ソードアート・オンライン 〜槍剣使いの能力共有〜   作:カエサル

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09.青眼の悪魔

 

 

二〇二四年十月十八日 第七十四層・迷宮区

 

「おりゃぁぁぁ!!」

 

七十四層迷宮区の骸骨騎士のデモニッシュ・サーバント。長剣とバックラーを持つ大型の人型モンスターだ。

 

真紅の槍が純白の閃光をまとう。地を蹴り、突進する。目にも留まらぬ速さで槍が骸骨剣士の身体を貫いた。

───槍三連突進技《トリシューラ》

骸骨剣士は光の欠片となりその姿を消滅させる。

 

「まだ、ボスの部屋につかないのかよ」

 

この層の迷宮区潜って二日目。未だボスの部屋に誰も到達することが出来ていない。それもそのはずだろう。この層になってから急にフィールドモンスターの強さが上がった。最初は、気のせいだと思った。

しかし、情報屋や他のプレイヤーたちの話を聞くに皆が同じことを言う。

 

「あれ、シュウじゃねぇか」

 

振り返るとそこには、赤いバンダナと武士の甲冑がトレードマークのクラインとそのギルド《風林火山》の姿が。

 

「また、お前たちかよ」

 

「またってなんだよ!!」

 

この前の六十二層の時もたまたま出会ってそれで一緒にボスを討伐しなければいけない羽目になった。

レイドではなくパーティーでボス戦に挑んでよく勝てたなと自分でも感心するよ。

 

「クラインに会うとろくなことが起きねぇからな」

 

「それはお互いさまだろ……ってそうだ!」

 

クラインが何かを思い出す。

 

「あの時のスキルのこと、まだ説明してもらってねぇぞ!」

 

「……そうだったっけ? あっ! あそこに綺麗な女性プレイヤーがいる!」

 

どこだどこだ、とクラインたちが探している間にシュウは全力ダッシュする。

 

「待て! 逃げるな、シュウ!」

 

クラインたちも諦めればいいのに追いかけてくる。

 

「やだね! 説明するのが面倒なんだよ!」

 

そこからシュウVS風林火山のモンスターを倒しながらの終わりなき鬼ごっこが開始されたのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……お前ら……しつこすぎだろ……」

 

「はぁ……はぁ……はぁ……テメェ! ……逃げんじゃねぇよ!」

 

両者ともにモンスターを倒しながらも全力疾走していたせいで疲れ果てた状態になっていた。しかも最終的には、手当たり次第のモンスターを引っ掻き回したせいでほとんど囲まれた状態になって危うく死にかけるところだった。

これだからクラインたちといるとロクなことがないんだよ。

疲労状態で迷宮区を歩いていると石の前で座る黒衣の剣士が見える。

 

「おう! キリト、しばらくだな!」

 

クラインがキリトに近づく。

 

「まだ生きてたか、クライン」

 

「相変わらず、哀訴のねぇ野郎だ。ん……なんだよ。ソロのお前が女ずれって……どういうことなん……だ」

 

クラインが隣にいた女性を見ると言葉が止まる。

それもそのはずだ。キリトの隣にいるプレイヤー血盟騎士団副団長の《閃光》のアスナだったからだ。

 

「あっ、これは……ボス戦で顔を合わせてるだろうけど一応紹介するよ。こっちはギルド風林火山のクライン。こっちは血盟騎士団のアスナだ」

 

キリトが簡易に互いの挨拶をすませる。

しかし、クラインは一方に動く気配がない。と言うより完全にフリーズしている。

 

「おい、何とか言え、バグってんのか?」

 

「こっ、こんにちわ。クライン、二十四歳、独身。恋人募集中……うぐっ!」

 

クラインの鳩尾にキリトの拳がクリティカルヒットする。悶えながらその場に倒れこむクライン。

 

「「リーダー!!」」

 

すると風林火山のメンバーがクラインを介抱しに行くと思いきやキリトとアスナを取り囲む。

 

「「あっ、アスナさんだ!!」」

 

リーダーであるクラインがキリトに殴られたことを攻めるかと思いきや風林火山のメンバーはまるでアイドルに群がるかのようにアスナに近づく。

確かに普通にしていればアスナは容姿端麗である。本性を知らないのならばアイドルのような人気が出てもおかしくはない。

まぁ、最近は誰かさんの影響で性格も結構丸くなってきたから余計にそうだろうな。

 

「まぁ、悪い連中じゃないから。リーダーの顔はともかく……」

 

「そう、リーダーの顔はともかく……」

 

するとクラインが思いっきり足を踏んでくる。

 

「お返しだ」

 

殴ったのキリトじゃね?

