ようこそ理系女子と行く教室へ 作:絶対零度
難しすぎた。
いきなり他者視点です。
「これは去年の中間試験の過去問だ。小テストもそうだが毎年この時期は同じ問題が出る」
「まじかよ、本当なんだろうな?」
「ああ、信じるか信じないかはお前次第だ」
「…確かに小テストは高一じゃ解けない問題があったな」
「ああ、だが事前に問題さえ知って調べておけば解ける」
「成る程な、お前の言う事も一理ある」
俺は現Cクラスの生徒の1人。勉強、運動共に中間より少し上くらいの普通の生徒だ。
そんな俺は今とある男と密会をしている。Dクラスの綾小路と名乗る眼の前の男子生徒は俺に去年の過去問のデータを送ってきた。何でも俺が知るDクラスの女子生徒、櫛田が言うにはこの男子生徒はCクラスの俺達と友達になりたいそうだ。ついでに今回の試験を無事高得点で乗り切れたら彼のDクラスはCクラスの俺達とこれから協力関係を結びたいと言って来た。
無表情な上感情のこもってない声だが、この男の一言一句には確信があった。説明されてみれば、成る程と思う所がある。
今回の中間試験。テスト1週間前になって範囲の変更があった。
余りにも急すぎる上にこれまで勉強していた部分がパーになった。一応対策はするが高得点を取るのはほぼ諦めていた。1週間で変更された範囲を詰め込むのは結構きつい。故に俺の中で今回の試験の目標は赤点を取らないことが最優先となっていた。
Cクラス、否、元Bクラスの俺からしてみれば赤点回避に重点をおけばそれはさほど困難な事ではない。クラスメイトも解けそうな基礎だけでも詰め込めば何とかなる。
クラスの中には何人か勉強が苦手な人もいるが、赤点になりそうなのは一握りだ。
兎に角今回の試験のクラスの大半の重点目標は赤点を取らないことだった。
だがそれが今変わった。この時期は毎年同じ問題が出題されるとの情報が俺の元に来た。それだけでなくその問題、即ち過去問が俺の手に渡った。これをCクラスに共有すれば、今回の中間試験で仮想敵であるBクラスをいとも簡単に超えられるだけでなくAクラスにも勝つことが出来る。
きっとBクラスは過去問を手に入れずに中間試験を突破するだろう。俺に過去問を渡したDクラスの奴はこう言っていた。
「一緒に共通の敵であるであるBクラスを倒さないか」と。
つまりは過去問がBクラスに渡ることはない。そしてそれはAクラスも同じかも知れない。そうすれば今回の中間試験で1位を取るのは同じく過去問を使うDクラスか俺達Cクラスになる。恐らく地力の差で俺達Cクラスが1位となるだろう。
そうと決まればクラスメイトに過去問を配らなければならない。クラスのリーダーをやってる一之瀬も喜ぶだろう。
俺は受け取ったデータを確認し、印刷すべくパソコン室へ急ぐのだった。
「えっと、綾小路君には悪いけど、私はそれあまり信用出来ないかな」
先輩から手に入れた過去問を印刷した。屋上での1件後の関係修復の為にクラスでも人望のある櫛田に配って貰おうとしたら断られた。
「堀北さんにでも頼んだら?私はちょっと…それで違ってたら怖いから、それじゃっ」
櫛田は行ってしまった。
先輩から過去問を入手する時は協力的だったが、いざ配るとなると彼女は何故か消極的になってしまった。
加えて今後起こりうるであろうこの学校の試練も乗り切る為、不本意だが、オレ達Dクラスが仮想敵としているBクラスを打倒するべく、彼らを敵と認識しているCクラスに貸しを作る為に、オレとCクラスの生徒を引き合わせる事に協力してくれたのだが、一体どうしたのだろうか。
残されたオレは手元にある過去問を見る。小テストが毎年同じ問題が出る事は櫛田も確認済みだった。
茶柱先生の意味深な発言から今回の中間試験の攻略方は過去問だと言う結論に辿り着き、手に入れるに至ったのだが、いざ、どちらが配るかと言う話になった途端に櫛田は離れて行ってしまった。流石に毎年同じ問題が出ると言うのは彼女は信用出来ないのだろう。確かにこれを配ってもし違っていたら大目玉を食らうが。
はあ、こうなったら堀北に頼んでクラスに配って貰うしかない。折角勉強会を開いたのだから今回の中間試験くらいは全員で突破しよう。
オレは1週間前を思い出す。
「昨日Bクラスから誹謗中傷、及び暴行の訴えが出た。審議の結果、池と山内、須藤、篠原、…、…、以上8名は中間試験当日まで停学だ」
テスト10日前になってBクラスから遂に訴えが出た。
内容は勿論、DクラスがしてきたBクラスに対する根も葉もない誹謗中傷、及び暴行だった。
池と山内、更にBクラスに煽られ、暴力を振るった須藤、その他男子数名、篠原達女子グループは5月の始めから廊下や食堂でBクラスのメンバーとすれ違う度に舌打ちしたり、彼らに聞こえるように悪口を言ったりとBクラスを攻撃していた。
それが数多く録音されており、一昨日Bクラスがそれを提出した。ボイスレコーダーによる証拠もあり、審議はBクラスのペースで進んだ。平田は必死に弁護したがDクラスの8人はテスト直前まで停学処分となった。皮肉な事に停学になった生徒は皆成績が悪い生徒達だった。
そんな中、中間試験の変更が茶柱先生から伝えられた。Dクラスは混乱した。彼らは今までも対して勉強してこなかったが、テスト範囲の変更は正に泣きっ面に蜂だった。
