【前世で一生懸命踠き回っていた君は転生する】   作:supiringa

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第2話

 

私の名前は瀧口優香。黙々と鍛錬を重ねて任務を遂行し、トップアサシンとして上り詰めていた暗殺者の女だ。

 

生まれ変わりの生活を始めてからというもの、なんだか毎日が新鮮だと感じる。今まで殺ししかやってこなかったから、思わぬ形で手に入ったこの普通の生活が普通よりもキラキラしている。まさに、普通の筈なのに普通じゃないという感じだ。

 

今世では弟と妹もいるので、三つ子として生まれた中で私は自然と一番上の姉となった訳だが、特にこれと言ったことはしていない。まずはこの生活に慣れることを第一としているので、“姉として”という役目は後回し、またはさり気ない感じでいいだろうと思っている。

 

ソファで疲れ果ててすっかり深い夢の世界へと落ちているミヤコさんを一瞥した後、明るく盛り上がる気配のするテレビの前に集まる約2名のちびっ子集団を見つめる。

 

「……♪」

 

「くかぁ……」

 

ただ、ルビーはまだ眠っている模様。テレビの前に集まっている2人でもうお分かりだろうが、これはアイさんの復帰でやる生放送の歌番組。やはりリアルタイムで見たいのだろうか。

 

――だが、知っている。放送が始まりそうな今の時間から少し前、ミヤコさんの目を盗んでちゃっかり同じ番組を録画していたことを。

 

それを見る限り、アクアはかなりアイさんのことが好きだということが伺える。今だってリモコン持って嬉しそうにニマニマさせながら待機している。

 

 

――なので、少し気になった私は聞いてみた。何故そんなに夢中になれるのかと。

 

「ん? そりゃ、歌が上手いだろ? 完璧なパフォーマンスだろ? まるで無敵に思える言動もそうだし、あとは何より顔が良いところとかさぁ〜」

 

惚れ惚れするように何かを噛み締めたような顔で話してくる。それほどまでに好きなのだろう。溢れる感情を必死で抑えている様子と合致する。

 

「逆に姉ちゃんはアイのライブ観たことないのか?」

 

「ない。テレビで偶に見かける程度だったし」

 

「た、偶に見かける程度……」

 

「別にテレビは個人的にゆっくり観ないから」

 

アクアは一瞬ショックそうな顔をするが、すぐに補足。こんなにいつでも蒸気機関車みたいに熱く語れるほど推しているなら、万が一誰かがアイさんのことを悪く言った場合、その人間はアクアと今は寝ているルビーの2人に即刻処刑される運命かもしれない。

 

「まぁ兎も角、一度このライブを観てみろよ。姉ちゃんも絶対ハマると思うから!」

 

「分かった」

 

完璧なパフォーマンスにまるで無敵に思える言動……ね。

 

私はそれを聞いてみて、推す気持ちってそういうものなのかと思った。

 

こうして当たり前のように喋っているが、私達2人は特に驚くことはない。この事実が判明したのは割と早かった。

 

 

それは、夜中になっても中々寝付けないので仕方なく起きてみようとリビングに来た時のことだった。

 

何やら向こう側の部屋が騒がしかったことに気付いた。部屋にいた時は確か隣にアクアとアイさんが寝ていたので、その時にいなかったもう一人の住民が犯人だと思ったのだ。

 

それにしても、赤ん坊が夜中に起きるのは夜泣きとかでよくあるよな。大体はその場で泣いて周りを起こし、世話をして貰う印象があるが寝室を離れている辺りどうも気になる。

 

部屋に着いた私はこっそり様子を伺うことにしたが、そこで驚きの光景を目の当たりにすることになる。

 

「はぁ!? 死ねよ! ママの才能と美を理解しない猿人類がッ!! パフォーマンスの質で格の違いとか明らかでしょッッ!!?」

 

……罵詈雑言、それはありとあらゆる形で口汚く誰かを罵り倒すこと。そう、目の前にいるこの金髪の赤ん坊みたいに。

 

というか、よく「才能と美を理解しない猿人類」などという赤ん坊には難しい言葉をスラスラと言えるものだ。

 

(……おや)

 

半目になって荒ぶる今世の妹を眺めていると、背後から気配がする。これは――弟の気配だ。

 

「……アクア?」

 

振り返らないまま名前を呼ばれたことで驚いたのか、一瞬だけ気配が揺らぐ。その後、ゆっくりとこちらにやってきた。

 

「……よく俺だって分かったな」

 

