鬱病無職の私、スーパーロボットでヒーローになる ―デプレション・オペレーション―   作:さぐものK

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3話:激突!怪獣VSスーパーロボット!!

 ミタマからの突然のストップに慌て、タカマガモリの足がもつれる。

 私の焦りまで機体に反映されるとは、ある意味すごいロボットだ。

 

「わ!た!とあっ!」

 

 

 と、叫んだのは私じゃなくてイナバだ。

 突然崩れた姿勢を戻そうとしている。

 姿勢制御を担当しているのは彼……彼女?だからだ。

 地面にズドンと手を付けて、なんとか転ぶのは回避できた。

 地面にはヒビができてしまったけども。

 公共工事の方すいません。

 

 私はモニターを見つめながらミタマの方を向く。

 

「すいません!何かありましたか!?」

 

 無意識に会社員時代の態度で謝ってしまった。

 クセになってんだ。とりあえず上司に謝るの。

 

「いきなり接近戦とは元気があっていいが、まずは遠距離攻撃から行くべきだ!」

 

「あるなら言ってよッ!」

 

 さっき私の心が縮んだからか、バネのようにツッコミが爆発してしまった。

 

「どこ?武器どこ?」

 

「手を敵に向かって突き出すんだよ!」

 

 イナバの指示にあわせて右手をつき出すと、タカマガモリの手を黒いエネルギーが薄く包み、ガゴォンと飛び出た。

 黒いエネルギーはボボボボと音を立てて周囲の空気を燃やし、炎の尾を作りながら弾丸のように高速(はや)く飛ぶ。

 

「これが熱エネルギー射出武装『黒点(ブラックポイント)』だ!」

 

 黒点はそのまま怪獣の胴体に突き刺さる!そして赤い光を放ちながら、衝撃と炎……つまり爆炎へと変わっていく。

 

 

「がァガガガガ……!」

 

 怪獣は被弾箇所に手を当て、のけぞって叫んだ。

 閉まった喉でムリヤリ声を出した時のような、濁った低い叫び。

 信じてなかったわけじゃないけど、きちんとロボットの攻撃は通用するみたいだ!

 いける!いけるぞ!

 

 妹を守るため、が主目的ではあったものの、敵を圧倒する快感は否定できない。

 ヘソの奥から熱が生まれ、手のひらへとじっとり流れる。

 

 

「よし、命中だな!」

 

「スゴいよザクちゃん!」

 

「どフッ、どうも……」

 

 褒められるのは慣れてない。

 

「だが調子に乗るなよ!ほら、もう一発!」

 

 褒められなくていいわけではない。

 

 私は続けざまに黒点を放つために左手をグッと溜めて構える。

 すると怪獣は警戒し、姿勢を低くしながら建築物の後ろへすばやく逃げ込む。

 

「むう……流石にその程度の知恵はすでにあるか」

 

 すでに?

 

 怪獣はザザザッと素早く建築物のスキマを縫いながら、コチラに回り込もうとしてくる。

 

「ぬ……建築物を無闇に破壊する訳にもいかんな」

 

 考え事するかのようにミタマが低く唸る。

 

「飛んで上から攻撃、とか……」

 

「そうだな、それで行こう!」

 

 私の案が採用された。

 

「飛べるの?」

 

「飛行はできないけどね、今は。でも大きくジャンプするくらいはできるよ!」

 

 タカマガモリが膝を曲げ腰を深く落とすと、背中の機械が青く光る。

 ミタマが飛行した時と同じ輝きだ。

 そしてドォアっと跳ぶ。

 ちょうど機体の倍ほどの高さ、巨体からは想像できないほど軽やか。

 

 この高さ、当てれる!

 

 半円を描くように腕を振り上げて、黒点の構えをとる。

 

 そのボヤっとした顔にもう1発ぶちこんでやる!

 

 と、私が意気込んだ瞬間。

 怪獣はさらに低く体を落とし、そして跳んだ!

 

 た、高い!

 タカマガモリの頭上まで跳んだ怪獣は、両手を組んで振り上げている。

 まずい!!

 

「イナバくん!」

 

焔輪(プロミネンスリング)展開!」

 

 イナバの掛け声で、腕に付いてる籠手のような防具から、半円の輪のような刃が飛び出す。

 そしてその刃が赤くなった。

 熱を帯びているようだ。

 これは、格闘用の武器、か!

 

「殴り返せ!!」

 

「はい!」

 

 慌てるとどうしても敬語になってしまう。

 

 振り下ろされる怪獣の両手、それに突き立てる両手の焔輪《プロミネンスリング》。

 刃は手の肉に深く赤く突き刺さる!

