ドリフターズに迷い込むもの リメイク   作:四国の探索人

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第5話 村の違和感

「主ら……そこの旗を見るに、織田の残党か?」

 

 豊久は部屋に掲げられた織田木瓜を顎で示した。

 まだ喉元に残る殺気を隠しもせず、目だけは冷たく光っている。

 

「残党……? むしろ本軍よ」

 信長が鼻で笑う。

 

「何のことや。織田秀信の城は関ヶ原本戦の前に落ちたはず」

 豊久が言い切る。

 

「おいユウスケ、説明しろ」

 信長が雑に振る。

 

「……島津豊久。信長が死んだ後、秀吉が天下を取って、さらに秀吉も死んで——天下を二分する大戦が起きた。関ヶ原です」

 ユウスケは咳き込みながら息を整える。

「……豊久は西軍。負けた側の武将です。たぶん敵中突破の退却戦のあと……ここに飛ばされた」

 

「今なんつった?」

 信長の声が一段低くなる。

 

「大戦にて負けた武将——」

 

「ちげぇよ、そこじゃねぇ!」

 信長がユウスケの襟元を引っ張る。

「織田家どうなった。滅んだのか!?」

 

「そうじゃ!」

 豊久も乗ってくる。

「織田家は太閤のお茶汲みじゃろ!」

 

「ええぇ!?」

 信長の叫びが城内に反響した。

「息子ども何してんだ! てかユウスケ、お前未来人なんだろ、一番最初に言えや!」

 

「悲惨な末路を最初から説明してどうするんですか!!」

 ユウスケがキレる。

 

「二人とも話が逸れてますよ」

 与一が淡々と割って入る。

「今は、そこの島津の御人の話では?」

 

「お、おお……そうじゃったな」

 信長が咳払いをして姿勢を正す。

 

「質問があるならせぇ」

 豊久が言う。まだ疑いは消えていない。

 

「なんだ? 答えてやるぞ」

 信長はニヤリと笑う。

 

「何故、関ヶ原の動向を知る織田残党が、信長死亡後の事を知らん」

 豊久が鋭く突く。

 

 信長の笑みが深くなる。

 

「それはな」

 信長は指で自分の胸を叩く。

「儂らがそれぞれ違う時代から飛ばされて来たからよ。儂は織田信長。こっちは那須与一資隆」

 そして親指でユウスケを指す。

「で、お前が首絞めてたのが未来人のユウスケじゃ」

 

「那須与一? 信長? 未来人?」

 豊久が鼻で笑う。

「馬鹿言うな。そんな嘘があるか」

 

「ユウスケ、そいつに“戦の後”を教えてやれ」

 信長が命じる。

 

「……島津豊久は関ヶ原で叔父の義弘と共に、前代未聞の敵中突破の退却戦をやった」

 ユウスケは言葉を選びながら続ける。

「千人規模だった島津兵は、最後は五十人ほどまで減って……薩摩まで撤退した」

 

 豊久の表情が、一瞬だけ固まる。

 

「……大方その通りじゃ」

 だがすぐに眉を吊り上げる。

「だが、儂は死んどらん。適当に方便を吐いたじゃろ」

 

「では、島津の人間にしか分からぬ事を聞けばよいのでは?」

 与一が穏やかに提案する。

 

「歴史に残ってないことは……俺、知らないことの方が多いです」

 ユウスケが渋い顔をする。

 

「歴史書にありそうで、織田残党が知らぬ質問……」

 豊久が顎に手を当て、ふっと笑った。

「井伊直政は、やはり生きちょるか?」

 

「……生きてます」

 ユウスケは頷く。

「けど、島津軍追撃のとき肩に受けた銃創が原因で、数年後に死にます」

 

 豊久の口角が上がった。目が、獣のように喜ぶ。

 

「そか」

 静かに、しかし確かな満足を含んだ声。

「首は取れなんだが……あの傷は効いたか」

 

 そして豊久は、ようやく肩の力を抜いた。

 

「さっき……眠ってたとしても、数日前の出来事を織田残党が知る由もあるまい」

 豊久は小さく笑う。

「分かった。未来人なのを認める」

 

 張り詰めていた空気が、すっとほどけた。

 

「……死ぬかと思った……」

 ユウスケが床にへたり込む。

 

「いや~、未来人は背が高いのに虚弱ですねぇ」

 与一が悪気なく言う。

 

「うるさい! こちとら戦争なんて経験してないんですよ!」

 ユウスケが叫ぶ。

 

 信長がケラケラ笑う。

「いいじゃねぇか。ここじゃ“経験”はこれから積むもんだ」

 

 

 それから数日。

新たに一人増えた日本人四人は、今日も飯のために鶏の羽をむしっていた。

すっかり板についた作業だが、慣れたからといって楽になるわけではない。

 

「しかし……何故、日本人ばかりがこんな、どことも知れぬ土地に呼ばれているのでしょうか」

与一がぽつりと呟く。

 

「この世界に来る直前に会った、あの眼鏡の“転送者”が意図してるんでしょうけど……」

ユウスケは羽を引き抜きながら答える。

 

「向こうから何の説明もなく、放置とはな」

信長が鼻を鳴らす。

 

「やはり、ここは地獄じゃなかか?」

豊久が真顔で言った。

 

「地獄なら、お前、閻魔大王とか出てくるだろうが普通」

信長が即座に突っ込む。

 

「腹も減るし、景色も地獄って感じじゃないですしね」

ユウスケが首を振る。

「やっぱり、どこか別の世界なんでしょう」

 

「異世界? 日ノ本じゃなかか?」

豊久が眉をひそめる。

 

「もう、その話はいいですよ」

与一が軽くため息をつく。

「我々も何度か確かめましたが……どう考えても日ノ本ではありません」

 

そのとき、ユウスケが手を止めた。

「……なんか、今日はやけに明るくないですか。手元がよく見える」

 

「そりゃ、遠くで火事が起こっとるからじゃ」

豊久が何気なく言う。

「少しは目も利くようになるやろ……ん?」

 

「……ん?」

信長と与一が同時に顔を上げる。

 

三人は、ぼんやりと羽をむしっていた手を止め、外を見る。

 

「……あの方向、エルフの村ですね」

与一が静かに言った。

 

「えるふ?」

豊久が首を傾げる。

 

「覚えておられませんか」

与一は穏やかに続ける。

「豊久殿を、ここまで運んでくれた方々ですよ」

 

「……ありゃ、ただの火事じゃねぇな」

信長の声が低くなる。

 

「そんなの、分かるんですか?」

ユウスケが問う。

 

「山火事なら、もっと広範囲に燃える」

信長は遠目に炎を見据えたまま言う。

「だが、燃えとるのは一点。しかも、消火の気配がねぇ。

……恐らくは——」

 

「ノブ、ユウスケ」

与一が遮る。

「豊久殿が、話している間に出ていきました」

 

「何だと?」

信長が振り返る。

 

すでに豊久の姿はなく、外へ向かう足音だけが遠ざかっていく。

 

「……すぐ追うぞ!」

信長が立ち上がる。

 

三人は急ぎ、豊久の後を追って駆け出した。

 

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