クィディッチのパーティーから数日後、静まり返ったグリフィンドールの談話室。
ハリーは、ジニー・ウィーズリーを呼び出していた。
2人は、テーブル越しに向かい合うように座り、束の間の沈黙が流れた。
「ハリー、話って?」
沈黙を破ったのはジニーだった。
「ジニー… ごめん、僕たち、終わりにしよう…」
ハリーは気まずそうに、言葉を選ぶようにジニーに別れ話を切り出した。
「やっぱりね」
ジニーは、こうなることを理解していたかのように言った。
ジニーの反応にハリーは、驚くように目を丸くした。
「ハーマイオニー…でしょ?彼女を見るあなたの視線、違うもの」
ジニーの見透かすような言葉に、ハリーは何も言えなかった。
ハリーは、喉の奥に何かが詰まったような感覚に襲われ、言葉を探したが、見つからなかった。
ジニーは、静かに微笑んだ。どこか寂しげに、でも、確かにハリーの背中を押すような笑顔だった。
「でも、ありがとう。あなたは私の憧れだった。短い間だったけど、幸せだったわ」
「ジニー…」
「大丈夫。私、強いから。…あなたの幸せ、ちゃんと願えるくらいにはね」
ジニーは、凛とした表情でハリーを見つめた。
「お礼を言うのは僕の方だ。勝手なこと言ってすまないよ」
頭を下げようとしたハリーに、ジニーはそれを制止しながら言った。
「ハリー、私と別れる代わりに一つだけ約束して?ハーマイオニーをしっかり支えてあげるって… 彼女、強そうに見えて抱え込んじゃうから」
ハリーは目を伏せ、深く息を吐いた。
「……ありがとう、ジニー。君は、本当にすごい人だ」
ジニーはわずかに肩をすくめて笑った。
「あんまり褒められると泣いちゃいそうになるから、やめて」
「約束するよ」
ふたりの間にもう一度、静寂が戻る。
ジニーは立ち上がり、ゆっくりと談話室を後にした。
扉が閉まる音だけが、静まり返った空間に響いた。
ハリーは、男子寮の自分の寝室に戻り、思いふけっていた。
彼は、数日前のロンとラベンダーのキスへの嫉妬で、泣き崩れるハーマイオニーを思い出していた。
自分の肩にもたれながら、一晩中泣く彼女は、今までこハリーが見てきたハーマイオニーの中でも、一番弱々しい姿と言えるものだった。
眠れない夜だった。
カーテンに包まれた四柱ベッドの中で、ハリーは何度も寝返りを打っていた。
──ジニーとの別れ。
──泣き崩れたハーマイオニーの肩。
──自分の心が、どこにあるのか。
朝が来るころには、ようやくうとうとしていた。
その日、ハリーは中庭の片隅でひとり本を読んでいるハーマイオニーを見つけた。
日差しは柔らかく、風がページを揺らしていた。
「……ここにいたんだ」
「ハリー? 授業終わったの?」
ハーマイオニーは、顔を上げて微笑んだ。
その笑顔に、ハリーの胸が少しだけ痛んだ。
「……ジニーと、別れたよ」
ハリーは、唐突にそう言った。
ハーマイオニーは目を見開き、すぐに視線を伏せた。
「……そう」
「理由は、聞かない?」
「……聞かない方がいいと思う」
ふたりの間に、風だけが吹き抜けた。
「でも……」
ハーマイオニーは、そっと言葉をつないだ。
「ジニーは、あなたのこと大好きだったわ。……あなたが幸せになるなら、それでいいって、きっと、思ってる」
ハリーは目を伏せた。
その言葉が、自分を責めているように聞こえたのは、気のせいだろうか。
「僕……、君を泣かせたロンを、正直許せなかった」
「……」
「君があんなふうに泣いてたのに、僕は、なにもできなかった」
「……十分してくれたじゃない。そばにいてくれた」
そう言ったハーマイオニーの声は、どこか震えていた。
「ありがとう、ハリー」
ハリーは、彼女の震える肩を抱きたいと思った。
けれど、今の関係が壊れると思ってやめた。
そして、ふたりは黙って空を見上げた。
青く広がる空には、ぽつんと雲が流れていた。
「ねぇハリー、私、鳥になれたらどれだけいいかと思うの」
ハーマイオニーが空を見上げながら小さくつぶやいた。
「鳥?」
「うん……全部がうまくいかない時、知らない場所に飛んでいけたらって思うの。誰も私を知らないところに、ね…」
「それ、いいなぁ… 僕も一緒に行っていい?」
「ええ、ハリーなら…」
ふたりは、静かに笑いあった。
「そうだ、ハーマイオニー、呪文学の宿題、手伝ってくれない?」
「仕方ないわね、今回だけよ」
ハーマイオニーは、ハリーの問いに微笑みながら答えた。