ドリフターズに迷い込むもの リメイク   作:四国の探索人

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第8話 アラムの末路

 

村人たちは、これから始まるであろう二人の戦いを固唾を飲んで見守っていた。

 

村長の息子シャラも、その一人だった。

 

そこへ、森へ逃げていたマーシャとマルクが駆け寄ってくる。

 

「兄ちゃん!」

 

「マーシャ!? マルク!?」

 

シャラは目を見開いた。

 

「生きてたのか!」

 

「そこのドリフの人に助けられたんだ!」

 

マーシャが豊久を指差す。

 

シャラは豊久を見る。

 

「ドリフ……俺たちの味方なのか……?」

 

 

---

 

豊久は刀を抜き、肩に担いだ。

 

「さて、始めるか」

 

アラムは剣を構える。

 

「言葉も通じぬ蛮族め」

 

冷笑を浮かべる。

 

「来るがいい。言葉は分からずとも剣で語れる」

 

その時。

 

「気をつけろ!」

 

シャラが叫んだ。

 

「アラムは代官付きの本物の騎士武官だ!」

 

豊久は意味が分からないまま笑った。

 

「何言うとるか知らんが、忠告ありがとな!」

 

そして――

 

刀を投げた。

 

「なっ!?」

 

アラムの目が見開かれる。

 

飛来した刀を反射的に剣で弾く。

 

「他愛なし!」

 

アラムは笑った。

 

「剣の使い方も知らぬか蛮族!」

 

だが。

 

次の瞬間には豊久が目の前にいた。

 

「どっこいしょ」

 

体当たり。

 

アラムは地面に押し倒される。

 

「ぐっ!?」

 

馬乗りになった豊久は刀の鞘を掴んだ。

 

そして。

 

ゴッ。

 

ゴッ。

 

ゴッ。

 

ゴッ。

 

容赦なく顔面を殴り始める。

 

「ぎゃっ!」

 

「やめろ!」

 

「やめ――」

 

ゴッ。

 

ゴッ。

 

ゴッ。

 

 

---

 

少し離れた場所で。

 

信長が感心したように呟く。

 

「刀の鞘で組討甲冑術とはな」

 

ユウスケは顔を引き攣らせる。

 

「剣使わないんですね……」

 

「首が取れりゃ何でもいいんじゃ」

 

信長は笑う。

 

「斬って死のうが殴って死のうが結果は同じよ」

 

 

---

 

だが。

 

豊久はアラムを倒したまま動かない。

 

首を取ろうとしない。

 

「……?」

 

ユウスケは近付いた。

 

「豊久さん」

 

豊久が振り向く。

 

「なんじゃ」

 

「何で首を取らないんです?」

 

豊久はしばらく黙った。

 

そして。

 

「首は取る」

 

そう答える。

 

「だが、儂がやるべきでない」

 

 

---

 

豊久は立ち上がった。

 

落ちていた剣を拾う。

 

そして。

 

震えるシャラへ差し出した。

 

「ほれ」

 

シャラは困惑する。

 

豊久はアラムを指差した。

 

言葉は通じない。

 

だが。

 

意味は伝わった。

 

殺せ。

 

そう言っている。

 

 

---

 

シャラは首を横に振った。

 

無理だ。

 

騎士を殺すなど。

 

そんな事をすれば――

 

だが。

 

豊久は今度は村長の亡骸を指差した。

 

続いて。

 

殺された村人達を。

 

そして静かに言う。

 

「殺れ」

 

声は低かった。

 

だが力強い。

 

「殺らねばならぬ」

 

さらに続ける。

 

「ここがどこで、お前が誰か知らぬ」

 

「だが」

 

豊久は死者達を見る。

 

「その者達が仇を討てと言うておる」

 

 

---

 

シャラの手が震える。

 

剣も震える。

 

だが。

 

数秒後。

 

震えが止まった。

 

瞳に宿るのは恐怖ではない。

 

決意だった。

 

シャラは剣を握り締める。

 

その姿を見た周囲のエルフ達も動いた。

 

鍬を拾う。

 

兵士の剣を拾う。

 

農具を握る。

 

一人。

 

また一人。

 

アラムへ近付いていく。

 

 

---

 

アラムの顔色が変わった。

 

「やめろ!」

 

初めて恐怖が浮かぶ。

 

「私は代官付きの騎士だ!」

 

「オルテ帝国を敵に回す気か!」

 

誰も止まらない。

 

「やめろ!」

 

「待て!」

 

「命令だったんだ!」

 

声が裏返る。

 

「俺が悪かった!」

 

「助け――」

 

最後まで言えなかった。

 

 

---

 

復讐の刃が振り下ろされる。

 

一度。

 

二度。

 

三度。

 

やがて無数に。

 

 

---

 

誰も止めなかった。

 

 

---

 

豊久は静かにその様子を見届ける。

 

そして。

 

ようやく笑った。

 

「良か」

 

その一言に込められていたのは。

 

敵将を討った満足ではない。

 

自ら立ち上がった者達への称賛だった。

 

 

 

 

 

 

 ユウスケは、アラムだったものを見ながら呟いた。

 

「……指揮官が死んで、これで勝ったのか。」

 

「バーカ」

 

 即座に信長が返す。

 

