傭兵による暗殺教室   作:ヌルヌルnull

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久し振りの投稿です。いぇい。


暗殺の時間 2時間目

 濃密な弾幕とワイヤー陣をかいくぐながら、殺せんせーは教室を縦横無尽に駆け巡る。ワイヤー陣により通常よりも速度が落ちた殺せんせーを狙い、柊はお得意の早撃ちで3発の弾丸を放つ。いずれも触手を狙い撃つ、完璧な弾道。

 

「ぐっ! これはまずい……っ!」

 

 殺せんせーは律が弾幕で誘導した通りに、律の思い描いたビジョン通りに行動した。だが、柊が銃弾を放つのが1秒遅い。その1秒の遅れで殺せんせーの反応がギリギリ間に合う。3発目を上へ飛んで躱し、そのまま2人の死角に回り込まれる。

 律の描いたビジョンでは、回避されるよりも前に柊のショットガンを直撃させる予定だった。そのビジョンに向かって弾幕で逃げ道を塞いでいたし、柊もショットガンに手をかけていた。だが1秒の遅れで塞いでいた逃げ道が開け、そこに殺せんせーが逃げ込んでしまった。

 律が知る限り、殺せんせーの触手を2本も吹き飛ばした人間は誰もいない。まだ2人の連携は完全には噛み合っていないにもかかわらずこの成果なのだ。完全に噛み合えば殺せんせーを殺せるかもしれない。2人のビジョンのズレは着実に縮まっている。制限時間に間に合うかどうか、あとはそれだけだ。

 

「律、まだ行けるな」

『もちろんです』

 

 柊の期待に応えたい。自分の実力を信じて相棒に選んでくれた柊に報いたい。それ以上に、この無謀な連携が実現したその先を見てみたい。殺せんせーを殺すという使命以上にその好奇心が今の律の原動力である。柊に合わせたりはしない。柊ならば必ず自分に追いついてくれると信じて進み続ける。

 機関銃4門、ショットガン2門を展開し、再び射撃に移行する。ワイヤー陣との組み合わせで殺せんせーの動きを制限し、誘導するための弾幕を張る。弾幕で上への退路を塞ぎ、回避ルートを左右に絞る。左側はワイヤーが多く張られていて回避が困難、だから右に逃げるであろう。

 

「……」

 

 右への進行ルートは塞がない。あえて塞がずに壁に到達した瞬間に閉じ込めることで隙を作る。この後殺せんせーは壁に沿って飛行し、教室後方へ逃げるだろう。誘導されていることは当然殺せんせーも気づいている。だが気づいていてもこのルートを通るしかない。それ以外は死路だ。

 新たに生成した機関銃で後方へ逃げるルートを塞ぐ。急遽ルートを塞がれ、新たなルートを探すために一瞬殺せんせーの動きを停止する。計画通り。その一瞬に柊がショットガンを合わせる――

 

「ちっ」

 

 だがそれも0.3秒遅い。殺せんせーが回避ルートを見つけ、そこに逃げ込む方が一瞬速い。

 なかなかビジョン通りにはいかない。しかし落胆は一切しない。今必要な思考は次何をするか、どうやって殺せんせーを殺すか。それ以外の思考は不要。全て計算リソースに回す。

 筐体を反転させながら、後方に逃げた殺せんせーに再度弾幕を展開する。殺せんせーの動きを分析した結果、慌てて回避する際は天井四隅に逃げる可能性が高いという結果が出ている。この動きの癖を突く。そのためにはまず殺せんせーの想定外の出来事を起こし、慌てさせる必要がある。今切れる手札の中で最適なものはあれしかない。

 柊が懐から投げナイフを取り出し、()()()()()殺せんせーと離れた位置に向かって投擲する。偏差撃ちでもない。投げナイフの想定着弾地点は殺せんせーの進行ルートの先にあるワイヤーの制御ボタンだ。ナイフがボタンに突き刺さり制御装置が起動する。伸びていたワイヤーが巻き取られて固定が外れ床に落ちる。殺せんせーの動きを制限していたワイヤーが1本減少したことにより、回避の選択肢がわずかに増える。

