ソードアート・オンライン 〜槍剣使いの能力共有〜   作:カエサル

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11.虚言と死神

 

 

二〇二四年十月二十三日 第七十五層・迷宮区

 

光の欠片が空中へと爆散していく。

先ほどまでシュウの前で暴れていたモンスターは今やこの世界には存在しない。だが、また数分もすればリポップするだろう。

 

「はぁ……はぁ……」

 

七十五層の普通のモンスターを倒すだけでも肩で息をしてしまっている。

 

「これじゃ……ダメ、だ……」

 

ヒースクリフのとのデュエルに敗れて三日が経過した。キリトは結局、血盟騎士団に入団させられることとなった。

それに対してシュウはあのデュエルに敗れた日にヒースクリフから勝利条件を破棄されたことで今でもソロで最前線に潜っている。

なぜヒースクリフはシュウを血盟騎士団に入れるのを拒んだ理由がわからない。

いや、わかっているのかもしれない。

あの時感じた違和感を、シュウが導き出した答えが正解だとするなら全ての説明がつく。

しかし、そんなことを言っても信じてくれる者など誰もいないだろう。

もしかしたらキリトならば、同じ違和感を抱いた彼ならば信じてくれるかもしれない。だが、今や彼はヒースクリフの手中にある。

だからこの違和感は一人で抱え込むしかない。

ヒースクリフに一人でも対抗できるだけの力をつけるしかない。そのためにはもっと強くならなくてはならない。

 

───もっと強く、もっと強く強く強く強く強く強く強く強く

 

呪詛のように頭の中で呟かれた言葉。

それを見計らったかのようにモンスターがリポップした。

 

「うぉぉぉぉ───ッ!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「訓練?」

 

「そうだ! わたしを含む、団員三人のパーティーを組み、ここ五十五層の迷宮区を突破してもらう」

 

キリトはいつもの真っ黒なコートから血盟騎士団のメインカラーの赤と白を貴重とした自分には似つかわしくないコートを着ていた。アスナ曰く似合ってるらしいがキリトとしては落ち着かない。

そんな落ち着かない中で談話室を思わせる雰囲気の部屋でくつろいでいたところそこに血盟騎士団フォワード指揮をとるゴドフリーが現れた。

 

「ちょっと、ゴドフリー! キリト君は私が!」

 

「副団長といえど、規律をないがしろにしては困りますな。それに入団する以上、フォワード指揮を預かるこのわたくしに実力を見せてもらわねば」

 

「あ、あんたなんか問題にならないくらい、キリト君は強いわよ!!」

 

「では、三十分後に街の西門に集合!!」

 

右腕を突き上げ、体育会系ノリのゴドフリーは、笑いながら部屋から出て行く。

 

「はぁ〜、せっかくキリト君と一緒になれたのに」

 

「すぐ帰ってくるさ。ここで待っててくれ」

 

キリトがアスナの頭を撫でながら答える。

 

「うん、気をつけてね」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

キリトは時間ほぼぴったりに西門に向かうと、西門の前にゴドフリー。そしてもう一人の赤と白の鎧をまとった男がいる。

 

「おーい、こっちこっち」

 

ゴドフリーに呼ばれて嫌々そちらに向かって行く。もう一人の男の正体を確認した時にキリトの足は止まった。もう一人の男はアスナの護衛という立場を利用してストーキングまがいの行為を行なっていたクラディールだ。

キリトとのデュエルに敗北したことでかどうかは知らないがアスナの護衛の任を外されていた。

 

「どういうことだ」

 

「あぁ、これからは同じギルドの仲間、ここらで過去の争いは水に流してはどうかと思ってな」

 

いつもの調子でゴドフリーが笑う。

 

「先日はご迷惑をおかけしまして。二度と無礼な真似はしませんので許していただきたい」

 

クラディールがキリトに頭を深く下げる。

 

「あ、あぁ……」

 

「これで一件落着だな」

 

いつも以上に大きな声で笑う。

 

