【前世で一生懸命踠き回っていた君は転生する】 作:supiringa
この世界では、シビアな戦いが続いている。
お互いがお互いを傷付け合い、長きに渡る激しい消耗戦を繰り広げ、ついには誰かの屍とそれと共に流れる赤黒い鮮血が自分の足元に無数に転がり、広がっていく。それは自分の仲間だったり、敵の仲間だったりと有耶無耶な状態だ。
そんなことは普通じゃ到底有り得ないが、それはあくまで表の、カタギの世界での話。
常に命にも関わる程の危険と隣り合わせの私達が存在しているこの血生臭い世界裏社会では、日常茶飯事な出来事だ。
そんな日常の中で今日も私はいつも通りに黙々と任務を遂行していく――はずだった。
「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」
(私としたことが手こずった……)
今、私は文字通り死にかけている。理由は簡単。任務で少し手こずったからだ。……いや、これは最早少しどころではないのかもしれない。
大怪我の私は一か八か、このまま闇医者に突入すれば奇跡的に助かるかもしれない。だが、私はこの組織に入ってから10年以上の年月が経っている。故に、長年の感覚で何となく分かる。
――私はもう、助からないということを。
といっても、ターゲットはしっかり始末したし、他に敵の仲間がくる可能性を考えて僅かに残った体力を駆使しながら必死に警戒していたが、一向にその可能性が現れない。
なので、せめて動けなくなる前に敵から出来るだけ離れるべく、何もない安全なところに木や地面などを使って激痛に耐えながら進んでいく。
「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」
(なんとか安全な場所へ行かないと……早く……体が持たなくなる前に……)
黙々と歩き続けて5分ぐらい経った頃――
「……あっ」
頭からの出血とその他の無数の傷による大量出血のせいで意識が混濁してきている中、赤く染まりかけている目が捉えられる限りでやっと大きい木がある広い地に出た。
「やっと……見つかっ…た……」
それと同時だった。私はその大きい木にもたれ掛かるようにして仰向けに大の字で倒れた。
(体が重い……)
痛みがどんどん無くなっていく。これまで感じたことがなかった“死“へのカウントダウンが、始まっていく。
それからおよそ5〜10分ぐらい経過した時、組織の仲間達が到着した。大方、私が任務に行って最後の連絡をしたきり音信不通となったので何事かと思い、後処理部隊と共に様子を見に来させたって所だろう。
(でも良かった。敵は始末したし、増援が来る様子もない。この調子でいけば、あとは事後報告とかの諸々処理だけで終わるだろう……)
本気で死にかけている状態でいつものように冷静に考えを巡らせていた、その時だった。
ガサガサッ
「……!」
近くの茂みの方から何やら音がした。
(何だ? 何かがこっちに向かって来ているような気配が……まさか、敵か……)
まさかの敵かと思い、動かない体で警戒する……が。
ガサガサッ!
(近い……増援か? ……いや、違う。敵じゃない。もしそうなら近くにいる組織が見逃す筈がない。むしろ馴染みのある気配が2つ。もしかして、これは……)
「流・? 鈴・?」
私が小さくそう呟いた瞬間――
バサッ!