 一見ただの利敵行為。だが殺せんせーからすれば意図を持って()()()()()()()()()のである。これまでいくつもの仕掛けを見せてきた。柊によって意図的に増やされた選択肢は殺せんせーにとっては罠のように見えるはず。かといって選択肢を変えないのもそれはそれで罠が仕掛けられているかもしれない。ありとあらゆる可能性を考慮しなければならない。今この瞬間、殺せんせーの思考リソースの大半は回避ルートの選定に使用されている。

 

「にゅっ!?」

 

 律は正面を塞ぐようにショットガンを放つ。思考を奪われていた殺せんせーには全く予想していなかったところから急に弾が飛んできたように感じるだろう。殺せんせーは急停止し、左上隅に慌てて飛びのく。意図的に残しておいた道。正面が塞がれた以上、ここしか逃げ道はない。

 

「そこ」

「うっ! ぐ……」

 

 そこには予想していたかのように柊が放ったショットガンの弾が置かれている。殺せんせーが回避行動を取るよりも前に、すでに柊は引き金を引いていた。律が描いたビジョンと全く同じ、0.1秒のズレもない。

 今度こそ殺せんせーの体にショットガンが命中する。逃げ道はない。奥の手の脱皮で防ぐしか生き残る手段はない。冷や汗をかいて悔しそうな表情をした殺せんせーが、脱皮直後の抜け殻を手に現れる。

 

『やっとですね』

「やっとだな」

 

 開始から6分、ようやく2人の描くビジョンが重なった。まぐれではない、これから先何度でも再現できると律は確信している。

 

「ぐぬぬ……声掛けどころかアイコンタクトすらなしにこの連携とは……まぐれであってほしいものですが」

「まさか。”まぐれ”はこの世で10番目くらいに嫌いな言葉です。殺せんせーが死ぬまで何度でもやりますよ」

「ヌルフフフ、そう言うと思っていましたよ。その自信、100点満点です。ですが私にも考えがあります。2人が理詰めで攻めてくるならこちらも理詰めで対抗するまでです!」

「面白い、第2ラウンドといきましょうか」

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

 

 

 

 第2ラウンドなんてカッコつけてみたけど、やることは別に変らない。殺せんせーが痺れを切らすまで、ひたすら俺と律の連携で削る。

 今の最善は俺を囮に律が決め弾を放つことだ。これまでずっと律が誘導、俺が仕留め役を担ってきた。殺せんせーにもそれは刷り込まれているはず。それを逆手に取る。一歩後ろに飛びのき、教室中央に手榴弾を投げ込む。

 

「理詰めには予測不可能なランダム、定石だ」

 

 複数のワイヤーを巻き込みながら手榴弾が炸裂し、大量の対先生弾が拡散する。弾の飛散は完全ランダム、俺にもどのような飛び散り方をするかは爆発させるまでわからない。爆発と同時に律がショットガン4門を展開し、辺りに散乱させる。完璧だ。弾と弾がぶつかり合って軌道が変わり、カオスな弾幕地帯を生み出す。誰にも計算不可能な一撃だ。

 だが、脱皮の抜け殻をブンブン振り回して盾にすることで殺せんせーはその場からほとんど動くことなく捌き切る。弾と弾がぶつかることで威力が低下した。抜け殻をぶち抜く威力もなければ、振り回した風圧で跳ね返される弾もある。威力低下はもちろん想定済みであったが、想定以上に抜け殻の耐久力があった。2人とも脱皮に関しての情報がゼロだったのが痛かったな。神崎にでも教えてもらえばよかったか。

