ドリフターズに迷い込むもの リメイク   作:四国の探索人

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第10話 十月機関の目的

 

 少女は一度咳払いをすると、姿勢を正した。

 

「私は十月機関に所属する、オルミーヌです」

 

 豊久が首を傾げる。

 

「十月機関?」

 

「あなた方のように、向こうの世界から来た人々――ドリフターズを監視し、集め、エンズへ対抗するための組織です」

 

 信長は三人を見回した。

 

「はーい。分かる奴いるかー?」

 

 与一。

 

 豊久。

 

 ユウスケ。

 

 三人揃って首を横に振る。

 

「えぇ……」

 

 オルミーヌは少し肩を落とした。

 

「では説明します。」

 

「ドリフターズとは、あなた方のように異世界から来た者達。」

 

「そしてエンズは、異世界から来るもこの世を恨み、人ならざる存在となった者達です。」

 

「黒王を中心とした集団で、この世界を滅ぼそうとしています。」

 

「あなた方は、そのエンズと戦うために、この世界へ呼ばれたんです。」

 

「勝手に決めんな!」

 

 信長が即座にツッコむ。

 

「「「そーだ、そーだ!」」」

 

 与一、豊久、ユウスケまで一斉に便乗した。

 

「えぇ……」

 

 オルミーヌはさらに困惑する。

 

「それにな、おっぱいーぬ。」

 

「俺は第六天魔王・織田信長だ。」

 

「見立て違いだ。」

 

「その二つしか分類がないなら、どう考えても俺ぁエンズだろ。」

 

 ユウスケも頷く。

 

「そうですよ。」

 

「信長なんて身内を殺し、寺を焼き討ちし、敵将の髑髏で酒を飲んだ鬼畜です――」

 

 ゴッ。

 

「ぼへっ!」

 

 信長のチョップがユウスケの頭へ落ちた。

 

「余計な補足すんな。」

 

 ユウスケは頭を押さえながらしゃがみ込む。

 

 オルミーヌは真面目な顔で首を振った。

 

「いえ。廃棄物ではないと思います。」

 

「どうしてです?」

 

 与一が尋ねる。

 

「エンズとして現れた者達は、もはや人ではありません。」

 

「冗談も通じず、理性もありません。」

 

「向こうの世界でどんな人物だったかは知りませんが……こちらへ来た彼らが行うのは、破壊と殺戮だけです。」

 

 少し俯き、続ける。

 

「彼らは魔物を従え、北方から侵攻を始めています。」

 

「このままでは、この世界は滅びます。」

 

「どうか、力を貸してください。」

 

 ユウスケが腕を組む。

 

「そのエンズって集団も、元は人間なんですよね?」

 

「だったら、やることなんて限られませんか?」

 

 オルミーヌは静かに首を振った。

 

「エンズは、この世界へ来る際に人ならざる能力を得ています。」

 

「普通の人間とは別物です。」

 

 信長は腕を組み、少し考え込んだ。

 

「それで?」

 

「お前ら十月機関は、その化物共に対抗する兵をどれだけ持っとる。」

 

 オルミーヌは少し言いづらそうに答えた。

 

「……私達は、ドリフターズを集めるのが仕事です。」

 

「各地の領主へ軍権を委ねてもらい、ドリフターズへ指揮権を渡してもらう予定です。」

 

 その瞬間。

 

「んな理想、叶うわけねぇだろ。」

 

 信長は呆れたように笑った。

 

「世界が滅ぶんですよ!」

 

「いくら領主でも、それくらい――」

 

「時代が変わっても領主は領主よ。」

 

 信長は言葉を遮る。

 

「兵を持つから領主なんだ。」

 

「兵を手放した瞬間、そいつはもう領主じゃねぇ。」

 

「そんな真似する馬鹿がいるか。」

 

 オルミーヌは返す言葉を失った。

 

「……なら、どうすればいいんですか。」

 

「私達には軍がないんですよ。」

 

 信長は口元を吊り上げる。

 

「簡単だ。」

 

「ドリフターズが国を取ればいい。」

 

「……はあ?」

 

 オルミーヌの口がぽかんと開く。

 

「俺達はこれから、豊久を頭目に国盗りをする。」

 

「そのために、お前ら十月機関が力を貸せ。」

 

 突然名前を出された豊久が自分を指差した。

 

「ん?」

 

「おいが頭?」

 

「何故じゃ。」

 

 与一が苦笑する。

 

「だって、この前エルフの村で真ん中に座っていたじゃないですか。」

 

 豊久は真顔で首を傾げた。

 

「そんな意味があるとは知らん。」

 

 信長は額を押さえ、大きくため息をつく。

 

「……つくづく残念な奴だなお前は。」

 

 オルミーヌは四人を見回し、小さく息を吐いた。

 

(大師匠様……えらいことになりました。)

 

(ドリフターズによるオルテ簒奪。考えもしなかったことですが、今までにない規模の大侵攻です。)

