傭兵による暗殺教室   作:ヌルヌルnull

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昼休みの時間

 どこで昼飯を食べようか。教室で食べてもよかったのだが、また囲まれそうな気配がしたので逃げ道がなくなる前に逃げ出した。スマホを持ち歩いているので律がGPSで割り出した居場所をペラペラと話す可能性もあるが、そこは律とのお話しに付き合ってやることで手を打った。

 

『あの岩の上なんていかがでしょうか? 少し高いですが、上は平たいので座りやすくてよいかと思います』

「そうだな。あそこならゆっくりできそうだ」

 

 岩の端に飛び乗り、その勢いのままてっぺんまで登りきる。岩は少しひんやりとしていて気持ちいい。腰を下ろし、朝コンビニで買った飯を広げる。今日はおにぎりとパンだ。

 

「この校舎はいいな。自然に囲まれていて心地がいい」

『柊さんは自然が好きなのですか?』

「好き。こういう森とか山岳とか、人が少なくて静かだから好きだ」

『なるほど。柊さんは静かな場所が好きなんですね。だから私の話を聞いてくれなかったんですね』

「どんだけ根に持ってんだよ……」

 

 律は拗ねたようにすぼめる。見た目が可愛いからこういった仕草もよく似合う。めんどくさいけど。

 

「今はちゃんと会話してるだろ」

『それはそれ、これはこれです。私が頑張って皆さんのことを紹介しているのに全く聞いてくれなかったこと、ずっと言い続けますから』

 

 めんどくさい奴だ。律ほど記憶能力があれば本当にずっと言い続けてくるだろう。

 

『ところで、初めての学校はいかがですか?』

「んー、かなり疲れたな。何時間もずっと座って授業を受けるのはしんどい。内容もよくわからんし」

『社会と国語は苦戦している様子でした』

「学校も行ってなけりゃ、ずっと海外住みだぞ。わからんって」

『そうでした。国語は私も苦手科目なので、これから一緒に学んでいきましょう』

 

 ま、今日殺せんせーを殺せば関係ないがな。

 

ひー君? どこー?

「んー?」

 

 下の方から倉橋の声が聞こえる。覗いてみると倉橋に神崎がいた。どうやら俺を探しているようだ。傭兵について気が向いたら教えてやるって言ったんだった、そういえば。特に倉橋は興味を持ってたし。それで探しているのだろうか。

 

『何かありましたか?』

「いや、何も」

『……』

 

 わざわざ俺を探さずとも神崎に聞けばいいのに。というか神崎が自ら教えてくれればいいのに。めんどくさいから。

 

『倉橋さーん! 神崎さーん! 柊さんはここにいますよー!』

「おい」

「律? ……あっ、ひー君いた!」

 

 気配を消して隠れていたのに、律が2人に声をかけたせいで見つかってしまった。わざわざ探していたということは律が居場所を教えてわけではないのだろう。そこは約束を守ってくれたみたいだ。2人に声をかけたからトータルだとマイナス評価だがな。

 

『折角柊さんに会いに来ていただいたのに無視するのはよくないですよ』

「よいしょ……っと。ひー君やっと見つけたー」

 

 倉橋は軽々と登ってきた。こういうのに慣れているのだろうか。神崎は少し苦戦している様子。それなら登らなきゃいいのに。

 

「……はぁ。ほれ、手貸してやるから」

「あ、ありがとう……」

 

 神崎の手を掴み引っ張り上げると初心な神崎は顔を赤らめる。今日はずっとこんな感じなようだ。

 

「もー、結構探したよー。律も一緒にいるなら場所くらい教えてくれればよかったのに」

『柊さんの居場所は教えない、そういう約束でしたから』

「で、何か用?」

「用って程じゃないけど……柊君と一緒にご飯を食べたいなーって。ダメかな?」

「ダメって言っても帰らないだろ。特に倉橋」

「えへへ、せいかーい」

 

 にこやかに笑った倉橋は俺のすぐ隣にシートを敷き、そこに腰を下ろす。それを見た神崎も同じようにシートを敷き、倉橋とは反対側に腰を下ろす。なぜか俺が挟み込まれる形だ。