 まぁいい。本命の仕込み自体は完了した。爆発でワイヤーが吹き飛び、教室中央にだけできたワイヤーのない地帯。不気味だろう。先程同じ手でダメージを受けたばかりだ、通りたくないよなぁ? 教室中央が選択肢から外れるだけでかなり動きに制限をかけられる。それに加えて、殺せんせーは先程より僅かにスピードが低下しているように感じる。理由はわからないが、とにかく今が好機ということだ。

 アサルトに持ち替え、連射で殺せんせーを狙い撃つ。性能に文句はないが、できればセミオートが良かったな。フルオートは線での銃撃はしやすいが、発射間隔が同じな分読まれやすい。セミオートはディレイをかけやすいので個人的にはこっちの方が使いやすい。なんの訓練もしていない中学生が使うからフルオートだけでいいだろ、という精神なのかセミオートへの切り替えができないのだ。用意してもらう時にちゃんと仕様を伝えておけばよかったな。

 

「くぅ……そこ!」

「残念」

「にゅわ! あぶない!」

『……触手1本。ギリギリで読まれてしまいました』

 

 アサルトで誘導した先に圧倒的多腕を思う存分発揮した律の無慈悲な弾幕が襲いかかる。だが触手1本奪ったものの強引に最高速をスピードを上げて離脱される。その余波で教室が僅かに揺れ、近くの机や椅子が軽く吹き飛ばされる。ついでに近くのワイヤーの固定も外れてしまう。

 ふむ、厄介だ。厄介だがこれまで使ってこなかったことを見るに、何か使えなかった理由があるのだろうか。その何かが何なのかは知らないが、これからは使われる可能性があることを念頭に入れなければいけない。

 そしてあの超反応。俺と律の動きを完全に読み切られたわけではないだろう。無論読みも働かせているだろうが、さっきのはおそらく身体能力に物を言わせた力業だろう。だが殺せんせーもいずれ俺達の動きを学習してくる。学習が進めば読みの精度もあがり、さらに直撃は困難になるだろう。あぁ、実に厄介だ。

 

「はぁ……はぁ……」

「そのスピードで逃げ回られたら、流石に残り時間では捉えきれないですね」

「本当は教室の中では使いたくないのですがねぇ。教室が壊れてしまうかもしれませんし、何より君たちがケガをしてしまうかもしれない」

 

 なるほど。教室が壊れないように、か。いいこと思いついた。が今日はできなさそうだ。実弾は効かないしむしろ受け止めにかかるらしいから、あえて教室が壊れるレベルで実弾を使えば足を止められるのではないかという算段。今は護身用のハンドガンしかないからできないけど。

 

「しかしこのワイヤー、厄介ですね。これのせいで思ったように動けません」

『柊さんのアイデアです』

「そうですか。いい作戦を考えますね。そして2人の連携も完璧です。たった1日でここまで仕上げてのは素晴らしいとしか言えません」

「そうですか」

 

 いい作戦かどうかは結局目的を達成できたかどうかで決まる。俺はまだ目的を達成できてない。まだまだこれからだ。懐からワイヤーを取り出し、吹き飛ばされた分を補充する。

 

「にゅぅ、増えますか……ワイヤー本体だけでなくフレームから制御ボタンまで対先生物質で作られている。さすがですね」

「簡単に外されたら困るので」

『頑張りました』

「なるほど、律さんが作成したんですね。素晴らしい工作能力です。2人の連携にこのワイヤー、そして先生の心理を逆手に取った罠……全てにおいて先回りされているようなこの感覚は久し振りですね」

「先生は分かりやすいですからね」

「にゅやっ!? 先生ほどポーカーフェイスが上手な人はいませんよ!」

 

 文字通り感情が顔に出る生物が何言ってやがる。だが多分それこそ殺せんせーの魅力なのだろう。実際クラスの奴らから慕われてるし。神崎とか倉橋とか。まぁ俺には関係ないけど。殺すべきターゲットでしかない。

 

「さて、残り2分間。先生も本気で逃げるとしましょう。そのためにはまずこのワイヤー達を撤去させていただくとしましょうか」

 