俺は関係なくないか、と言ってやりたかったがアスナが急に笑い出した。

 

「どいういことだよ。キリト」

 

「あぁ、その〜」

 

回答に困っているキリト。アスナを見ても苦笑いを浮かべているだけだ。

その雰囲気を見てシュウは何気なく呟いた。

 

「お前ら付き合ってんのか?」

 

「「……!!」」

 

シュウの言葉に二人して一気に顔が赤くなり、すぐさま、

 

「違う違う。ただパーティー組んでるだけだよな、アスナ!」

 

「う、うん。そうだよ」

 

アスナが顔から火を噴き出しそうなくらいさらに赤面する。

その反応を見るにこいつら脈ありってことだな。

第一層の時から感じてはいたが、この二人ならいいチームになるだろうと。だが、恋人同士になるとまでは思わなかった。途中中とか相性最悪ってレベルで互いの意見を通してたしな。

それでもお似合いだとは思う。

《黒の剣士》と《閃光》二人が付き合ってるって言う情報をアルゴに売ったらいくらくらいで買ってくれるか今度交渉して見るか、とちょっとした悪巧みを思いつくシュウだった。

 

「キリト、テメェ!」

 

「ま、待てって!」

 

キリトが慌てて弁解しようとすると遠くの方からザザっという鎧が歩く音がする。それもかなりの人数だ。

 

「あっ! キリト君!」

 

遠くの方から徐々にこちらに向かってくる青い甲冑を着た十数人のプレイヤーが現れる。

 

「あれは軍の奴らか?」

 

「第一層を支配している巨大ギルドがなぜここに?」

 

アインクラッド解放軍。SAO内で最大規模を誇るギルドだ。通称は軍と呼ばれている。

 

「二十五層攻略で大きな被害が出てからクリアよりも組織強化って感じで前線には来なくなってたけど」

 

そうだ。二十五層のボス戦。通称ハーフポイントと呼ばれる凶悪なボスモンスターによって軍は壊滅的な損害を受けた。それによって下層の治安維持や組織強化などに力を入れているため最近は最前線では見なくなっていた。

そのはずが、このタイミングでなんでだ。

 

「休めぇ!!」

 

軍のパーティーリーダーと思われる男の掛け声で後ろを歩いていた十数人の男たちが崩れるように座り込む。全員かなり疲労しているようだ。

するとリーダーの男がこちらに近づいてくる。

 

「わたしはアインクラッド解放軍、コーバッツ中佐だ」

 

「キリト、ソロだ」

 

「君らはこの先も攻略しているんだな」

 

「ああ、ボス部屋の前までは、マッピングしたある」

 

「ふむでは、そのマッピングデータを提供してもらいたい」

 

コーバッツの発言にシュウは耳を疑った。

 

「ただで提供しろってことねぇだろ! テメェ! マッピングする苦労がわかって言ってんのか!?」

 

クラインが声を荒げる。

その通りだ。未知のエリアのマッピングがどれほどの危険を伴っているかは軍の連中も知っている。

 

「我々は一般プレイヤーに情報や資源を平等に提供し、秩序を維持するとともに一刻も早くこの世界からプレイヤー全員を解放するために戦ってるんだ!! 故の諸君が我々に協力するのは当然の義務である!!」

 

コーバッツが無茶苦茶な理由を口にしている。

それに少しばかり頭にきた。

 

「それで……応じないかったら恐慌に走るんだろ、コーバッツ中佐よ」

 

なに、とコーバッツがこちらを睨みつける。

 

「あんたらはそうやって下の層のプレイヤーたちに偉そうに狩場の独占だとかして政経を立ててるギルド様にはお似合いの方法だな」

 

「貴様、我らを愚弄するか!?」

 

声を荒げてコーバッツが武器を抜き、こちらに剣先を向ける。

 

「……やってみろよ。攻撃すればテメェもオレンジだ。それが意味することは軍に所属してるあんたならわかんだろうがァ?」

 

シュウは不敵な笑みを浮かべて背中の剣に手をかけようとした時、

 

「よせ! どうせ街についたら公開するつもりだったし、構わないさ」

 

キリトがシュウとコーバッツの間に割って入る。そしてこの先の迷宮区のマッピングデータをコーバッツに渡す。

 

