推しがルーラーで俺がマスターとか、聖杯ふざけてんのか   作:ジャンヌ可愛いよジャンヌ

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めっちゃ評価高くて笑える(震)。思いの外アクセス数が多いので少し注意。作者はにわかです。この作品はコメディです。面白おかしく読んでください。




第3話 ──聖女、現代を学ぶ

 

朝。
カーテンの隙間から射し込む陽光と、キッチンの方から聞こえる「チリチリ」という音で目を覚ます。
俺は寝ぼけ眼のまま、左手の甲を確認した後、ベッドの上で現実逃避を開始した。

――夢じゃなかった。

いや、決意こそしたものの、やはり夢であってほしかった。しかし、左手には今でも爛々と赤い紋様が光ってる。光りすぎだろこいつ。

嫌々身体を起こすと部屋の隅には、昨夜と同じように“聖女”が立っていた。


「おはようございます、マスター。朝食の準備ができました」

ジャンヌ・ダルクがエプロンをしていた。
……なんだこれ。天使か。
というかなんでキッチンからチリチリなんて音するんだ?

「……一応聞くけど、何作ったの?」


「目玉焼きとパン、そしてコーヒーです。祈りを捧げて焼き加減を調整しました」


「ごめん、祈りで焼くって何?」

テーブルの上には、絶妙に焦げたパンと、なぜか神聖な空気を纏ったコーヒーが並んでいた。
飲んだ瞬間、舌がちょっとしびれた。たぶん聖属性ダメージだ。苦味と合わさりちょっと美味しい。なぜなのか。

パンとコーヒーはまあいい。問題は白身と黄身が逆になった目玉焼きだ。どう考えても爆発している。


「……これ、普通にどうやって作った?」


「電子レンジです」


「レンジで目玉焼き焼いたの!?」


「文明の力は素晴らしいですね。まるで主の奇跡を見ているようです」


「主が聞いたらブチギレるぞ」

完全に現代文化に順応する気満々の聖女様。
ただし、方向性が少しおかしい。パンは祈って焼いたくせに卵はレンジに突っ込んだらしい。爆発しそうだったから殻を魔力で抑えたんだとか。
まず殻に入ったままでは目玉焼きにはならん。

ちなみに料理はそれなりに美味かったが、どれも舌がピリピリした。聖女パワーは伊達じゃないらしい。
でも推しの手料理ってだけで無限に食える。

* * *

食後、俺はリモコンを手に取ってテレビのニュースを確認した。
まだガス会社は被害を被っていないようだ。株主は今のうちに手放した方がいいかもしれんな。

どうでもいいことを考える俺を他所に、ジャンヌが先ほどからずっとそわそわしている。
どうしたのかと訊ねると、妙なことを言い出した。

「マスター。それが……昨夜から、私の魔力感知が常に“異常反応あり”の状態なのですが」


「……は?」

ジャンヌが指し示す方角――ほぼ全方向。おまけに俺も。


街のあちこちで、呪いのような魔力反応が微弱に点在しているらしい。

「この反応の数……少なく見積もっても二桁。ですが、どれもサーヴァントのものとは異質です」


「……うん、良かったよ全部サーヴァントのサーヴァント大対戦とかじゃなくて。聖杯大戦起こってないよな?」


「はい。ですから――これは聖杯そのものの影響でしょう」

聖杯の魔力が、街の至るところに“撒き散らされている”。
それだけならまだしも、俺自身がその中心――つまり“発信源”に近い。

「つまり俺、常時GPS追跡されてるようなもんか?」


「はい。……正確には、あなたがこの異常の中心地です。聖杯が、あなたを通して冬木に魔力を拡散しています」


「……俺、Wi-Fiルーターだった……?」


「わいふぁい?」


「ただの比喩だよ…もうやだこの世界!」

どうやら俺が冬木から出られなかった理由はこれらしい。
聖杯が俺を“監禁”していたのだ。
そのご都合主義的な俺の過剰魔力量を“便利そうだから”と勝手に利用し、さらに呪いめいた魔力を上乗せして押し付けてきた。

つまり、歩く電波塔。歩く汚染源。聖杯Wi-Fi。
死にたい。

「それでも、マスターが無事なのは……」


「俺の魔力がアホみたいに多いからだろ?」


「……はい。まるで、毒を砂糖水で薄めたような状態です」


「例えがやさしいのに悲壮感あるのなんで?」

そりゃあコップの水なら兎も角、池の水に毒を一滴垂らしたところで影響はないのかもしれないが。そういうことじゃないだろ。何してくれてんだマジで。ちょっと後味悪いかもなあ、とか思いながらも本当に何もしなかったのに。

理不尽にもほどがある。
しかもこのせいで、俺は“見つかりやすい”。
どんなに隠れようが、少しでも魔力感知できるサーヴァントなら俺を一瞬で察知できる。
ステルス性ゼロ。まごうことなきデコイ体質。

