傭兵による暗殺教室 作:ヌルヌルnull
『……以上があなたに依頼する仕事となります、コードネーム【Fox】』
足元に転がる亡骸達の処分方法を考えながら、電話の相手――日本の防衛省だったか――の言葉に耳を傾ける。
「んー、内容は理解しましたが、俺は暗殺は専門外ですよ。傭兵よりも暗殺者に依頼した方がいいんじゃないですか?」
『……過去に何度も手練れの暗殺者が挑んでいますが、いずれも返り討ちにされています。傷1つ与えられず、ピカピカに手入れされて帰ってくるのです』
ピカピカに手入れ……よくわからないが、まぁ相当な強敵であるということだけは伝わった。これで日本の、しかも中学の教師がターゲットというのだから驚きだ。何をしでかしたのか知らないが国が殺しを依頼するほどの相手、少し興味が湧いてきた。
「ターゲットの具体情報を教えていただけますか」
『申し訳ありませんが国家機密のため、今この場でお伝えすることはできません。あなたがこの仕事を引き受けていただけるのであれば詳細をお伝えさせていただきます』
「なるほどねぇ……」
『成功報酬は100億。希望次第では前金も支払わせていただきます。引き受けていただけますか?』
100億も前金も興味ないが、幾人もの暗殺者を返り討ちにしたというターゲットには興味がある。それに暗殺をする機会なんかめったにない、よい経験になるだろう。
「俺でよければ引き受けましょう。ただし条件が2つ。1つ目が仕事の時期。他にもいくつか仕事があるので、それらが終わる5月末頃から仕事開始とさせてください。2つ目が住処。生憎日本に家を持っていないので、仕事開始までに用意していただきたい。場所はどこでもいいですが、えーと椚ヶ丘中学校でしたっけ、その近くだとありがたいですね。あと射撃場も付けておいてください」
暗殺に長々と時間をかけるつもりはないが、いい機会だ、今後のために日本にも拠点を持っておこう。
『わかりました。あなたが暗殺に参加するのは5月末から、家についてはできる限りの対応はさせていただきます』
「では契約成立ということで。あ、前金とか不要なんで」
『後日詳しい仕事の内容等についてご説明させていただきます。では』
さてさて、新しい仕事の契約をできたのはいいとして、まずは今の仕事の後片付けだな。まぁターゲットの首さえ持って行きゃ後は何でもいいか。取り巻きの処遇には何も言われてないし、燃やしとけばいいだろう。この手に限る。
「防衛省の烏間だ。E組の副担任をしている。よろしく頼む」
「えぇ、こちらこそ。柊真白です。ご存じかと思いますが傭兵をやってます。よろしくお願いします。あんまり長居するつもりはないですがね」
あれからいろいろ仕事を片付けて日本に上陸、防衛省から仕事の詳細等を聞いた。いろいろビックリポイントはあったが……そこら辺は一旦飲み込んだ。というか飲み込むしかなかった。
そして今日は約束の日……の前日。どうやら椚ヶ丘中学校のE組とやらに転校し、生徒として教師を暗殺するようだ。その転校のために学校に来ているのだ。ついさっきは理事長にお会いして、今はE組副担任の烏間先生とやらに会いに来た。雰囲気だけでわかる、この人は相当手練れな軍人だ。もし戦うようなことになれば苦戦を強いられるだろう。
「それにしても……事前に話は聞いていましたが、歪な学校ですね。E組はこんな山奥に校舎があって、それ以外の連中はちゃんと学校っぽいところに通っている。まるで差別ですね」
「……ああ、君の推測通り、E組は差別の対象となっている。『エンドのE組』などと呼ばれてな」
「ふーん」
合理的な仕組みだ。E組が受けているであろう仕打ちに目を瞑れば。あの冷徹で合理主義者ないけ好かない理事長の方針らしいが……まぁどうでもいいか。
「……君には明日からここに転校してもらう、生徒としてな。他の生徒と同じく授業も受けてもらうことになる。くれぐれも――」
「他の生徒に危害を加えないように、ですよね。わかってます」
「それと授業の妨げにならないようにな」
「ええ」
暗殺対象から授業を受ける生徒達、なんとも奇妙な状況だ。さらには生徒達は暗殺者でもあるらしい、素人だが。まぁ暗殺に関していえば俺も素人だけど。
「烏間先生、依頼していたものは用意していただけましたか?」
「ああ。事前に伝えている通り、この暗殺は秘密裏に行われている。くれぐれも公の場で使わないように」
烏間先生からアタッシュケースを受け取る。中を確認するとハンドガン2丁、アサルトライフルとショットガンそれぞれ1丁が入っていた。あとは弾丸としてBB弾……嘘のようだが、ターゲットにはこいつしか効果がないらしい。
「安心してください。そこはしっかりやりますよ」
「頼む。……あぁそれから、君の素性については生徒達には明かしていない。ただの転校生とだけ伝えている」