 ……だけど、それは怪獣の攻撃の威力を殺した事にはならない!

 怪獣は上から下、こっちは下から上への攻撃。

 重力が産む威力の差は、やっぱり比べようもない!

 

 ドキャ!!

 と音を立てるタカマガモリ。

 ものすごい振動がコクピットの私にまで響いてくる。

 アンチバリアスーツというのが無かったらどうなっていたことか……!

 

 背中から墜落し、今にも地面と衝突しそうな機体。

 

 

「ぐっ!イナバくん!」

 

浮力機(ふりょくき)発動!」

 

 背中の機械がまた青く光り、墜落の勢いが軽減する。

 しかし墜落自体を免れたわけではなく、機体は地面に叩きつけられた。

 

「ぐうううぅっ!!」

 

 バキバキと道路を抉りながら滑り、ガグガグと機体が揺れ、痛みと吐き気がしてくる。

 

「わわわわわわわ!!!ミタマ~~!!」

 

「落ち着けぃ!勇気と度胸!」

 

 なんでAIが1番慌ててるんだ!

 

 振動に耐えながらモニターを見ると、怪獣がタカマガモリのちょうど正面、怪獣7、8体分ほどの距離に着地し終えており、こちらを見返している。

 

 その顔は、目が細まり、下顎が大きく開かれ、まるで笑っているかのように見えた。

 見えた。そう、ただそう見えただけで、怪獣にその意図は無いのかもしれない。

 

 

「う、あ……!」

 

 ……それでも、煮えたぎるほど高揚していた私の脳を冷やすには、充分な表情だった。

 キンキンに冷えた汁が頭のてっぺんから流れ落ちる感覚。

 怪獣がバケモノであることを、今になって再確認させられてしまった。

 

 

 怪獣が不気味な表情のまま、こちらへ迫ってきた。

 両拳と両足を使い、まさしくゴリラの動きで向かって来ている。

 

 視界の端に見える建築物のように、タカマガモリも抉られて、潰されて……!

 私は混乱で、機体を動かすことを考えられなくなっていた。

 

 

光爆(エスケープフレア)!!」

 

 ミタマが叫ぶ。

 

 下脚部(かきゃくぶ)──人体で言えばふくらはぎ──の外側に付いてた発射口から球状の物体が発射された。

 仰向けになったタカマガモリから怪獣に向かって発射されたその玉は、怪獣の眼前でビカッと輝きながら爆発する。

 怪獣は衝撃と光にひるんで顔を覆い、動きを止めた。

 

「何をしている!早く立たせるんだ!」

 

 その怒声で私はハッと気が付き、タカマガモリを立たせようとする。

 震えながらではあるものの、それでもなんとか立って、後ずさりしながら体勢を立て直す。

 

 接近した怪獣との距離を取り直し、また怪獣7体分ほどの距離を作って、やっと自分の動揺を客観的に感じられるようになった。

 

「イナバ君!プログラム異常は無いか!」

 

「だだだっ大丈夫!そんなヤワじゃないよっ!」

 

「よし、行けるな」

 

 ミタマは私を見て1呼吸ついたが、すかさずイナバが慌てた声を出した。

 

「テラスファクター供給量、急減少!」

 

「なんだとお……!」

 

 テラス……?

 

「ザクロ!落ち込むことはない!落ち着け!これくらいでしょげるな!根性!!!!!」

 

 ミタマが明らかに動揺している。

 人の心配より自分の心配では?

 

「あのねあのねザクちゃん!キミが落ち込むとロボットが戦えなくなるんだよ!!」

 

「……どういうこと?」

 

「そもそもキミをこのロボットに乗せたのは、キミの持つ『テラス因子(ファクター)』が必要だったからなんだよ!!ロボットのエネルギー源とも言える物質なんだ!!」

 

「テラスファクターは太陽系の生物が保有するもので、我々のような外太陽系生物は持たないものだが、君の因子はとりわけ非常に多かった!おそらくこの星でも数名しかいるまいというレベルだった!」

 

「けど、この因子って出力が不安定みたいでさ!保有者の脳のエネルギー、いわゆるテンションと密接に関係しているのではと言われてるんだ!」

 

「……つまり、私のテンションが低いと、負ける?」

 

「要約するとそういうことだ!!」

 

「だからお願い!落ち込まないでぇ~~!!」

 

 な、な、な……!

 

 なんでそんな大事な事を今言うんだーーー!!

