鬱病無職の私、スーパーロボットでヒーローになる ―デプレション・オペレーション―   作:さぐものK

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17話:誘拐事件発生!?追え、ザクロ!!

「どうした?」

 

ミタマが瞬転(ジャンピング)移機(フラッシュ)を覗き込んできた。

 

「え、あ、えーと……」

 

瞬転移機モニター内のイナバくんがなんかモジモジしてる。

かわいい。

 

「はっきり言ってくれ!イナバくん!」

 

こっちは可愛くはない。

 

「いやその、テラス因子検索機でバキちゃんの事を解析しっぱなしだったんだけど……」

 

「バキちゃん?」

 

「ツバキだから、バキちゃん」

 

「人の妹にまでヘンなあだ名をつけるなっ!」

 

「ええ、ダメかな……じゃなくって!」

 

『瞬転移機』のモニターから飛び出た光が、空中に映像を出す。

 

映像にはツバキの位置情報、テラス因子生成量、健康状態、アレルギーの有無、スリーサイズまで表示されている。

 

日本語で書いてあるように見えるのは、宇宙人の技術のたまものだろうか?

 

「っていうか、なんでツバキのテラス因子生成量を調べてたのさ!」

 

「それはまあ、色々……とにかく!」

 

また話を逸らす!

 

「今、バキちゃんの脳波状態が『睡眠』になってるみたいなんだ」

 

「位置情報から見るに、寝ながら移動してないか?」

 

「電車とかバスとか、誰かに乗せて貰ってるとかじゃないの……?」

 

「うん、実際、バキちゃんの両隣からも生命反応が出てる」

 

「両隣……2人ってこと?」

 

「うん、それでね、その二人……『テラス因子』の反応が無いんだ」

 

「……どゆこと?」

 

「説明したかどうか忘れたけど、地球の生命体は多かれ少なかれ『テラス因子』を持つものなんだ」

 

「……地球の生き物じゃ、ない?」

 

熱くもなかった脳が、スッと冷えるのを感じた。

 

「クソッ!行動が速いな!」

 

「星間協定特警(特別警察)には通報しておいたよ!」

 

「よしわかった!いくぞ!ザクロ!」

 

急に視界が(せば)まったような感覚におちいる。

 

「ザクロ!!!」

 

「な、なんで、ツバキが……!」

 

「考えている場合か!!まずは追うぞ!!」

 

私の脚が震えている。

 

「妹が大事なんだろう!根性見せろ!!」

 

分かってる!分かってるよ!!!

震えているけど歩けないわけじゃない!

 

私は壁に寄りかかりながら玄関へ向かう。

震える脚を靴に押し込める。

ドアノブに身を預け、手すりを頼りながら、階段を降り、外へ出る。

運よくポケットに入れっぱなしだったスクーターの鍵を握りしめ、エンジンをかける。

 

えっと、ええっと!どこへ行けばいいんだっけ!?

 

「俺たちがナビゲートする!」

 

何もない場所からミタマの声がした。

 

「一般人の目から隠れるための光学迷彩(ステルス)だ!大丈夫だ、ここにいる!」

 

ガシャン、と荷台にミタマが乗った感触と音が伝わった。

 

「左に出てすぐの交差点を、また左だ!」

 

ツバキ!

お願いだから、間に合って!!

 

 

 

 

目的地へ、スクーターで移動中。

 

焦る気持ちで、筋肉がこわばる。

ツバキの救出……間に合うの!?

 

目の前の信号が赤く光っている。

停止線には既に乗用車が止まっていた。

歩道と車の間には隙間があるけれども!

 

一瞬のためらい。

こちとら妹の命がかかっとんのじゃ!

法が人命より優先されるはずが……!

