傭兵による暗殺教室   作:ヌルヌルnull

5 / 8
訓練の時間

「今日はグループに分かれて射撃訓練を行う。必ずどう撃てばどこに着弾するかを確認しながら行うように!」

 

 あれが的か。ダーツのボードより少し小さいくらいの大きさだ。1つのグループにつきそれが3本並んでいる。この程度俺にとっては訓練にすらならない。まぁ暗殺を始めて2か月足らずの、しかも学業と両立しながら訓練を行う人間に合わせたメニューだから俺に合わないのは当然だが。逆にそれで7~8割の確率で中心に当てられるようなら相当な才能だろう。

 そんなことを考えながらぼやーとしていると、周りではすでに近くの人間同士でグループを組み始めていた。どうするか、あまりやる気が起きないし、ふらーと消えてサボってもいいのだが……。

 

「おい、ひいら――」

「ねぇ、柊君、私達と一緒にやらない?」

 

 磯貝と神崎がほぼ同時、いやほんの少し神崎の方が早いか、一緒に組もうと声をかけてくれた。別にどちらと組んでもいいが、わずかに早かった神崎と組もう。磯貝にはジェスチャーですまんと伝える。

 

「えっと、その……ほら、気が向いたら教えてくれるって約束した、から……」

「いいよ、やろう」

 

 頬をほんのりと赤く染め、少し声を震わせながら話しかけてくる。今朝のことを気にしているのか。ここまで初心だとは……まぁそのうち治るだろう。

 にしても可愛い。律のあざとい可愛さとは異なり、正統な可愛さというか……確かにこれはクラスのマドンナだ。まぁ可愛い以上の感情はないけど。

 

「あっ、ひー君!」

 

 神崎に連れられた先には倉橋と……誰だろう、このポニーテール。自己紹介されてたっけ?

 

「矢田桃花だよ。よろしくね、柊君」

「ああ、よろしく」

「ところで、有希子ちゃんってひー君と知り合いなの? なんか仲良しだしー」

「っ」

「朝、道で会ったから」

「えー、ほんとにそれだけー?」

「ほんとにそれだけ」

「ふーん……」

 

 神崎の顔がほんのり赤かったからか、俺との関係を邪推してくる。神崎が過剰に意識しているだけで、本当に何もないんだがな。

 

「訓練なんだろ。早く始めなくていいのか?」

「怪しい……」

「そ、そうだよね。矢田さんも倉橋さんも早くしなきゃ」

「うーん、ますます怪しい……」

 

 何もないことを示したいのか、神崎が矢田と倉橋を急かす。だが明らかに逆効果で、さらに疑われる結果となってしまう。今の状態の神崎だともはや何をしても疑われてしまいそうだ。

 神崎はそそくさと準備をして1人で射撃を始めるが、集中できていないため全く的に当たっていない。

 

「うぅ、当たらない……」

「引き金を引く瞬間、手がブレブレだ。そりゃ照準もブレる。もっと心を落ち着かせろ」

「落ち着かせろって言われても……その、柊君が原因だし……」

「知ってる。心を乱す原因を頭で言語化してみろ。できる限り全部、はっきりと言語化するんだ」

「……」

「そう。一度だけ大きく息を吐け。息に言語化したものを全て乗せて吐き出す。頭の中を空にするんだ」

「ふぅ……」

「撃て」

 

 今度は手がブレることなく引き金を引く。射線も問題なし。だが引き金を引いた直後に風が吹いた。風の影響を受けた弾丸は惜しくも的の中心から1cmほど離れた位置に着弾する。

 

「あぁ……」

「風で少し弾がブレたな。BB弾だから弾が軽い。だから強い風の影響を受けやすい。まぁここは慣れだ。何度も何度も撃って、どんな環境条件ならどこに着弾するかを頭に叩き込め」

「今の惜しかったねー。でも有希子ちゃんすごーい!」

「柊君すごいね。あんなにドキドキしてたのに、言われた通りにしたらすぐに落ち着けちゃった」

「メンタルコントロールは得意だから」

 

 いつどんな状況でも冷静にいられるよう、メンタルトレーニングを行ってきた。もしかしたら射撃よりも頑張ったかもな。心が乱れれば射線も乱れるし、相手に動きを読まれやすくなる。何があろうと動じない。これができるようになるまで何年かかったっけな。

 

「柊君って本当に暗殺者じゃないの?」

「暗殺者じゃないよ」

「でも銃の経験ありそうな感じじゃなかった?」

「ある。仕事でよく使うし」

「えーと……? でも暗殺者じゃないんだよね?」

「じゃない」

 

 矢田も倉橋も混乱しているようだ。頭にはてなが浮かんでいる。なぜ本当のことを言わないのかと神崎がこちらを見てくる。別に隠す理由は全くないが、何となく面白いのでこのまま黙っておくことにした。

 

「うーん、よくわかんないけど……ひー君が撃ってるところも見てみたいなー」

「いいよ。一瞬だから見逃すなよ」

「そんな大げさなー」

 

 ホルスターから銃を抜き、3本の的の中心を撃ち抜く。合計1秒くらいかな。まぁまぁな出来だ。だが殺せんせーを相手にするならもう少し調子を上げたいところだ。

 後ろを振り向くと矢田も倉橋も驚きからかポカーンと口を開け言葉を失っている。隣の神崎には一度見せているため2人よりも驚きは少なく、少しキラキラした目をこちらに向けている。