「では、今日の訓練は危機対処能力も見たいので、諸君らの結晶アイテムは全て預からせてもらう」

 

突然としてゴドフリーは突拍子もないことを口にする。

 

「転移結晶もか!?」

 

クラディールは言われるがままにゴドフリーに結晶アイテム渡す。

心配などない、と言わんばかりゴドフリーは笑顔をこちらに向け手をだす。

結晶アイテムを奪うことが訓練になるのだろうか。

 

「わかった」

 

アイテムストレージにある結晶アイテムを全て手渡す。

 

「よし、じゃあみんな出発だぁ!!」

 

ゴドフリーが高らかに腕を掲げる。

 

「「「……おお」」」

 

キリトとクラディールのやる気に欠ける声が空へと消えた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

五十五層の転移門から次々と消えて行く血盟騎士団のプレイヤーたちを見送って男は口元を緩ませた。

顔まで隠れたボロ切れのようなフードを見に纏い口元に笑みを浮かべるプレイヤーを他のプレイヤーたちは見向きもすることはない。

まるでそこにそんなプレイヤーなど存在していないかのような反応だ。

そして小さく男は呟いた。

 

「まだ終わらない……もっと楽しもうぜ、《死神》さんよ……イッツ・ショー・タイム」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「はぁ……クッソ……」

 

かなりの疲労がシュウの身体を襲っていた。

最前線、第七十五層の迷宮区に潜ってもうかなり経つが未だボス部屋にたどり着けない。それどころかフィールドモンスターでさえ、倒すのにも一苦労だ。

これが連戦による疲れなのか、あるいは……

今日はこの辺にして来た道を引き返している道中。

一通のメッセージが入ってきた。アスナからだ。

 

【キリト君たちが訓練で今、五十五層の迷宮区に行ってるんだけどシュウ君は最前線ですか?】

 

なぜ、シュウの安否確認のはずなのにキリトの情報が入っているのかは疑問だが【そうだよ】とだけの短文だけ返信する。

最近のあの二人のいちゃつきぶりはなかなかのものだ。あれで付き合ってないとかどうなってんだよ。

今度キリトにあったら本気で説教だな。

すると金属同士がぶつかり合う音が遠くの方から鳴り響いた。

どうやら誰かがモンスターと戦闘をしているようだ。

他のプレイヤーが戦闘中に手を出すのは基本的にマナー違反なので軽く挨拶だけして通り過ぎようとした。

 

「クッ……!」

 

フィールドの中央付近、顔から体まで覆う大きなマントをまとったプレイヤーが一人で甲冑を身に纏った騎士と戦闘していた。

だが、太刀筋はどこか不安定でまるで初めて戦うように見えた。

最前線にソロで挑むってことは相当な自身がなければ行わない行動だ。しかし、あのプレイヤーからはそんな感じがしない。

すると騎士のソードスキルによってマントのプレイヤーの身体が吹き飛ばされる。

 

「おい、まじか!?」

 

シュウはすぐさま背中から片手剣を抜き取り、追撃を行おうとする騎士とプレイヤーの間に割り込んだ。

 

「あんた、何やってんだよ! そんなんで最前線に来るって死ぬ気か!」

 

するとマントのプレイヤーはシュウを見ると小さく何かを呟いている。

 

「……けた」

 

しかし小さすぎてその言葉は届かない。

騎士がソードスキルモーションにはいる。

 

「クソッ……!」

 

剣が閃光を帯び始めるその瞬間、シュウは動く。相手がソードスキルを放つ寸前にこちらの片手剣が赤い光芒を放ちジェットエンジンのような起動音が鳴り響く。

───片手剣重単発技《ヴォーパルストライク》

騎士はソードスキルを放つ前に後方へと大きく吹き飛ばされる。

技後硬直が起きる寸前にシュウは背中から片手槍を抜き、担ぎ上げるモーションへと無理やり持っていく。ギリギリのタイミングで起動した。

槍は真紅の光を放つ。それをバランスを崩している騎士めがけて投げつける。

───槍投撃技《レイヴァテイン》

避けることもできない騎士の胸の中心直撃し、貫通する。そして光のカケラとなって騎士は爆散した。

膝に手を置いて乱れた息を整える。

瞬時の判断とタイミングで動かなければいけないソードスキル同士を繋ぐのは、一連の連続攻撃を行うだけでも疲れる。

 

