ソードアート・オンライン 〜槍剣使いの能力共有〜   作:カエサル

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08.神殺しの聖槍

 

 

二〇二四年十月十七日 第七十四層・迷宮区

 

「クッ……!」

 

苦痛の声を洩らしながら刃を振るう。

───片手剣水平四連撃技《ホリゾンタル・スクエア》

第七十四層・迷宮区のモンスター、トカゲのモンスター、リザードマンロードの攻撃を避けながら放つ。四撃目を放ち終わった瞬間、リザードマンロードを中央にし光が正方形に描かれる。リザードマンロードが光の欠片となり姿を消す。

 

「はぁ……はぁ……はぁ」

 

七十四層まで来るとフィールドモンスターでさえ、強く一匹倒すのにかなり苦労する。

だが、この層になってモンスターが急に強くなったような気がする。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

第五十層・アルゲード

 

迷宮区を抜け出し、まず初めに向かったのは中央通りから外れた店。エギルが経営している店だ。

 

「うーっす」

 

路地裏のエギルの店に入ると、何やら店主が少々、ガッカリしたような、ふてくされたような顔をしている。

 

「どうしたんだよ、エギル?」

 

「おう、シュウか。実はな……」

 

エギルの話を聞くに、さっきキリトが先ほどS級食材のラグー・ラビットを取ってきたらしい。しかし、キリトは料理スキルなどあげていなかったはずだ。S級食材でも調理できなければ意味はない。まさに豚に真珠だ。

ラグーラビットをエギルの店で売ろうとしていたその時、ちょうどアスナが現れらしい。彼女は調理スキルをかなりあげているらしく確実に素材を活かせる料理にしてくれるだろう。

 

「なるほど、つまりキリトは今からアスナの手料理を食べるというわけか。それも極上の素材で……よし、殴り込みに行くか」

 

コートの腕捲りしながら店から出ようとする俺をエギルが制止させる。

 

「おい、ちょっと待て!!」

 

「なんだよ」

 

「お前はここになんかしに来たんじゃないのかよ?」

 

「あっ……」

 

キリトへの怒りで本来の目的を忘れていた。

危ない危ない。

 

「そうだった。危うく本当の目的を忘れるとこだった」

 

「で、何の用事だ?」

 

「武器の新調をしようと思ってな。最近どうにも敵が強くなった気がしてな」

 

「どっちだ。片手剣か、槍か?」

 

SAOの中でもシュウの様に武器を複数に使うプレイヤーは少なくはないが複数武器を使うということは、その武器の熟練度もあげなければならない。

だが、その大半が斬撃系と打撃系といった形で分けてあげている。しかし、シュウのように片手剣と槍といった斬撃系を二種あげているというプレイヤーはほとんどいない。

 

「槍の方を頼めるか」

 

エギルがカウンターから槍を何本かオブジェクト化する。だが、どれもしっくりこない。

 

「なんかしっくり来ないな」

 

「勘弁してくれよ。これで全部だぜ。あとはプレイヤーメイドくらいしかないだろ」

 

「確かにそれが一番手っ取り早いかもな。いい鍛冶屋って知ってるか?」

 

武器ならばNPCが運営している鍛冶屋に頼んでもいいのだが、正直鍛冶スキルを上げたプレイヤーにやってもらった方がいい武器は作れる。

 

「そうだな……」

 

そういえば前にちょっと前にキリトが剣を作ってもらったって言ってた気がするが場所までは聞いてなかったな。

 

「そういや、キリトの野郎がアスナの紹介で行ったっていう店はどうだ?」

 

エギルが考えた後、思い出した様に言う。

ほぼ同じくことを考えていたということが若干気味が悪い。

 

「なんだ。その顔は? 不満か?」

 

「いや、こっちのことだから忘れてくれ」

 

さすがにこんな状況で気味が悪かったなんて言えば、エギルは教えてくれないだろう。

 

「まぁ、キリトとアスナのお墨付きなら安心だ。それでどこの層なんだ?」

 

「確か、四十八層の街にあるって行ってたが、詳細までは覚えてねぇな」

 

「まぁ、向こうでとりあえず探してみるよ。それじゃあ、また攻略会議あたりで近々会おうぜ」

 

「おう!」

 

互いの拳を合わせる。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

第四十八層・リンダース

 

エギルには探してみるは、と簡単に言ったものの意外と見つからないものだな。四十八層の街の地形がここまで広いとは想定していなかった。

 