「何となく」

 

少し驚いたような顔をしているアクアを余所にルビーを見つめ続ける。

 

「ぐぬぬ……ママの悪口ばっか言いやがってこの野郎ぉ……」

 

段々と口が悪くなっていく妹。それを見たアクアが話し掛ける。

 

「お前、もしかして俺と同じか?」

 

「えっ……」

 

レスバに熱中してたとはいえ、流石に夜中に自分以外の声が聞こえてきたことに驚いたのか後ろを振り返る。

 

「赤ん坊が喋ってる!? きんも〜ッッ!!?」

 

「お前もだろ」

 

ブーメランにも程がある。君も喋っているではないか。流暢にあんな対抗台詞を吐き捨てるくらいに。

 

「ん? 姉ちゃんもちょっと喋ってたけど、もしかして同じなのか?」

 

「そうだけど」

 

「あっ、お姉ちゃんも!? やったー、一緒に喋れる仲間だ〜!」

 

「俺の時と反応全然違くないか……?」

 

こんな感じで誰にも言えない秘密を三つ子全員で分かち合う事となった。

 

生まれてきた子供全員がまさかの前世の記憶持ちの異端児だという事実。しかも一人は元暗殺者。当然だが、アイさんは勿論、社長達もこの事は絶対に知らないし分からないだろう。まず転生というもの自体が不思議な出来事なのだから。

 

勿論だが、私は100%自分から望んで「転生したいです」っと言ってこうなった訳ではない。アクア達はどうかは知らんが私の場合これは確かである。故に不可抗力だ。どうしようもない。

 

子供が生まれるなら当然記憶のない普通の子がいいんだろうが、既に叶わぬ夢。受け入れるしかあるまい。

 

 

そんな訳でアクアに言われたのもあり、私はこれからアイさんの復帰番組を観ていくところだ。

 

「くかぁ〜、くかぁ〜」

 

(まだ寝てる)

 

もうすぐに番組が始まろうとしているのだが、熱狂的とも言える崇拝心も流石に赤子の体の耐性には敵わないらしく、今は睡魔のみに支配されているようだ。

 

仕方がない、起こしてみよう。そう考えた私は仰向けで気持ち良さそうに眠る妹に近付いた。

 

「ルビー、起きて」

 

軽く肩に手を当てて揺さぶると、もぞもぞと動く。

 

「んーぐぅ……」

 

「起きて」

 

「ん……もうちょっとぉ……」

 

「起こさなくてもいいんじゃないか? 赤ん坊の体は特に眠くなると思うから、そのまま寝かせとけよ」

 

眠そうな声でそう言うのでどうしたもんかと思っていると、アクアがそう言ってきた。

 

そういえば、始まる前からアクアとルビーが揃ってアイさんの魅力を語っていた。元々2人は前世の頃からアイさんのファンらしく、今世でそのファンの子供として生まれ変われて相当嬉しかったとも語っていた。

 

何より推しの魅力を語る時の二人の熱量は、普段アイさん本人の前にいる時の静けさが嘘のように凄かった。それぐらい好きなんだろう。内に秘める情熱がそれを物語っている。

 

今世に生まれ変わってからというもの、自分の母親がアイドルの仕事をしているのは既に情報収集で知っていたが、その仕事振りまではまだ知らない。この復帰番組でその一面を拝見することができれば、今世での周りの人間の情報をもう少し詳しく把握することができるので色々と好都合。

 

なので、赤ん坊の体にとっては相棒とも言える哺乳瓶を口に付けながら観ることにした。

 

『――あっ、ご飯といえばこの間うちの子がね?』

 

『うちの子?』

 

「ブフォッッ!?」

 

「……」

 

テレビに映るアイさんの発言に哺乳瓶のミルクを飲んでいたアクアは勢いよく吹き、私は無言で変わらずに吸い付きながら「あら」と思って観ていた。

 

「ゲホゲホッ!」

 

「大丈夫?」

 

「な、なんとか……ゴホッゴホッ!」

 

「大丈夫じゃないね」

 

気管に入り掛かっているアクアの背中をトントンして摩りながら続きを見る。

 

『うちの子っていうのは休養中に飼い始めた子猫のことなんですけど――』

 

『あー、子猫ですか! 可愛いですよね〜!』

 

『肉球とかぷにぷにしてて〜!』

 

うちの子=子猫という設定でなんとかその場を乗り切れたのが幸いだった。私も一瞬だけ目を細めたが、正直この危機は予想通りではあった。

 