「あんた、大丈夫か……」

 

「は、はい……ありがとうございます」

 

マントから色素が薄い長い髪が垂れている。

声からしても女性のようだ。

 

「何が目的だったかしらねぇけど、ソロで最前線は危険だぞ。ちょうど俺も帰るところだし街まで送るよ」

 

シュウが彼女の横を通り過ぎようとすると右手を勢いよく右腕を掴まれた。

 

「急いでください! このままじゃ、あいつらが動き出します!」

 

突然、大きな声を出されて驚いた。

 

「どうしたんだよ、それにあいつらって……?」

 

すると少女は、俯く。そして震えながら小さな声で呟いた。

 

「……《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》」

 

なぜそいつらの名前がここで出て来るんだ。

だってあいつらは、数ヶ月前にギルドもろとも滅んだはずだ。

しかし、その考えは瞬間的に否定された。

あの時、リーダーのPoh、そして参謀のライアは、討伐戦にすら姿を現していなかった。

 

「……残党がまだ動いてるのかよ」

 

少女は小さく頷いた。

 

「クソッ! どこだ、どこに奴らはいる!!」

 

少女の肩を掴んで強い言葉でまるで怒鳴りつけるように声を荒げる。

すると少女のマントがまくれ素顔が現れる。ふわっとした長い髪におっとりとした瞳だが、今は恐怖を浮かべている。

その顔にどこかで見覚えがあった気がした。

しかし、今はそれを思い出している時ではない。

自然と肩を掴む力が強くなって、苦痛の表情を浮かべる少女。しかし、そんなことを構っている余裕がないほどにシュウは焦っていた。

 

「五十五層の迷宮区の手前で、獲物を待つって」

 

「……五十、五層?」

 

その言葉にシュウは血の気が引いていく。

それって確か、キリトが訓練で向かってるって場所じゃなかったか。

つまり今回の標的は……

 

「クッソが……ッ!」

 

シュウはアイテムから転移結晶をオブジェクト化し、すぐさま五十五層へと転移した。

一人残された少女は、腰が抜け、その場に座り込んだ。

 

「……これで、少しは返せたかな」

 

まだ腰が抜けて動けそうにはない。

あの騎士がリポップする前に自分も転移結晶で逃げなくてはならない。

力が抜けたのが足に無理矢理力を入れて立ち上がろうとした時、バランスを崩して倒れてしまう。マントがはだけて足があらわとなる。

そこには……棺桶が笑っていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

第五十五層・迷宮区前

 

シュウは五十五層の迷宮区へと降り立つとすぐさま迷宮区を抜け出して街の方向へとめがけて走り出した。

幸いなことに五十五層は迷宮区に行くまでの道が岩壁に囲まれた一本道だ。なのでこの道を戻っていけば確実にキリトたちにぶつかる。

フレンドの表示でキリトの位置を確認する。もうすぐ近くにいるようだ。まだ生きている。

それだけでとりあえずは安心だ。

しかし、マップを見る限りどこかおかしい。キリトは全くとして動こうとしていない。

 

「まさか……」

 

シュウはより一層加速し、キリトたちの元へと駆けつける。

あの角を曲がればキリトが居るはずだ。

シュウが最後の角を曲がった時、驚愕の光景が広がっていた。

地面に倒れこむキリトと血盟騎士団のフォーワード指揮のゴドフリー。そしてゴドフリーの背中に大剣を突き刺す血盟騎士団のプレイヤー。

 

「あぁぁぁ!!」

 

「ゴドフリー!!」

 

キリトが叫ぶ。

それと同時にシュウは片手剣を抜き取って大剣を持つプレイヤーめがけて突進する。

───片手剣突進技《レイジスパイク》

 

