きみがいるところ   作:バーベナ/Verbena

4 / 5
溶けない氷

 担任の先生が教壇の前でいつものように話していた。自分はそちらの方にはあまり目を向けずに、少し向こうにある空席の机をぼんやりと眺めていた。彼女は朝のホームルームに出席していなかった。

 

 ──「じゃあ、また」

 

 駅で別れた時の情景が、自分の頭の中でちらと浮かんできた。

 あの時以降、ネオとはあまり話さなくなった。同じクラスだから、あの後も顔を合わせることは何度かあったし、二、三の会話をする時もあったが、以前のように、わだかまりなく話しているという感覚はなくなっていた。彼女とは距離を感じるようになっていた。携帯電話のメッセージを通じて話すということもなくなり、前みたく、一緒に何処かに出かけることも無くなってしまった。

 学校は長期休暇に入る直前であり、教室にはやや気の緩みが漂っていた。チャイムが鳴り、ホームルームが終わった。生徒たちは各々の授業の場所に向かっていく。自分も教材をロッカーから取り出して、友人と共に教室を出ていった。

 「こんな暑い日にも学校に行かなきゃだなんてね」と友人は言った。「気が滅入るよ」

 「でも、午前の早い時間に終わるのは楽だね」と自分は言った。「もう早帰りだから。いつもみたいに、眠気に悩まされることはない」

 そんなふうに友人と他愛のない話をしていると、目の前から、印象的な生徒がこちらに向かってくるのが見えた。長い銀の髪を揺らして、淡々と歩いている。

 「ネオ?」

 自分は彼女に近づいて行った。彼女はやや俯きがちに廊下を歩いていた。彼女も自分に気がついたようで、目が合った。制服姿で、肩に鞄をかけ、たった今学校に来たということが見てとれた。

 「おはよう、ネオ」

 「おはよう」と彼女は言った。

 「何かあったの?」

 「いや」と彼女は言った。「ちょっと体調が良くなかったから、途中から学校に行こうかなと思って」

 彼女の言い方にはどこか歯切れの悪さを感じた。最近はいつもこんな様子で、自分と話したくないのか、それとも別の理由があるのか、それが判然とせず、時折苛立ちさえ覚えることがあった。

 それから少しばかり沈黙が続いた。お互い廊下で立ち止まっている。何か気の利いたことでも言おうかと考えたが、気まずいままで、結局彼女はそのまま何も言わずに通り過ぎて行った。

 「なにかあったの?」と友人はやや声をひそめて聞いた。

 「いや」と自分は言った。「特に何も・・・」

 自分がまた悶々とした感情を抱えながら廊下を歩き始めようとしたところ、「ねえ」と、急に背後から彼女の声が聞こえてきた。自分は少し驚いて、彼女の方を振り向いた。

 「あとで話さない?」と彼女は言った。

 「いいけれど」と自分は言った。

 「昼休み、あまり人がいないところで。外とか、屋上とか」

 「わかった。じゃあ、屋上にしよう。また後で」

 「うん」と彼女は頷いてそう言った。

 そうして彼女はまた教室に向かって歩き始めた。自分は彼女の後ろ姿を少し眺め続けていた。

 「なんだ、よかったね」と友人は言った。

 「なにが?」と自分は言った。彼が何に対して「よかった」と言ったのか、自分にはよくわからなかった。

 「いや」と友人は言った。「とりあえず、またネオと話し合えるようでよかったなって。今日の昼休みは一緒に学食食えないな」

 「そうだね」と自分は言った。「あと、自分がネオと話してる時の君のあの表情、やめてくれ」(続く)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。