ゾンビ世界のスローライフ物が好きだから、書いた。シリアスはなし 作:☆☆☆宮☆☆☆太郎
石を投げる。見えない壁にぶつかり、石は下へと落ちていく。
「おお、凄い!」
念のために言っておくと宇宙船に向かって石を投げつけている訳ではない。
その外側、60メートル先から、石を投げたのだ。
石は10メートル程進み、見えない壁に弾かれる。
これは宇宙船の機能、ではなく、先日助けた少年、音羽君が弾いてくれたバイオリンの効果だ。
「曲にもよるみたいですが、大体24時間程は効果が持つようです。」
「これなら枕を高くして寝れるね。君のおかげだありがとう!」
「へへっ、んんっ。いえ、このくらいどうってことないですよ」
無意識に頬を緩めていた音羽君だったが、それに気が付いたのか、表情筋を引き締める。
弟がいたらこんな感じなのだろうか?思わず頭を撫でそうになるが、彼と俺は協力者。対等な関係だ。気安く頭を撫でるなんて出来ない。
彼のおかげで、宇宙船の扉が開きっぱなしという問題も間接的にとはいえ解決したのだ。
俺がするべき行動は頭を撫でるのではなく、頭を下げて感謝を述べることだろう。
「いや、君のおかげだ。胸を張ってくれ」
「え、いえいえ、頭を上げてください。今僕が生きているの盆多さんのお陰なんですから!」
音羽君に促され、顔を上げると、彼は話を変えるためか早口で別の話題を振ってきた。頭を下げるべきだと考えたのだが、あの場面では下げない方が良かったのか?文明が崩壊した世界だというのに人付き合いは相も変わらず難しい。
「そういえば、フルートには植物の成長を促進する効果があるようです。…僕は少ししか吹けないので、フルートの力をちゃんとは引き出せないのですが」
「そうか、でもそれは君がいなければ分からなかったことだ」
「ひ、ひゃい、ありがとうございます。
あ、あの、姉なら。姉ならフルートを演奏できます。」
「お姉さん?」
「はい」
音羽君、お姉さんがいるなんて一言も…いや、俺が聞かなければいけなかったことだ。
きっと彼は自分を助けて貰った上に自分の家族まで助けて欲しいなんて言い出せなかったんだ。大人である俺が彼に気を配ってあげるべきだった。
「なら、お姉さん、いや君の家族を探しに行こう。」
「ありがとうございます。でも、姉以外は日本を離れているので会うのは難しいと思います。」
「そ、そうか」
□□□
お姉さんを探しに行った先で俺はとんでもないものを目撃してしまう。
ゾンビが成長しているのには気が付いていた。
だが、既にこの段階まで来ていたなんて…。
屈強な肉体、他のゾンビを寄せ付けない戦闘能力、高い知性。
某有名ゾンビゲームを少しとはいえやったことがある俺は直ぐにある言葉が脳裏を過る。
タイラント。
「ぬぉぉぉぉぉぉお!!!!」
雄叫びを上げながら、暴力の嵐をまき散らす。暴君と呼ぶに相応しい怪物だった。
不味い。音羽君のお姉さんは勿論、救出にきた俺たちも危険に晒されるかもしれない。
「お姉ちゃん!」
「なに!?」
「いました!お姉ちゃんが!お姉ちゃんが襲われてます!」
「何処に、何処にいる!」
「直ぐそこです。」
「そこじゃ分からん。指を指してくれ」
「あれです!」
タイラントだった。
いや、タイラントではない。決してない。音羽君が指を指したのは、ゾンビ相手に無双している武人のように勇ましい筋骨隆々の女性だった。
「た、助けよう!」
「はい!」
俺と音羽君は音羽君のお姉さんに群がるゾンビをトランペット銃で狙撃していく。
現代では見ることは無いだろう破壊エネルギーを持った光弾。
ゾンビの相手をしていたお姉さんもちらりとこちらに目を向けた。
「援護します。」
「かたじけない!」
ゾンビとの戦いは長く続いた。
具体的に言うと、お姉さんがゾンビを駆逐するまで続いた。
時間にして一時間と少しと言った所。俺と音羽君は大分息切れを起こしていたが、全線で戦い続けたお姉さんは何故だかケロッとしていた。
今は三人宇宙船の中にいる。
「この人は盆多さん。僕を助けてくれた人なんだ。」
「ほう。弟が迷惑をかけたな」
「い、いえ」
「こっちは僕の姉さん。チビで不細工な僕とは違って長身で美人!」
「音羽、そんな言い方は寄せ。お前の心根は誰よりも綺麗だ。」
「そもそも、音羽君は音羽君で美形ですしね」
音羽君が何故これ程までに自己肯定感が低いのかは分からないが、音羽くんは女の子と言っても通用するくらいに美形だ。
さらに言えば、ショタコンお姉さんと出会えばぱっくんちょされちゃいそうで心配だ。
音羽くんのお姉さんはお姉さんで肉体も含め、彫刻かと思うくらい美形なのは認めるが、音羽くんが自信を無くす理由はない。みんな違ってみんな良いだ。
「ふっ、ヒョロヒョロで不細工な男が弟と一緒にいるから心配したのだが、どうやら、心根は弟同様澄んでいるようだな」
「ぶ、」
不細工…。
イケメンではないが、街中を歩いてもモブAとして人混みに紛れられる程度、中の下から中の中くらいはあると思っているのだが…。
いや、まぁ、褒めてくれているようだし、素直に受け取っておこう。
「あ、ありがとうございます」
「いや、構わんよ。それでは飯にしよう。今日は世界が混沌に包まれて以降最も目出度い日。バーベキューだ。肉も野菜もある。」
「お姉ちゃんすっごい料理上手いんですよ?」
耳元で音羽くんが囁いてくる。囁く、という言葉通り、あまり大きな声ではなかった。その筈だが、お姉さんは耳ざとく音羽くんの言葉を聞き取っていた。
「ふっ、私を射止められたらいつでも作ってやるぞ?」
「そ、そうですか」
そもそも、バーベキューに料理の腕って関係あるんだろうか?
後、手作り感あふれる即席バーベキューキットは何処から調達したのか、色々疑問は尽きなかった。