 

「柊君はそのパンだけ?」

「さっきおにぎりも1個食べた」

「少なくない? もっと食べなくて大丈夫?」

「大丈夫。戦場だとまともに食料がないことも多いし、そういう環境でも生きられるよう適応してきたから」

『それは大丈夫と言ってよいのですか?』

「死んでないから大丈夫」

 

 隣を見ると神崎も倉橋も立派なお弁当だ。こんなに立派なものを毎日用意しているであろう親って存在はすごいな。

 

「ひー君って傭兵なんだよね。訓練の時は教えてくれなかったけど、どんなことするの?」

「一言で言うと何でも屋。戦場に駆り出されたり、デモの鎮圧とか、潜入調査とか、本当に何でも」

「へー、そうなんだー。大変そうな仕事だね」

「命懸けの仕事ではあるな。常に死と隣り合わせだ」

 

 それは暗殺者……特に潜入暗殺が専門のビッチ先生も同じだろうが。バレれば即ゲームオーバー。そんな仕事を何件もこなしてきたんだ。あの人は間違いなく一流の殺し屋だ。ビッチだけど。

 

『デモの鎮圧とは具体的に何をするのでしょう? 説得や交渉ですか?』

「いや、俺らに仕事が回ってくる時は説得や交渉では解決できず、力技で解決しなきゃいけない時だ。汚れ仕事をしなきゃいけない。だが自国の軍隊には汚れ仕事をさせたくない、あるいはほかに仕事があって任せられない。そんなときにちょうどいい存在が傭兵だ」

『汚れ仕事とはつまり……』

「殺す。先導者を殺して戦意を喪失させる。……まぁそれだけで済むことはほぼないけどな。それでいなくなるのはなんとなく雰囲気で参加しているだけの大した思想も持たない人間だけ。自分なりの思想を持った人間はそれでは止まらない。だからそいつらの心を折るためにさらに見せしめとして殺す。そうすればそのうち鎮火する」

「……」

「まぁ鎮火したところでいずれまたデモが起こるけど」

 

 っと、少し汚い話をしすぎたか。2人とも箸が止まっている。こちらを見つめる瞳には少しの恐怖が浮かんでいる。

 

「安心しろ。別にお前らに手を出したりはしない。仕事以外で殺しなんてしたことない」

「……あ、ご、ごめんね。柊君は怖い人じゃないって知ってたのに……」

「気にしなくていい。俺が人殺しなことには違いないから」

『ですが柊さんは柊さんです。昨日1日一緒に過ごしましたから、柊さんが仕事に真摯に取り組む方だということは私が誰よりも知っています。そんな柊さんのことが私は大好きです』

「……律とひー君っていつの間にこんなに仲良しになってたの?」

『昨日からです! 会ったその日に柊さんから告白をされています!』

「「えっ」」

「嘘言うな嘘を」

『その時の録音も残っていますよ。あっ』

 

 律が録音を流し始める前にスマホの電源を落とす。こんなことをしたらますます疑われそうな気がするが致し方がない。律が変なことを言って場を掻き回すよりはるかにマシだ。

 隣を見ると倉橋は目をキラキラさせて興味津々という様子。神崎は少し恥ずかしそうというか照れている様子だが、興味の方がわずかに勝っている様子。全く理解できないが、皆他人の恋愛事情は気になるものなのだろうか。殺せんせーのような大の大人があんななのはさすがにどうかと思うが。

 

「……こほんっ。律の言う通りひー君はひー君だもんね。訓練の時、優しくできるまで教えてくれたこと忘れないよ」

「私も、ずっとおしゃべりに付き合ってくれて嬉しかったな」

 

 会ったばかりの人間をよくここまで信用できるもんだ。それはこの2人の人柄ゆえか。あるいは日本という平和な国で生きてきたゆえか。……まぁ言うまでもなく前者か。俺も両隣に座られても気にしないくらいには気を許してしまっているわけだし。

 