「テメェ、何してやがる!?」

 

「シュウ!」

 

キリトの叫びに振り向いた大剣のプレイヤーが驚きを表情に浮かべる。その時だった。シュウの片手剣は何かと衝突する。それとともに発動していたソードスキルがキャンセルされる。

 

「なに!?」

 

それに合わせたかのようにどこからともなく現れた四人のプレイヤーがシュウに一気に襲いかかってくる。

間一髪のところで《クイックチェンジ》が発動し、両腕が光が灯されたと同時に身体に捻ってわずかに膝を曲げる。

システムが起動したとともに右足を地面に杭のように刺したイメージで軸とし、捻っていた身体を解放する。

───二手刀流旋回技《双嵐転》

すると四人のプレイヤーは即座にガード姿勢に入り、手刀を受けるのを回避する。

一瞬の判断であそこまで行えるということは、こいつらかなり対人戦闘に慣れている証拠だ。

 

「なんだテメェら、邪魔をするならお前らもろとも殺すぞ」

 

すると全員がわずかに退いたかと思うと、

 

「そうだ。……お前は、そうでなくてはな」

 

背後からの強烈な殺気。

振り向くよりも先に右腕を顔の前へと持ってくる。そして振り返ると同時にそれを横へ薙いだ。

金属が弾かれる甲高い音が鳴り響く。

ほんの数秒でも判断が遅れていたら直撃は間逃れなかった。

そこにいたのはボロ切れのような布をまとった男がこちらを睨みつけていた。

 

「……ライア」

 

「光栄じゃないか……俺の名前を覚えてくれてよ、《死神》さん」

 

その言葉にシュウは心臓も鼓動が速くなる。

仮想世界にそんなものなど存在しないはずだが、シュウは平然としていられない。

すると後方からクラディールの狂った声が聞こえる。

 

「早くそのガキを連れて消えろ……ライヤ!」

 

「お前こそ消えたらどうだ、クラディール? 相当《黒の剣士》に恨みがあるようだが、所詮はお前も本物にはなりきれない」

 

その言葉にクラディールは怒り狂ったようにこちらを睨みつける。

今のうちに、とシュウが動こうとすると足元に短剣が突き刺さる。

 

「お前はこっちだ、《死神》」

 

すると前方にいた四人のプレイヤーが一気にこちらに押し寄せてくる。

さすがにこの人数の手練れを相手にすることはほとんど不可能だ。だが、ここで下がれば、キリトたちの救出はほとんど絶望的になる。

────一か八かに賭けるしかない。

シュウは襲いかかってくる四人のソードスキルに対して手刀で迎撃。

───二手刀流防御技《デュアルパリイ》

手刀術には珍しい防御技だ。二つの手刀がシステムアシストを受けることで相手の攻撃を弾くことができる。

二人のソードスキルをパリィすると同時にシュウはメニューウインドウを開いて殴りつけように押した。

それとともに左手の手刀が消えて新たに薄緑色の槍が姿を現した。《イグニッション・レイ》だ。

そこから槍を後ろへと弓を弾くように引き絞る。紅の光を纏った槍を一気に相手めがけて投げた。

ほぼゼロ距離から放たれる《レイヴァテイン》に前方にいた四人はギリギリで回避する。いや、回避させた。

本当の目的はそっちではない。シュウの狙いはクラディールだ。

距離は、少しあるが《レイヴァテイン》ならば届かない距離ではない。背後から迫ってきている高速の槍に気づいていないクラディール。

仮にクリティカルヒットしたとしても死ぬような体力ではない。

これでわずかでも時間が稼げると思ったその時だった。シュウの顔の横を高速の何かが横切る。短剣だ。

それは真紅の光を纏った槍に直撃。すると槍は光を失いそのまま落下する。

 

「……ッ!?」

 