「うむ、協力感謝する」

 

コーバッツはデータだけもらうと座り込む軍のもとへと向かう。

キリトは小声で

 

「やりすぎだ、シュウ」

 

「悪い、ちょっと頭に血が上ってた」

 

キリトはコーバッツへと向けて、

 

「ボスにちょっかいだすならやめといた方がいいぜ!」

 

「それは、わたしが判断する」

 

「さっきボスの部屋を覗いてきたけど生半可な人数でどうこうなるレベルじゃない。仲間も消耗してるみたいじゃないか」

 

ここまでキリトがここまで忠告するということは相当なボスということなのだろう。それにボスを単独のパーティーだけで倒すのは、普通の方法では不可能だ。

ユニークスキルや特殊なことが重ならない限り絶対と言っていいほど不可能だ。

 

「わたしの部下たちはこの程度で根をあげる軟弱ものではない!! 貴様らさっさと立てぇ!!」

 

座りこんでいた軍の者たちは、最後の力を振り絞るように立ち上がり重い足取りでコーバッツに着いて行く。

 

「大丈夫なのかよ。あの連中」

 

「いくら何でも、ぶっつけでボスに挑んだりはしないと思うけど」

 

「さすがに行かないだろ」

 

「一応様子だけども見に行ってみるか」

 

皆が互いの顔を合わせる。言葉にせずとも全員が賛同しているのがわかった。

それに軍の連中とはいえ、これ以上の死者を増やすわけにはいかない。

 

「どっちがお人好しなんだか」

 

シュウたちは軍の後を追ってボス部屋へと向けて歩き出した。

なにもなく終わってくれ、そんな思いとは裏腹に嫌な予感ばかりがよぎっていく。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「この先はもうボスの部屋だけなんだろ? ひょっとしてもう、アイテムで帰ちまったんじゃね?」

 

軍の連中の姿は見えず、あと残すはボス部屋へと続く道を残すだけだ。

あれだけ強気に出ていたコーバッツが途中で引き返すとは考えにくい。それにあの人数。大規模のパーティーを二、三組み合わせた小規模のレイド。あれだけの人数を迷宮区に連れていくということは何らかの目的があるはずだ。

それがボスの攻略というのなら最悪のケースになる。

 

「先を急ごう、嫌な予感がする」

 

そう言った直後だった。

うわぁぁぁぁ!!、という男の野太い悲鳴が迷宮区に響き渡った。

最悪の予感が的中してしまった。

 

「アスナ、シュウ!」

 

「うん!」

 

「おう!」

 

キリトの掛け声にシュウとアスナはいち早く反応した。

───間に合えよ!!

キリトの背中を追ってボス部屋の前までたどり着く。するとやはりボス部屋の扉が開いていた。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

部屋の中には絶望の様な光景が広がっていた。十数人いる軍のほぼ大半がHPがイエローゾーンに突入している。それを今にも全て削りとろうとする青色の巨大な身体、巨大な大剣を持つ羊の顔をした悪魔のようなモンスター、《The Gleameyes》。

 

「何してる!! 早く転移結晶を使え!!」

 

キリトが叫ぶ。

 

「ダメだ! 結晶が使えない!!」

 

軍の男の言葉にシュウは血の気が引く感覚が襲う。

───またあの悪夢のトラップが仕掛けられているのか。

結晶無効化のトラップが仕掛けられていた層は今までにシュウが知る限り二つあった。

第二十九層と第六十二層の二つだ。二十九層はシュウたちが特殊な入り方をしたせいでそんなトラップが発生したという結論になった。六十二層はなんの前触れもなくそんなトラップが仕掛けられていた。

一時はこれ以降の層もこのようなトラップが仕掛けられているという恐怖がプレイヤーたちを襲いこの時期の攻略組の人数が減ったことを覚えている。しかし、次の層にもその次の層にもそんなトラップは仕掛けられていなかった。

だからこそ、ほとんどの攻略組のプレイヤーたちはあの恐怖を忘れていた。いや、実際に体験したシュウにはあの恐怖は身にしみてわかる。

脱出不可能。回復結晶も状態回復結晶もなにも使用できない恐怖。

それを他のプレイヤーは情報では理解していても、体験するのではわけが違う。

 

「我々解放軍に撤退の二文字はありえない!! 戦え!! 戦うんだ!!」

 

コーバッツが叫ぶ。

 

