鬱病無職の私、スーパーロボットでヒーローになる ―デプレション・オペレーション―   作:さぐものK

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第三章 それぞれの正義があって
15話:隠れろ、ミタマ!ザクロの妹ツバキあらわる!!


空が近く感じる。

今にも私を押し潰してしまいそうなほどに。

 

 

などと、ポエムを刻んでしまいたくなる。

そんぐらい、今、(うつ)が重い。

普段の鬱なら、外に出てジョギングができる程度には軽い、軽くなった、けど……。

今日はなんかダメだ、頭の中が煙でいっぱいになったような気分だ。

 

幸いにも、今日は怪獣が来る日ではないそうだ。

しかし、安心している場合ではない。

 

 

重たい頭と体を無理矢理に動かし、のたのたと部屋を片付ける。

散乱した本と服。

処分してないペットボトル。

洗ってない皿などなど……。

綺麗なのはパソコンの周囲だけだ。

 

「ザクちゃんが部屋の片づけしてる。めずらしい」

 

AIの『イナバ』くん(の、アバター映像)は意味もなくふよふよと空中を漂っている。

 

「少しはやる気が出てきたってカンジか?」

 

機械の身体を持った宇宙人、『ミタマ』は、上から目線の誉め言葉を投げかける。

どこから持ってきたのか、小型のダンベルを持ち上げながら。

 

「妹がコッチに顔見せに来るんだよ……!」

 

他人事みたいな態度の2人に私はイライラしながら答える。

(具体的には人じゃないかもしれないけど、ここは『人』と数えさせてもらう)

 

「いもうと?そういえば、最初に会った時にも言ってたね」

 

「それが問題なのか?」

 

2人は事情を知らんからしょうがないとは分かっている。

それでも、能天気な様子には重いため息が出てしまう。

 

「妹には、鬱だってことも、無職だってことも隠してるんだよ」

 

「なんで?」

 

もう一回ため息。

 

「姉には姉としてのプライドってもんがあるんだよ」

 

「見下されたくないってことか?」

 

ずいぶんハッキリ言ってくれる!

 

「…………少しだけ合ってる。けど大半は、心配されたくないってこと」

 

それを聞いてミタマは、なんだか寂しげに息を吐いた。

 

「……良い姉だな」

 

「皮肉?」

 

「いや、素直に褒めただけだ。気を悪くしたならすまない」

 

相変わらず、ミタマはなんかこう、ズレた所がある。

人付き合いの経験が少ないのだろうか?私以上に。

 

 

「っていうかミタマ、ここに人が来るならボクらは隠れなきゃ!」

 

「そういうこと……あと、片付け手伝ってよ」

 

「俺は散らかしてないぞ」

 

「それでも手伝ってよ、居候(いそうろう)

 

「むう……」

 

重い頭でなんとかミタマに指示を出し、片づけを進めた。

イナバくんはAIなので手伝えない。

おのれ~。

 

床に掃除機をかけ終わった頃、アパートの階段をカンカンと踏み鳴らす音が響いた。

音はだんだんと近くなっていく!

 

「イナバくん!ミタマ!隠れて!」

 

「ど、どこにだ!?」

 

「押し入れでジッとしてて!」

 

「押し入れだと!?さっき服とか本とか色々と詰め込んだ場所じゃ……」

 

「いいから!バレたらそっちだって困るでしょが」

 

「むむう……!」

 

「何がむむうだ」

 

1mほどの体長のミタマを押し入れに詰め込んだ。

バン、と音を立てて閉める。

 

 

ピーンポォーン……と、インターホンが鳴った。

 

「はいはいはいはいはい」

 

慌てて玄関へ向かい、(のぞ)き窓を確認。

 

長く綺麗な黒髪。

私より細身で高い身長。

私よりシュッとした顔。

耳元のほくろ。

落ち着いた、しかしオシャレな服装。

 

間違いようがない。

土壇河原(どたんがわら) 椿(つばき)