遂に茂みの音の正体が判明する。
「「優っっっ!!!」」
「あ……やっぱり・・・・、2人・・か」
その正体は組織の仲間2人だった。
「大丈夫か、優!……っ!」
「酷い……なんて傷なの……優! お願い、しっかりして!」
「2人……と、も……」
「動かないで、すぐ止血するから……!」
「しっかり意識保っとけよ……!」
そう言って流は私を抱き抱え、その間に鈴が私の傷を手当てする。緊急なので服越しでの包帯だが、それでもきつめに締め上げてくれているので止血するには十分だった。こうして数分もせずに私は、ほぼ全身ぐるぐるの包帯巻きになった。
……こうして止血した結果、出血こそは止まったが、残念なことに私はもうすぐに息絶えるだろう。出血してから恐らく、30分近くが経とうとしている。自分で止血もしていたが、無理だった。何より、血を流し過ぎた。
あれだけの傷と出血量だ。止血だけでどうにかなるものじゃなかった。不幸にも、偶々私の所持品に救急箱がなかったこともあって、もうどうしようもなかった。
なので、息絶える前に残しておかなければ。私の仲間達に、遺言を……
――私はあの後、静かに息を引き取った。もう体力の限界が近かった事もあってか、言い終わった後は結構あっさり逝ったと思う。
遺言を言っている最中に呂律が回らなかったり、声が小さかったりして上手く話せなかった所もあっただろうけど、ちゃんと伝わってくれただろうか? ……伝わってくれてると有難い。
さてと、私はもう死んだ。現世で大勢の人間を殺した私が行く先はきっと地獄だろう。
……残してきた仲間達や教官、ボス達には本当に申し訳ない。親不孝なことをしてしまった。みんなもそうだけど、特にあの人・・・は根が優しい人だからきっとまた泣かせてしまうんだろうな。
今までの戦いで死んでいった仲間達にも、何度も何度も謝りながら一日中大泣きしていたから。
でも、大丈夫。みんなならきっと立ち直って、もっと強くなって、私や先に死んでいった仲間達の想いを、意思を繋いでくれると思うから。
その思いを胸に、私の人生は幕を閉じ、暗闇の中に消えていった――
(何だろう。何だかふわふわする。まるで浮いているみたいだ……)
私は不思議な浮遊感に身を委ねながら、不意にそっと目を開ける。
「……?」
目を開けてみれば、そこは暗闇一色の世界だった。
……地獄ってなんだかこう、延々と燃えていて熱いような、そんな空間だと思っていたのだが。もしかして、ここが地獄なのか?
「本当に何もない……って、あれ。体が全然痛くない」
(傷が全部治ってる……死んだからか)
なんと、傷も治っていたのだ。これはまぁ少しラッキーだった。地獄に行ってもなお、傷と痛みがあったままじゃあ流石に厳しい。
そんなふうにボーッと考えながらいると、せっかくなので少し探索してみようと思った。
(……右と左、それからその周辺も行ってみるか)
そうして立ち上がり悠々と、しかし視界がはっきりしない分、ゆっくりと私は歩みを進めた。それを10分くらい続けた。
(本当に何もないな。どこに行っても暗闇一色だ。それに、門番らしき人もいないし……迷ったか?)
そう思い、困っていると――
ピカァァ
「……!」
暗闇に一筋の光が宿った。私は驚いて後ろを振り返ると、その光は私の立ち位置から真っ直ぐに指していて道標となっていた。……まるで、私を光の中に誘っているみたいに……
「……」
私はその光をじっと見ていたら、まるで吸い寄せられたかのような吸引力と共に足が勝手に動くのを感じた。そして、気付けば。
――その光の中に入って消えていた。
不思議な気分だった。なんだか気持ちがいい。まるでさっきの浮遊感みたいな感じだ。
それにしてもさっきの光は何だったんだろうか。不思議と嫌な気配も怪しい気配もしなかった。どっちかと言えば、むしろ懐かしいような感じだった。
……これから私は地獄に行こうとしているのに、我ながら何を考えているんだか。
「――――――――!」
あれ、なんだか声が聞こえる。
「――――――――――――!」
流と鈴達の声? まさか、あの状態で生きていた? いや、そんなわけ無いか。だとしたら幻聴……? いやそれもまた違うと思う。だって妙に現実感があるし。
じゃあ、これは誰の声? 声的に女の人っぽいけど……声がどもっててよく聞き取れない。
「――――――――――――――――!」
あっ……声が近くなった。もう少しで聞こえそう。ってあれ、なんか起きそうだぞ。
ピカァッッ!
そこで光が指した。多分さっきよりも強い光だったと思う。今度はその光が私の全身を包み込むように降り注いでいった。
(ん、何だか眩しい……それにここ、どこだ? 目を開けてみよう……)パチリ
そうしてゆっくりと目を開けた、次の瞬間。
「あっ! 起きたー?」
(……は?)
私は、“転生“をしていた……