「これで終わりゃ、ただの救済よ」

 

 信長は焼け落ちた麦畑を見る。

 

「『助けてくださりありがとうございました』で終わる」

 

 そして村を見渡した。

 

「数日後に領主の軍が来る。んで、こいつら皆殺しじゃ」

 

 ユウスケは言葉に詰まった。

 

「じゃあ……」

 

「巻き込むんだよ」

 

 与一が静かに続ける。

 

「仲間に引き込む……というより、巻き込む必要があると」

 

「おう」

 

 信長は満足そうに頷く。

 

「話が早ぇな」

 

 与一は周囲の死体を見る。

 

「逃げる兵も、ただ真っ直ぐ逃げるだけでしたからね」

 

「鴨より簡単でした」

 

「おっ、怖」

 

 ユウスケが思わず距離を取る。

 

「いや、それより」

 

 ユウスケは信長を見る。

 

「言葉も通じない相手に、どうやって話すつもりなんです?」

 

 信長はニヤリと笑った。

 

「それを今から見せてやる」

 

 そう言って歩き出す。

 

「ついてこい」

 

 

---

 

 信長は豊久の元へ向かった。

 

「よう! 豊久!」

 

 豊久が振り向く。

 

「お前ら……よくも一人でやらせたな」

 

 そう言いながらも笑っている。

 

「そして何じゃ。こちとら疲れとるぞ」

 

「そりゃ結構」

 

 信長が頷く。

 

「疲れてんなら座れ」

 

「特別に椅子を用意してやろう」

 

 与一とユウスケも便乗する。

 

「スワレヨー」

 

「スワレヨー」

 

「何じゃお前ら」

 

 豊久は呆れながらも近くの倒木に腰を下ろした。

 

 

---

 

 すると自然と構図が出来上がる。

 

 丸太に座る豊久。

 

 その周囲を囲む信長、与一、ユウスケ。

 

 そしてその周りには、恐る恐る近付いてくるエルフ達。

 

 言葉は分からない。

 

 だが分かることがある。

 

 アラム率いる兵士達を倒したのは、この四人だ。

 

 誰の目にも明らかだった。

 

 

---

 

 一人のエルフが前へ出る。

 

 震える声で何かを言った。

 

「ありがとう」

 

 もちろん言葉は通じない。

 

 だが意味は分かった。

 

 礼だ。

 

 それを見た別のエルフも頭を下げる。

 

「ありがとう」

 

「ありがとう」

 

「ありがとう」

 

 次々と感謝の言葉が重なっていく。

 

 豊久は困ったように頭を掻いた。

 

「何言うとるか全然分からん」

 

「だが、多分礼を言っとるな」

 

 信長は口元を歪める。

 

「そうだ」

 

 そして小さく呟いた。

 

「ここからじゃ」

 

 信長は何度か大きく拍手をした。

 

 パン、パン、パン。

 

 まだ興奮と混乱の冷めやらぬ村人達の視線が、一斉に信長へ集まる。

 

「よし」

 

 信長は周囲を見渡した。

 

 まずは燃え続ける麦畑を指差す。

 

 次に、地面に転がるアラムと兵士達の死体を指差した。

 

 そして最後に、エルフ達自身へ指を向ける。

 

 村人達は何を言いたいのか理解できず、戸惑う。

 

 すると信長は自らの首元に親指を当てた。

 

 そして。

 

 スッ――

 

 首を掻き切る仕草をする。

 

 村人達の顔色が変わった。

 

 言葉は通じない。

 

 だが意味は十分すぎるほど伝わる。

 

 お前達は兵士を殺した。

 

 畑も焼けた。

 

 もう後戻りはできない。

 

 次に来るのは報復だ。

 

 逃げるか。

 

 戦うか。

 

 選べ。

 

 そういう意味だった。

 

 ざわざわと村人達が話し始める。

 

 言葉は分からない。

 

 だが議論していることだけは誰の目にも明らかだった。

 

 信長はそれを確認すると満足そうに頷く。

 

「帰るぞ」

 

 突然そう言った。

 

 ユウスケが目を丸くする。

 

「え、もうですか?」

 

「おう」

 

 信長は振り返りもせず答える。

 

「明日の朝には結論が出る」

 

 豊久は疲れた様子で地面に座ったまま文句を言った。

 

「なんじゃそれは。儂は疲れとるぞ」

 

「うるせぇ」

 

 信長は即答する。

 

「だから帰るんだよ」

 

 そして原付を指差した。

 

「原付乗っていいから帰れ」

 

「おお」

 

 豊久の顔が少し明るくなる。

 

「乗ってよかか」

 

「よくねぇけど特別だ」

 

「何が特別じゃ」

 

 豊久が立ち上がる。

 

 その様子を見ていたユウスケは小さくため息を吐いた。

 

「なんか普通に馴染みましたね」

 

「順応力の化け物ですからね」

 

 与一が苦笑する。

 

 信長は最後にもう一度だけ村を振り返った。

 

 議論はまだ続いている。

 

 泣く者。

 

 怒る者。

 

 恐れる者。

 

 様々だった。

 

 だが一つだけ確かなことがある。

 

 彼らはもう、以前の村人ではいられない。

 

「行くぞ」

 

 そう言い残し、四人は村を後にした。

 

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