妹だ。

 

私は鼻で大きく深呼吸した。

鍵を開けて、ドアを半分くらい開く。

そこからヌッと顔を出した。

まずは挨拶……。

 

「ひ、久しぶり……」

 

自分で言っといてなんだけど、妹と会うのは正月の帰省以来になる。

それまでろくに顔を見せてなかった。

……あまり会話しすぎると、無職鬱病のボロが出るのではと思ったから。

 

そういうわけで、妹に対して罪悪感がある。

 

その妹は──……。

 

「お姉ちゃ~~ん!!」

 

私を見ると、明るい笑顔を見せてきた。

まるで寒さによって閉じていた花の(つぼみ)が、陽気に当てられてパアッと開いたかのような……。

そんな表情だった。

 

ツバキは両手を広げて、私をギュッと抱きしめてくる。

 

「わぷ」

 

いい匂いがする。

石鹸だろうか、香水だろうか。

とにかく柔らかな、いい匂いだ。

 

「生きてる~~!!」

 

「なにそれ」

 

死んでるとでも思ってたのだろうか。

ツバキは私を抱きしめつつ、背中をポンポンと叩く。

そして、私の肩越しに頭を左右に動かしているようだ。

……部屋を覗いている?

 

「ど、どしたの」

 

「お姉ちゃん、ひとり?」

 

うぐっ……。

 

「独りだよ、浮いた話も無くて」

 

「あ、ううん、ゴメン!そういう事じゃなくて……」

 

「うん?」

 

「さっきお姉ちゃんの部屋から、男の人の声がした気がしたんだけど……」

 

うぐぐっ!

 

「パソコンで動画見てたから、ソレかな~?」

 

「そっか、男物の靴も無いしね」

 

部屋を覗いてたのはその確認か……!

流石はツバキ、私と違って抜け目ない。

 

私はツバキの腕を優しくほどいた。

ほんのすこし、距離を置く。

 

「そ、そういうツバキはどうなの?彼氏とか……」

 

別に興味は無いけれど、話題を()らしたくて聞いてみる。

 

「うーん……イイ人が無いわけじゃないけど……」

 

「けど?」

 

「お姉ちゃんほどじゃないかな」

 

「……ははっ」

 

思わず乾いた笑いが出てしまった。

 

 

妹は私と違って、しっかりした社会人だ。

広告代理店勤務……だっけか。

特に大きな不幸もなく、健康に、頑張って過ごしているのだろう。

子供の頃と同じように。

妹は私と違って、能力もあるし世渡りも上手だしね。

 

その妹が、今度は私の顔を覗きこむ。

 

「お姉ちゃん……大丈夫?」

 

ドキッときた。

 

「う、うん」

 

「ホントに?」

 

ホントは大丈夫じゃない。

鬱は重いし。

宇宙人とAIと同居してるし。

ロボットに乗って怪獣と戦ったりもしてるし。

色々大変です。

 

でも、それを表には出せない。

可愛い妹の重荷にはなりたくない。

その一心で、これまでも辛い学生生活を耐え抜いてきたんだ。

今さら妹に弱音など吐けない。

 

「なにーそんなに体調悪そうに見えるー?」

 

へらへらと返事した。

 

「……無理しないでね」

 

見透かされたような返事に、またドキッときた。

 

「困った事あったら、いつでも言ってね」

 

本気で心配している口調だ。

いかん!

 

「も、もちろん!」

 

ツバキの肩に手を置いた。

表情が、少し柔らかくなっている。

 

ふう……。

 

「顔色、お正月の時から悪そうだったから」

 

「そそ、そうだった?」

 

「うん。お母さんもお父さんも心配してたよ」

 

 

ウッ!!!!!!!!!

 

母さん父さんも心配してた!?!?

マジ!?!?!?

情けない姿を晒してたってこと??

気づかない内に???