 そう告げると殺せんせーは一気に加速し、殺せんせーが通った道のワイヤーが次々と回収されていく。ハンカチを1枚挟み、直接触れないことで対先生物質を無効化しているようだ。事前情報通り。そしてこの行動も事前の計画通りだ。痺れを切らした殺せんせーがワイヤーを除去しにかかるのも、落として装置が壊れるのを恐れて回収しようとするのも、すべてが予想通り。しいて予想外な出来事を上げるとすれば回収したワイヤーを入れる袋を抜け殻で代用していることくらいか。ただの抜け殻だと思っていたが、盾に使ったり袋代わりにしたり、便利な代物だ。何の問題もないが。

 ワイヤーを回収するためにはボタンを押し、ワイヤーを巻き取らせて固定を外すしかない。そしてその瞬間は必ず減速する。破壊や乱雑に吹き飛ばせばいいものを……それができないから殺せんせーが好きなのだと律は言っていたな。こちらとしてもこれだけ大きな隙を与えてくれるのはありがたい。

 行動パターンを先読みし、次の減速のタイミングに照準を合わせる。だが気付いて照準に飛び込む前に躱される。減速のタイミングが隙になると分かっているのだろう。殺せんせーの警戒心もマックスだ。その警戒心も利用させてもらうとしよう。何度も先読みし、その度に照準を合わせ、躱される。殺せんせーが警戒心マックスで回避行動をとっているからこそ誘導されていると気付かない。自分の力で俺らの攻撃を躱せていると感じているだろう。その達成感を存分に感じてもらい、ワイヤーも存分に回収していただこう。

 

「これで半分……ぬわっ!」

 

 減速するタイミング、さらに次の進行ルートまで読む。アサルトライフルの連射を進行ルート上に置き、殺せんせーの足を止める。その瞬間律の弾幕の檻が殺せんせーを覆いつくす。寸分の狂いもなく俺の射撃のタイミングを予測していなければ合わせられない、完璧なタイミングだ。

 

「抜け道が……」

 

 これこそが俺らが目指していた最終形。ああ、だがしかし殺せんせーの位置が後ろすぎる。最後の最後で読み違えた。殺せんせーのスピードが想定よりも早く、射撃がワンテンポ遅かったせいで、避けるために停止ではなくバックステップされた。その分殺せんせーの立ち位置が後ろになってしまった。これでは律にまで被害が出てしまう。これでは仕掛けられない。だがここを逃せばこのチャンスはもう訪れない。

 

『柊さん』

 

 律……迷うなと言いたいのか? 律は自分の被害など一切気にせず、迷いなくここで仕掛けるつもりだ。

 

「ん? ……にゅやぁっ!? なんですかこれはっ!?」

 

 抜け殻がうごめき、抜け殻を突き破って一斉にワイヤーが飛び出す。使えるのは一度きり、律によるリモートでのワイヤー起動だ。あえて殺せんせーに回収させ、遠隔で一斉に起動することで弾幕とワイヤーの二重の檻に閉じ込める。

 フレームから制御ボタンまですべて対先生物質を混ぜ込んだのもこのため。”殺せんせーに触らせたくない”という印象を与えることで、動きを制限すること以外に役割があることを悟らせなかった。わざわざ殺せんせーでは触れられない物質を使っておいて、その上で殺せんせーに回収させたいだなんて誰も思わないだろう。

 いくら二重の檻と言えど、全く隙間がないわけではない。それこそ液状化を使えば逃げられるだろう。だが殺せんせーは”テンパるのが意外と早い”。突如として変化した状況に慌てふためけば、普段なら出てくるであろう発想も出てこなくなるだろう。

 テンパる殺せんせーを眺めながら、とどめ用の手榴弾を2つ投擲する。律が壊れることも覚悟して作ってくれたチャンス、無駄にはしない。なるべく被害が及ばないように離れた位置に投げるから、律もガードしてくれよ?

