ドリフターズに迷い込むもの リメイク   作:四国の探索人

2 / 7
第2話 やはり信長

ユウスケは混乱していた。

目の前の男は確かに「織田信長」を名乗っている。

だが、信じるには現実味がなさすぎた。

 

> ——まさか、本当にあの“信長”なわけがない。

 

「そんなまさか……本物なわけ——」

 

「なら、なんでも質問してみせい。」

 

信長は腕を組み、口元に不敵な笑みを浮かべた。

挑発的だが、どこか愉快そうでもある。

 

ユウスケは息を整え、頭の中で日本史の知識をかき集めた。

 

「……じゃあ、兄弟の名前は?」

 

「兄、信広。儂に信勝、秀俊、秀孝……最後が長利であるな。」

 

> (——確かに、あってる……)

 

 

 

ユウスケは背筋が冷たくなるのを感じた。

それでも、まだ信じきれない。

 

落ちていた木の棒を拾い、信長に差し出す。

「じゃあ……これで名前を書いてみてください。」

 

信長は眉を上げた。

「見たところで、分かるのか?」

 

そう言いながらも、棒を受け取り、地面に大きく筆を走らせるように書く。

その筆跡は、力強く、迷いがない。

 

> 織田上総介信長。

 

 

 

ユウスケの目が見開かれる。

「……現存している細川家への手紙と、同じ筆跡だ……」

 

信長はあっけらかんと笑った。

「細川家への手紙? おお、藤孝に宛てたやつか。あいつ、保管癖があるからな。

まさか、まだ残っとるとは!」

 

ユウスケは息を呑んだ。

「認めたくはないですが……確かに本物のようですね。」

 

その横で、与一がじっとこちらを見つめていた。

そして、少し目を輝かせながら口を開く。

 

「私は? 私は確かめなくて大丈夫ですか!」

 

ユウスケは思わず苦笑した。

「与一さんは……すみません、詳しくないです。」

 

信長が腹を抱えて笑う。

「ハハッ! 与一、いくらお前が弓の名手と言えど、知名度では儂に及ばんようだな!」

 

与一はしゅんと肩を落とした。

「……どうせ、私なんて弓しかないですよ……」

 

慌てたユウスケが手を振る。

「い、いえ! 与一さんのことは知ってます!

源平合戦で扇を射抜いた話、現代でも語り継がれてます!

……えっと、私が詳しくないだけで、有名ですよ! 弓のほうが有名ですけど!」

 

その言葉に与一は一瞬だけ表情を緩めかけたが、すぐに顔を伏せて拗ねた。

 

信長が眉を吊り上げる。

「テメェ! 与一が落ち込んだじゃねぇか! 謝れ!」

 

「え、私ですか!?」

 

「いいから謝れ! こいつ、これで三日くらい落ち込むぞ!」

 

ユウスケは慌てて頭を下げる。

「すみません! 与一さんの弓、世界一です!」

 

与一はゆっくり顔を上げ、何事もなかったかのように穏やかに微笑んだ。

「ふふ……ありがとうございます。少し意地悪がすぎましたね。ノブも、これで満足ですか?」

 

「まぁな!」

信長は豪快に笑い、背中を叩いた。

「気に入ったぞ、ユウスケ。素直な奴は嫌いじゃねぇ!」

 

 

与一が少し首を傾げる。

「ノブと私のことはわかりました。では、あなたは何者ですか? ユウスケどの。」

 

与一の問いに、ユウスケは苦笑し、肩をすくめた。

「二人の後では恥ずかしいですが……何もなさずにこの世界に来たんですよ。戦でも平和のためでもなく、学問も特には」

 

信長が片眉を上げる。

「なら、何ゆえ儂の“直筆の手紙”なんぞ知っておる。細川家への書状など、後の世の大事ではあるまい」

 

「たまたま……ニュース、いや本で目にしただけです。未来では公開された情報はいつでも調べられるんですよ。ほら、このスマホが——」

 

ユウスケはポケットを探る。右、左、上着の内側。

「ん? ない」

 

「ユウスケどのの荷物でしたら、身体を運ぶのに精一杯で……置いてきました。すみません」

与一が申し訳なさそうに頭を下げた。

 

ユウスケはその場に膝をつき、空を仰ぐ。

「スマホぉ……」

 

「そんなにスマホとやらが大事なのか?」

信長が面白そうに身を乗り出す。

 

「“ネット”、いや……巨大な書庫にアクセスする鍵なんです。ここじゃ価値は落ちますけど、写真やデータや……それに荷物。やっと買い集めたキャンプ用品が……」

 

「何を言っておるかサッパリだが、命あっての物種よ」

信長が肩を叩く。重い手だが、不思議と温かい。

 

「……はい。ところで、倒れていた場所はどこですか?」

 

「探しに行くつもりなら、止めておいた方がよいですよ」

与一は周囲を警戒しながら言う。

「森は深く、危険です。それに近くに“村”が。下手をすれば村人と接触してしまいます」

 

「村? 何故、行かないんです?」

 

「あー、お前はここに来たばかりだ。知らぬも無理はないが、ここは日ノ本ではない」

信長の声が低くなる。

 

「えっ?」

 

「彼らは“エルフ”と名乗っていました。言葉は我々と通じません」

与一が続ける。

 

「エルフ……? 信長と那須与一だけでなく、エルフまで? ただの南蛮人ってことは?」

 

「南蛮がどんな所かは存じませんが……彼らは色白で金髪が多く、耳がこのように——長いのです」

与一は自分の耳に指を添えて、形を示す。

 

「耳が長い……少数民族ならありえなくもないけど。言葉は? 音の感じだけでも。地球の言語なら、どこの系統かくらいは……」

 

「何度か接触を試みましたが、彼らは『☓☓☓』と」

与一が奇妙な発音を再現する。

 

「ダメだ。分からない」

ユウスケは首を振る。

 

「幸い、与一がちっとは通じる。が、奴らは麦しか育てとらんらしい。……ったく、米が恋しいわ」

信長がため息をつく。

 

「米……ないんですか? 僕ら日本人ですよ?」

 

「ねぇよ。ここ暫くは与一が射落とした鳥ばかりだ」

信長の腹がぐうと鳴る。

 

ユウスケは黙り、目を伏せ、指を折って何かを数えた。

(確かキャンプの鞄の中……炊いてないから、まだいけるはずだ)

 

「——米。ありました。僕のバッグに、少しですが」

 

信長が身を乗り出す。

「まじか。与一! すぐ行くぞ。探せ、徹底的に探し出せ!」

 

三人の影は、廃城の外へと駆け出した。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。