 

「ザクロ、ルールは守れよ」

 

ミタマの声だ。

 

「ぐうううっ……!」

 

私の喉からうなり声が漏れる。

 

「大丈夫だ、犯罪者たちも交通ルールは守っているはず」

 

「なんでそんなんわかんの!」

 

「犯罪者は、俺たちが追っていることには気づいていない。であれば、目立たないように動く事を意識しているはずだ」

 

「『はず』『はず』って、そんなの希望的観測じゃんか!」

 

がなり声をあげていると、イナバくんの声が聞こえてきた。

 

「位置情報から速度を算出したけど、ミタマの言う事は合ってるよ!この速度でザクちゃんが飛ばせばいける!」

 

うぐ……そういう事なら……。

息を深く吐いて、吸う。

信号の赤い光が私を焦らせたのだろうか?

牛か、私は。

 

「……キミに目立たれてしまうと、俺達も行動しづらくなるんだ。すまないが理解してくれ」

 

そっちが本音か!

とは思うが、怪獣退治に差支(さしつか)えがあれば、地球人の命にも関わるのかもしれない。

納得せざるを得ないか……。

 

 

信号が、赤から青に変わった!

 

…………にも関わらず、前の車が動かない!!

 

(んきぇぇえーー!!なにチンタラしとんじゃコラーっ!

信号待ちの先頭が遅れるのは大罪やぞ!!

っていうか車窓越しによく見たらスマホ弄っとるやんけ!!

ガチ交通法違反してんじゃねえ車蹴飛ばして殺すぞ!!!)

 

という気持ちを込めてクラクションを鳴らす。

 

私は嫌な奴かもだけど、ホントの悪党になる勇気などない。

 

前の車がやっと動いた。

 

スクーターでそれを追い越し、真っ直ぐに駆ける。

 

 

「推測だが、恐らくは奴らもテラス因子検索機を使ったのだろう。非正規品の安物をな」

 

「それが、なに?」

 

「安物は、テラス因子の発生源の特定に『ブレ』がある」

 

「ブレると、どうしてツバキが……」

 

「ザクロとツバキが玄関前で会話している最中にソレを使い、誤ってツバキの方を『テラス因子生産量の高い個体』と認識した……とすれば、誘拐の理由に説明がつく」

 

「私のせいだってこと!?」

 

両手に力が入ってしまった。

ブレーキがかかり、スクーターがガクンと暴れる。

 

「うおお、落ち着け!!君に落ち度は無い!悪いのは拉致犯だ!」

 

ミタマの言うことは理屈として分かる。

でも、脳が勝手に理解を拒んでくる。

お前のせいだお前のせいだと、私を責めてくる。

 

「どうしよう!……もしテラス因子で爆弾を作るつもりでツバキが誘拐されたのだとしたら……!爆弾の中に詰め込まれるか、テラス因子を吸いとられた後で、こ、ころされ」

 

スクーターのハンドルを握る手が、こわばりつつも弱くなっていく。

 

「今日は一段と考えすぎるな、ザクロ!」

 

「仕方ないよ、ミタマ!これが鬱、脳の病気ってやつなんだよ!」

 

手首に付けた機械から、イナバくんが声を出した。

 

「……ぬう……これが……鬱か!」

 

悔しさか、もどかしさか。

ミタマが苦しそうに呟く。

 

「ザクロ!心配するな。そういう事態はまずありえない」

 

「次の信号、左!」

 

イナバくんの指示の声。

涙でにじむ視界で、なんとか信号を捉えて左へ大きく曲がる。

 

「テラス因子は、それ自体がエネルギー源じゃあない。テラスエンジン……特別な機械が無い限りは、『鍵』にすらならない」

 

「『鍵』?どういうこと?」

 

「詳しい説明は今する必要は無い。とにかく妹は無事だとだけ理解してくれ」

 

モヤモヤする。

するけど……。

 

「……わかった」

 

ミタマは変な奴だし、イヤな部分も多い。

けど、誠実ではある。

 

「ありがとう」

 

今はただ、走ろう。

風を切り裂いて走るスクーターが、目の下の涙を振り落としてくれた。

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