 

心臓がドキドキを越えてバクバクになっていく。

 

「お姉ちゃん?」

 

ざ、『ザクロには立派な人生を歩んでほしい』……。

子供の頃、母さん父さんが言った言葉。

それを裏切るようなマネなど、したくなかったというのに……!

 

「お姉ちゃん!」

 

ああ、ごめんなさい母さん父さん。

貴方に愛されて育った私は、今や情けない鬱病無職なんです。

立派とは程遠い人生なんです。

なぜ、こうなってしまったのか……。

 

「お姉ちゃん!!!」

 

「ぅえ!?!?!?」

 

あ、ツバキ……。

 

「お姉ちゃん、やっぱりなんだかおかしいよ!」

 

「っあ……ごめん……」

 

「言ってよ!何か問題があるなら!助けてあげるよ!?」

 

ああ、ツバキ。

優しいツバキ。

ツバキだけでも立派な人生でいてくれることが、お姉ちゃんの望みです。

だから。

 

「……ごめん」

 

「ごめん、って……」

 

「ごめん」

 

「……」

 

これでいいんだ、これで。

 

 

……。

穏やかな日差しと、鳥の唄う声。

私たちの間の空気だけが、鉄のように硬く冷たい。

 

しまった、会話を切り出しにくい。

でもここは、また発言するしかあるまい。

 

「理由、聞いてなかったな、そういえば」

 

「え?」

 

「こっちに顔出しに来た理由」

 

「あ……うん」

 

妹の暗い顔が、ほんの少し生気を取り戻した。

ご苦労おかけします。

 

「引っ越しすることになりそうでさ」

 

「どこへ?」

 

「まだよく分かんなくって」

 

「どゆこと?」

 

「『東京怪獣事件』で上役の人達がさあ……」

 

『東京怪獣事件』。

どうやら一連の怪獣騒ぎは、世間ではそう呼ばれているようだ。

いや、なんの捻りもない呼称ではあるけども。

思い返せばSNSでもそういう呼称を使っていた気がする。

 

上役(うわやく)の人達がさあ、関東は危ないかもな、って」

 

それはそう、かも。

私もパイロットとして頑張るつもりではある。

しかし、どこまでも守り切れる自信はない。

避難してくれるなら、それに越したことはないだろう。

 

私は黙ってウンウンうなづいた。

 

「本社を一旦閉めて、支社を仮本社として運用しようとかって話で」

 

「まあ仕方ないね」

 

「よその地方に移ったら、今以上にお姉ちゃんと顔会わせる機会が無くなっちゃう、って思うと……」

 

「そっか……」

 

そういえばツバキはずっとお姉ちゃんお姉ちゃんと私についてまわっていた子だった。

ある時期を境にして、その傾向は収まったけれども……。

私の事を嫌いになったわけじゃない。

しっかりと、自立してきただけだ。

本当に、本当に良い妹だ。

 

私はギュウと、両腕でツバキを抱きしめた。

 

「だいじょうぶ。ツバキならやっていけるよ」

 

ツバキがギュウと、抱き返した。

 

「こまめに連絡するからね」

 

「うん……」

 

つい流れでうんって言っちゃった。

嘘を突き通すのが大変になりそうだ……。

 

小時間、ギュッとし終わった。

ツバキはゆっくりと離れ、顔の横で小さく手を振る。

 

「じゃ、そろそろ戻るね」

 

「あれ?もういいの?」

 

てっきり家の中にあがるかと思っていたけれど。

 

「うん、とりあえず満足したから」

 

「ふふ、なにそれ」

 

「じゃあね……」

 

「うん」

 

ツバキはこちらを見ながら2、3歩ほど後ろ歩きをした。

そして、スッと振り返り、カンカンと階段を降りて離れていく。

 

……行ってしまった。

 

一抹の寂しさと、宇宙人を発見されずにすんだ安堵が胸を通り過ぎる。

 




しょっぱなから重めの話で申し訳ない。
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