驚愕のあまり声が出ない。

ありえない。そんなことがあるわけがない。

発動前のソードスキルを無効化する方法ならシュウだって知っている。相手をモーションを邪魔をする。もしくは、発動前にスタンをさせればいい。しかし、発動しているソードスキルを無効化するなんて聞いたことがない。だが、目の前でそれは起きた。

シュウは短剣が飛んできた方向を振り向く。

そこには、不敵な笑みを浮かべるライアがいた。

 

「何をしやがった」

 

「これから死にゆく貴様が知ることではない」

 

ライアがゆっくりと右腕を上げていく。

それとともに後方にいた四人が連続的に攻撃を行ってくる。こちらもソードスキルで対抗しようとするがその度に未知の力が付与された短剣によってソードスキルが無効化される。

 

「クッソ……はぁ……はぁ……」

 

かろうじて攻撃を防ぎ続けているがそれでも徐々にHPは減っていく。さすがにソードスキルを使用せずに対人戦闘になれたプレイヤー四人を相手にすることは無謀以外の何者でもない。

しかし、ここで転移結晶などを使って逃げるわけにはいかない。そんなことをすればこいつらはキリトを殺しにいくだろう。

それにもう一刻の猶予もない。こいつらと相手をしている間にもキリトたちはクラディールに殺されているかもしれない。

 

「さすがは単騎でボスを撃破しただけのことはあるな」

 

なんの話をしている。

するとライアがマントから不敵な笑みを浮かべながら、

 

「違うか……あのクソギルドを囮にして倒したんだったか」

 

「テメェ……」

 

ライアの言葉に身体の奥の奥に封じ込められていた何かがこみ上げてくる。

 

「事実だろ? そもそもあんな情報に引っかかるクソギルドのリーダーが悪いだろ。あんなわかりやすい転移ゲートに引っかかるなんてな」

 

ライアが口元を押さえて笑いを堪えるような仕草をとる。

落ち着くんだ。これはこいつの策略だ。

相手を惑わせて自分の掌の上で踊らせる気だ。

しかし、今のシュウは平然ではいられるような状況ではなかった。

こいつは、ミサキたちのことをバカにした。シュウのことを責めることはいいがあいつらの事を悪く言うことは許してはならない。

それにあれはシュウが判断を間違えたせいだ。あのトラップを、ワープエリアに気づいていれば……。

その言葉にシュウは引っかかる。

 

「……お前、転移ゲートつったか?」

 

「それがどうした?」

 

何かが徐々にこみ上げてくる。それはもうすぐそこまで迫っていた。

迫ってきているかはもうわかっていた。かつてのシュウが撒き散らし続けた負の感情。

それを抑え込みながらシュウは淡々と口にする。

 

「……二十九層のボス戦の攻略情報で公開されたのは、ギルド一つを壊滅させたということと憑依するボスということ、ギルドの生存者は一人のみだったということだけだ。なんでテメェが、ボス部屋に入った手段を知ってやがる」

 

「……ククク、ハハハッハハ」

 

ライアがわざとらしく大声をあげて笑い出した。

 

「俺としたことがこんな単純なミスをするとは……そうだよ! お前の入ってたギルドにあのエリアの情報を与えたのは俺だ! まさか、あのバカが信じるとはな。ハハハッハハ!!!」

 

「……そうか」

 

こいつがダイキに嘘の情報を流し、ミサキたちを殺したのか。

もう止められないほどに膨れ上がった殺意が身体の中にとどまりきれず外部へと溢れ出す。

もはや俺の意思では止められそうにない。

 

「……殺す」

 

ただその一言だけを口にするとシュウは一瞬で一人のプレイヤーとの間を詰めた。

相手がそれに気づいた刹那。そのプレイヤーの首が地面へと落下する。周りのプレイヤーたちは驚きのあまり声すら出せない。

そのまま首がなくなったプレイヤーの身体は膝から崩れ落ちて消滅する。

 

「な、何をしやがった!」

 

一人のプレイヤーが恐怖を露わにしながらもシュウへと刃を向ける。しかし、そのプレイヤーは、唐突に地面に倒れこんだ。

 

