ようこそ理系女子と行く教室へ 作:絶対零度
Bクラス以外の各クラスの様子です。
「おめでとう、今回の中間試験でAクラスは最高の成績を獲得した」
1年Aクラスの教室。
テストの点数が載っている厚紙を広げて真嶋先生はAクラスを褒める。
しかしその表情はお世辞にも良いとは言えなかった。Aクラスは確かに学年1位の成績を取ったがその点数は例年と比べて大きく低かった。
「続いて各クラスの平均点を発表する」
黒板に全クラスの平均点をチョークで書いた。
順番的にはA、B、C、Dのクラス順。要は現在のクラスがそのまま実力順となっている訳だ。
Aクラスの生徒の半数はその点数を見て安心した。自分の点数はクラスの平均点よりも高く、当然Bクラスの平均よりも上だからだ。
しかし、もう半数の生徒の表情には焦りと後悔が見える。彼らの大半の点数はクラスの平均より低いだけでなく、Bクラスの平均を下回っている者も多数いた。彼らは今回の試験、実力で受けようとせずにとある物に頼ってしまったのだ。
(忌々しいですね…)
Aクラスの生徒であり、リーダーの一角である坂柳有栖は内心呟いた。彼女は今回の試験で何が起きたのかある程度予想がついていた。何者かがポイントと引き換えにテスト問題の変更を申請したのだと感づいていた。
本来なら今回のテストで過去問の利用は正解だった。毎年この時期は同じ問題が出る。それに気付いたクラスは高得点を取ることが出来る。そう決まっていた。
頭の良い彼女も例に漏れず、過去問に辿り着いた。そしてそれを自分を慕う生徒にのみ配った。彼女はもう一人のクラスのリーダー格ととある勝負をしていた。この中間試験でどちらの派閥が高得点を取るか勝負しないかと。もう一人のリーダーは最初反対していたが坂柳の執拗な挑発に怒りを覚え、この勝負を受けた。
結果は坂柳の完敗だった。
テスト問題は例年とは全科目変更されており、過去問を勉強していた彼女の派閥は混乱し、本領を発揮出来なかった。休憩時間中に焦ってテスト範囲を詰め込む者も多数いた。しかし頭の良い彼らとて、赤点を回避する事は容易いもの、テスト範囲を満遍なく勉強している生徒には到底及ばなかった。彼らは全員過去問に頼った事を後悔し、坂柳への信頼も無くなった。
真嶋先生が退出した後、1人の生徒が教壇に上がった。
もう一人のリーダー候補の葛城康平だ。
「クラスの皆、結果に対してそれぞれ思う所はあると思うが、一先ずは落ち着いて俺の言葉を聞いて欲しい。今回の試験、我々Aクラスは何とか学年1位を取ることが出来た。これは皆の実力が証明された証拠だ」
葛城の言葉に彼の派閥の生徒は達成感に満ちた顔で葛城を見上げる。これこそが自分達のリーダーであると再認識する。
葛城は自分を慕う生徒達に対してテスト範囲を満遍なく勉強させ安定した学力向上を図った。それはテスト範囲の変更があっても変わらなかった。彼は焦らず自分の仲間に変更後の範囲を勉強させ、講師役を担った。結果、彼の派閥の生徒は高得点とは言い難いが安定した成績を取ることが出来た。
「今回実力を発揮出来なかった者もいるようだが、その者は次に十二分に発揮出来るよう準備してくれ。我々が一丸となればAクラスは必ずAクラスのまま卒業出来るだろう。俺は全力で皆を率いて行きたいと思ってる。だから力を貸して欲しい」
「当然っすよ!!葛城さん以外がリーダーだなんてあり得ないっす!!」
「良いぞ葛城!!」
「頼んだぞ、俺達のリーダー!!」
Aクラスの葛城派が湧く。彼らは今回の試験で十二分に葛城を認める事が出来ただけでなく自分に誇りを持つことが出来た。
「坂柳、何か言う事はあるか?」
葛城はもう一人のリーダー候補である坂柳を睨むようにして問いかける。しかしその眼は自信に満ち溢れていた。この中間試験の結果をもって、彼女が反論出来ないと分かっていた。
「結果は結果ですので受け入れましょう。今回は私の負けです。どうぞご自由に」
坂柳は無抵抗だった。しかしその眼にはまだ十二分に闘志が残っていた。今回は偶々予想外の事が起きただけ。本来なら自分が勝っていたと確信していた。
彼女は決めた。自分をここまで陥れた人物を突き止める。そして事によってはその人物を手駒に、或いは徹底的に復讐し潰す。そして葛城を妨害し、何時でもリーダーに返り咲くつもりでいた。