「……馬鹿野郎」

 

この状況を打破する方法はわかっている。

しかし、身体がいうことを聞いてくれない。身体の震えが止まらない。

 

「どうなってるんだ!」

 

遅れてクラインたちが現れる。

 

「……転移結晶が使えない。六十二層と同じトラップだ。俺たちが切り込めば退路は開けるだろう……けど」

 

動けない。動こうとしても身体がいうことを聞いてくれない。

 

「なんとか出来ないのかよ」

 

もうこのエリアでプレイヤーたちの命が消えていく様を見たくない。

そのはずなのに……

 

「全員、突撃!!」

 

軍の連中がグリームアイズに突撃する。

 

「やめろ!!」

 

キリトの叫びも虚しくグリームアイズのブレスと大剣のソードスキルが軍の連中を一瞬にして蹴散らしていく。

宙を舞う、プレイヤー。まるで投げられた小石のようだ。そいつはシュウたちの目の前に落下する。

 

「おい、しっかりしろ!」

 

キリトの声をかけるが話すのさえやっとのような状態だ。

 

「……うっ……あ、ありえない」

 

仮面が砕け、最後の力を振り絞った言葉。その後コーバッツは光の欠片となり目の前で姿を消した。またも目のまで人の命が消えた。

やはりこの世界での死とは一瞬の出来事。

そして死んだ者はなにも残らない。

 

「う……そんな」

 

アスナが口元を押さえながら信じられないという顔をしている。

 

「うわぁぁぁぁ!」

 

軍の一人がグリームアイズの目の前で恐怖のあまり動けていない。グリームアイズが大剣を振り上げる。

 

「ダメ……ダメよ。もう……」

 

グリームアイズはわずかに笑みを浮かべて大剣を振り下ろす。

 

「ダメぇぇぇ!!!」

 

アスナが叫びながらボス部屋へと突入していく。

 

「アスナ!!」

 

キリトもアスナを追ってボス部屋へと飛び込んでいく。

もう後に引くことはできない。もう一度、あの恐怖へと飛び込まなければ、大切な仲間をまた失うかもしれない。

───だから、俺は……

震えはいつの間にか止まっていた。

シュウは今一度、あの恐怖へと足を踏み入れた。

 

アスナが細剣四連撃技《カドラブル・ペイン》をグリームアイズ与える。

グリームアイズが標的をアスナへと変え、大剣を振るう。細剣を使い弾くも、その重さにアスナはよろめき、バランスを崩す。続くて襲ってくる左拳を避けることが出来ず、アスナの身体は飛ばされる。飛ばされた先に青眼の悪魔が大剣を振り下ろそうとする。

 

「うおぉぉぉぉ!!」

 

振り下ろされる大剣の軌道をキリトが自らの片手剣で逸らす。

 

「下がれ!!」

 

アスナが一旦体勢を立て直すために離脱。遅れて現れた風林火山のメンバーが軍を避難させている。

それを察知したのか避難している軍の連中の方向へと向けてブレスのモーションへとはいる。

 

「どこ見てやがんだ、この羊野郎!!」

 

真紅に輝く槍を後方へと引き絞る。システムの起動を身体が感じ取るとともに右足で地面を勢いよく踏み込むとともに羊頭めがけて槍を投げる。

───槍投撃技《レイヴァテイン》

一直線に紅い光をまとった槍が空を裂いた。

グリームアイズの頭部に直撃した真紅の槍はブレスのモーションをキャンセルさせ、スタンをする。

 

「キリト!!」

 

技後硬直で動けないシュウが叫ぶ。

 

「わかってる!」

 

スタンしているグリームアイズへとキリトがソードスキルで応戦。しかし予想よりもスタンの回復が早い。キリトがグリームアイズと激しい剣撃戦を繰り広げる。だが、大剣のリーチと重さにキリトがいつまで耐えきれるかわからない。

技後硬直が解除されたシュウは背中から片手剣を抜き取って突進する。

 

「スイッチ!」

 

その合図とともにシュウとキリトは前後を交代する。

片手剣を肩へと担ぎ上げてスキルモーションへとはいる。システムが身体を押す感覚を感じた瞬間に地面を取り上げ突進。

───片手剣突進技《レイジスパイク》

突進と同時に落下していた《神槍ロンギヌス》を拾い上げる。

わずかな技後硬直が身体を襲ってくる。しかし、それをメニューウインドウを開き、《クイックチェンジ》で武器を入れ替えることで技後硬直を途中でキャンセルさせる。

右手に持っていた片手剣がアイテムストレージへと消え、代わりに右腕に自らの手を武器とするスキル。ユニークスキル《手刀術》を展開する。

 

