鬱病無職の私、スーパーロボットでヒーローになる ―デプレション・オペレーション― 作:さぐものK
気がつくと、外はオレンジ色に染まっていた。
緊張からの解放と適度な肉体疲労が重なって、つい寝てしまった。
顔についたヨダレの跡がそう言っている。
部屋を見回すと、ミタマも寝ていた。
壁に背を預けている。
彼の機械ボディもスリープ状態に入ってるのだろうか。
緑色の眼光は消えている。
ピクリとも動かない。
まるで糸の切れた人形だ。
寝起きに体が痛くなったりしないのだろうか?
イナバは……いない。
まあ当然か。
アイツの姿……もとい立体映像は、ミタマのボディに付いてる映像出力機によって映されたものだ。
ミタマのボディがスリープ状態なら、イナバも出てこられない。
いや、待てよ?
私は充電ケーブルを挿しっぱだったスマホを手に取った。
顔に近づけ、ボソッと声を出す。
「ヘイ、イナバ」
……。
流石に返事はないか。
「はーい、どうしたの?」
諦めかけた瞬間、スマホが点いた。
画面にはイナバの顔がアップで映っている。
むう……顔がいいなコイツ。
説明が遅れたけど、イナバの姿はリアル調ではなく、二次元のマスコット的な絵柄で映されている。
小さくつぶらな瞳にフワフワの毛を持った、架空の生物。
宇宙人がデザインしたとは思えないくらいキャッチーな造形だ。
グッズ化したら十分売れそうなポテンシャルがある。
もし出すならまずは軽い小物系のさりげないアクセサリーとして出すとしてポーズは……。
「もしもーし?」
「……っは!」
私がイナバキーホルダーについて妄想したあたりで、現実に引き戻された。
「まーたスマホに入ってるじゃんか」
「え?あ、ごめんなさーい。でもさ、ミタマが寝てる間ずーっとボクと連絡できないと不便かなって」
「……わかったわかった。でもスマホの中の情報は……」
「STESやミタマには無許可で流さない……で、いい?」
「ん」
イナバも多少勝手なところはあるけど、ミタマよりはぜんぜん配慮できている。
いや、その見た目のせいで私がつい多目に見ているだけかも。
うーん……。
「それで、なにか用?」
ああいけない。
ちょくちょく自分の思考から戻ってこれなくなるのは私の悪い癖だ。
うーんどうしよう。
呼んだら来るかなと思って実験してみただけで、用はなかったんだよね。
しかし呼んどいて用はないも失礼な話だ。
えーと。
「今なにしてんのかなって」
めんどくさい彼女みたいなセリフになってしまった。
顔が熱くなる。
「今?タカマガモリの修繕中だよ」
「修繕?ボディを?AIが?」
「うん。タカマガモリには
「なにそれすごい、無敵じゃん」
「そうでもないよ?時間はかかるし
「そっか、流石にか。あれ?修繕機能を使うのに私のテラス
「今は予備バッテリーの電力を使ってるから大丈夫だよ。テラス因子があったほうがいいのはそうだけど、ザクちゃん寝てたから」
「ん……ごめん」
「ああいや違うよ!謝って欲しいわけじゃないんだ、バッテリーを使う理由を言いたかっただけで」
イナバ……くん、が、あわてて発言を訂正する。
その反応の速さは人間と会話している時のそれと区別できないほどだ。
うーん。
ミタマをチラ見する。
起きる様子はないけれど……。
「私、そっち行った方がいい?タカマガモリの中」
「え?う、うん。じゃあお願いしようかな」
そう言うと、スマホの画面からイナバくんが退く。
そして「転送開始」の文字が大きく浮かびあがる。
あわてて窓を開ける。
私の身体が宙に浮いた。
窓から外へ飛び出し、大気圏近くにいるタカマガモリの中へと超高速で吸い込まれていく。
……到着した私は辺りを見回す。
イナバくんの姿は見えない。
「イナバくーん?」
「はーい、いるよ」
声はすれども姿は無い。
いやそれもそうか。
あのマスコットの姿はただの映像。
アバターなのだから。
しかし、ううん……。
私としては、どこに視線を向ければいいか分からなくて困る。
私が不安がっていると、目の前の何も無い空間がキラッと光る。
そしてその光から、ピョウンと元気よくイナバくんの
どうやらミタマがいなくても、タカマガモリの中ならアバターを表示できるようだ。
「来てくれてありがとうね!」
「いやいや」
私が困っているのを察してくれたんだろうな。
本当に気遣いのきく奴だ。
イナバくんに
ここにいるだけで機体がテラス因子を利用できるようになるらしい。
詳しい仕組みは分からんないけど。
静かな時間が流れる。
しかし不思議と居心地は悪くない。
「そういえばさ」
イナバくんが話しかけてきた。
「ん?」
「イナバくんって呼んでくれたね」
「ん、ああ……そうだね」
自然なカンジで呼び方を変えたつもりだった。
が、ハッキリ指摘されると内心照れくさくなってしまう。
「なんで……いや、いいや。ありがとう」
イナバくんがニコッと微笑む。
本当に気づかいのできる奴だ。
私は小さくうなづき返した。
「ねえ、私からもいいかな」
「?どうぞ?」
周囲を軽く見回す。
誰もいない。
でも一応、コソッと聞く。
「イナバくんってさ、ホントにAIなの?」
「……ええ?いまさら?」
「反応が人間くさすぎるって感じちゃってさ」
「なるほど」
「もし聞かれたくない話だったら無理に答えなくていいんだけどさ……誰かが動かしてるってわけじゃないんだよね?」
フーム、と言うかのようにイナバくんがアゴに手を当てて考えだす。
そういう動きも人間くさい。
「そっか……ミタマはあんまりそういう話はしなかったけど、ボクってそんなに人間に近くなってたのかあ」
「??」
「期待に応えられなくてゴメンだけど、ボクはやっぱりAIなんだ。ただ、ボクは特別でさ」
「特別?」
「『自我を持つAI』なんだよ」