傭兵による暗殺教室 作:ヌルヌルnull
「今日はグループに分かれて射撃訓練を行う。必ずどう撃てばどこに着弾するかを確認しながら行うように!」
あれが的か。ダーツのボードより少し小さいくらいの大きさだ。1つのグループにつきそれが3本並んでいる。この程度俺にとっては訓練にすらならない。まぁ暗殺を始めて2か月足らずの、しかも学業と両立しながら訓練を行う人間に合わせたメニューだから俺に合わないのは当然だが。逆にそれで7~8割の確率で中心に当てられるようなら相当な才能だろう。
そんなことを考えながらぼやーとしていると、周りではすでに近くの人間同士でグループを組み始めていた。どうするか、あまりやる気が起きないし、ふらーと消えてサボってもいいのだが……。
「おい、ひいら――」
「ねぇ、柊君、私達と一緒にやらない?」
磯貝と神崎がほぼ同時、いやほんの少し神崎の方が早いか、一緒に組もうと声をかけてくれた。別にどちらと組んでもいいが、わずかに早かった神崎と組もう。磯貝にはジェスチャーですまんと伝える。
「えっと、その……ほら、気が向いたら教えてくれるって約束した、から……」
「いいよ、やろう」
頬をほんのりと赤く染め、少し声を震わせながら話しかけてくる。今朝のことを気にしているのか。ここまで初心だとは……まぁそのうち治るだろう。
にしても可愛い。律のあざとい可愛さとは異なり、正統な可愛さというか……確かにこれはクラスのマドンナだ。まぁ可愛い以上の感情はないけど。
「あっ、ひー君!」
神崎に連れられた先には倉橋と……誰だろう、このポニーテール。自己紹介されてたっけ?
「矢田桃花だよ。よろしくね、柊君」
「ああ、よろしく」
「ところで、有希子ちゃんってひー君と知り合いなの? なんか仲良しだしー」
「っ」
「朝、道で会ったから」
「えー、ほんとにそれだけー?」
「ほんとにそれだけ」
「ふーん……」
神崎の顔がほんのり赤かったからか、俺との関係を邪推してくる。神崎が過剰に意識しているだけで、本当に何もないんだがな。
「訓練なんだろ。早く始めなくていいのか?」
「怪しい……」
「そ、そうだよね。矢田さんも倉橋さんも早くしなきゃ」
「うーん、ますます怪しい……」
何もないことを示したいのか、神崎が矢田と倉橋を急かす。だが明らかに逆効果で、さらに疑われる結果となってしまう。今の状態の神崎だともはや何をしても疑われてしまいそうだ。
神崎はそそくさと準備をして1人で射撃を始めるが、集中できていないため全く的に当たっていない。
「うぅ、当たらない……」
「引き金を引く瞬間、手がブレブレだ。そりゃ照準もブレる。もっと心を落ち着かせろ」
「落ち着かせろって言われても……その、柊君が原因だし……」
「知ってる。心を乱す原因を頭で言語化してみろ。できる限り全部、はっきりと言語化するんだ」
「……」
「そう。一度だけ大きく息を吐け。息に言語化したものを全て乗せて吐き出す。頭の中を空にするんだ」
「ふぅ……」
「撃て」
今度は手がブレることなく引き金を引く。射線も問題なし。だが引き金を引いた直後に風が吹いた。風の影響を受けた弾丸は惜しくも的の中心から1cmほど離れた位置に着弾する。
「あぁ……」
「風で少し弾がブレたな。BB弾だから弾が軽い。だから強い風の影響を受けやすい。まぁここは慣れだ。何度も何度も撃って、どんな環境条件ならどこに着弾するかを頭に叩き込め」
「今の惜しかったねー。でも有希子ちゃんすごーい!」
「柊君すごいね。あんなにドキドキしてたのに、言われた通りにしたらすぐに落ち着けちゃった」
「メンタルコントロールは得意だから」
いつどんな状況でも冷静にいられるよう、メンタルトレーニングを行ってきた。もしかしたら射撃よりも頑張ったかもな。心が乱れれば射線も乱れるし、相手に動きを読まれやすくなる。何があろうと動じない。これができるようになるまで何年かかったっけな。
「柊君って本当に暗殺者じゃないの?」
「暗殺者じゃないよ」
「でも銃の経験ありそうな感じじゃなかった?」
「ある。仕事でよく使うし」
「えーと……? でも暗殺者じゃないんだよね?」
「じゃない」
矢田も倉橋も混乱しているようだ。頭にはてなが浮かんでいる。なぜ本当のことを言わないのかと神崎がこちらを見てくる。別に隠す理由は全くないが、何となく面白いのでこのまま黙っておくことにした。
「うーん、よくわかんないけど……ひー君が撃ってるところも見てみたいなー」
「いいよ。一瞬だから見逃すなよ」
「そんな大げさなー」
ホルスターから銃を抜き、3本の的の中心を撃ち抜く。合計1秒くらいかな。まぁまぁな出来だ。だが殺せんせーを相手にするならもう少し調子を上げたいところだ。