「完全に迷ったな」

 

日もだいぶ落ちて空が真っ赤に染まる。

諦めかけて今日の宿を探しに行こうとすると後ろから可愛らしい聞き覚えのある声がする。

 

「あれ、シュウさんじゃないですか?」

 

振り向いて見るとそこには、赤をベースにした服、肩には水色の龍が乗っている少女がいた。

 

「シリカ、久しぶりだな。ピナも元気そうだな」

 

「ピー!」

 

ピナが可愛らしくシリカの肩の上で鳴く。

 

「どうしたんですか、こんなところで?」

 

「ちょっと迷子でな。武器屋を探してるんだけど」

 

「武器屋でしたらさっき向こうにありましたよ」

 

シリカが「こっちです」と手招きしながら軽快なステップで目的地へと目指していく。

しかし、徐々にその軽快さはなくなり、あれ、あれ、と繰り返すようになる。

そこでシュウも察した。道に迷っていると。

「今日は遅いし、明日にでも」と言おうとするとシリカはマップを開いて、再び、軽快なステップで歩いていく。

そこでようやく自分の馬鹿さ加減に気づいたシュウだった。

そもそも、マップを見ながら行けばよかった話じゃないか。

 

───何やってんだよ、俺……

 

そんなことを悔いているうちにシリカがとある建物の前で止まる。そこは水車が目を引く、藁の屋根の小さな家。扉の前にはリズベット武具店の看板。

一見すると武器屋という雰囲気ではなくただの民家という感じだ。これだとマップ見ても分からなかったかもしれないな。

 

「ありがとな、シリカ」

 

「いえいえ、シュウさんには恩がありますので」

 

木製の扉を開けると、カラン、というベルの音が店内に鳴り響く。そこにはガラスケースの中や壁に掛けられた様々な種類の武器が置いてある。中は無人で鍛冶屋のプレイヤーは見当たらない。

 

「いろいろありますね」

 

シリカがガラスケースに入っている武器を見ながら呟く。

 

「そうだな」

 

そこに置かれているのは、あまりドロップアイテムなどや他の鍛冶屋では見ないような代物ばかりだ。相当、鍛冶スキルが高くなければここまでの代物は作れないはずだ。

感心して食い入るように武器を見ていると後方から元気のいい声が聞こえた。

 

「リズベット武具店へようこそ!」

 

振り返ると目立つピンクの髪、メイド服にも似た赤をベースとした服を着る少女が奥の扉から現れた。

どうやらこの店のプレイヤーなのか?

それともバイトみたいな形で雇われている少女なのだろうか。

 

「オーダーメイドの武器を頼みたいんだけど」

 

すると少女はシュウを上から下まで見ると不安そうな顔をする。

 

「今、金属の相場が上がっておりまして……」

 

「予算は気にしなくていいから、今作れる最高のものを作ってくれればいいって、この店の鍛冶屋に伝えてくれ」

 

すると少女は、ムッとした表情に変わると、

 

「この店の鍛冶屋はアタシ(・・・)なんですけど!」

 

この少女がこの店の鍛冶屋?

つまり、後ろに置かれている武器や壁に掛けられている武器を作ったということか。こんな可愛らしい少女が、作ったとは思えないな。

 

「いや、ごめんなさい。なんか君が作ったとは思えないくらい力強い武器だと思ってさ。もっとごっついおっさんが作ってるかと……」

 

「全く失礼しちゃうわ!」

 

どうやら機嫌を損ねてしまったようだ。これはマズイな。

このままでは武器の新調ができなくなってしまう。

すると少女は、大きなため息をついてから、

 

「それで、どんな武器を作って欲しいの? 具体的な性能とか、目標値とかは?」

 

急にタメ口になった少女だったが、最初に失礼なことを言ったシュウは何も反論できない。

 

「そうだな……。それならこの槍以上の物であればいいですかね」

 

使い慣れない敬語のようなものを使いながら、メニューウインドウから愛用の槍、《イグニッションレイ》をオブジェクト化する。

片手用槍《イグニッションレイ》はモンスタードロップの中では、かなり上位のレアドロップ武器だ。四十五層のLAボーナスで手に入れた武器。

少女はその槍をシュウから受け取るとステータスを確認して驚愕の声を上げる。

 

「なっ! この武器だけでも相当なレア度でステータスの高い武器だと思うんだけど」

 