 

「……ここ!」

 

 だが律の覚悟もむなしく、手榴弾が爆発したのは教室の外、しかも上空で爆発した。律が銃身でガードを固め、弾幕が消えた一瞬の隙にワイヤーの檻を抜け出し、ボロボロになった抜け殻に手榴弾を包んで教室の外に投げ捨てたのだ。

 

「ふぅ、間一髪でした……律さんがガード体制に入ったのが1秒早く、柊君が手榴弾を投擲するのが0.5秒遅かった。その隙を突いてなんとか抜け出せました。本当に間一髪です」

 

 殺せんせーの言う通りだ。律の弾幕が途絶えたことにより殺せんせーが冷静になる時間ができてしまった。手榴弾の投擲が遅れたことにより状況を打破する手段を探す時間を与えてしまった。くそが、俺が躊躇って投擲が遅れたせいだ。いや、そもそも俺が射撃のタイミングを間違えなければ、律はガードの必要すらなかった。

 

「……」

『柊、さん?』

「……初めて殺気を出しましたね」

 

 いかんいかん、メンタルコントロールがブレてしまった。どんな時も冷静に、冷静にだ。

 

「ふぅ、疲れたな」

 

 大の字になって床に転がる。まだ30秒ほど残っているがもういい。こちらの手は尽きた。作戦は破られ、ワイヤーも剥がされ、後は手元の銃しか残ってない。作戦失敗だな。

 

「お疲れ、律」

『はい、柊さんもお疲れ様でした。……ごめんなさい、最後……』

「俺もミスった。そもそもバディを組んだ以上どっちのミスとかねぇよ。俺達2人のミスだ」

『そういうものなのですか?』

「そういうもんだ」

 

 あくまで俺のポリシーだけど。自分のミスは自分のミス、相方のミスは相方のミスって奴もいれば、自分がミスったのは全部相方のせいだって言う奴もいる。

 

「柊君の一番の強みはメンタルなのかもしれませんね。どんな状況でも冷静沈着、乱れてもすぐに切り替えるなんて大人でも簡単なことではありません」

「だって射撃が乱れるし」

「にゅぅ、それはそうですが……」

『柊さんらしいです』

 

 別に悔しいとかそういった感情がないわけではない。むしろ死ぬほど悔しい。今すぐ殺せんせーを殺したい。俺だって人間だ。こういった思考の妨げになる感情はどれだけ成業しようと頑張っても湧いて出る。それをコントロールしてこそのプロだ。まぁそれが難しいってことを殺せんせーは言ってるんだろうが。

 

『……そんな柊さんと一緒にいる時間がとっても楽しいです。言葉を交わさずとも通じ合うあの感覚、この高揚感……はぁ~、もっと、もっともっと通じ合いたいです』

「殺せんせー、律が壊れたー」

 

 頬を紅潮させながら、画面の中の律はワナワナと震えている。相変わらず変な奴だ。

 

「すごいね、柊君」

「……チビ助」

「チビ助じゃないよ! 渚だよ!」

「だって名前知らないし」

「自己紹介したよ!?」

 

 気が付けばすぐ近くにチビ助――渚が腰を下ろしていた。全く気配を感じなかった。いつの間に……さすがに警戒心がなさ過ぎたか。渚に続き他の奴らもぞろぞろと入ってくる。

 

「ひー君すっごーい! すっごくカッコよかったー!」

 

 パンツが見えていると倉橋に教えてあげるべきだろうか。……まぁいいか。俺以外からは見えないだろうし。ここで見えていることを教えて大勢の前で倉橋に恥をかかせるより、俺には見られてしまうけど黙っておいた方が倉橋のためだろう。多分。

 

「立てるか」

「ああ、身体機能に問題はない。ただ気分でこうしてるだけ」

「そうか、ならよかった。……しっかし惜しかったなー。マジでこのままやっちゃうんじゃないかと思ったぞ」

「……惜しいもクソもないさ」

 