 

 私が(大半の)スーパーロボットアニメの主人公みたいな性格なら良かったんだろうけど、私、わた、私じゃあ……!

 

「む、無理だよ……」

 

「弱音を吐くな!!やれば出来る!!!」

 

「お願いぃい~~~!!」

 

 必死に懇願する二人。

 私は下唇を噛み、下を向き、覚悟して、言葉を漏らすように放つ。

 

「だって私、鬱病だし……」

 

 ………。

 それを聞いて、私の周囲の空気が冷え固まるのを感じた。

 いたたまれない空気。

 

 そりゃそうだよね。

 

 鬱だって知ってたら誘ってなかっだろうし……なんて、今言っても仕方ないのは分かるけど……。

 

「……イナバくん、ウツ……とはなんだ?」

 

 !?

 

「今検索してる!」

 

 !?!?

 

 そ、そうきたか……。

 地球外には鬱病がないのか、それともコイツらがただ無知なのか……。

 

「検索終わったよ!脳?精神?の病気なんだって!」

 

「なにい!?精神の病気!?そんなものは気合と根性でふっ飛ばせばいい!!根性が足りないぞ!!!ザクロ!!!!!!」

 

 なんという典型的な不理解ムーブ、絵に描いたような最悪の発言。

 眩暈がしてきそうだ。

 

 

 辞めた職場の上司だった男がガチガチの根性論者だったことを、また思い出してしまった。

 私はガンバることから逃れられないのだろうか?

 

 あの頃の私は人間関係のストレスのあまり、強烈な加害衝動に駆られていた。

 他人を、でなければ自分を傷つけたい、と。

 手首を切って血を流しながら出社したらどれだけ騒いでくれるかな、って妄想もよくしたっけか。

 それを必死に抑え込んで、抑え込んで……このままじゃ狂人になってしまう。

 いや、そう気づいた時にはもう『立派な』鬱になっていたのだ。

 それに気づいて、私は職を手放す決心をした。

 ……だというに、気づけばまたこんな状況に戻ってしまっている。

 

 思い出したら、泣きたくなってきた。

 なんで知らん宇宙人に怪獣退治を頼まれたあげく、その宇宙人に叱責されなきゃならないんだ。

 宇宙人だけじゃない、みんなそうだ、自分の都合ばかりでこっちを理解しようとも歩み寄ろうともしない、みんなみんなみんな……。

 私か?私が悪いのか?それとも世界が悪いのか?どうすれば正解だった?何を間違えた?いつ間違えた?

 答えの出ない疑問が脳内で反響し、反芻され、ゲップがでそうなほど胃が縮こまる。

 

 

「うわあああああ!テラスファクター供給量、推定下限値まで行きそうだよお!!死ぬ!死んじゃう!!!」

 

「しっかりしろザクロ!妹を助けるんじゃなかったのか!!」

 

 う……そうだった。

 私が頑張らないと妹が、可愛い妹が……。

 

 と、手元に置いてたスマホが震える。

 妹からの通知だ。

『こっちは避難終わったよ!そっちは大丈夫!?』

 

 あ、そっかぁ……。

 妹は無事かあ……。

 

 

 ……今ここで戦闘を放棄して、怪獣の好き勝手にやらせたら、それはもう間接的に私が加害したってことになるのかなあ。

 フ、フ、フ。

 私を身勝手に振り回してきた社会なんだ、ちょっとくらい加害したっていいんじゃないか?

 もしかしたらこの破壊で、私を傷つけた連中も死んじゃったりするかもだしさあ……。

 立派になりたいと望む人間のセリフじゃない、か?

 ふへへへ、鬱病無職に今更起死回生のチャンスなんてあるわけないじゃん。

 だったらいっそ底の底まで堕ちるのもいいかもね。

 もーーーーどうでもいいやーーーーーーーーー。

 

 

「しっかりしてくれ~~~~!!!」

 

 ミタマに肩を掴まれ、大きく深呼吸揺さぶられて頭がぐわんぐわんしてもうだめだー。わー。

 

「怪獣急接近~~!!エネルギー兵器は全部使用不可能だよぉ~~!!」

 

「任務に失敗すれば、機体を失ってしまっては、お、俺は……俺の居場所は……!ザクロ!!!死んでもいいのか!!!心残りは無いのかーッ!!!!」

 

 心残りと言えば最期に一発、今までにムカついた奴等をバチーンと……。

 

「いいかげんに……しろーーーっ!!!」

 

 

 バ チ ー ン !!!

 

 

 私の頬が、硬い機械の手で打たれた。

 

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