「おりゃぁぁぁ!!」

 

雄叫びとともに禍々しい紅い槍が純白の閃光をまとい、地面を強く踏み込み、突進する。

───槍三連突進技《トリシューラ》

三連の突進は槍としては大技の部類に入るようで他のスキルに比べて技後硬直が長くなる。

だが、技後硬直に関係なく次のモーションへと移行できるのが《手刀術》に与えられし権能。右腕の手刀を体より前で構え、腕を横にする。身体が一瞬軽くなる。それはスキルが起動したということだ。

技後硬直に上書きし、身体は自由に動くことができる。そして一気に間合いを詰めて剣道の胴を打つように切り裂く。

───手刀上位剣技《太刀風》

閃光を纏った右腕が悪魔の右足を切り裂く。

 

《手刀術》最大の特徴は、他のソードスキルの技後硬直の影響を受けずに動かせることにある。通常の片手剣と槍でも行うことができる無理矢理スキル同士を繋げているものとはわけが違う。あれは技後硬直が起きる瞬間とソードスキルが起きる瞬間を書き換えるシステム同士のラグを利用して行っている。いわゆるシステム外スキルにあたいする。

さらに《太刀風》の技後硬直が起きる前のわずかなラグに槍のソードスキルをねじ込んでいく。

槍を右へ払い、さらに左にもう一度戻す。

───槍水平往復技《アキュリス》

グリームアイズの足を真っ二つ分断するように斬り込む。

 

「シュウ、スイッチ!!」

 

後方からしたキリトの声にわずかに笑みを浮かべてシュウは最後のソードスキルへと移行する。

身体が横にながれようとするのを仮想の筋肉で無理やり沈み込む力へと変換する。身体が無理をしているのが伝わる。

膝を曲げ、右腕を腰より下で構える。膝で溜め込まれた力を一気に解放し、右腕を真上に振り上げる。

───手刀縦剣技《上波烈》

グリームアイズの大剣を真上に弾く。大きな隙。シュウの横をすり抜けていく二本の片手剣を持った黒衣の剣士。

 

「いけぇ!! キリト!!」

 

二本の剣が同時にソードスキルを発動させる。それはがら空きの腹部へとえぐりこまれる。

あれがキリトの持つ秘策……SAOの中でキリトにのみ与えられたユニークスキル《二刀流》だ。

二本の武器で同時にソードスキルを発動させ、圧倒的な斬撃数による連続攻撃を行うスキル。

アスナ、クラインが驚愕の表情を浮かべている。

 

「……スターバースト・ストリーム」

 

───二刀流上位剣技《スターバースト・ストリーム》

連続十六回攻撃を行う、二刀流上位剣技。星屑のように煌き飛び散る白光は、空間を灼くかの如き様。

二刀流の剣撃が嵐のようにグリームアイズの体に次々と叩き込まれる。だが、連続十六回攻撃なため、大変な隙が生まれスキル発動中に攻撃受けてしまう弱点がこの技にはある。

ダメージを受けようとキリトは引くこともなく二本の剣を振るう。白い光が空間を切り裂くと同時にグリームアイズが光の欠片となり消滅する。それと同時にキリトも地面に倒れこむ。

 

「キリト君!!」

 

倒れるキリトにアスナが寄り添う。

 

「キリト君!! キリト君ってば!!」

 

HPは風前の灯火くらいではあるがまだ残っている。二刀流上位剣技中でさえ、青眼の悪魔は攻撃をしてきた。今までのボスならば、そこまでの連撃を受ければ怯んだりするはずだ。

この層のボスはやはり以上だったと言える。

アスナが泣きながら何度もキリトの名を呼ぶ。

その声にキリトは目をゆっくりと開ける。

 

「どれくらい、意識失ってた」

 

「ほんの数秒よ。バカ! 無茶して」

 

アスナがキリトに抱きつく。

 

「あんまり締め付けると俺のHPがなくなるぞ」

 

重い空気がフィールドを包んでいた。

その空気のなかクラインは重々しく口を開いた。

 

「コーバッツと後、二人死んだ」

 

「ボス攻略で犠牲者が出たのは六十七層以来だな」

 

