ドリフターズに迷い込むもの リメイク   作:四国の探索人

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第11話 国が欲しいか

信長に話を振られたオルミーヌは、縄で縛られたまま少し困ったような顔をした。

 

「エルフは長命で、自尊心の高い種族です。元々この辺りにも彼らの国があったんですが、数十年前に人間との戦争に敗れて滅ぼされました。それ以来、オルテの支配下で農奴として生きています」

 

「ほう」

 

 信長は村人たちへ目を向けた。

 

 夜通しの議論で疲れ切った顔。

 昨日まで共に暮らしていた者たちの死。

 焼けた麦畑。

 そして、四十年近く続いたという支配。

 

 それらを順番に見回した信長の顔に、笑みが浮かぶ。

 

「ありがとよ。お前の話、役に立つわ」

 

「え?」

 

 信長は少し考え込むと、豊久を手招きした。

 

「豊久。ちょっと耳貸せ」

 

「なんじゃ」

 

 信長は声を潜め、これから村人たちに何を話すべきかを伝えていく。

 

 最初こそ黙って聞いていた豊久だったが、途中から露骨に嫌そうな顔になった。

 

「……お前、本当に嫌な奴じゃの!」

 

「うるせぇ。いいから言え」

 

「自分で言えばよかろう!」

 

「大将はお前だろうが」

 

「いつ決まった!」

 

「昨日」

 

「知らんぞ!」

 

「いいからやれ!」

 

 豊久はしばらく信長を睨んでいたが、やがて諦めたように村人たちへ向き直った。

 

 集会所にいたエルフたちの視線が集まる。

 

「お前ら!」

 

 豊久の声が響いた。

 

「恥ずかしくなかか」

 

 いきなり投げつけられた言葉に、村人たちの表情が強張る。

 

「国を奪われ、親兄弟を殺され、何十年も奴らの言うままに生きてきた」

 

「それで、このまま死ぬんか」

 

 豊久は村人たちを一人ずつ睨むように見渡した。

 

「死んだ祖先に恥ずかしくなかか。これから生まれてくる子らにも、同じ生き方をさせるつもりか」

 

 ざわめきが広がった。

 

 怒りを露わにする者。

 俯く者。

 唇を噛む者。

 

 豊久は構わず続ける。

 

「お前ら――国は欲しいか」

 

 ざわめきが止まった。

 

「地べたに這いつくばったまま死ぬか」

 

 豊久は拳を握る。

 

「もう一度、自分らの国を夢見て死ぬか」

 

「どちらにする」

 

「決めろ!」

 

 沈黙。

 

 やがて、それを破ったのはシャラだった。

 

「欲しくないわけないだろ!」

 

 立ち上がり、叫ぶ。

 

「国が欲しくないわけない!」

 

「奴隷のままでいいわけないだろ!」

 

 その声を皮切りに、周囲の村人たちからも声が上がり始めた。

 

 豊久はそれを聞くと、満足そうに頷いた。

 

「良か」

 

 そして大きく笑った。

 

「ならば皆で――国盗りじゃ!」

 

 村人たちがどよめく。

 

 その様子を後ろから眺めていた信長は、狙い通りに事が運んだことに満足そうな笑みを浮かべていた。

 

 だが。

 

「……ところで」

 

 豊久が振り返る。

 

「なんじゃ」

 

「なして、儂が大将なんじゃ」

 

「あ?そりゃ俺は後ろから真の黒幕として操る方がいいからな。」

 

「おいは信忠じゃなか。」

 

 豊久は自分の胸を指差した。

 

「儂は島津豊久ぞ」

 

 信長の眉間に青筋が浮かぶ。

 

「分かっとるわ、ボケ!」

 

「島津なんぞクソ田舎のこと、俺が知るわけねぇだろ!」

 

「豊久? 義弘以外知るかよ、ボケ!」

 

「……なんじゃと?」

 

 豊久の頬が引き攣った。

 

「お前、島津を馬鹿にしたな」

 

「事実だろうが!」

 

 次の瞬間。

 

 ゴッ!

 

「ぶっ!」

 

 豊久の拳が信長の頬へ入った。

 

「てめぇ!」

 

 すぐさま信長も殴り返す。

 

「お前が島津を語るな! 何も分かりゃしねぇ!」

 

「知らねぇっつってんだろうが!」

 

 先ほどまで国盗りを宣言していた二人が、あっという間に取っ組み合いを始めた。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 ユウスケが慌てて与一を見る。

 

「止めてくださいよ、この馬鹿二人!」

 

 しかし。

 

「いやぁ」

 

 与一はどこか楽しそうに笑っていた。

 

「友や家族と喧嘩していた頃を思い出しますね!」

 

「懐かしんでないで止め――」

 

「私も混ざりましょう!」

 

「なんで!?」

 

 与一まで飛び込んだ。

 

「おらぁ!」

 

「痛っ! 与一、お前どっち狙った!」

 

「知りません!」

 

「お前ら全員馬鹿だろ!」

 

 信長の蹴りが豊久に入り、豊久がよろめく。

 

「お前、調子に乗るなよ!」

 

「この野郎! 今度は離さんぞ!」

 

 再び豊久が飛びかかる。

 

 周囲のエルフたちは呆然としていた。

 

 つい先ほどまで自分たちに国を取り戻せと説いていた男たちが、今度は地面を転がりながら殴り合っている。

 