「ご配慮いただきありがとうございます。まぁ察していそうな気もしますが」
こんなE組なんて隔離されたクラスにわざわざ転校する人間なんていない。もしいるとすればターゲットの命を狙う暗殺者ぐらいだろう。
ドゴンッ
受け取った銃の状態を確認していると、外から大きな音が鳴り響く。音のした方を見てみると砂煙が立ち上っており、しばらくすると中から黄色いタコが現れる。これが今回のターゲット……当然事前に聞いていたし、写真も見ていたが、直接見てみるとほんとにタコだな。
「ヌルフフフフフ、君が転校生の柊君ですね」
「はい、柊真白です。あなたがターゲットの超破壊生物ですね」
数か月前、突如月の7割が蒸発して、常に三日月の状態となった。それ自体は俺にとってどうでもよいことなのだが、今回のターゲット、今目の前にいる人物こそが月を破壊した張本人らしい。……人物?
そしてこいつは地球も破壊するらしい。どういうつもりかは知らないが来年3月末までは地球を破壊せず、ここの教師をやるらしい。そして時が来ればこいつは地球を……それがこいつの暗殺理由だ。
「殺せんせーと呼んでください。生徒が名付けてくれた名前です」
「わかりました。よろしくお願いします、殺せんせー」
「はい、こちらこそ」
殺せんせーと軽く握手を交わす。……手? どちらかというと触手か。なんかヌルヌルする。
「明日から柊君と一緒に過ごせるのが楽しみですねぇ。ヌルフフフフフ」
「そうですね、明日から……もしかしたら明日だけになるかもですけどね」
「自信たっぷりですね。ですが手練れの暗殺者や国の最新鋭の戦闘機でも殺せない先生を、果たして君は殺せますかねぇ」
「殺しますよ。俺はプロの傭兵で、殺せんせーを殺すのが仕事ですから」
「素晴らしい! ですが、君はプロであると同時に、ここでは1人の生徒です。決して――」
「授業の邪魔をしないように、ですよね。あと他の生徒に危害を加えないこと」
「はい、その通りです。あと君自身もちゃんと授業を受けるように。生徒である以上、テストも受けないといけないですからね」
授業ね……受けたことないな。仕事に役立つ知識、主に化学なんかや、あとは語学はそれなりに身につけてはいるが、それ以外はからっきしだ。
「早速ですが、今から柊君には簡単なテストを受けてもらいましょう。20分程度を5科目分です。君の学力を図るための簡単なものですから気軽に受けてみてください」
椅子に座るよう促される。めんどくさいが受けるしかないか……。
「……はい、お疲れ様です。採点結果ですが……英語は満点、理科も9割正解です。ですがそれ以外、特に国語が壊滅的ですね」
「まぁ教育なんて受けてないですし、そもそも日本にほとんどいなかったですからね」
それにしても速い……マッハ20とは聞いていたが、いざ目の前にすると圧巻の速度だ。俺が用紙を手渡すと一瞬で採点してしまった。なるほど、誰も殺せないわけだ。
だが初速なら辛うじてだが動きを補足できた。マッハ20とはいえってもいきなりその速度に到達できるわけではない。静止状態から動き始めたほんのわずかな時間はスピードが遅い。遅いといってもそれでも常軌を逸した速度ではあるが、そこならかろうじて目で追えた。まぁこれが殺せんせーの全開ではないだろうが。マッハ20が全力を出せばたかが紙なんて消し飛ぶだろうし。
「大丈夫です。これから一緒に学んでいきましょう」
「わかりました」
「……そうだ、生徒への柊君の紹介は明日するつもりですが、実は1人だけ今学校にいるんです。会いに行きますか?」
「そうですね……時間もありますし、ぜひ」
殺せんせーについては事前情報があったが、実は生徒個人個人に関しては全く情報をもらっていない。素人だからあまり期待できないが、作戦に組み込める可能性が1%でもあるのであれば知っておくに越したことはない。
「わかりました。彼女は今教室にいますので会いに行きましょう。柊君と同じく、数日前にE組に来たばかりの転校生です」
「へぇ、ということは同じく国から送られてきた暗殺者か」
「はい。とても立派な暗殺者です。きっと柊君の力になってくれるでしょう。まぁそれでも先生は殺せないでしょうがねぇ、ヌルフフフフフ」
「相性がありますからね。仮にチームアップしたとして、それがプラスに働くか、それともマイナスかは組んでみないと分からないですよ」
「その通りです。ですが彼女と柊君……傭兵Foxはきっと相性バッチリですよ。先生が保証します」
きっちり俺のこと調べてやがる……。
「さてと、律さん、紹介したい人がいるのですがお時間は大丈夫ですか?」
「…………なに、あれ」
無人の教室、そこには教室のイメージとはかけ離れた謎の黒い立方体が置かれている。まさかとは思うが、殺せんせーの言う転校生ってあれのこと?