この番組は生放送なのでカットができない。カメラに写っているそのままの状態でテレビに放送される。故にこの発言も観ている視聴者全員が聞いているという事になる。

 

その状況下でこれは完全に彼女の適応力のお陰だと思うので期待しておいて正解ではあっただろう。

 

「今の発言マジで危なかったな……」

 

「うん。子猫の設定で乗り越えたから良かったけど」

 

冷や冷やした様子でテレビを見つめるアクアが軽く胸を叩いた。

 

「これの後にライブ始まるの?」

 

「ああ。Mステは大体軽くトークしてからライブするからな」

 

「なるほど」

 

トークが盛り上がったところで出番が舞い降り、待機に動くB小町グループを見て私はもう一度後ろの妹を見る。今度こそ起こして観させておこうと思う。

 

「ルビー、そろそろ起きて」

 

「んまぁ〜……」

 

やはり眠気に敵わない様子なので最近覚えた技を一つ使うことにした。

 

「――アイさんの生放送、始まるよ」

 

「……はっ! な、生放送っ……!!」

 

瞬間、その言葉に聴覚が刺激されたルビーの意識は覚醒し、目をカッと見開かせて勢いよく起き上がる。

 

「番組! ま、まだ始まってないよね!?」

 

「うん」

 

指を差しながらまだ出番前ということを知らせると、ルビーが顔をキラキラ輝かせて私の手を握ってきた。

 

「ありがとうお姉ちゃん! この恩は一生忘れないからね!」ダダダッ!

 

「これ恩なの?」

 

満面の笑顔で感謝した後、速攻で移動してアクアの隣でスタンバイする。

 

「意外と起きるの遅かったな」

 

「この体は無駄に眠いからどうしてもね。ていうかお兄ちゃんも無駄に眠気が多いのは分かってるんだから起こしてよ!」

 

「俺は起こしたぞ」

 

「え? マジ?」

 

「ああ。姉ちゃんも一回起こしてるけどその時は起きなかったし、俺も一回だけ起こしたけどそれでも起きなかった」

 

「……てことはお姉ちゃんが起こしてきたのって2回目?」

 

「そういうこと」

 

「うわぁ〜、お姉ちゃんごめ〜ん!」

 

「別に」

 

目を潤ませながら申し訳無さそうに手を合わせて謝ってくるルビーにそう言葉を返して隣に座る。……そしてアクアよ。平気で話しているようだが、嘘をつくでない。君はスタンバイだけして最早起こす気もなかっただろう。

 

「まあでも最終的にお姉ちゃんが起こしてくれたから何とか間に合ったけど〜!」

 

「良かったな。姉ちゃんに感謝しろよ」

 

「勿論!」

 

3人のちびっ子集団がテレビの前に並んで出番を待っていた。

 

「あっ、始まるよ!」

 

テレビにはステージの上で構えのポーズをしながら待機している7人のB小町グループ。曲が掛かり次第始まるようだ。

 

(――さて、お手並み拝見といこうか)

 

私は今世の赤い瞳に宿る星を静かに光らせる。数秒した時、遂にそれは始まった。

 

♪〜「サインはB」〜♪

 

「「……!!」」

 

「……」

 

曲が掛かった途端、物凄い勢いで始まった。照明のお陰もあって全体的にキラキラしている。開始から数分も経つと、少し異変が起きる。

 

――何故かテレビから少し目が離せなくなっていた。同時に感じるこの違和感。殺し以外でこんな感覚になったのは今までの記憶を以ってしても恐らく初めてのもの。

 

……眩しい。目に見える景色の全てが、あまりにも眩し過ぎる。クラクラと目眩がしてきそうなくらいに。

 

(……どんどん惹かれていく)

 

気付けば、アイさんが動く度に目で追ってしまっている自分がいる。自然と吸い付かれ、引き込まれるような……引力に満ちた光景。

 

何より、この人には何か大事なものを持っている気がしてならない。

 

始まる前にアクアが言っていたパフォーマンスの良さ? 歌の上手さ? 無敵に思える言動? それもあるだろうが、それだけじゃない気がする。

 

他にも何か理由が――

 

ア・ナ・タのアイドル〜、サインはB!(チュッ)

 

アイさんがカメラに向かってウインクをする。私はその瞳を見ただけで直感的に段々と惹き寄せられるこの違和感(・・・)の正体が分かってきた気がした。

 

