は、国威発揚の顔であり、広告塔として前面に出すべきだ。ドミトリーという偉大な象徴を失った今、我が国には新たな星が必要なのだ。若者に『国家の顔』という重責を背負わせることを、我々はためらわない」

 

「我々も基本的には同意見だ」

 中国の王将軍が、冷徹な計算に基づく視線で頷いた。

「才能ある若手は、国家の貴重な資産だ。個人の自由などという曖昧なものより、国家戦略の枠内で効率的に活用すべきだ。

 特に、下層出身の成功者は『努力すれば報われる』という体制のプロパガンダとして極めて有効である反面、放置すれば彼ら自身が既存の秩序を破壊する火種となる。よって、厳重に管理しつつ、模範事例として利用するのが最適解だ」

 

 二人の強権的な主張に対し、アメリカのトンプソン大統領が忌々しげに葉巻を指で弾いた。

 

「彼らは兵器でもなければ、国家の広告塔でもない。アメリカ合衆国としては、彼らはあくまで一人の『民間人』であり、『アメリカン・ドリームの体現者』として扱うべきだと考える。国が若者の未来を“所有”するような扱いは、我が国の自由の精神に反する」

 トンプソンはそう綺麗事を述べたが、直後に深い皺を刻んで本音を漏らした。

「……とはいえ、現実問題として、スポンサー企業やメディアが彼らに群がり、国家よりも先に市場が若者たちを食い物にしているという頭の痛い事態が起きているのも事実だがな」

 

 三国の主張が出揃ったところで、沢村総理が重い口を開いた。

 

「我が国は……慎重にならざるを得ません。

 まだ若い子供たちに、国家の未来や過剰な期待を押し付けるのは違う気がするのです。かといって、本人が望むのであれば、その道を作ってやるのが大人の責任でもある。

 しかし現実は、学校の出席制度、ギルドのライセンス規定、家庭にかかる税や保険の負担……全てが、彼らの歩くスピードに全く追いついていない。彼らを『英雄にする』のも、『普通の子として放っておく』のも、現状の法体系ではどちらも無責任になってしまうのです」

 

 各国の立場は完全に平行線を辿っていた。

 だが、九条はそこで冷酷に現実を突きつけた。

 

「理想論は各国の自由ですが、現実を見ましょう。

 魔石の採掘量、B級以降の過酷な環境での安全確保。そのどちらも、現状の我々の正規の人的リソースだけでは全く足りていません。

 若手を保護したい、あるいは管理したいと口では言いながらも……実際には、どの国も彼ら若い世代の『若さと適応力』に、すでに深く依存し始めているのではありませんか?」

 

 誰も反論できなかった。

 大人たちが会議室でルールをこねくり回している間に、現場の最前線で血を流し、リソースを供給しているのは、紛れもなく彼ら若い世代なのだ。

 

「若い子に期待しすぎなのよ。あなたたち、使い潰す気?」

 

 空中に浮かぶKAMIが、ポテトチップスを指で摘みながら、さらりと毒を吐いた。

「でもまあ、才能ある子をただの箱に閉じ込めて放っておくと、それはそれで腐っちゃうしね。加減が難しいわよね。……本当に面倒くさいわよね、人類って」

 

 神のあまりにも軽い、しかし本質を抉るような言葉。

 会議室の空気が、少しだけ重く沈んだ。

 

「……正解はすぐには出ません。ですが、放置もできません」

 九条が強引に議論をまとめた。

「よって、本日のところは、四カ国共同で『若手探索者の国際交流プログラムの推進』、『最低限の安全基準の共有』、そして『未成年・学生探索者の保護ガイドラインの叩き台作成』を、事務レベルで進めることのみ合意といたします。よろしいですね?」

 四人は渋々ながらも頷いた。

「正解は出ないが、放置もできない」という、政治における最も胃の痛くなる着地だった。

 

 ***

 

「……では、第二の議題に移ります」

 九条がスライドを切り替えると、会議室の空気がさらに一段と重苦しいものになった。

 それは、誰もが本気で頭を痛めている、最大の懸案事項だった。

 

「ムー大陸、および『アカシックレコード』の管理体制についてです」

 

 トンプソン大統領が、大げさに顔を覆った。

「次がそれか。全員、今すぐ胃薬を用意した方がいいぞ」

 そのアメリカン・ジョークに、誰も笑うことはできなかった。

 

「ムー大陸由来の、重力制御や浄化技術といった民生技術の転用は、概ね順調に進んでいます。しかし……」

 九条は、一枚の報告書を提示した。

「中枢である『アカシックレコード』の解析に関しては、極めて危険な状態が続いています。

 先日発生した、アメリカのミラー博士による『精神転送によるシステムへの同化未遂事件』。これが全てを物語っています。

 知識欲や、個人の過去への執着が強い者ほど、あの空間の『体験』として降り注ぐ情報の奔流に自我を保つことができず、精神が暴走してしまう。人間の脆弱な精神構造では、あのシステムに直接長時間接続することは、あまりにも負荷が高すぎます」