『はい、律はいますよ! こんにちは、殺せんせー』
「はい、こんにちは。実は律さんに紹介したい人がいるんです。明日からここに転校してくる柊君です」
「……柊真白です。よろしく」
『自立思考固定砲台と申します。律、とお呼びください!』
モニターに可愛い女の子が映し出される。立方体の中に誰かがいるわけではない。言葉通り自立した思考を持った存在、AIってやつか……なんというかやりたい放題だな……。
「固定砲台ってことは銃撃なりもできるってことか?」
『もちろんです! 例えばこんな風に……』
立方体の側面から複数の重機が取り出され、全て殺せんせーに銃口が向かう。この場にいては邪魔になるだろう、律の射線から飛びのく。そして一斉掃射が始まる――。
「なるほど、こりゃすげぇや」
圧倒的な物量による弾幕、もはや面での攻撃。これが屋外ならともかく、移動範囲が制限される室内では人間ではまず避けきれないだろう。もし実弾だったらと思うと恐ろしい。
そしてただの物量による圧殺ではない。逃げ道を塞ぐための弾、誘導するための弾、そして殺すための弾。さすがに全てを目で追うことは不可能だが……なるほど、面白い。人間よりも多くの武器を扱い、速く複雑な演算をこなせるからこその攻撃というわけか。
「律も、殺せんせーも……」
しかし肝心のターゲットはその弾幕を潜り抜ける。圧倒的なスピード、圧倒的な判断力で。弾幕の隙間をすり抜け、時にはチョークで弾き……律の弾幕では傷1つ与えられない。というか速すぎて分身しているように見えるんだが……。
『……やはり一筋縄ではいきませんね。ですが今の回避パターンも学習させていただきました、殺せんせー』
「素晴らしい学習能力です。次は殺せるといいですねぇ」
確かに殺せんせーは殺せなかった。しかしいいぞ、自立思考固定砲台。こいつは使える。こいつがいれば作戦の幅が広がる。人知を超えた計算力、それから導き出される圧倒的な先読み。俺好みの強さだ。
「どうですか、柊君。先生を殺せそうですか?」
「……律、お前が欲しい」
『え、っと……その、これは告白というものでしょうか……?』
「んなわけ。まぁ俺も言葉足らずだったか」
『むぅ……』
顔を赤らめ、頬を膨らませ、やけにあざとい。開発者はわざわざ律にこんなことを学習させたのか?
「律、俺と組もう。その力が欲しい。俺らが組めばこいつを殺せる」
『……なるほど、わかりました。つまり柊さんは私の性能にしか興味がないということですね』
「そんなことはない。さっきからあざといな……でも俺達は仕事仲間だ。お互い殺せんせーを殺すために雇われた暗殺者。ビジネスライクにいこう」
『私はもっと柊さんと仲良くしたいのですが……』
「ふぅ、律さんも大変ですねぇ……まぁ今後学んでくれればいいでしょう」
どうも殺せんせーは生徒として協調することを求めているようだ。まぁ知ったこっちゃないが。クライアントは殺せんせーではなく防衛省だし。
「それで、どうする? 俺と組むか組まないか」
『もちろんお手伝いします。これから私達はクラスメイトなんですから』
「OK、これからよろしく、律」
言葉とは裏腹に、律は不服そうに頬を膨らませる。律の気持ちはわかるが、これが俺にとって一番落ち着く形なのだ。我慢してくれ。
久し振りに暗殺教室を見たら神崎さんが美しかったのでゆるゆると書くことにしました。
神崎さんがヒロインの予定です。