「これからもよろしくね、柊君」

「ねーねー、連絡先交換しようよー」

「えー……」

「うわ、すっごい嫌そう……」

「漫画でしか見たことないような顔……柊君もこんなに感情表に出すんだね……」

 

 だって律の相手だけでもそこそこ疲れるのに、プラスアルファなんてたまったもんじゃない。それに今日殺せんせーを殺しきれれば終わる関係だ。深入りする必要もないだろう。

 そう思っているのだが、2人にとってはそうではないようだ。倉橋は言わずもがな、神崎も期待するようにこちらを覗き込んでくる。何故ここまで関わろうとするのか。……いや俺が仕事上の付き合いしかしてこなかったから知らないだけで、きっと多くの一般人にとってはこれが普通なのだろう。

 

「柊君、ねっ?」

「……はぁ、わかったわかった」

 

 どうしても連絡先を交換したいらしい。首を縦に振るまでずっと言い続けてくるだろう。最悪連絡が来ても無視すればいいだけの話だ。ここは大人しく折れよう。

 ポケットから紙切れを2枚取り出し、メアドと電話番号を両方に書き込む。

 

「ほれ」

「えっと……?」

「メアドと電話番号。ほれ、欲しいんだろ」

「あ、ありがとう」

「ひー君ってメッセージアプリとか使ってないの? L○NEとか」

「使ってない。いらないし」

「じゃあ今入れようよ。ほらほら」

 

 倉橋は置いていた俺のスマホを手に取り、電源をつけてアプリのインストールを促してくる。電源をつけると律がめんどくさいことになってしまいそうなのだが、もう遅いか……にっこりと微笑んだ律がスマホの画面いっぱいに映し出される。

 

『……』

「えっと、律……?」

「律、L○NEインストールしといて」

「ちょっ、柊君っ」

『……インストール完了しました。ついでにアカウント登録まで済ませてあります』

 

 律は明らかに怒っている様子。だが何も言ってこないし、アプリのインストールもお願いした通りにやってくれた。神崎は少しあわあわしているが、そもそも律自身にも非はあるのだ。向こうが何も言ってこない以上、こちらから触れる理由がない。

 

『柊さん、楽しかったですか? 約束を無視して私を除け者にし、神崎さん倉橋さんと楽しくお話しするのは』

「んー、そこそこ」

『そうですか。ええ、そうですか。あげく、私に内緒でお二人と連絡先の交換までしようなんて……』

「律、ひー君の彼女みたい。ちょっと重い系の」

『……2人ともお気を付けください。柊さんのことですからきっと「めんどくさくなったら連絡が来ても放置すればいいや」とか考えているはずです』

 

 正解。両隣からジトーとした目を向けられる。

 

「交換するのやめとく?」

『否定はしないのですね』

「……する」

「やり方わからんから2人で勝手にやっといてくれ」

「うん」

『……そういえば柊さんに1つお伝えしないといけないことが』

「ん?」

『柊さんが約束を破って好き勝手やってきましたので、私も好き勝手やらせていただきました』

「……嫌な予感がする」

 

 昼休み終了間際に教室に戻ると案の定嫌な予感が的中する。律が何を吹き込んだのか知らないが、近くの席の原と菅谷、不破がニヤニヤとこちらを覗き込んでくる。多分絶対100%ろくでもないことだろう。

 それからめんどくさいのがもう1つ。なんで神崎と一緒なんだだの、神崎と何を話していたんだだの、杉野が鬼の形相で問い詰めてきた。5限目開始の時間になるまでしつこく。昨日律も言っていたが、杉野はどうやら神崎に好意を寄せているようで。必死になって俺を問い詰める熱量を神崎に直接ぶつければいいのに。というかそもそも俺が誘ったわけじゃないので神崎に直接聞いてほしい。

 

 

 

「はぁー……ふぅー……」

『緊張しているのですか?』

「精神統一だ」

 

 そう強がってみたものの、実際にはそれなりに緊張している。なにせかなり複雑な作戦だ。ちょっと予想外な事態が起きれば作戦全体が瓦解しかねない。だから普段はシンプルな仕掛けにするようにしているのだが、殺せんせー相手ではこうせざるを得なかった。

