「ねえ、私のウォンウォン、愛してるわ!」
授業前、廊下のすみ、食事中、いつだってラベンダーは甘い声でそう囁いてきては、雨粒のようにキスを顔中に降らせてきた。
彼女の視界には、いつだって“ウォンウォン”しかいない。
その重たすぎる愛に、ロンは気づかぬうちに溺れかけていた。
常に手を握られ、肩に頭を預けられ、廊下を歩くだけでも視線が痛い。
グリフィンドールの談話室に戻ると、静かに本を読んでいるハーマイオニーの姿が目に入った。
そういえば、最近の彼女はハリーといる時間が増えた。笑い合ったり、耳打ちしたり、どこか親密に見える。
“あいつら、あんなに仲良かったか?”
ハリーとハーマイオニーは、友達のはずだ、親友のはずだ、それにしては近すぎる。
ロンは、ふたりの距離感に対して、穿った見方をするようになっていた。
「なあハリー、最近君、ハーマイオニーと距離近くないか?」
自室のベッドに戻ったロンは、痺れを切らして、隣のハリーの部屋をノックする。
「別に… いつも通りだと思うけど?」
ハリーは、ロンに聞かれてそう答えた。
「そういえばハリー、ジニーと別れたって聞いたけど、本当か?」
「うん、ジニーとは別れた」
「ジニー、寂しそうな顔して言ってきたんだぞ?せっかく君が付き合ったと聞いてOKしたんだ!なのにどうして…」
ロンは、妹が寂しそうな顔で話してきたのを思い出し、少し声を強めにしてハリーに問い詰めた。
「僕は誰と付き合おうが勝手だろ、君には関係ない」
ハリーは、根掘り葉掘り聞こうとしてくるロンにうんざりしながら言い放った。
「いや、関係あるよ!君は僕の妹と付き合ってたんだぞ?君は妹を傷つけた…!」
「傷つけたのは君だって同じだろ。ハーマイオニーがどれだけ悲しい顔をしているか、わかってるのか?」
ハリーは、両手に拳を握りしめて怒りを顕にした。
ロンは、何も言えずに自室に戻っていった。
翌朝、大広間では、朝食を終えた生徒たちに向けて、ダンブルドアが静かに立ち上がった。
長い銀髪とひげを揺らしながら、朗らかに微笑み、ゆったりと語りかける。
「ふむ……皆の者、ちと耳を貸してくれんかのう… ここ最近、“名前を言ってはならんあの者”の噂が、廊下の隅々まで忍び込んでおるようじゃな。世の中には不穏な風が吹いておる。じゃが、こういう時だからこそ、わしは皆に今を楽しんでほしいと願っておる。未来を憂えるのも大切じゃが、笑顔でおることもまた、立派な勇気じゃよ。そこでじゃ。今年のクリスマスは、ダンスパーティーを開くことに決めた。パートナーを誘って、存分に踊り、笑い、祝い合うがよい。それこそが、わしらにできる最も明るき抵抗じゃからのう」
校長の発表に、生徒たちから大歓声が上がった。
早速、誰が誰を誘うかで、賑わい始めた大広間はとても賑やかだ。
「ウォンウォンは、私と踊るわよね?」
ラベンダーは、ロンにベタつきながら聞いた。
「う、うん… 考えとくよ」
ロンは、ラベンダーに少し引き気味に答えた。
「ハーマイオニー!」
寮の自室に戻る生徒たちの波を掻き分けながら、ハーマイオニーを見つけたハリーは、彼女を手招きして呼び止めた。
「クリスマスに僕と踊ろう」
ふたりだけになれる廊下の片隅に移動したハリーは、ハーマイオニーに踊るジェスチャーをしながら彼女を誘った。
「わ、私?」
ハーマイオニーは、自分の顔を指差して、驚くように聞いた。
「うん、僕とじゃ、嫌だった?」
「嫌じゃないわ。少し驚いただけ…」
「君と踊りたい…」
ハリーは、微笑みながら静かに言った。
「嬉しいわ、ハリー…」
ハーマイオニーも笑顔で返した。
ロンは数日迷った末、授業終わりの廊下でハーマイオニーに声をかけた。
「なあ、ハーマイオニー。あのさ……その……パーティー、さ……」
ハーマイオニーが一瞬きょとんとしたあと、声を荒らげて言った。
「おあいにくさま、私はもう予約済みよ!」
「今度は、1番最初に誘ったんだよ!そんな早く… 誰と踊るんだよ!」
ロンは、4年生のときのトライ・ウィザード・トーナメントのダンスパーティーの後悔を思い出しながら言い返した。
「あなたには関係ありません!」
ハーマイオニーは、そっぽを向きながら突き放すように言った。
ロンは去っていくハーマイオニーの後ろ姿を、ひとり立ち尽くして見ることしかできなかった。