皆、焦りで集中出来ない。このままだと退学者が出る。そう思った俺は5月の始めに中間試験の説明をした時の茶柱先生の言葉を思い出した。「お前達が赤点を回避する方法はあると確信している」と茶柱先生は言っていた。小テストの結果と併せて過去問に辿り着いた俺はこれを入手したのだ。
そんな中、Cクラスの噂を聞いた。彼らは何とかしてBクラスに勝ちたいらしい。
オレはそれを聞いて櫛田の仲介の元、当分のDクラスとCクラスの協力関係を作るべくCクラスの生徒にも過去問を共有した。今回の結果次第で秘密協定を結ぶ事が出来るだろう。
テスト3日前、堀北がクラス全員に過去問を配った。赤点筆頭候補の須藤、池、山内も寮で過去問を受け取った。彼らは今回テスト勉強には消極的だったが、これで乗り切る事が出来るだろう。ついでに寝落ちの対策も出来る。
Cクラスの事と言い誹謗中傷の事と言い、Bクラスには悪い気がするが、Dクラスが生き残る為には仕方無かった。
堀北に過去問を配らせ、残りの日々は全員でそれを使って勉強する事になった。皆、過去問を信じてそれに齧り付いた。
気になる事と言えば最近茶柱先生の顔色が悪い。焦りが見え隠れしており表情は青ざめていた。
理由は分からなかったがテスト当日となった。停学になっていた皆も復帰した。全員自信の満ち足りた顔つきになっている。過去問は完璧に覚えたようだ。
堀北の激励の下、試験が始まった。
問題用紙をひっくり返す。
そして気付いた。
なんだ…この問題は…何故だ…
茶柱、お前は確かに攻略法があると言った…
どういう事だ…
「…全部で160万だ」
「分かりました。振り込みます」
学年主任の先生に用件を頼んだ俺は高額なポイントを請求されていた。俺がポイントを出すと先生は驚いていたがそれを受け取った。
「確かに受け取った。しかし本当に良いのか?君は今回の試験の攻略法に気付いているであろうにも関わらず、何故それを捨てて実力で挑む必要がある」
「それは他のクラスも同じです。それに本当の意味でクラスの為になるならこんなポイント安いくらいです」
「色々あるとは聞いていたが、クラスの為にそこまで身を切るのか。割に合ってるとは思えないが…」
「それでもです。これしか思いつかなかったんです」
「分かった。各教師には私から命令しておく」
主任は呆れながらも約束してくれた。
これで今回の中間試験の問題が例年の物とは別物になった。
決して安くないポイントを払ったが俺にはこれしか思いつかなかった。
だがその為に龍園には過去問を使わせず、その範囲をクラスメイトに満遍なく勉強させるようにし、櫛田を利用してポイントと引き換えに綾小路がCクラスにも過去問を共有するように仕向けたんだ。綾小路がCクラスと手を結ぶかは博打だったが、それが無かった場合は別の方法でCクラスに過去問を流す予定だった。
ついでに彼らが過去問に飛びつき易くなるようにテスト前に彼らが停学になるように仕掛けた。今までの誹謗中傷、及び龍園達が須藤に仕込んだ暴力事件を学校側に訴えた。
これで過去問と同じ問題が出ると思って勉強していたクラスは本番で衝撃を受けるだろう。そして実力が発揮出来ない可能性が高い。これによりBクラスは平均点でCクラスにも勝てるかも知れない。皆勉強の成果を肌身で感じる事が出来るだろう。そうすれば達成感が生まれ、今後も勉強に身が入り、学力向上にも繋がる。
龍園にこの作戦を説明した時の彼の反応は凄かった。「くくくっ…、面白え、本当にてめえって奴はやってくれるぜ!!ああ、最高だなあ!!」そう言って大笑いしていた。
聞いていた龍園の側近も良い顔していた。「あんた、えげつないわね…」と伊吹が呟いた。
これでCクラスとDクラスに大ダメージを与える事が出来る。初手にしては動きすぎかもしれないが、俺の実力はこの程度だった。
次はもっといい作戦を考えられたらと思いながら俺はテスト本番で次々に問題を解くのだった。
「堀北っ、全然違うじゃねえか!!」
休み時間、堀北の机を囲んでDクラスの面々が攻め立てる。堀北はそれに対して苦い顔をするしか無かった。
チラチラとオレの方を見る。
はあ…仕方無い。
オレは立ち上がった。
「すまない、実は俺が堀北に頼んで過去問を配って貰ったんだ」
「はあ、綾小路が考えたのかよ!!」
山内の声と同時に全員の視線が俺の方に向く。平田が俺を庇おうとするがどうせ焼け石に水だろう。
「はあ、綾小路君じゃ仕方無いか…」
「っ…ヤバい…残りの科目だけでもやらねえと!!」
皆次々に自席に戻り残りの科目を暗記しようとするが、この少ない休み時間でどれだけ詰め込めるだろうか。
「そこまでだ、教科書をしまってもらう」
無慈悲にも茶柱先生が入って来た。科目は日本史…何処まで皆覚えてるだろうか。
「どういう事だ綾小路、過去問と全然違うじゃねえか」
「すまない…」
昼休み、オレはCクラスの男子に問い詰められていた。俺はそれに対して謝る事しか出来ない。
「はあ、俺はもう帰る。せめて残りの科目くらいは詰め込まないとな」
悪態をつきながら帰って行くCクラス。折角Cクラスと今後協力関係と言う名の利用関係を築こうとしたのだが、駄目になってしまった。後2科目残ってる。
Cクラスは元Bクラスで頭が良いから何とかなるだろうがオレ達のクラスはこのままだと…
今回はここまでです。
次はテスト結果ですね。