 クライアントが求めているのは成功のみ。惜しいなんて結果は求められていない。……いや、このE組においてはそうとは限らないのか。防衛省からしたらすぐにでも結果は欲しいのだろうが、E組からすれば来年の3月まで何度もチャンスがある。何度でも試行錯誤できる。感覚の違いだなぁ。

 

「さて! おしゃべりもいいですが、まずはお片付けをしましょう。暗殺とお片付けはセットですよ」

『頑張ってください柊さん』

「てめ」

「あはは……僕も手伝うよ」

「俺達もだ。この量は1人じゃ大変だろ?」

 

 磯貝と渚は優しいな。昨日は1人で片付けさせられたぞ。しかも全部律のだし。だが今日はE組の奴らが手伝ってくれるみたいなので、その厚意に甘えて適当にサボらせてもらうとしよう。

 

「サボっちゃダメだよ、ひー君」

「サボろうとなんてしてないぞ」

「絶対嘘だよ。ひー君めんどくさがりそうだし」

 

 正解。だってめんどくさいもん。

 

「柊君、少しいいか?」

「ん?」

 

 倉橋にゆさゆさと揺らされていると烏間先生に声をかけられた。今後のことについてだろうか。俺の作戦は失敗したわけだし、クビにされる可能性は十分にあり得るだろう。

 

「いいですよ」

「まずはお疲れさまと伝えておこう。これまで何人もの暗殺者が奴の命を狙ったが、君が最も暗殺の成功に近かっただろう」

「どうも」

「今回の作戦を踏まえたうえで、今後について君の感触を聞かせてほしい」

「んー、そうだな……率直に答えるならかなり厳しいでしょうね。少なくとも同じような作戦は絶対に通じない。俺の動きは今回でかなり学習された。作戦の癖なんかも見抜かれたかもしれませんね。真っ向勝負での読み合いで勝つのはかなり厳しくなったと思います。相手の読みを殺すような奇策で挑むか、あるいは読みとか関係ないレベルでの物量攻撃か」

「そうか」

「まぁそんな策がないから手間取ってるんでしょうけど」

 

 俺も浮かばないし。浮かんでたなら今回の作戦に組み込むし。

 

「その通りだ。最新鋭ミサイルですら奴には無意味。未だに有効な手段を見つけられていないのが現状だ」

「でしょうね。最新鋭だろうがマッハ20にスピードで勝てるわけないし」

 

 ステルス機能を持っていようが追尾性能が高かろうが無意味だ。殺せんせーはレーダーなんて使ってないからステルス機能は意味ないし、ミサイルの自動追尾をスピードで強引に振り切れる。ミサイルに限らず、対マッハ20の生物を想定していない現代兵器の多くは基本通じないだろう。

 

「……柊君にはこれからもこの教室で暗殺に励んでもらいたい」

「契約継続、ということでいいですか?」

「もちろんだ。戦力としては言わずもがな、作戦立案能力も素晴らしかった。今後の暗殺において間違いなく中心的な存在となってくれるだろう。それに、君のおかげでE組の生徒の士気も高まった。同年代の君がこれほどの成果を出せたという事実は、彼らにとって良い刺激になったようだ」

「うん、ひー君かっこよかった」

「……こういう士気の高まり方ですか?」

「まぁ……内容は人それぞれだ」

 

 なんか倉橋の距離が近いなと思ったらそういうことか。惚れたとかじゃまだないんだろうけど。

 

「なんでもいいですけど、継続してくれるって言うなら継続します。俺としても負けたまま引き下がれない。なんとしても殺せんせーは殺す」

「そうか。これからもよろしく頼む」

「こちらこそよろしくお願いします、烏間先生」

「リベンジの前に、まずはひー君はヌルヌル強化学習だよね」

「あー……」

 

 忘れてたわ。めんどくさいなぁ……殺すか、明日の放課後までに。




これはただの独り言なのですが、倉橋さんは失恋シチュが似合うと思います。もちろん純愛もいいですが。ただの独り言ですよ?
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