 

「『情報は体験するものではなく、記述し、解釈するもの』」

 沢村総理が、自分に言い聞かせるように呟いた。

「これが、ミラー博士の事件から得られた、我々四カ国の共通の絶対原則です。学者をそのまま、生のデータの海へ突っ込ませるのは自殺行為に等しい」

 

「だが、慎重になりすぎれば、成果は一向に上がらんぞ!」

 トンプソンが机を叩いた。

「アカシックレコードに眠る科学、医療、そして失われた歴史情報。その価値は莫大だ。民間の大学や企業からは、『研究に参加させろ』という圧力が日増しに強まっている。我々だけが情報を独占し、しかもその解析が遅々として進まない現状は、国内からの猛反発を招いているのだ」

 

「それは我が国も同じだ」

 王将軍が目を細める。

「国家主導の統制を維持し、情報漏洩や、過去の宗教的な知識がもたらす混乱を警戒しなければならない。だが、他国を出し抜くためには、あのシステムに眠る技術情報を一刻も早く引き出さねばならないという、情報独占の誘惑もある」

 

「ロシアも、国家安全保障の観点から、アクセス権の厳格な管理を要求する」

 ヴォルコフ将軍が同調した。

「しかし同時に、自国の威信回復のために、あそこから目に見える『成果』をいち早く持ち帰らねばならないという焦りがあるのも事実だ。慎重を期すべきだが、決して諦めるわけにはいかんのだ」

 

 各国が「安全」と「成果」のジレンマに苦しむ中、現場を最も身近に抱えている日本の沢村が、深くため息をついた。

 

「条約の策定、閲覧権限の厳格な設定、監視のための記録官の配置、そして研究者に対するアクセス後の心身ケアの徹底……。

 つまり、成果を引き出すよりも先に、この途方もない安全管理の基盤(インフラ)を構築しなければならないのです。それを構築しないままアクセスを続ければ、第二、第三のミラー博士を生むだけです」

 

「だから、最初からそう言ってるじゃない」

 

 KAMIが、つまらなそうに足をバタバタとさせながら割り込んだ。

 

「あれ、図書館みたいに本を読む場所じゃなくて、『情報の波に飲み込まれないように、必死で一部だけを掬い取って持ち帰る場所』なのよ?

 知りたいからって、考えなしに頭から突っ込むなんて、だいぶ猿っぽいわよね」

 

 さらっと吐かれた神の猛毒。

 トンプソンが、天を仰いでぼやいた。

 

「……神から猿呼ばわりされたのは、今日で二回目だぞ」

 

「……『アカシックレコード管理条約』の整備を本格化させます」

 九条が、感情を無にして議論を強引に前へ進めた。

「原則として、体験ログの直接的な共有は禁止。必ず文書による記述・要約・解釈を挟むこと。閲覧権限は多段階に設定し、長時間の連続接続はシステム側で強制遮断する。また、接続後の精神影響の診断を義務化する。

 ……ただし、これらの条約はまだ草案段階です。『整備は進める。だが、完全な解決には程遠い』という認識で、この議題は終了とします」

 

 ***

 

「では、最後の議題です」

 

 九条がそう言った瞬間、会議室の空気が、これまでの疲労感から一転して、微かな、しかし熱を帯びたものに変わった。

 これは「問題」というよりは、彼ら指導者たちが抱く「次の野心」の領域だった。

 口にした瞬間に、四人の男たちの目の色が、明確に変わった。

 

「次の外延……すなわち、『火星』についてです」

 

 まだこの計画は、世界の表舞台には一切出していない。この四カ国会議の密室でのみ共有されているトップシークレットだ。

 しかし、水面下ではすでに準備が進んでいる。

 月面都市セレーネ・ノヴァの維持と拡張に莫大なリソースを割きつつ、さらに火星探査まで回すとなれば、各国の物流も人員も、完全に余裕ゼロのレッドゾーンに突入する。

 それでも、誰も火星から手を引く気はなかった。

 

「……火星こそが、我々の次の宇宙フロンティアであり、次の覇権競争の舞台だ」

 トンプソン大統領が、一番前のめりになって言った。

「アメリカの企業、軍部、そして宇宙産業は、すでに火星の赤い大地に星条旗を立てる夢を見ている。……だが」

 彼は顔をしかめ、自らを戒めるように釘を刺した。

「まだ公表するな。絶対に面倒なことになる。国連が『人類の共有財産だ』と騒ぎ立てる前に、我々だけで確固たる足場を築く必要がある」

 

「表向きは共同探索の建前を守ろうではないか」

 中国の王将軍が、狡猾な笑みを浮かべた。

「だが、我が国も乗り遅れる気はない。月、ムー大陸、そして火星。この三段構えの宇宙・異世界戦略において、他国に主導権を握られるのは避けねばならん。情報優位は、常に我が国が頂く」