「まぁ、LAボーナスだしな。それでも最近は厳しいんだよ」

 

すると彼女は、後ろの壁に掛けられていた槍を手に持つとこちらに渡す。

 

「これならどう。私が鍛え上げた中でもなかなかの出来よ」

 

ステータスを確認する。《スピードスター》。早さに特化したタイプの槍。連続攻撃やスキル同士を繋げるのには良さそうな武器ではある。

少し広めのスペースで左手で槍を持ち、ソードスキルのモーションに入ってから発動を待たずに槍を振るう。その後、何も持っていない右手で斬撃を繰り出すソードスキルへと移行。

確かにつなぎは簡単になりそうだ。

だが、《イグニッションレイ》に比べると少しばかり劣ってしまう。

 

「少し長さが足りないかな。……ん、どうしたんだよ、シリカ?」

 

「いえ……シュウさんこそどうしたんですか?」

 

今の行動は《手刀術》を知らないプレイヤーには、意味のわからない行動だ。唐突に槍でソードスキルのモーションにはいり、それを発動させない。それだけでも謎だというのにその上、何も持っていない方の腕まで動かしたらわけのわからないだろう。

 

「んっ!! ……やっぱりオーダーメイドで頼む」

 

一度、わざと大きく咳払いをしてさっきのことはなかったかのように話を続ける。

 

「とは言ってもね……今、レア度の高い鉱石があんまりないのよね」

 

少女は困ったように呟く。

なら、と言ってシュウはアイテムストレージ内のあった複数の鉱石をオブジェクト化してカウンターの上に並べる。

 

「これだけあれば大丈夫そうか?」

 

すると少女は呆然とした表情をしながら、

 

「あんた何者よ、ここまでレア度の高い鉱石持ってるって」

 

「まぁ、俺の素性はどうでもいいだろ」

 

「それじゃあ、この槍以上のやつでいいのね。これだけあるなら作れるとはおもうわ」

 

「頼む」

 

「それじゃあ、ちょっと待ってて」

 

鍛冶屋の少女が奥の扉に入ろうとしたところで、シュウはあることを思い出した。

 

「ちょっと待った」

 

「どうしたの?」

 

「別料金でこれも武器にしてくれるか」

 

アイテムウインドウから禍々しく光を放つ紅い石をオブジェクト化させ、それを少女へと投げる。

 

「これもしてこればいいのね」

 

少女が後ろの扉の中に消えていく。

 

「シュウさん、あの石は何なんですか?」

 

「前回のボス攻略の時、手に入った石なんだけど多分、レアな鉱石だと思うんだけど持っててもどうしようもないしな」

 

「そうだったんですか。……やっぱり、シュウさんはすごいですね」

 

「そんなことねぇよ」

 

シュウは、これまであった冒険の話をシリカに語る。それに食い入るように聞いている。

そんな話で暇を潰しているその時だった。悲鳴にも似た声が店内に響いた。

 

「なによこれ!!」

 

さっきの少女の叫び声だと判断したシュウは勢いよく彼女が入っていった扉を開ける。

そこは工房のようで、鉄を溶かす釜や巨大なハンマー、制作途中の武器などが置かれている。

そこで尻もちをついて驚愕の表情を浮かべている。

 

「どうしたんだ!?」

 

「ありえないわ……こんな武器……」

 

彼女の目線の先には片手用槍があった。それは禍々しい紅の光を放ち穂先が三つに分かれた三叉槍だ。

 

「この武器、何なの!?」

 

少女は唐突にシュウの胸ぐらを掴み、声を荒げる。

 

「なにって、君の作った武器だろ。俺に聞かれても……」

 

シュウ自体も先ほどの石の詳細を知っているというわけではない。ただ攻略中にレアドロップアイテムで落としたというだけのことなのだから。

アイテム名は確か《聖者の遺物》。詳細もただその石のよくあるような成り立ちが書いてあるだけだったので詳しくは読んでいない。

すると少女は申し訳なさそうにしながらシュウの胸ぐらを話す。どうやら冷静さは取り戻したようだ。

 

「それもそうね。……ご、ごめんなさい」

 

あれだけ取り乱すということは、そこまでおかしなステータスということなのだろうか。

いや、それだけのことでここまで動転するのはおかしい。この槍にはそこまでの秘密があるということだろうか。

 

「その紅い槍、とんでもない代物よ。多分だけど、私の鍛冶スキルがどうこうっていう話でもないわねきっと」

 