「今回のCクラスの成績は残念ながら学年3位です」
星之宮先生の言葉にCクラスはやはりといった様子で項垂れた。
彼らは今回の試験で首位を取るつもりでいた。過去問さえあれば5月に自分達のクラスポイントを超えた忌々しいBクラスは勿論、学年最高の成績を取るであろうAクラスにも勝てると誰しもが思っていた。
事実、星之宮もCクラスを過去問に辿り着かせる意図でテスト範囲の変更のお知らせを遅らせたのだ。
結果はこの有様である。
A、Bクラスに勝つことはおろか、小テストと比べて大きく平均点を下げる結果になった。その平均点も低いにも関わらず、赤点ギリギリの者も1人や2人ではなかった。Dクラスには勝てたがそれを喜ぶ者はいなかった。
星之宮が退出するとクラスのリーダーをやってる一之瀬が前に出た。
「皆、確かに今回のテストは残念だった。全員で他クラスの情報を鵜呑みにしてしまったのは失敗だったと思う。でも私達は実力で負けた訳じゃない。次こそ本領を発揮して必ず勝てるように頑張ろう!!」
「帆波ちゃんっ」
「一之瀬っ、そうだよなっ、次こそBクラスに勝つ!!」
「今回は俺達が迂闊だっただけだ…」
リーダーとして必要な実力と人望を兼ね備えている一之瀬の言葉にCクラスの皆は気を取り直した。
「それと、これは私から皆にやって欲しい事なんだけど…」
一之瀬は真剣な顔になった。
Cクラスの皆は黙って次の言葉を待つ。
「私達のクラスはこの月、Bクラスに色々悪い事をしたと思うの。確かに不正を疑う気持ちは分かるけど、でも陰口を言ったり、冷たく当たったり、噂を広めたりするのは違うと思う。だから昼休みか放課後になったら、全員でBクラスに謝りに行きたいと思うんだけど、皆良いかな?」
「ちょ、ちょっと待て、それは俺達があいつらに劣ってると認めるのか!?」
「ほ、帆波ちゃん、そんな事しちゃ駄目だよ!!」
一之瀬の言葉にCクラスから反対の声が上がる。本心では一之瀬に賛成する者もいたが反対派の意見が強く、言いにくそうにしていた。
「皆、聞いて。私はこのクラスを嫌いになりたくない。全員でAクラスで卒業したい。
けど、その為には皆が実力を上げてその上で正々堂々と他クラスと戦って行くことが大切だと思う。今回私達はズルして勝とうとした。結果それが原因で負けた。だから私はこう思うの。この学校では不正を許さない。私達が勝つためには実力でA、Bクラスを上回る必要があるの」
クラスが注目する中彼女の話は続く。その声は真剣そのものだ。
「今回私達はBクラスに対して自分達の方が上だと決めつけて彼らの悪い噂を鵜呑みにした。でも結果は違ったの。Bクラスの実力は本物だった。私達は確かに今回は負けたの。それは全員で認めるべきだと思う。同時にBクラスは不正をしてない事もだよ」
これまでの自分達を否定する言葉。しかし一之瀬は毅然とした態度で続けた。
「だから今回は負けを認めて次に進むべきだと思う。私がクラスを代表して謝ってもいい。皆ができないなら私がやる。私間違ってるかな?」
一之瀬の言葉にCクラスは何も言い返せなかった。
彼女が言ってる事は紛れもない事実であり、嘘等無いからだ。
「…一之瀬、俺も行く。俺はBクラスを正当なライバルとして認める」
「か、神崎…」
真っ先に一之瀬に和したのは神崎だった。彼はクラスの参謀役を買って出ていた。
「今回、確かに俺達は負けた。だが何時までもこのままでいたらBクラスには一生勝てない。だから俺は敗北を認める。それだけだ」
クラスメイトが聞く中、神崎は素直に自分の気持ちを伝えた。彼の言葉を聞いてCクラスにも変化が訪れる。
「へっ、一之瀬と神崎だけに責任を投げられないぜ。俺も行く」
「柴田君が言うなら私も」
運動が得意でクラスのムードメーカーの柴田、彼に恋する安藤が賛成した。
「帆波ちゃん…だったら私も」
「私も行くよ」
「一之瀬の言う通りだ。俺もやるぜ」
網倉と小橋、更に渡辺も賛同した。こうなると後は自然と流されて行く。皆、次々に彼らに同調する。
「皆、次こそ私達は負けないよ!!だから先ずはやるべき事をやろう!!」
