村人たちは、これから始まるであろう二人の戦いを固唾を飲んで見守っていた。
村長の息子シャラも、その一人だった。
そこへ、森へ逃げていたマーシャとマルクが駆け寄ってくる。
「兄ちゃん!」
「マーシャ!? マルク!?」
シャラは目を見開いた。
「生きてたのか!」
「そこのドリフの人に助けられたんだ!」
マーシャが豊久を指差す。
シャラは豊久を見る。
「ドリフ……俺たちの味方なのか……?」
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豊久は刀を抜き、肩に担いだ。
「さて、始めるか」
アラムは剣を構える。
「言葉も通じぬ蛮族め」
冷笑を浮かべる。
「来るがいい。言葉は分からずとも剣で語れる」
その時。
「気をつけろ!」
シャラが叫んだ。
「アラムは代官付きの本物の騎士武官だ!」
豊久は意味が分からないまま笑った。
「何言うとるか知らんが、忠告ありがとな!」
そして――
刀を投げた。
「なっ!?」
アラムの目が見開かれる。
飛来した刀を反射的に剣で弾く。
「他愛なし!」
アラムは笑った。
「剣の使い方も知らぬか蛮族!」
だが。
次の瞬間には豊久が目の前にいた。
「どっこいしょ」
体当たり。
アラムは地面に押し倒される。
「ぐっ!?」
馬乗りになった豊久は刀の鞘を掴んだ。
そして。
ゴッ。
ゴッ。
ゴッ。
ゴッ。
容赦なく顔面を殴り始める。
「ぎゃっ!」
「やめろ!」
「やめ――」
ゴッ。
ゴッ。
ゴッ。
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少し離れた場所で。
信長が感心したように呟く。
「刀の鞘で組討甲冑術とはな」
ユウスケは顔を引き攣らせる。
「剣使わないんですね……」
「首が取れりゃ何でもいいんじゃ」
信長は笑う。
「斬って死のうが殴って死のうが結果は同じよ」
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だが。
豊久はアラムを倒したまま動かない。
首を取ろうとしない。
「……?」
ユウスケは近付いた。
「豊久さん」
豊久が振り向く。
「なんじゃ」
「何で首を取らないんです?」
豊久はしばらく黙った。
そして。
「首は取る」
そう答える。
「だが、儂がやるべきでない」
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豊久は立ち上がった。
落ちていた剣を拾う。
そして。
震えるシャラへ差し出した。
「ほれ」
シャラは困惑する。
豊久はアラムを指差した。
言葉は通じない。
だが。
意味は伝わった。
殺せ。
そう言っている。
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シャラは首を横に振った。
無理だ。
騎士を殺すなど。
そんな事をすれば――
だが。
豊久は今度は村長の亡骸を指差した。
続いて。
殺された村人達を。
そして静かに言う。
「殺れ」
声は低かった。
だが力強い。
「殺らねばならぬ」
さらに続ける。
「ここがどこで、お前が誰か知らぬ」
「だが」
豊久は死者達を見る。
「その者達が仇を討てと言うておる」
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シャラの手が震える。
剣も震える。
だが。
数秒後。
震えが止まった。
瞳に宿るのは恐怖ではない。
決意だった。
シャラは剣を握り締める。
その姿を見た周囲のエルフ達も動いた。
鍬を拾う。
兵士の剣を拾う。
農具を握る。
一人。
また一人。
アラムへ近付いていく。
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アラムの顔色が変わった。
「やめろ!」
初めて恐怖が浮かぶ。
「私は代官付きの騎士だ!」
「オルテ帝国を敵に回す気か!」
誰も止まらない。
「やめろ!」
「待て!」
「命令だったんだ!」
声が裏返る。
「俺が悪かった!」
「助け――」
最後まで言えなかった。
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復讐の刃が振り下ろされる。
一度。
二度。
三度。
やがて無数に。
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誰も止めなかった。
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豊久は静かにその様子を見届ける。