「わ、わぁぁぁぁ───ッ!」

 

倒れこんだプレイヤーの膝から下が消滅していた。この世界では、痛覚はない。だからこそ、斬られたって痛くはない。だが、人とは不思議なものだ。痛みはないはずなのに部位が欠損すると痛みを勝手に脳が感じてしまう。

 

「うるせぇ……喚くな」

 

シュウは倒れるプレイヤーの首元へと刃を伸ばした。それは刃が赤黒く染まった死神の鎌。

人の命を奪うためだけにこの世界に存在する悪意の塊のような武器。

シュウは中途することなく鎌で倒れたプレイヤーの首を落とした。

 

「あ……っ……」

 

そんな言葉にならない声を最後にそいつの命は途絶えた。この世界の死は何も残らない。

 

「……次はお前らだ」

 

シュウに睨まれたプレイヤーたちはまるで石にでもなったかのように固まる。そんなプレイヤーたちを殺すことなど造作もない。

一歩一歩近づいていく。それでも動こうとしない。

 

「……どうした? 逃げないと死ぬぞ」

 

その言葉に我に返ったように二人のプレイヤーは逃走していく。本能的にようやく死の恐怖を感じたようだ。

そうでなくては……殺しがいがない。

 

「まぁ、逃さねぇけどな」

 

シュウは短剣を二本オブジェクト化するとなんの躊躇いもなく逃げるプレイヤーへと投げた。

───投剣単発技《デュアルシュート》

同時に二本の武器を投げることができるソードスキル。

短剣は逃げるプレイヤーの背中にほぼ同時に刺さる。すると二人のプレイヤーはその場へと倒れこむ。

 

「う……麻痺、だと」

 

麻痺属性の短剣。本来ならばモンスター相手に使用するものだが、今はどうでもいい。

動けない二人へとゆっくりと近づいていく。

そして一人の首元へと鎌をかける。

 

「や、やめろ……」

 

「あァ? やめろだァ?」

 

「や、やめてください。い、命だけは……」

 

泣きじゃくるプレイヤーにシュウは、

 

「心配するなって。こいつで即死が出る確率は、せいぜい三十パーセントくらいだからよォ。安心しろって……即死しなければ見逃してやるからよォ!」

 

シュウは勢いよく首を跳ね飛ばした。それとともに相手のHPはゼロとなり、身体もろとも消滅する。

 

「お前は運がある方かァ?」

 

もう一人の倒れているプレイヤーの首筋へと鎌をかける。そして最後の言葉など待つこともなくシュウは鎌を振り抜いた。

 

「チッ……!」

 

プレイヤーのHPは、イエローゾーンに到達したところで止まった。首は飛ばされることはなく首筋に紅いエフェクトが飛び散っただけだった。

 

「よかったなァ、おめでとさん」

 

そう言ってシュウは転移結晶を無造作に投げつける。ここから逃げるも追撃するもこいつの自由だろう。

プレイヤーは、恐怖に震えながらその転移結晶を握るとどこかの町の名を叫んで消えて言った。

すると少し離れたところから手を叩く音が聞こえた。そんなことをする奴など考えるまでもなくわかった。

 

「やはりお前はそうでなければならない」

 

狂気の笑みを浮かべるライア。

 

「本来ならばお前はこちら側の人間だ。それが正義の皮など被って普通の生活を送っているなど、俺たちよりもずっと狂気だよ。シュウよ」

 

シュウは何も答えることなくライアを睨みつけた。

 

「これはゲームだ。どれだけ人を殺したって罪にはとわれない。何をやっても許される狂った世界なんだからな」

 

「ゲーム……だと」

 

シュウは鎌を握る力が強くなる。

 

「なら、テメェは今まで犯してきた殺人も、ミサキたちを罠にはめて殺したのも、今のこの状況も、ゲームだから問題ないっていうのか?」

 

「その通りだ」

 

