ドリフターズに迷い込むもの リメイク   作:四国の探索人

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第7話 妖怪 首置いてけ

豊久を追い、信長・与一・ユウスケの三人は森を駆けていた。

 

「二人とも、豊久殿に追いつきますよ!」

 

 与一が声を上げる。

 

 必死の追走の末、三人はようやく豊久の背中を捉えた。

 

「おい、豊久!」

 

 信長が怒鳴る。

 

「こちとらジジイだぞ! 速度を考えろ、速度!

 つーか若いの二人! お前らは走れよ! 原付寄越せ!」

 

「現代人にこの距離を全力疾走はきついですよ!」

 

 ユウスケが悲鳴を上げる。

 

「いやぁ、後ろに乗ると両手が空くので」

 

 与一は平然と言う。

 

「いつでも弓が撃てるんですよね」

 

「……クソ。これだから若いもんは」

 

 信長が舌打ちする。

 

「こちとら五十路だぞ」

 

「なんぞ、凄い音のする馬じゃな」

 

 豊久が振り返る。

 

「凄いだろ。未来の機械式荷車じゃ」

 

 信長が胸を張る。

 

 その時——

 

「おっ! おったあ!」

 

 豊久が前方を指差して叫んだ。

 

 その視線の先には、以前、豊久を運んだエルフの少年たち。

 

 そして、丸腰の少年を追い詰め、今にも斬りかかろうとする帝国兵の姿。

 

「くそ……この足じゃ間に合わん!」

 

 豊久が歯噛みする。

 

「なら、俺が貰う」

 

 信長は迷いなく短筒を構えた。

 

 ——ドン。

 

 火薬の力で放たれた鉄弾は、先頭の兵の頭を貫いた。

 

 指揮官だったのか、兵は何が起きたかも分からぬまま倒れる。

 

 突然の死に、後続の兵士たちは動きを止めた。

 

 誰が、何で殺されたのか、理解が追いついていない。

 

「ユウスケどの!」

 

 与一が叫ぶ。

 

「一秒でいい、ハンドルの向きを変えないでください!」

 

「上下に揺れてるのに弓を撃つって……!」

 

 だが、与一は構わない。

 

 弓を引き、放つ。

 

 矢は正確に兵を射抜いた。

 

「馬に比べれば、この程度の揺れは問題ありません」

 

(……これが、日本一の弓使い)

 

 ユウスケは戦慄する。

 

「ユウスケ殿! 正面! 正面です!」

 

 我に返った瞬間、目の前には兵士。

 

「やべっ!」

 

 回避は間に合わない。

 

 ユウスケは反射的にクラクションを鳴らす。

 

 ——プァン!

 

 だが、兵士は怯まない。

 

 そのまま突撃してきた。

 

 敵兵を一人轢いて原付は横転。

 

 ユウスケは地面に叩きつけられ、与一は身軽に宙を翻り着地する。

 

 他兵士が倒れたユウスケに刀を振り下ろそうとした——

「そこまでじゃ」

 

 豊久だった。

 

「お前たちの相手は、ここぞ」

 

 次の瞬間、横一閃。

 

 一人目が斬られ、

 味方の死に呆然としたまま、二人目も間髪入れずに斬り捨てられる。

 

 三人目の兵士だけが、ようやく恐怖を振り払い、剣を構えた。

 

 豊久の一撃を、辛うじて受け止める。

 

「……?」

 

 兵士は何か叫んだ。

 

 だが言葉は通じない。

 

「何を言っとる」

 

 豊久は詰め寄る。

 

「日本語を話せ。話せんのなら——死ね!」

 

 刀を合わせたまま、敵の言葉を最後まで聞き終えると、豊久は剣ごと、相手を断ち切った。

 

「……いくら日本刀でも、あんな切れ味なのか」

 

 ユウスケが呻く。

 

「いや」

 

 

 信長が答える。

 

「こいつらの剣を見よ」

 

 信長は死体から一本の剣を引き抜き、ユウスケに見せた。

 

「丁寧に鍛えられておらん。耐久性はあるが、切れ味は鈍い」

 

「軍隊ではあっても、後方待機の新兵だろう」

 

 そして、ちらりと豊久を見る。

 

「あとは、あやつの才だ」

 

「……つまり、敵は武器にも慣れていない」

 

 ユウスケが理解する。

 

「その通りじゃ」

 

 信長は頷いた。

 

「ただし——」

 

 横転した原付を見る。

 

「お前の原付は、人殺し向きではないな」

 