そして。
ようやく笑った。
「良か」
その一言に込められていたのは。
敵将を討った満足ではない。
自ら立ち上がった者達への称賛だった。
ユウスケは、アラムだったものを見ながら呟いた。
「……指揮官が死んで、これで勝ったのか。」
「バーカ」
即座に信長が返す。
「これで終わりゃ、ただの救済よ」
信長は焼け落ちた麦畑を見る。
「『助けてくださりありがとうございました』で終わる」
そして村を見渡した。
「数日後に領主の軍が来る。んで、こいつら皆殺しじゃ」
ユウスケは言葉に詰まった。
「じゃあ……」
「巻き込むんだよ」
与一が静かに続ける。
「仲間に引き込む……というより、巻き込む必要があると」
「おう」
信長は満足そうに頷く。
「話が早ぇな」
与一は周囲の死体を見る。
「逃げる兵も、ただ真っ直ぐ逃げるだけでしたからね」
「鴨より簡単でした」
「おっ、怖」
ユウスケが思わず距離を取る。
「いや、それより」
ユウスケは信長を見る。
「言葉も通じない相手に、どうやって話すつもりなんです?」
信長はニヤリと笑った。
「それを今から見せてやる」
そう言って歩き出す。
「ついてこい」
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信長は豊久の元へ向かった。
「よう! 豊久!」
豊久が振り向く。
「お前ら……よくも一人でやらせたな」
そう言いながらも笑っている。
「そして何じゃ。こちとら疲れとるぞ」
「そりゃ結構」
信長が頷く。
「疲れてんなら座れ」
「特別に椅子を用意してやろう」
与一とユウスケも便乗する。
「スワレヨー」
「スワレヨー」
「何じゃお前ら」
豊久は呆れながらも近くの倒木に腰を下ろした。
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すると自然と構図が出来上がる。
丸太に座る豊久。
その周囲を囲む信長、与一、ユウスケ。
そしてその周りには、恐る恐る近付いてくるエルフ達。
言葉は分からない。
だが分かることがある。
アラム率いる兵士達を倒したのは、この四人だ。
誰の目にも明らかだった。
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一人のエルフが前へ出る。
震える声で何かを言った。
「ありがとう」
もちろん言葉は通じない。
だが意味は分かった。
礼だ。
それを見た別のエルフも頭を下げる。
「ありがとう」
「ありがとう」
「ありがとう」
次々と感謝の言葉が重なっていく。
豊久は困ったように頭を掻いた。
「何言うとるか全然分からん」
「だが、多分礼を言っとるな」
信長は口元を歪める。
「そうだ」
そして小さく呟いた。
「ここからじゃ」
信長は何度か大きく拍手をした。
パン、パン、パン。
まだ興奮と混乱の冷めやらぬ村人達の視線が、一斉に信長へ集まる。
「よし」
信長は周囲を見渡した。
まずは燃え続ける麦畑を指差す。
次に、地面に転がるアラムと兵士達の死体を指差した。
そして最後に、エルフ達自身へ指を向ける。
村人達は何を言いたいのか理解できず、戸惑う。
すると信長は自らの首元に親指を当てた。
そして。
スッ――
首を掻き切る仕草をする。
村人達の顔色が変わった。
言葉は通じない。
だが意味は十分すぎるほど伝わる。
お前達は兵士を殺した。
畑も焼けた。
もう後戻りはできない。
次に来るのは報復だ。
逃げるか。
戦うか。
選べ。
そういう意味だった。
ざわざわと村人達が話し始める。
言葉は分からない。
だが議論していることだけは誰の目にも明らかだった。
信長はそれを確認すると満足そうに頷く。
「帰るぞ」
突然そう言った。
ユウスケが目を丸くする。
「え、もうですか?」
「おう」
信長は振り返りもせず答える。
「明日の朝には結論が出る」
豊久は疲れた様子で地面に座ったまま文句を言った。
「なんじゃそれは。儂は疲れとるぞ」
「うるせぇ」
信長は即答する。
「だから帰るんだよ」
そして原付を指差した。
「原付乗っていいから帰れ」
「おお」
豊久の顔が少し明るくなる。
「乗ってよかか」
「よくねぇけど特別だ」
「何が特別じゃ」
豊久が立ち上がる。
その様子を見ていたユウスケは小さくため息を吐いた。
「なんか普通に馴染みましたね」
「順応力の化け物ですからね」
与一が苦笑する。
信長は最後にもう一度だけ村を振り返った。
議論はまだ続いている。
泣く者。
怒る者。
恐れる者。
様々だった。
だが一つだけ確かなことがある。
彼らはもう、以前の村人ではいられない。
「行くぞ」
そう言い残し、四人は村を後にした。