「「「おおおおおっ!!!」」」
Cクラスは湧いた。夢から覚めた彼らは咆哮した。
次こそ必ず勝つ。もう不正はしないと彼らは再び前を向いた。
しかし彼らの決意、それは茨の道だった。今後何があっても本当にこの決意を忘れずにいられるかはまだ分からない。
「…………、池、山内、須藤。残念だが今回の試験で以上9名は退学だ」
「う、嘘だろ…」
「ま、待てって、茶柱先生っ、こんなの馬鹿げてますって」
「これは学校のルールだ。呼ばれた9名は放課後、私の所に来い。短い間だったがご苦労だった」
厚紙が黒板に張り出され茶柱先生が赤のマーカーで線を引く。どの教科でも最低1人は赤点を取った者がいる。赤点のラインが20点にも満たない科目も複数あるが、それでも一桁だったり、或いは実質白紙で提出した者もいるようだ。
「ま、待ってください先生、採点ミスが無いかだけ確認させてください!」
「構わないが採点ミスは無いからな」
平田が手を上げる。茶柱先生は予想していたのか彼らの答案用紙を渡して来た。平田と堀北がそれを受け取り、確認するがミスは見当たらなかった。
「ミスは無い…」
「そういう事だ。呼ばれた9名は好きにして良いぞ。今日この時間からお前たちは退学が決まってる。何をしようがクラスに影響は無い。残りの者は精々頑張ると良い」
茶柱先生は退出してしまった。
残されたのはオレ達。
「くそっ、綾小路っ、お前のせいだ!!」
「そうよ、あんたが過去問なんて持ってくるから!!」
「自分は50点取りやがって!!本当はこれが役立たないって気づいてたんだろ!!」
「綾小路っ、どうしてくれるんだよ!!」
「堀北さんも黙ってないで何とかしてよ!!配ったのあんた何だからね!!」
クラス中からオレとついでに堀北は批難された。平田が止めに入ろうとするが誰も辞めようとしない。オレは席を立った。最後に試す事がある。
「ちょっと、抜けさせてくれ」
「あ、綾小路君!?」
「へっ、逃げる気かよ」
「この疫病神が」
クラス中から睨まれたまま、オレは廊下に出た。そのまま茶柱先生の後を追う。茶柱先生は屋上への階段を登って行った。そのまま後に続く。
屋上の扉を開くと茶柱先生は一服していた。
「どうした、次の授業の準備をしないのか」
「先生に話したい事があります」
それからオレは先生に今の日本は本当に平等かどうか等色んな事を話した。そして最後に先生がテスト範囲の変更を伝えた日。それは本当に適切な日に伝えたのかを聞いた。同時に、過去問は今回の試験の最適解であったはずだと言うことも…
「ふっ、それがどうした。今回は違う問題が出た。どんな事情があれ、それは紛れもない事実だ。習ってない範囲は出てない。この結果は彼らの勉強不足だ」
「それは認めます。しかし先生がテスト範囲の変更のお知らせを遅らせたのも、事実では無いでしょうか」
「何が言いたい、綾小路」
「オレから頼む事は1つです。彼らの点数を売ってください」
「ふ、ははははははっ」
茶柱先生はオレの発言に笑った。そしてこう言った。
「話は分かった。だが、お前に払える金額とは限らないぞ。何せ本来なら赤点を取れば問答無用で退学なのだからな。それ相応の金額となる」
茶柱先生は振り返った。
「1点5万、いや、3万で売ってやる。足りない点数は一教科辺り平均して30点以上。今回不足分は赤点を取った者全員の全科目で168点だ。合計504万。お前に払えるか?」
茶柱先生の笑いが消える。オレは自分の携帯を見た。
2,061,425ptとそこには映されている。しかしこれでも必要な金額の半分もない。この200万ポイントはテスト返却の今日の為に、僅かな間に堀北学と交渉して借りたポイントだった。
「その顔、何やら工作したようだな。だが恐らく、全員は救えないだろう。誰を切って誰を残すか決めると良い…」
茶柱先生はオレを見据える。
ガチャリと屋上の扉が開いた。堀北が様子を見に来たようだ。彼女もポイントを払いに来たのだろうが持ってるポイントなんてたかが知れてる。
救える人は限られていた。
オレは…どうすれば良いんだ…
というわけで今回はBクラス以外のクラスでした。
櫛田ちゃん楽しみにしていた方は申し訳ありません。
次の話で出せたらと思います。