 放課後……暗殺の時間だ。締め切った教室。中には俺と律。そして殺せんせー(ターゲット)。観客は外からガヤガヤと教室の中を眺めている。まるで見世物だな。

 

『神崎さんと倉橋さんからメッセージが届いています。「頑張ってね」とのことです』

 

 窓を見るとギュッと拳を握る2人の姿が目に入る。他の奴らも何人かは応援してくれているようだが、特にこの2人の念がすごい。応援されたからと言って気持ちが昂るわけでもパフォーマンスが上がるわけでもないが、気持ちとしては受け取っておこう。

 

「どのような暗殺を仕掛けてくるのかと楽しみにしていましたが、これはまるで戦闘ですね。それは戦闘服ですか?」

「はい。道具を大量に仕込めて便利なんですよ。暑いけど」

『似合っていますよ』

 

 白いロングコート、仕事の時はいつもこの格好だ。コートのポケットと裏に道具を仕込む場所が多くて便利だ。それに脱ぎ捨てて目眩しにも使える。そういう使い方なのもあってすぐボロボロになるし、迷彩を施すこともあるのでスペアのコートはたくさん用意してある。

 

「暗殺は専門外なので、俺にはこっちの方が合ってます。暗殺をしたければ呼べというような先生だ。戦闘でも受けてくれると信じてましたから」

「もちろんです」

「ルールだけ決めておきましょう。フィールドはこの教室内、この教室から出ることは禁止。もちろん外野からの支援は禁止。参加者は俺と律、殺せんせーの3人だけ。制限時間は10分。10分以内に殺せたら俺と律の勝ち、殺しきれなければ殺せんせーの勝ち。……これでどうでしょう」

「……2つだけ。1つ目、もし先生が勝てば明日柊君には補修を受けてもらいます。国語と社会が大きく遅れているようですからね。先生のヌルヌル強化学習を受けて一気にレベルアップしましょう」

『いいですよ』

「なんでお前が答える。まぁいいけど」

「では2つ目、外部からの支援はアリでよいですよ。柊さんと律さんの2人でやるより、クラスの皆で協力した方が暗殺成功率はぐーんと上がりますよ」

「それはないですね」

『……』

 

 殺せんせーの提案を一蹴する。律は複雑な表情をしているが何も言わない。殺せんせーは顔を紫色に染め、大きな×マークが浮かんでいる。マジでどんな仕組みだよ。

 

「柊君、それは私の生徒達を下に見過ぎです。彼らは烏間先生の指導をみっちり受けています。まだまだ発展途上ですが、全員立派なアサシンです」

「ええ、これから大きく伸びるでしょうね。射撃訓練しか見てないですが、素質を持った奴は何人かいる。ナイフ術も多分そうでしょう。……だがまだ足りない。今のあいつらでは作戦のプラス要素になり得ない。俺と律についてこれない奴が……」

『柊さん、ストップです』

 

 言いすぎだとばかりに律が遮る。その顔にはわずかに怒りの感情が見て取れる。ほんと仲間想いの良い奴だ。

 

「まぁそういうことなんで外部からの支援は不要です」

「……わかりました。今回はそれでいきましょう。協調の大切さはこれから学んでいただきますから」

「さてと……じゃあ開始の合図はこのコインで。コインが地面に着いた瞬間から戦闘開始です」

『10分間の計測は私が行います。不正はしないのでご安心を』

 

 コインを上へ弾く。と同時に殺せんせーの緊張が高まる。初撃を警戒しているのだろう。想定済みだ。

 ターゲットは地球の破壊を目論むマッハ20の超破壊生物。制限時間はわずか10分間。勝算はある。俺と律なら殺しきれる。全員の緊張が高まる中、地球の命運を賭けた戦闘が今始まる――




今の主人公君は割と傲慢なクソ野郎です。律の実力を高く評価しているので、律だけは作戦に組みこまれています。
7月ぐらいのE組であればその実力をもっと評価して、律以外も作戦に組み込んでいたかもしれませんね。
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