 英雄という言葉から想像する姿とは、あまりにもかけ離れていた。

 

「やめてくれ!」

 

 ついにシャラが叫んだ。

 

「こんなことしてる間にも、領主の軍が迫ってるかもしれないんだぞ!」

 

 その言葉に、三人の動きがぴたりと止まった。

 

 信長は豊久の襟を掴んだままシャラを見る。

 

「かも、じゃねぇよ」

 

 手を放して立ち上がる。

 

「確実に来る」

 

 それまでの馬鹿騒ぎが嘘だったかのように、その目から笑いが消えた。

 

「お前らがぶちのめした巡察隊が帰ってこねぇんだぞ」

 

「領主からすりゃ、自分の兵を殺した村が出来上がったわけだ」

 

「放っておくと思うか?」

 

 村人たちの顔に再び緊張が走った。

 

 与一も服についた土を払いながら考える。

 

「四日ほどでしょうか」

 

「ただ、あのアラムという騎士が事前に何らかの指示を出していたなら……三日程度かと」

 

「島津なら翌日ぞ」

 

 豊久が即答した。

 

「それは島津がキチガ――」

 

 ユウスケが言い終えるより早く、豊久の拳が飛んできた。

 

「ぶっ!」

 

 床を転がるユウスケ。

 

「何を言おうとした」

 

「何でもないです!」

 

 信長は呆れながら二人を見た後、話を戻す。

 

「まあ、余裕を見ても明後日くらいと思っとけ」

 

 シャラの表情が強張った。

 

「そんなに早く……」

 

 しばらく黙っていたが、やがて意を決したように頭を下げた。

 

「頼む」

 

「俺たちに力を貸してくれ」

 

 深く。

 

 頭が下がる。

 

「俺たちは武器を持って戦ったことがない」

 

「四十年前、俺はまだ子どもだった。あの時に戦った父や兄たちは、ほとんど殺された」

 

「だから……お願いします」

 

 その言葉を聞いた四人は、一瞬黙った。

 

「……ん?」

 

 ユウスケが最初に違和感を覚えた。

 

 与一も首を傾げる。

 

 豊久もシャラをまじまじと見る。

 

 そして四人の声が重なった。

 

「「「「おかしくね?」」」」

 

 信長がシャラを指差す。

 

「お前、いくつだ?」

 

「百六歳です」

 

「…………」

 

 今度こそ全員が黙った。

 

 豊久はゆっくりと、以前自分を運んでくれたマーシャとマルクへ顔を向ける。

 

「……お前らは?」

 

「三十六です」

 

「僕は三十九です」

 

「……年上か」

 

 豊久は何とも言えない顔になった。

 

 信長も困惑しながらオルミーヌを見る。

 

「どういうことだ、オルミーおっぱい」

 

「オルミーヌだ!」

 

 即座に怒鳴り返す。

 

「さては名前覚える気ないな!」

 

 それでも説明はしてくれるらしく、オルミーヌはため息をついた。

 

「エルフは長命なんですよ。人間の五、六倍は生きます。その代わり、成長もずっと遅いんです」

 

「なるほどのぉ……」

 

 豊久は三十六歳の少年を見ながら複雑そうに呟いた。

 

 オルミーヌはさらに説明を続ける。

 

「元々この辺り一帯はエルフの国でした」

 

「ですが、オルテによって滅ぼされました」

 

「オルテはエルフだけじゃありません。ドワーフをはじめとした他の種族も虐げています」

 

「人間を最も優れた種族とする国家です」

 

 その説明を聞き、信長の表情が変わった。

 

「今も戦っとるのか」

 

「ええ」

 

 オルミーヌは頷く。

 

「各地で抵抗は続いています。一進一退ですが」

 

「……なるほどな」

 

 信長は腕を組む。

 

 頭の中で、これまで得た情報を繋ぎ合わせているのだろう。

 

「ようやく分かった」

 

「オルテは完全に征服しきれてねぇ」

 

 村人たちを見る。

 

「半端に領土を広げ、力で押さえつけている」

 

「しかも四十年」

 

「占領された側には、怨嗟が腐るほど溜まっとる」

 

 信長は昨日の惨状を思い出す。

 

「だからアラムみてぇな奴を使って、反乱の芽が出るたびに見せしめで潰す」

 

 口元に笑みが浮かんだ。

 

「逆に言やぁ――」

 

「火を付けりゃ、よく燃えるってことだ」

 

 ユウスケはその笑顔を見て、嫌な予感しかしなかった。

 

「……信長、楽しんでません?」

 

「何を言う。真面目に考えとるわ」

 

「笑ってますけど」

 

「気のせいじゃ」

 

 信長は豊久へ向き直った。

 

「さて」

 

「反乱を起こすにしても、まずは目の前の領主軍だ」

 

 豊久を見る。

 

「どうする、大将?」

 

「島津の軍法、見せてくれ」

 

「うむ……」

 

 豊久は腕を組んだ。

 

 先ほどまでの喧嘩腰の表情が消える。

 

 今度は一人の武将として、村の周囲とエルフたちを見渡す。

 

 武器。

 

 人数。

 

 地形。

 

 そして、迫ってくるであろう敵。

 

 しばらく考えた末――豊久が呟いた。

 

「……敵兵を引き入れる」

 

「向こうから来るというなら――来てもらえばよか」

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