ゾンビ世界のスローライフ物が好きだから、書いた。シリアスはなし   作:☆☆☆宮☆☆☆太郎

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姿を消せるマラカス

□□□

 

 目が覚めて、宇宙船の外に出てみたら一面の花畑と街路樹のように綺麗に立ち並ぶ樹木。昨日キャベツを収穫し、畑を休ませるために花を植えてみようという話はしたが、こんなに早く生えてくるなんて。

 それに、樹木。

 景観づくりと俺たちがここで生きた証として育てようと話し、一昨日植えた梅の木が立派に育っている。

 昨日は俺の腰程の高さも無かった筈だが、涼音さん、俺が見ていない間も懸命にフルートを奏でてくれていたのだろうか?

 

「ふっ、やはりか!」

 

 後ろから、涼音さんの心地の良い重低音が響く。

 

「涼音さん!ってどこ!?」

 

 声が聞こえるのだが、姿が見えない一体何処に?きょろきょろと辺りを見回して涼音さんの姿を探す。

 おかしい、涼音さんは長身で逞しい肉体をしているから近くにいたら、例え背後にいても気が付くはずなのに。

 

「お前の目の前にいるぞ。」

「え?」

「見えてはいないようだがな」

「それって」

 

 涼音さんの言葉に俺はある道具の存在を思い出す。

 昨日、生存者捜索に使える道具はないか、涼音さんと音羽くんの三人で探していた時のこと、うんともすんとも言わないものがある中で偶々手に取ったマラカス。それは鳴らすだけで効果を発揮してくれた。

 

『凄い!盆多さんの姿が見えません!』

『ほんとかい!』

『うむ、風景に溶け込んで揺らぎ一つない。』

『それならマラカスを持って探索に行けばゾンビに気づかれずに生存者を探せますね!』

『いや、』

『うむ』

『『音が五月蝿い』』

『え?』

 

 そう、マラカスには確かに姿を消す効果があったのだが、あくまでも効果はマラカスを鳴らしている間だけ、実用性は皆無だった。見えなくてもシャカシャカ鳴らしながら動いていたらゾンビに群がられること間違いなしだ。

 

 けれど、今の涼音さんからはマラカスの音がしない。昨日の検証ではどれだけやっても効果に変動は見られなかった筈。

 

「涼音さん。これはマラカスの力、であってますか?」

「うむ、そうだ。

 マラカスは不要と結論が出た後に一つ思いついたことがあってな。

 まだ起きていた音羽と二人で検証を進めていたんだ」

「そうだったんですね。でも思いついたことって一体」

「合奏だ。

 緻密で繊細な音の方が大きなエネルギーを生み出せるのなら、二つ以上の楽器を同時に奏でた場合はどうなるのかと思ってな。」

「なるほど。」

「結果は今の我の現状と目の前の畑だ」

 

 再度、畑へと目を向ける。まるで、宇宙船の周りだけ別の場所から切り取られたかのように牧歌的で美しい風景が広がっている。

 人間社会が崩壊し、ゾンビが闊歩する世界だとは到底信じられない。

 

「…凄いですね」

「ああ、今はまだ、具体的な方法は思いつかんが、もしかしたら合奏を通して世界を、人類を救える日が来るかもしれん」

 

 人類を救う。

 俺の頭にはそんな考えはなかった。父と母、後は今生きている生存者を救えればいい。

 その程度のことしか考えていなかった。

 涼音さんは凄い。

 頭がいいとか、身体能力が高いとか、じゃない。

 

 志が高いんだ。

 

 志が高いから、目的のために他の人の話をきちんと聞き入れ、自分の考えの起爆剤にしたり、そのまま素直に受け入れることが出来る。

 志が高いから、ストイックに自分を追い込み、今の肉体美を手に入れるに至ったんだ。

 

 それに比べて俺は。

 自分の体を見下ろす。少しふっくらしたお腹にもやしのような腕と足。全然運動していない人間特有のだらしない体。

 志の低さが如実に表れている。

 今まではそれでも良かった。仕事をして生活は出来ていたし、子供はおろか彼女もいなかったから、将来に向けて急いでお金を蓄える必要もない。

 なぁなぁで生きても誰にも後ろ指を指されることは無かった。俺なんて別にいてもいなくても変わらないんだから、高い志の下、頑張る必要もなかった。

 

 だけど、今は違うんじゃないか?

 この世界で他人に気を向けられるだけの余裕があるのは宇宙船と異星人の道具がある俺だけ。なら俺が頑張らないと、他の人がその分苦しい思いをするんじゃないか?

 

 ズシンと急に体が重くなった気がした。今まで気づかなかった人類の命運という責任感が体の力を奪っていく。

 

 肩に手を置かれる。

 

 俺の意識が生んだ幻影。今も苦しんでいる誰かの手、ではなかった。

 共に生活を営んできた涼音さんの武骨で大きな、優しい手だった。

 

「お前は、お前のままでいい」

 

 見透かされた気がして、顔色を窺うように涼音さんの方に視線を向ける。

 

「気づいていないかもしれんが、この緊急時にのみ発揮される類まれなる能力がお前にはある」

「類まれなる能力?」

 

 なんだろう。俺に出来ることは基本的には他の人も出来る。緊急時に突然頭が冴えることもない。

 トランペットにしても俺は演奏が出来る訳じゃなくて音を鳴らせるだけ、力仕事も小柄な音羽くんよりかは出来ることも多いが、俺の出来ることは大体の人が熟せることだ。

 他人より秀でている部分なんてあっただろうか?運の良さか?

 

「気づいていないようだな。」

「はい」

「それならそれでいい。」

「教えては、くれないんですか?」

「教えてもいいが、変に意識させてお前の長所が潰れてしまうのもな…」

 

 聞いてしまうと潰れてしまう長所。

 そんなものがあるのだろうか?イマイチピンと来ない。

 

「ふむ、言わなければ納得できんか…。」

「はい、すいません。」

「お前の長所、それはな平凡な優しさだよ」

「平凡な優しさ」

「そうだ。普通に優しい。

 だから、音羽はお前に懐いているし、我らの力になれるように努力している。ゾンビが溢れる前の世界では音羽はもっと大人しかった。自主性に欠けていた。

 変わったきっかけには、お前の存在もあっただろう」

「そう、ですかね」

 

 やはりイマイチピンとこない。

 優しいにしても、物語の主人公のように自分の命と引き換えに仲間を守るやつの方がカッコいいし、慕われるだろう。

 自己犠牲の精神というやつだ。少なくとも俺にはそれはない、と思う。普通に自分の命が滅茶苦茶大事で、胸を張って仲間のためならどんな危険も顧みないなんて口が裂けても言えない。

 

 普通、極々平凡。緊急時はなんか死んでるモブA。きっとそれが俺だ。

 涼音さんは俺を慰める為に頑張っていい所を探してくれたんだろう。

 

 けれど、それならそれでいいのかもしれない。

 折角慰めてくれているのにずっと落ち込んでいるのもなんだか悪い。

 それに、俺が緊急時に犠牲になるモブAだとしても、全員が生き残ってしまえば関係がない。

 そのための力が今の俺たちにはあるんだ。

 

「ありがとうございます。元気出てきました。」

「うむ、今後もお前の優しさに勇気づけられるものは必ず現れるだろう。」

 

 高い志はないけれど、近くの人をいっぱい助けた末に世界が救われる。

 そう考えると不思議としっくりときた。

 俺の役目はきっと身近の誰かを助けることで、凄い誰かに希望のバトンを渡すことなんだと思う。

 

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