言っている意味がわからずにシュウとシリカは目が点になる。

すると鍛冶屋の少女は大きめのため息を吐くと、

 

「いい、武器を作るにはそれなりの鍛冶スキルを上げてないと上級の武器ってのは作れないものなの」

 

それはシュウも承知の上だ。だからこそ迷子になってまで来て武器を作ってもらっているのだから。

 

「でもね、この武器は違う。私が一発叩いただけで、あんたが持ってきた周りの鉱石を全部を素材にして勝手にできたのよ」

 

「つまりは……どういうこと?」

 

まだわからないのかという視線を向けられる。

鍛冶知識ゼロのシュウにそんなことを言われても困る。

 

「いわゆるクエスト状態だったってこと!」

 

鍛冶屋の少女がその言葉を口にしてようやく理解した。慌ててクエスト確認画面を見るとクリア欄に見知らぬクエストがあった。

 

「つまりは、この石を手に入れた段階から始まる強制クエストだったってことか」

 

少女は強く頷く。

シュウはクエスト欄の報酬アイテムの名を呟く。

 

「……《神槍ロンギヌス》」

 

「この武器の名前も《神槍ロンギヌス》よ」

 

《ロンギヌス》───イエス・キリストの生死を確認するために左脇腹を突き刺した聖遺物としていると槍だ。もともとローマ兵の名からとってつけられた名前らしい。よくゲームの中では、最強の槍と称されることが多い。

 

「多分だけどこの武器……」

 

少女が少し間をあけてから口を開いた。

 

「伝説武器……レジェンダリーウエポンよ」

 

その言葉にシュウは驚愕した。

 

「あのー、すみません、レジェンダリーウエポンって何ですか?」

 

シリカが小さく手を上げながら質問する。

すると鍛冶屋の少女が口を開いた。

 

「鍛冶屋とか情報屋の中ではほとんど都市伝説レベルの話よ。存在するかも誰が言い出したのかもわからない伝説の武器」

 

噂には聞いたことがあったが、本当に存在しているとは思わなかった。

シュウは禍々しい槍《ロンギヌス》を恐る恐る左手で持つ。

手に持った瞬間に身体からなにかが奪われていくような感覚が襲ってくる。これが伝説の武器(レジェンダリーウエポン)の迫力というやつなのか。

 

「ちょっと、二人とも離れてて」

 

左手でロンギヌスを持ち、右腕でユニークスキル《手刀術》を発動する。槍のソードスキルと手刀術のソードスキルを同時使用。

圧倒的な反応速度。まるで槍を持っているのに自らの手を振るっているような感覚だ。

 

「なんなの、そのスキル?」

 

「なんですか、シュウさん。そのスキル?」

 

二人は不思議そうにこちらを見てくる。

 

「詳しくは、話せないけど……そういうスキルがあるってことだ」

 

シュウはロンギヌスを背中に納める。

 

「いい武器だな」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「それで代金はいくらだ?」

 

「代金ならいらないわよ。結局あんたのクエストだったんだし」

 

「いや、そうだとしても一回頼んだことだし」

 

すると鍛冶屋の少女はなら、と口を開いた。

 

「あんたが次武器を作るときは必ず私の店に来てちょうだい。それで今回はチャラってことで」

 

「ああ、わかった。武器のメンテとかも頼むよ」

 

すると少女はわずかに笑みを浮かべて、

 

「あんた、あいつに似て面白いわね」

 

「あいつ?」

 

どこか楽しそうに、だが、どこかでは寂しそうな表情をしていた。

 

「バカでハチャメチャなんだけど、一緒にいると楽しくて暖かいそんな奴」

 

そんなバカに一人心当たりがあったがさすがに違うだろう。あの自分の気持ちに素直になれない馬鹿野郎をな。

 

───まぁ、俺も人のことは言えないけどな。

 

「私はリズベット、リズでいいわよ」

 

鍛冶屋の少女、リズベットは笑顔でこちらに手を差しだす。

 

「俺は、シュウ。よろしくな、リズ」

 

硬い握手を交わす。

リズとはこれからも長い付き合いになりそうだ。

 

「あなたもよろしくね」

 

リズは、シリカにも手を差し出す。

 

「あたしはシリカって言います。この子はピナって言います」

 

リズとシリカも握手をする。

 

「それじゃあ、また頼むな、リズ」

 

「これからもリズベット武具店をよろしくお願いします!」

 

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