後ろを振り向くと矢田も倉橋も驚きからかポカーンと口を開け言葉を失っている。隣の神崎には一度見せているため2人よりも驚きは少なく、少しキラキラした目をこちらに向けている。
「え、うそ、はやっ……」
「あんまり騒ぐなよ。めんどくさいことになりそうだから」
「びっくりしすぎて逆に驚けないというか……え、いつの間に撃ったの?」
「全然見えなかったー……しかも全部真ん中? 気づいたら撃ってて、ちゃんと的の方見れなかったけど……」
「全部真ん中。この距離なら余裕だ。狙撃は苦手だから長距離だとこんな精度は出せないけどな」
「ほんとのほんとに暗殺者じゃないんだよね?」
「ああ。暗殺者
「「では?」」
「……ふふっ、いい加減教えてあげればいいのに。柊君は傭兵なんだって」
「よう、へい……?」
「そう、傭兵。言った通り暗殺者ではないだろ?」
騙されたのが不服なのか、倉橋は頬を膨らませている。小動物のようだ。面白いな。
「傭兵ってどんなことするの?」
「気が向いたら詳しく教えてやる」
「えー、今知りたーい。ひー君教えてー」
「やだ。サボってると烏間先生に怒られるぞ。ほらあっち見てみ」
「あっ! ……もうっ、あとで絶対教えてもらうからね!」
烏間先生がこちらをジッと見ているを確認した2人は急いで射撃訓練を始めた。実際にはサボっているのを咎めるためじゃなくて、俺の実力を見定めるためにこちらを見ていたのだろうが。
2人の銃の腕前は……まぁ平凡。中心から1~2cmの位置にはおおむね当たるが、ど真ん中はほとんど当たっていない。殺せんせーの触手を狙って吹き飛ばすのはまだまだ難しいだろうな。
矢田の方は撃った時の反動で上半身がブレているな。実弾じゃないから反動はほとんどないはずだが……あぁ、胸か。気にしてなかったが矢田の胸はかなり大きい。それが揺れて、反動が通常よりも大きくなっているのだろう。原因は分かったが、セクハラになるからアドバイスしにくいな……。
倉橋は体のブレは問題ないが、まだまだ照準を合わせるのがヘタクソなようだ。これは数をこなせば上達するだろう。
「教えてあげないの? どんな仕事してるかとか、私には教えてくれたんだから秘密にしてるわけじゃないんだよね」
「神崎に教えたからだよ。1日に何回も何回も同じこと話すのめんどくさいじゃん」
「そういう……」
少し呆れたような目を向けられる。だってめんどくさいじゃん。この場で話したところで、どうせまた別のやつに同じこと話さないといけないだろうし。
「神崎も訓練に戻った方がいいんじゃないか? ほら、烏間先生がこっち来たぞ。怒られるんじゃないか?」
「柊君もおしゃべりしてるから、一緒に怒られるんじゃ……」
「怒りはしない。ずっと話をしているのは感心しないが、皆、柊君の実力が気になるだろうからな」
「あ、烏間先生」
「そうですか。それで、烏間先生から見て俺の実力はどうですか?」
「ふっ、申し分なしだ。さっきのがあいつの触手を撃ち抜いた早撃ちだな。話には聞いていたが想像以上の速さだ。一度手合わせをしてみたいものだな」
ちょっと勘弁してほしいな。烏間先生を相手にするのはしんどそうだし。銃アリならともかく、ナイフとか格闘だとかなーり苦戦しそうだ。
「柊君から見てこのクラスの実力はどうだ」
「そうですね……」
他のグループの訓練の様子を見回す。何人かは光るものを持った奴がいるが、全体的には……
「まずまずって感じですね。殺せんせーを殺すにはまだまだ実力不足じゃないですか。まぁ訓練始めて2ヵ月、しかも学業と並行してってことを考えると上出来だとは思います」
「そうか」
「ただあの2人はいい腕してますね」
「あの2人って……速水さんと千葉君のこと?」
「そう、多分」
目が隠れてる奴とツインテールの奴。矢田と倉橋とは違い、7割くらいはど真ん中に命中させている。目が隠れてる方が千葉で、ツインテールの方が速水か?
「いい弾を撃つ。ちゃんと育てればいい射手に育つんじゃないですか?」
「そうだな。彼らの射撃スコアはこのクラスでもトップクラスだ。今後の暗殺において重要な存在になるだろう」
もし作戦に組み込むとしたら狙撃手としての起用か。このBB弾でどの程度狙撃できるか不明だが。50mいければ十分か……?
「俺は他のグループを見てくる。2人ともあまりサボらないようにな」
「はい」
烏間先生は隣のグループに移動して指導を始めた。少人数だからこそ集中した指導ができる。その上指導者は烏間先生という手練れの人間だ。個人の適性もあるだろうが、これが2ヵ月でここまで生徒のレベルを引き上げた要因か。恵まれた環境だな。
「柊君、教えてほしいことがあるんだけどいい?」
「いいよ、何?」
「ひー君私も―」
「実は私も……」
「はいはい、順番な」
この後はずっと3人の質問攻めにあった。やはりサボればよかったか……。
今回は射撃訓練でしたが、そのうちナイフ術の訓練も書きたいですね。