「こんなんが攻略って言えるかよ。コーバッツの馬鹿野郎が。死んじまったら何も言えねぇじゃねぇか」

 

確かにめちゃくちゃなやつではあったが死んでいいわけにはならない。あの時、アスナが飛び込まなかったらもっと甚大な被害が出ていただろう。

クラインがこの雰囲気を断ち切るように話題を変える。

 

「そりゃそうとオメェなんだよ、さっきのは」

 

「言わなきゃダメか?」

 

「アッたりめぇだ! 見たことねぇぞ。あんなの」

 

キリトがその重い口を開く。

 

「……エクストラスキルだよ。……《二刀流》」

 

その場にいたシュウを除いた全員が驚きの声を上げる。

 

「出現条件は?」

 

「わかってりゃ、もう公開してる」

 

「情報屋のスキルリストには載ってねぇ。お前、専用ユニークスキルじゃねぇか。まさか、じゃあ、シュウのもってことか?」

 

シュウは少し悩んだ挙句、口を開いた。

 

「そうだよ。……《手刀術》っていうんだ」

 

キリトが《二刀流》について語ったなら話さないわけにはいかない。

 

「半年くらい前、スキルウインドウをみたらいつの間にか《二刀流》の名前があったんだ。でも、こんなスキル持ってるって知れたら」

 

「ネットゲーマーは嫉妬深いからな。俺は人間ができたらともかく、妬み嫉みは、そりゃぁ。まぁ、苦労も修行の道だと思って頑張りたまえ」

 

「……勝手なことを」

 

「転移門のアクティベートお前が行くか?」

 

クラインが立ち上がる。

 

「いや、任せるよ。俺はもうヘトヘトだ」

 

「それじゃあ、気をつけて帰れよ」

 

クラインは、シュウを無理やり引っ張り上げる。

 

「ちょ、何すんだよ!」

 

「お前にはまだ話があるからな」

 

ほとんど連行されるような形で次の層へと続く階段へと向かわされる。

そしてその中腹くらいで止まる。

 

「なんだよ、話って?」

 

するとクラインは辺りをキョロキョロして誰もいないのを確認する。そしてそこから一拍間を開けてから口を開いた。

 

「お前がそのスキルを隠してた理由って……やっぱり……」

 

「……違ェよ」

 

そうきっぱり言い切った。

本心は分かっていた。クラインが言いたいことも本当は、それが理由で《手刀術》の存在を隠していたことも。

そもそもシュウは、《手刀術》を手に入れるべき器ではない。これだけ圧倒的な力を持つユニークスキル。それはこの鉄の牢獄を攻略するために与えられるはずの力なはずだ。それはすなわちこの世界に閉じ込められたプレイヤーたちを救う英雄でなければならない。

しかし、シュウはとっくの昔にそんな資格は失っているのだから……

 

「ならいいんだけどよ。あんまり背負い込んでるようなら俺とかに愚痴ってもらってもいいからよ。なったって俺は人生の先輩なんだからな」

 

大きく笑うクラインにつられてシュウもバカバカしくなって笑みを浮かべる。

 

「……そうだな。困った時は相談させてもらうよ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

二〇二四年十月十九日 第五十層・アルゲード

 

「軍の大部隊を全滅させた青い悪魔。それを撃破した二刀流使いの五十連撃。こりゃずいぶん大きく出たもんだな」

 

エギルは笑いながら言う。

 

「尾ひれがつくにもほどがある。その所為で朝から剣士やら情報屋に押しかけられて寝ぐらにもいられなくなったんだからな。てか、なんでシュウのことはかかれないんだよ」

 

「そりゃ、最後のとどめをお前がさしたからじゃねぇのか? 俺としてはプレイヤーたちに広まらなくてラッキーだけどな」

 

幸いなことにキリトの《二刀流》の事はかかれたがシュウの《手刀術》については一切触れられていない。そのため今日も平凡な朝を迎えられて何よりだ。

 

「そりゃぁ、あんたの自業自得なんじゃないの? あたし達だけの秘密だって言ったのをバラしちゃったんだからね」

 

エギルの店に来ていたリズがいたずらするようなにやけ方でキリトを見る。

どうやらリズはキリトの二刀流のことを知っていたようだ。

すると勢いよく開けられたドアからその平穏だった日常は崩れるのだった。

ドアから入ってきたのはアスナだった。相当急いできたのか肩で息をしている。

 

「はぁ……はぁ……どうしよう、キリト君……大変なことになっちゃた!」

 




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