ライアは迷うことなくキッパリと口にした。

その瞬間、シュウは一気にライアとの間合いを詰める。鎌が首を狩りとる寸前で金属同士がぶつかり合う乾いた音が鳴り響いた。

ライアが持っていた短剣でギリギリのところで防がれた。だが、そこまではわかっていた。

あらかじめ出現させておいた右の手刀ががら空きの腹部へと襲いかかる。

その直前でライアは持っていた短剣を真下へと投げる。それとともに体勢を大きく歪めて鎌をギリギリで回避する。

だが、その程度の短剣で手刀が防げるわけもない。

その瞬間、ライアの狙いに気づいたが身体が言うことを聞かず止まらない。ライアの放った短剣はシュウの太ももへと刺さるとHPをわずかに減らす。そして同時に身体へと電撃が走ったような衝撃が加わる。

麻痺だ。

シュウはその場に崩れ落ちていく。

 

「おいおい、さっき自分が使った手にかかるのはいけねぇだろ。それじゃあ、攻略組の名が泣くぜ」

 

ライアが挑発するようにこちらに迫ってくる。

その瞬間、シュウは持っていた鎌の刃を足首めがけて薙いだ。飛び退くようにしてライア回避する。

 

「チッ……外したかァ」

 

シュウはそこから何事もなかったかのように立ち上がる。するとライアは憎たらしいと言わんばかりの表情を浮かべる。

 

「なぜ、俺の麻痺が効かない」

 

「《死神》だからよ、状態異常なんてならねぇんだよ」

 

そんなふざけたハッタリなど意味はない。ただライアをおちょくるためだけだ。本当は、シュウが持っている鎌状の槍の能力。状態異常を確率で無効化することができる。

するとライアは声を荒げて笑う。

 

「やっぱりテメェは最高だ、《死神》さんよ」

 

「テメェは最悪だ、ライア」

 

「褒め言葉として捉えておくとするよ」

 

睨み合う《死神》と《虚言者》。

二人は同時に間合いを詰め、再び、金属同士がぶつかり合う甲高い音が響いた。

しかしそれは二人の武器がぶつかり合う合う音ではなかった。

シュウとライアの間に白をベースとした赤いラインが入った鎧を纏う男。SAO最強のプレイヤー、血盟騎士団団長のヒースクリフだ。

するとライアが大きく後ろに飛び退いた。

 

「どうやら間に合ったようだね」

 

「何の話だ? 邪魔をするならテメェも殺すぞ」

 

その言葉にヒースクリフはわずかに驚いた表情をしたかと思うとその口元に笑みを浮かべる。

 

「なるほど、確かに凄まじい殺気だ。これが《死神》とまで呼ばれた君の本性……いや、そうではないようだね」

 

全てを悟ったように語るヒースクリフにシュウは額に汗をにじませる。その言葉でシュウの身体から一気に力が抜けていく。

今まで自分が行ってきた事、罪が一気に襲ってくる感覚だ。

そしてそのまま、膝から崩れ落ちていく。

 

「そういうわけだ。まだ戦い足りないというのならわたしが相手になるが」

 

するとライアはヒースクリフを怒りの表情をむき出しにして睨みつける。彼としてはあそこまでわかりやすく感情を剝きだすのは珍しい。

 

「チッ……やめておこう。ここでお前との決着をつけたところで意味などない。これはゲームなんだからな」

 

ライアは、転移結晶をオブジェクト化すると最後に、

 

「シュウ、お前との決着はお預けだ。しかし、必ず、お前から全てを奪って本物に変えてやる。楽しみにしておくんだな」

 

そう言い残して姿を消していった。

しかし、その言葉はシュウに届くことはなかった。




今回の話は意外とシュウの過去に繋がる重要に話です。
SAO編では、詳しくはやらない予定なのでよろしくお願いします。

あとシュウに情報を教えてくれた少女が誰なのか?
それもおいおいわかりますので。

誤字脱字、おかしな点、気になる点、感想がありましたらメッセージ、感想等でお知らせください。
また読んでいただければ幸いです。
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