 

「ロシアも同じだ」

 ヴォルコフ将軍が静かに闘志を燃やす。

「国家威信の再建において、火星一番乗りという栄誉は極めて魅力的だ。ドミトリー喪失後の“次の国家神話”としても、赤い星の開拓は喉から手が出るほど欲しい。……とはいえ、現実的な超長距離の輸送手段の確立、宇宙空間への軍事適応、そして人員の育成は、まだまだ苦しいのが現状だがな」

 

 各国の野望が交錯する中、日本だけが、一番現実的な問題に直面して頭を抱えていた。

 

「月面都市の運営、ムー大陸の技術管理、アステルガルドの王立鉄道案件、それに若手世代への対応……」

 沢村総理が、指を折りながら絶望的なリストを数え上げた。

「その上で、さらに火星まで手を広げるというのか。……忙しい。忙しすぎる……!」

「はい。非常に忙しいです。官僚の残業時間はすでに限界を突破しております」

 九条が、無表情のまま冷徹な事実を突きつけた。

 

 そこへ、KAMIがふわりと降りてきて、会議の熱を冷ますように、だが本質を突く一言を放った。

 

「あんたたち、火星って単語だけで盛り上がりすぎよ」

 彼女は呆れたように首を振った。

「まあ、準備するのは自由だけどさ。月面都市すらまだちゃんと安定して回せていないのに、次の箱を急いで開けても、面倒なことが増えるだけよ?

 火星の赤い砂の嵐と、補給線の距離と、メンテナンスの地獄を、完全に舐めてるでしょ」

 

 彼女は完全否定はしなかった。

「……とはいえ、準備しとくのは悪くないわね。人間って、やることが多い方が生き生きするみたいだし」

 

「……火星については、まだ非公開のままとします」

 九条が議論の着地を図った。

「ただし、四カ国による『共同事前調査』、『長距離輸送能力の検証』、そして『月面都市の安定運営』を優先しつつ、火星探査の準備は並行して進める。

 ……つまり、『行くか行かないか』を議論するのではなく、『行く前提で、まだ世間には言わない』という方針で固めます。よろしいですね」

 

 全員が頷いた。

 止まるという選択肢は、もはや彼らの辞書には存在しなかった。

 

 ***

 

 三つの重い議題が終わり、九条が会議の総括に入った。

 

「若手世代は使い潰せないが、現実には彼らに依存せざるを得ない。

 アカシックレコードは精神崩壊の危険が伴うが、技術的恩恵のために放棄はできない。

 火星は極めて魅力的だが、今の人類の運営能力では明らかに手一杯である」

 

 沢村総理が、深く、長く息を吐き出して言った。

 

「世界は驚くべき速度で広がった。だが、それに伴う『管理表』の数だけが先に増え続けている。

 ……それでも、歩みを止めることができないのが、今の我々人類の性(さが)なのだろうな」

 

 トンプソンは頭を抱えて唸り、王将軍は静かに自国のリソース配分を計算し、ヴォルコフ将軍は現実の厳しさをウォッカと共に飲み込んでいた。

 

「じゃ、頑張ってね。次はもうちょっと、短くパパッとまとめてよね。退屈しちゃうから」

 

 KAMIだけが、そんな人類の深刻な悩みをどこ吹く風と受け流し、軽いノリで手を振ると、ホログラム空間から姿を消した。

 神の退室と共に、四カ国会議は終了した。

 

 ***

 

 アメリカ、中国、ロシアの接続が切れ、仮想会議室には日本側の沢村と九条だけが残された。

 二人はしばらくの間、言葉を発することなく、深い疲労感の中で沈黙していた。

 

 やがて、九条が手元のコンソールを操作し、沢村の目の前のデスクに、新しい報告書の一覧を送信した。

 

 件名:『国際新世代探索者交流プログラム 参加者一覧(第一次確定)』

 

 そのリストの一番上には、日本の高校生探索者、タケルの名前。

 そしてその少し下には、インドの元ダリットの青年、ラヴィの名前が記載されていた。

 さらに世界各国から選抜された、これからの時代を背負う若き探索者たちの名前が、ずらりと並んでいる。

 

「……うわぁ」

 沢村が、そのリストを見て、思わず天を仰いだ。

「やることが……やることが多すぎる……!」

 

「はい。ですが、立ち止まるわけにはいきません。次に進むしかないのです」

 九条は、一切の感情を排した声で、しかしその奥に微かな使命感を滲ませて答えた。

 

 世界は広がってしまった。

 ダンジョン、月、ムー大陸、異世界、そして火星。

 人類は偉そうな大義名分を並べ立てているが、その実態は、限界を超えた複数の文明圏の運営に追われる、ただの泥臭い管理者たちに過ぎなかった。

 それでも彼らは、明日もまた、この広がりすぎた世界を回すために、会議室の椅子に座り続けるのだ。

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