 

「え、うそ、はやっ……」

「あんまり騒ぐなよ。めんどくさいことになりそうだから」

「びっくりしすぎて逆に驚けないというか……え、いつの間に撃ったの?」

「全然見えなかったー……しかも全部真ん中? 気づいたら撃ってて、ちゃんと的の方見れなかったけど……」

「全部真ん中。この距離なら余裕だ。狙撃は苦手だから長距離だとこんな精度は出せないけどな」

「ほんとのほんとに暗殺者じゃないんだよね?」

「ああ。暗殺者()()ないよ」

「「では?」」

「……ふふっ、いい加減教えてあげればいいのに。柊君は傭兵なんだって」

「よう、へい……?」

「そう、傭兵。言った通り暗殺者ではないだろ?」

 

 騙されたのが不服なのか、倉橋は頬を膨らませている。小動物のようだ。面白いな。

 

「傭兵ってどんなことするの?」

「気が向いたら詳しく教えてやる」

「えー、今知りたーい。ひー君教えてー」

「やだ。サボってると烏間先生に怒られるぞ。ほらあっち見てみ」

「あっ! ……もうっ、あとで絶対教えてもらうからね!」

 

 烏間先生がこちらをジッと見ているを確認した2人は急いで射撃訓練を始めた。実際にはサボっているのを咎めるためじゃなくて、俺の実力を見定めるためにこちらを見ていたのだろうが。

 2人の銃の腕前は……まぁ平凡。中心から1~2cmの位置にはおおむね当たるが、ど真ん中はほとんど当たっていない。殺せんせーの触手を狙って吹き飛ばすのはまだまだ難しいだろうな。

 矢田の方は撃った時の反動で上半身がブレているな。実弾じゃないから反動はほとんどないはずだが……あぁ、胸か。気にしてなかったが矢田の胸はかなり大きい。それが揺れて、反動が通常よりも大きくなっているのだろう。原因は分かったが、セクハラになるからアドバイスしにくいな……。

 倉橋は体のブレは問題ないが、まだまだ照準を合わせるのがヘタクソなようだ。これは数をこなせば上達するだろう。

 

「教えてあげないの? どんな仕事してるかとか、私には教えてくれたんだから秘密にしてるわけじゃないんだよね」

「神崎に教えたからだよ。1日に何回も何回も同じこと話すのめんどくさいじゃん」

「そういう……」

 

 少し呆れたような目を向けられる。だってめんどくさいじゃん。この場で話したところで、どうせまた別のやつに同じこと話さないといけないだろうし。

 

「神崎も訓練に戻った方がいいんじゃないか? ほら、烏間先生がこっち来たぞ。怒られるんじゃないか?」

「柊君もおしゃべりしてるから、一緒に怒られるんじゃ……」

「怒りはしない。ずっと話をしているのは感心しないが、皆、柊君の実力が気になるだろうからな」

「あ、烏間先生」

「そうですか。それで、烏間先生から見て俺の実力はどうですか?」

「ふっ、申し分なしだ。さっきのがあいつの触手を撃ち抜いた早撃ちだな。話には聞いていたが想像以上の速さだ。一度手合わせをしてみたいものだな」

 

 ちょっと勘弁してほしいな。烏間先生を相手にするのはしんどそうだし。銃アリならともかく、ナイフとか格闘だとかなーり苦戦しそうだ。

 

「柊君から見てこのクラスの実力はどうだ」

「そうですね……」

 

 他のグループの訓練の様子を見回す。何人かは光るものを持った奴がいるが、全体的には……

 

「まずまずって感じですね。殺せんせーを殺すにはまだまだ実力不足じゃないですか。まぁ訓練始めて2ヵ月、しかも学業と並行してってことを考えると上出来だとは思います」

「そうか」

「ただあの2人はいい腕してますね」

「あの2人って……速水さんと千葉君のこと?」

「そう、多分」

 

 目が隠れてる奴とツインテールの奴。矢田と倉橋とは違い、7割くらいはど真ん中に命中させている。目が隠れてる方が千葉で、ツインテールの方が速水か?

 

「いい弾を撃つ。ちゃんと育てればいい射手に育つんじゃないですか?」

「そうだな。彼らの射撃スコアはこのクラスでもトップクラスだ。今後の暗殺において重要な存在になるだろう」

 

 もし作戦に組み込むとしたら狙撃手としての起用か。このBB弾でどの程度狙撃できるか不明だが。50mいければ十分か……?

 

「俺は他のグループを見てくる。2人ともあまりサボらないようにな」

「はい」

 

 烏間先生は隣のグループに移動して指導を始めた。少人数だからこそ集中した指導ができる。その上指導者は烏間先生という手練れの人間だ。個人の適性もあるだろうが、これが2ヵ月でここまで生徒のレベルを引き上げた要因か。恵まれた環境だな。

 

「柊君、教えてほしいことがあるんだけどいい?」

「いいよ、何?」

「ひー君私も―」

「実は私も……」

「はいはい、順番な」

 

 この後はずっと3人の質問攻めにあった。やはりサボればよかったか……。




今回は射撃訓練でしたが、そのうちナイフ術の訓練も書きたいですね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。