「……俺、戦争で真っ先に撃たれるタイプじゃん」


「大丈夫です、マスター。盾になります」


「頼もしいけど! 頼もしいけど違う!」

ジャンヌは穏やかに微笑む。
その光に一瞬で毒気を抜かれた俺は、それでも思わず頭を抱えた。

理不尽すぎる。
でも、可愛いから許す。

* * *

昼。
ジャンヌの“現代社会研修”として、近所のスーパーに行くことになった。

真昼から仕掛けてくるような陣営はいないだろうと踏んでいる。

見つかったら十中八九マスターだとバレるだろうけど。令呪剥き出しだし。そもそも聖杯の野郎のせいで俺が汚染物質撒き散らしてることになってるし。

なんだったら話が通じそうなら奴なら仕掛けてもらった方が都合がいい。今のジャンヌで負けるとは思えん。そもそも俺のサーヴァントはルーラーだぞ?監督役だぞ?…なんでそのルーラーにマスターがいるんですかね?

そういえば普通に朝ジャンヌも飯食ってたな。サーヴァントならいらないのでは?

…まあ可愛いからいいか。
もちろん霊体化できない(なんで?)から、普通に連れ歩く形だ。服は鎧だけ脱いだ状態で外出し、先ほど新しいものを購入した。

案の定ジャンヌは遠慮したが、推しを着飾るチャンスを見逃すはずもなく、これでもかと可愛い服を着せまくった。今はレティシア仕様の格好だ。


「マスター、あれが“バーゲン”というものですね」


「そうだな。あれに突っ込むと命が危ない」


「まるで戦場ですね」


「比喩の意味でな」

ジャンヌは物珍しげに陳列棚を眺め、野菜の前で立ち止まった。


「……マスター。この“キャベツ”というのは、どこか慈愛に満ちた形をしていますね」


「八十八円だな。神は慈悲深い」


「では、買いましょう」


「買うのかよ」

その後も、ペットボトルの水を見て「聖水ですか?」とか聞いてきた。そりゃ水道から流れる水との違いなんてわからんだろうが、間違いなく聖水ではない。


この人、平然と“聖女補正”で店員に話しかけるもんだから、通りすがりのオバサンが「教会の方?」って聞いてきた。
俺は即座に「ちょっと俗世に疎くて」と答えた。ちなみに彼女には間違えてくれなかった。恐れ多いからいいんだけどね?

代わりに学校をサボっていると思われ小言は言われた。こんな危ない街でまともに高校通うわけないだろ。留年しようがなんだろうが、死ななければ勝ちだ。

* * *

夜。

静かな住宅街を、二人で歩く。思いの外時間がかかった。
月明かりの中で、ジャンヌが立ち止まった。

「……マスター。先ほど最後のサーヴァントが召喚を終えたようです」


「マジで? もうフルメンバー?」

ってことは今日が運命の夜だったのか。あんま余裕ないじゃねえか。


「はい。そして……もう一つ。強大な気配を感じました」

ジャンヌの視線が、夜空を見上げる。
その先――冬木教会のあたり。

「“王”の気配です。……恐らく、英雄王と呼ばれる存在」


「……あー、ギルガメッシュね。最悪だ」


「確証はありません。ただ、あれは人の身では到底持ち得ぬ権威の気です」

「もうその分析が正解っぽくてイヤだよ……」

聖杯Wi-Fi発信源、接続先に慢心王。
理不尽界の通信網、完成。

もう絶対俺に気が付いてるだろこれ。

「……もうやだこの世界」

「けれど私は、少し嬉しいのです」


「なんで!?」


こんなにも前途多難なのに?俺が苦悩しているのが嬉しいと?

「こんなにも沢山の苦悩を抱えながら、あなたはこの数年間たった一人で生き残った。たとえそれが強制されたものだとしても、今こうしてあなたの隣にいられることが、私にとって――」


「ちょっとストップ」

「え」

勘弁してほしい。そんなこと言われたら泣いてしまう。なんだかんだ聖杯戦争に巻き込まれなくても、どこかで魔術師に見つかって死んでたであろうことが判明した今、余計に涙腺にくる。お前らも推しにこんなふうに全肯定されたらそう思うに決まって……

そういや推しなことバレてるんだった。というかコミケとか行ってたこととかも見たんだろうか。アレな薄い本を買ったことも?やばい、動揺しててどこまで見られたのかわからん。

「ああ無理だ、死ぬ」

「死なないでください⁉︎どうしたんですかいきなり⁉︎」

「メンタルブレイクする…よしよししてほしい」

「ええ⁉︎…えっと、よしよし?」

「ありがとうございます‼︎」

「やっぱり遊んでますねマスター⁉︎」

夜風が、彼女の金糸の髪を揺らした。
世界の理不尽に囲まれながら、俺は思う。

――多分、なんだかんだ言ってジャンヌがいる限り、俺は生き残るだろうと。

 

逆説的に言えば、ジャンヌがいなくなった瞬間、俺は死ぬ。
とんだヒモ野郎になってしまった。

 

 





聖杯くん「いいやつみーっけ。逃げられないように細工してやろ」
オリ主「こ◯すぞ」

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