 

 

 再び突っ走っていく豊久の背を置いて、ユウスケは信長に引き留められた。

 

「お前はこっちだ」 

 

 言われるまま、ユウスケは麦畑へと向かう。

 

 信長は松明を投げ渡した。

 

「……食糧に火をつける理由って、なんですか」

 

 ユウスケは躊躇いながら尋ねる。

 

「この先を考えろ」

 

 信長は淡々と言った。

 

「兵を皆殺しにしても、村人は『ありがとう』で終わる。それじゃ足りん。これはエルフの村人を“巻き込む”策だ」

 

 ユウスケは唾を飲み込み、火を放った。

 

 乾いた麦は一瞬で燃え広がり、赤い炎が畑を呑み込む。

 

 熱と煙が立ち上り、夜を昼のように照らした。

 

「フハハ……やはり火は良いのう」

 

 信長は燃え盛る畑を眺め、どこか懐かしそうに笑った。

 

「伊勢長島を思い出すわ」

 

 ユウスケは拳を握りしめる。

 

「……豊久さん。後は、頼みます」

 

 燃え上がる畑を背に、彼は思った。

 

 今、この村を救える可能性があるとすれば——

 自分たちしかいない、と。

 

 突如燃え上がった麦畑に、兵士たちは完全に混乱した。

 

「誰だ!?」「誰が火をつけた!」

 

「収穫前だぞ!税が……!」

 

 誰もが顔色を失い、次の行動を決められずにいた。

 

 そのとき——

 

 炎の向こうを、疾走する影が横切った。

 

「……ドリフ?」

 

 アラムはそれを見逃さなかった。

 

 次の瞬間、煙の中から豊久が現れ、数人の兵士を一息に斬り伏せる。

 

 兵士たちは慌てて追おうとするが、豊久は煙と炎を利用し、

 

 稲妻のように現れては消え、斬っては姿をくらます。

 

 迷いはない。

 

 流れるような刀捌き。

 

 わずかな隙も見逃さず、炎の合間を縫って接近し、確実に斬る。

 

 一人が気付いた時には、もう遅い。

 

 次の瞬間、その身体は地に崩れ落ちていた。

 

 煙と火が支配する戦場で、豊久は誰よりも速く、誰よりも大胆だった。

 

 まるで、この混乱すら己のために用意されたかのように。

 

「ひとぉつ!」

「ふたぁつ!」

「みっいっつ!」

 

 数を数えながら、楽しげに斬り伏せていく姿は、あまりにも異様だった。

 

 兵士たちは理解した。

 

 ——これは人間ではない。

 

 恐怖が連鎖し、隊列は崩れる。

 

 指揮官の存在すら忘れ、兵士たちは我先に逃げ出した。

 

「逃げるな!殺すぞ!!」

 

 アラムの怒号も、もはや誰の耳にも届かない。

 

 豊久は逃げ惑う兵士の向こうに立つアラムを見据え、指を差す。

 

「大将首だろ?」

 

「なあ……お前、大将首だろ」

 

「首、置いてけ」

 

 そう言ってから、豊久は村の中を見渡した。

 

 無惨に殺された村民たち。

 

 怯え、蹲り、泣くことすらできない生存者たち。

 

 豊久の声が、冷え切る。

 

「……ようも、やってくれたのう」

 

「お前みたいな糞の首は、いらん」

 

 怒りと軽蔑が、その一言に凝縮されていた。

 

「これがドリフか?」

 

 アラムは苛立ちを隠さず吐き捨てる。

 

「何を言っている、蛮族め」

 

 その瞬間、二人の間に殺気が満ちた。

 

 ——命を賭けた戦いが、始まろうとしていた。

 

 一方、少し離れた場所で。

 

「……やった後に聞くのも何ですが」

 

 与一が静かに口を開く。

 

「本当によかったのですか、ノブ殿」

 

「おう」

 

 信長は即答した。

 

「尊厳がなくとも、飯があれば人は生きる」

 

「飯がなくとも、尊厳があれば人は耐える」

 

「だがな——」

 

 信長は炎を見る。

 

「両方失えば、人はどうでもよくなる」

 

「そして、なんでも頼る」

 

 ユウスケが不安を口にした。

 

「……村人、怒らないですか」

 

「焼けた畑は兵士共のせいにすればいい」

 

 信長は薄く笑う。

 

「国をかっぱらうには、一番簡単なやり方よ」

 

 その言葉には、戦を知り尽くした者だけが持つ確信があった。

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