――この人は輝いている。太陽のように眩しい笑顔、そして、まるで吸い寄せられるような何処までも光り輝くあの瞳で。

 

それに加えて人を惹きつけるようなあのカリスマ性、立ち振る舞い。それでいてあの綺麗な容姿。その姿はまるで狙った獲物を骨まで残さず喰らい尽くす猛獣そのもので、闇一色の世界で佇んでいた私とはまさに正反対の存在( 輝き)

 

……ふ、この笑顔の小悪魔め。そのポテンシャル(天性の才)という武器を最大限に使ってファンの心を次々と鷲掴みにし、今も尚上り詰めているとは。良い度胸と性格をしている。

 

(こりゃ、グループのセンターってのも納得だな)

 

少しだけ面白いものが見れた所で私は静かに立ち上がる。

 

(それにしてもこの体はやけに眠気が多い)

 

アクアとルビーはライブに夢中で気付いていない様子なのでこの隙に少し先に休ませて貰うとしよう。寝室に足を進めるが、その時も一応後ろのテレビに視線を移す。すると、丁度歌が終わって決めポーズをした瞬間がそこに映っていた。

 

「うぉぉぉぉー! アイぃぃぃぃぃー!!」

 

「いやぁぁぁー! もうママ可愛い過ぎるぅぅぅ〜!! 何これ天使過ぎるよぉぉーー!!」

 

アクアとルビーがキャラ崩壊の勢いで歓声を上げている。あまり大きい声を出すとミヤコさんが起きてしまう可能性を考えていたが、どうやら溜まった疲労で意識は深い夢の中らしく全く心配は無さそうだ。

 

(それにしても、星野アイ……貴女の仕事振りは確かにこの目で確かめさせて貰った)

 

貴女はどうやら相当なアイドルのようだ。他の者とは最早比べ物にならないほどに。

 

(んー、やはり眠い。今日は早く眠ることにしよう)

 

軽く欠伸をしながら私はテレビから寝室に視線を向けて足を進めた。

 

 

 

 

 

 

それから眠りについた私は翌朝に目を覚ました。窓に掛かるカーテンの隙間から漏れる光具合から今は早朝。隣にはぐっすりと眠るアクアとルビー、そして寝かしつけをしていたであろうミヤコさんがいた。

 

(アイさんと社長さんはまだ帰ってきていないか)

 

すっかり静かになった空間で一人布団から起き上がる。

 

アクアもルビーも恐らく昨晩の生放送で盛り上がり過ぎて疲れて眠ったのだろう。眠りが深い。

 

私はというと早めに寝たからか少しだけ体力が戻ってきたので取り敢えず立ち上がって寝室から抜け出し、リビングのソファまで来た所でとあることをしようと思った。

 

――それは、前世の能力確認。人の気配を読む力などの基本的な能力は既に可能だと確認済み。

 

(視力でも試そうか)

 

私の視力は最低でも2.0だった。何気に組織内では「生きる望遠鏡」と言われていた覚えがある。お試ししてこの前の能力達が今世でも使えれば今後も何かと役に立ってくれる筈。

 

早速ベランダの窓の前まで歩き、カーテンを軽く捲って隙間に侵入。小さい手で窓にペタッと触れると、目の前にはガラス越しに明るくなり始めている外の風景が並んでいた。赤ん坊ということと今世初の試しということであまり目に負担が生じないように気を付ける。

 

「じぃー……」

 

赤い目を少し細めて外を見ると、写真のピントがはっきりと合うように視界が綺麗に映る。そこから更に奥を見つめ、ズームするように見ると丁度建築途中と思われる建物の姿を捉えることに見事成功。

 

終わった後に視線を戻すが特に痛みもなく影響もない。初めての試しはどうやら成功を収めたようだ。

 

他の些細なものは日常生活を通じて異常なし。普通の人間よりも動きは早い。あとは今世でのこの体を単純に鍛え、基礎体力を上げていけば能力も早く取り戻せる。成長して鍛えられるようになれば瞬発力や反射神経も鍛えていく。今の見解としては本格的な基礎体力向上鍛錬はこの体が少し成長するのを待ってからにしようと思う。それまでは今できる能力を駆使して様子を見る。

 

 

――新しい人生に新しい生活、そして新しい自分……何だか未だに不思議な気分のままで本当に転生したのかと疑ってしまうほどだ。

 

だが、生まれ変わったならばあとはこの生活に慣れるだけだと思っているので戸惑いなどは感じない。このままゆっくりと過ごしていこうと思う。

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