 

(……でも、私は彼らの案に惹かれています。)

 

 胸の内でそう呟きながらも、その両手は縄で縛られたままだった。

 

 やがて一行は、議論が一段落したエルフの集会所へ足を踏み入れる。

 

 中では村人たちが輪になって座り込み、夜通し話し合った疲れからか、誰もが疲弊した表情を浮かべていた。

 

 与一は耳を澄ませ、小さく頷く。

 

「外で聞いていた限りでは、オルテへの恨みはある。しかし抵抗したくても勝てない……そんな話をしていましたね。」

 

 ユウスケは驚いたように振り返る。

 

「テキトーに言ってるんじゃなくて、本当に分かるんですか?」

 

 与一は少しだけ胸を張った。

 

「これでも、私が一番最初にこちらへ飛ばされましたからね。」

 

 信長は満足そうに頷く。

 

「よし、与一。」

 

「奴らに伝えろ。俺達と組めば領主軍を皆殺しにして、国をやるとな。」

 

 与一は深呼吸すると、覚えたばかりのエルフ語で必死に話し始める。

 

「……カタシテアゲルヨー、オニイサンー」

 

 途端に、エルフたちが一斉に首を傾げた。

 

 村の中が静まり返る。

 

「……。」

 

「……。」

 

 誰一人として意味を理解していない。

 

 信長は額を押さえた。

 

「駄目だ。全然通じとらん。」

 

 そしてユウスケを前へ押し出す。

 

「ユウスケ、お前。似たような言葉知らんのか。」

 

「え、俺ですか!?」

 

 突然前に立たされたユウスケは、困り果てた末に口を開く。

 

「えーっと……」

 

「How are you?」

 

「Thank you!」

 

「I'm fine!」

 

 当然。

 

 エルフたちは何の反応も示さなかった。

 

 誰も首を傾げることすらせず、「何か言っている」程度の認識で話し合いへ戻ってしまう。

 

 ユウスケは肩を落とした。

 

「……英語も駄目か。」

 

 信長は大きくため息を吐く。

 

「頼んだ俺が悪かった。」

 

「ぐぬぬ……意思疎通が出来んとなれば……」

 

 その時だった。

 

 豊久が突然、オルミーヌを指差した。

 

「おい!」

 

「おるみぬ!」

 

「なんでお前は俺らと話せるんじゃ!?」

 

「あっ。」

 

 オルミーヌは目を丸くする。

 

「そ、それは……」

 

「私達、ドリフターズをずっと研究してますから。」

 

「大師匠様が作った札があるんです。」

 

 そう言って胸元から一枚の札を取り出した。

 

「これを貼れば言葉が通じるようになります!」

 

 胸を張って言い切る。

 

「凄いでしょ!」

 

 その瞬間。

 

 与一の動きが止まった。

 

「……え?」

 

 札とオルミーヌを交互に見つめる。

 

「そんな便利な物が……」

 

 次の瞬間、膝から崩れ落ちた。

 

「私……あの言葉を聞き取れるようになるまで、どれだけ苦労したと……」

 

 信長は慌てて駆け寄る。

 

「おまっ!」

 

「与一泣かせるなよ!」

 

「私のせいですか!?」

 

 オルミーヌが思わず叫ぶ。

 

「いいから謝れ!」

 

「可哀想だろ!」

 

「わ、分かりましたよ!」

 

 オルミーヌは頭を下げる。

 

「すいません!」

 

「よし!」

 

 信長は満足そうに頷いた。

 

「あと、その札寄越せ!」

 

「急げ!」

 

「はい!」

 

 オルミーヌは慌てて札を取り出す。

 

「極東の日本人……侍用です!」

 

 そう言って札を一人ずつ貼っていく。

 

 ユウスケの額へ札が貼られた瞬間――

 

「……え?」

 

 今まで意味不明だったエルフたちの会話が、突然日本語として頭へ流れ込んできた。

 

「本当に……分かる。」

 

 ユウスケは目を丸くする。

 

 信長も感心したように札を見る。

 

「そういう物なんだろうが……」

 

「これ作った奴、とんでもねぇな。」

 

 ユウスケは札を何度も裏返した。

 

「Google翻訳以上ですよ……。」

 

「そもそもエルフ語なんて、地球の言語かどうかすら怪しいのに。」

 

「何なんだ、この札……。」

 

 信長は笑って肩を叩く。

 

「感心するのは後だ。」

 

 そして豊久へ視線を向ける。

 

「豊久。」

 

「大将が話した方が早い。」

 

 豊久は不満そうに鼻を鳴らした。

 

「……納得しとらんが、分かった。」

 

 信長は最後にオルミーヌを振り返る。

 

「そして、おっぱい眼鏡。」

 

「エルフについて教えろ。」

 

 オルミーヌは「またその呼び方……」と呟きながら、小さく肩を落とした。

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